運命の分岐点
すでに僕の起こした行為について、噂になっていた。すぐさま、担任のレイラ先生がやって来て、僕は事情を説明していた。
「なるほど。状況はわかった。唯人、別にお前のせいじゃない。その剣の威力が予想以上に強すぎただけだ。お前の力を過小評価していた私にも責任はある」
そういって、僕の肩に手を当てた。恐らく、僕の状態をみて、支えてくれたのだろう。
「先生……」
僕は呆然としていた。当然だろう。人を、殺してしまったのだから。それも、何人も。ショックを受けていないわけがない。なんなんだ、これは。わけがわからない。
でも、実戦ってそういうことなんじゃないのか? いつかは絶対にこういうことが起きていたんじゃないのか? だから、僕は言ったんだ。こんな試験は危なすぎると。
手が震えていた。この国は今、戦争をしている。こんなことを日常茶飯事に繰り返しているというのか。考えられない。もっと単純なものだと思っていた。
戦争はゲームじゃないんだ。こんなことが当たり前に行われているなんて。
ありえない。怖い。恐ろしい……!
僕の精神は限界に来ていた。そこへ現れたのは。
「お母様……!? どうして、こちらに!?」
マリリンの母親のマリー・ブランシャール伯だった。どうして、ここに?
それに、護衛の近衛兵だろうか。物凄い数だった。もしかして、僕を捉えに来たのか? そうだよな……僕は、人を殺してしまったんだ。当然、罪に問われる。捕まったら……どうなるんだ? まさか、死刑……何人も殺してしまったんだ。そうなる。嫌だ。嫌だ。嫌だ!
「事情は聞きました。この町の領主として、貴方に罪を問いません」
「えっ……」
まったくもって、意外な答えが返ってきた。罪に問わない……だって? じゃあ、僕は……捕まらずに、済むっていうのか?
それを聞いた周りの生徒たちがざわつく。
「どういうことですか! そこの男は人殺しですよ! 早く引っ捕らえて下さい!」
「そうだそうだ!」
「犯罪者を許すな!」
一人の生徒を皮切りに、一斉に騒ぎ出す。こうなってしまうと、もう止めることは出来ないだろう。僕は罪悪感に苛まれていた。
それを見たマリーは、近衛兵に命令を下す。
「射殺しなさい」
「はっ」
「えっ」
唖然とした一言。驚く暇もなく、最初に僕を非難した生徒をあっけなく撃ち殺した。さらに続けて僕を非難した生徒全員を撃ち殺していった。魔法を扱える生徒とはいえ、軍人の魔法弾の威力と速度は段違いだった。防御する間もなく、死んだ。本当にあっけなかった。レベルが違いすぎる……。
それを見て、先ほどの光景を思い出してしまった……うっ……吐き気が。気持ち悪い。
「う、うわぁあああああああああああっ!」
「黙りなさい!」
動転した生徒たちを一喝するマリー・ブランシャール。
「これより、次に小尾唯人を非難した者は即刻、射殺する。国家反逆罪に当たるものと知れ」
なんだ、一体……どうなっているんだ。これは。
「お母様、これは一体、どういうことですか!」
誰も発言することが出来なかったところで、実の娘のマリリンだけが、声を荒らげていた。
「マリリン、貴方もブランシャールの一員なら、弁えなさい。事情は後で説明致します。それよりも……彼の手当てを最優先とします。レイラ・バルバートン」
「はい」
「そこのゴミを片付けておきなさい。後日、貴方から詳細な報告を聞きます。よろしいですね? 彼はこちらで預からせて頂きます。精神が不安定になっていますから、安静が必要ですので」
「はっ……かしこまりました」
あっという間に話が進んでいた。周りは誰一人として現状を把握出来ていないだろう。当然だ。先ほどの出来事を上回り兼ねない出来事がここで起こっているのだ。
「では、行きましょうか」
「あ、あの……」
「心配することはありません。後のことはわたくし達にお任せ下さい。貴方様はどうか、お心を安らかに……」
「……」
僕はもう何か言う気力もなかった。頭はすでに真っ白だったからだ。これ以上、わけがわからないことが起こるとおかしくなってしまう。いや、もうおかしいのだろうか。わからない。今はただ、休みたかった。だから、マリー・ブランシャールの言うとおりにした。
近衛兵に連れられて僕は教室を後にする……。
「待ちなさいよ!」
それを止めたのは、エリカだった。
「……何か?」
近衛兵はすぐさま、エリカに銃を向けた。発言次第では即射殺するつもりだろう。何をするんだ、やめろ。しかし、声が出なかった。恐怖からか。わからない。エリカ、やめろ。余計なことはするな。頼むから。
「そいつに言いたいことがあるだけよ。……あんたは私のことを助けようとしただけよ。あんたは悪いかもしれない。けど、あんただけのせいじゃないわ。私にも責任がある。だから、自分をあまり責めないで……」
「……」
近衛兵はマリーの指示を待っていた。マリーは手を上げて静止させる。近衛兵は銃を下ろした。
「どうやら、小尾君はそこの彼女を助けたようだ。ならば、その生命。散らすわけにはいかないだろう。彼に感謝するのだな、少女。でなければ、命はなかったぞ」
エリカはマリーを睨みつける。
「ふっ……行くぞ」
そうして、僕はマリー・ブランシャールに連れられて学園を後にしたのだった。
何がどうなっているのか、僕にはさっぱりわからなかった。誰か教えて欲しかった。どうして、こうなってしまったのか。そしてここが僕の運命を大きく左右させる分岐点だったということを、僕はもう少し後で知ることとなる。
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