覚醒への兆し
研究施設に辿り着いた僕らは次のミッションである、極秘情報を探す。
研究施設には至る所にトラップが仕掛けられており、自動的に魔法が発動して、攻撃をしてくるものや、身動きを取れなくしたところでモンスターを放つなど……様々だ。
それらを僕らはうまく連携してクリアしていく。僕はお荷物でしかないが。
そんなこんなで、ある部屋へとたどり着いた。何やら研究を行っていたかのような形跡が残っている。本や魔法瓶……よくわからない機械のようなもの。魔道具だっけ?
マリリンが素早くそれらをチェックし、研究資料をまとめる。よくわかるな……。
さすが、母親が元老院の参事官を努めているだけのことはあるのか?
いや、マリリン自身が優秀なのだろう。回収が終わってようで、後は脱出するだけだった。しかし、そこで終わるはずもなく……敵が攻めて来た。
また警備兵か……。それもかなりの数だ。今度はとても力押し出来る場所じゃないぞ……隙を見て逃げるしか。どうやって。
しかも、相手のほとんどは銃。どうにもならない。とはいえ、ただで終わらせるわけにはいかないと、ヘルミーはダガーに切り替えて相手を翻弄する。
しかし、多勢に無勢。銃の一斉発射の前には為す術もなかった。
ヘルミーはまだ戦っていた。エリカは銃の一撃を受けて動けない。マリリンも同様。ミュリエルは杖を取られる。僕は……ただ見ているだけだった。何をやっているんだろう。
仕方ないだろ……ただの高校生にどうしろというんだ。無茶いうな。
ヘルミーは絶妙な距離感で、複数を相手にしていた。敵と敵の間を上手く使っている為、銃で攻撃するのが難しいのだろう。下手すれば味方に当たってしまう。
僕も応戦するべきなのかもしれないが、銃を突きつけられ、動けない。あんなので撃たれたらマジでヤバイだろ。先ほどのボディブローどころじゃない。
「なに……やってんのよ、バカ唯人……」
エリカが声を振り絞って、僕に声をかける。だから、無理だって。僕が前に出たところで的になって終わりだろ。アホか。
「唯人! お前、女に守られっぱなしでいいのか!」
「……」
「女一人も守れないでいいのか!」
「……」
しるかよ。そんなの。
「男なら、魂をかけろよ! 命をかけろよ! ただ、前に突っ走れよ!」
暑苦しい奴だ……僕には無理だ、そんなのは。向いていない。どっかのチート主人公にでもお願いしてくれ。
「今、この状況で動けるのは他にいねえだろ! お前が動かなくてどうするんだ!」
だから……。
「これが、本当の実戦だったら! あたしらは全滅しているんだぞ!」
「!」
そうだ。これがもし本当の実戦だったら……僕らはここで全員死んでいる。それどころか、最初のボディブローでも恐らく……。ぞっとした。恐ろしい……。
けど、そんなこと起こるわけが……ないと、言い切れるのか。本当に?
救世主……あの日の話が脳裏をよぎった。僕を担ぎあげて、戦争の最前線にでも送られたら……。
この国が襲われたら。ないとは、そりゃ言い切れない。だからそういった訓練があって、試験もあるのだろう。いつ訪れるかもしれない危機の為に。
「勇気をふりしぼれ! 唯人!」
「勇気……ね。そんなのでどうにかなるとは思えないけど。わかったよ、せいぜいやるだけのことはやらせて貰うさ」
「唯人!」
ヘルミーは嬉しそうに舞う。戦闘しながら、僕のことを気遣う余裕があるなんて、本当に凄い奴だ。何者なのだろう。
とにかく、僕は剣のロックを解除し、近くにいる敵に襲いかかった。敵は僕の行動に呆気に取られて、崩れ落ちた。やった……のか? 奇襲だったとはいえ、この僕が。
「やるじゃねえか! その調子だ!」
「……行くぞ」
僕は剣を構えて、突き進む。相手は銃を構えて乱射して来た。剣を横にして、突き進む!
魔法服のおかげか、直撃でなければ、それほどのダメージを追うことはなかった。中心部分は剣でガードしている。とはいえ、顔に当たったらおしまいだ。
「うぉおおおおおおおおおおっ!」
思わず、吠えていた。吠えるしかないだろ、もう。ヤケクソだ。
剣を振り回す。力任せに振るう。敵はそれをうまく回避するが、この隙にヘルミーが敵を倒して行く。
行けるか? そう思った時だった。
「危ない!」
エリカの叫び。僕はヘルミーが狙われていることに気づいた。くっ……間に合え!
僕はヘルミーを突き飛ばす。そこに、敵の銃弾が飛んでくる。僕の体にそれは直撃した。
「ぐがぁあっ!」
「唯人!」
「唯人!」
エリカとヘルミーが叫ぶ。なんて、衝撃だ。息が出来ない……。魔法服が防弾チョッキのような役目を果たしてはいるが、物凄い威力だった。先ほどの比じゃない。
そこへもう一発銃弾が飛んでくる。
「ぐはっ……!」
僕に攻撃が集中している間に、ヘルミーが走りだす!
敵はヘルミーに標準を合わせて銃弾を放つが、ヘルミーはそれをダガーで弾き飛ばした。なんて奴……。
ヘルミーのおかげで、僕らは敵を蹴散らし、目的を果たした。
『ミッション・コンプリート』
どうやら、これで試験は終わりらしい。やれやれ……生きた心地がしなかったよ。
「唯人、あんた大丈夫!?」
エリカが心配になって僕のところへ来てくれたようだ。
「あぁ……なんとかな。この服のおかげだ」
「この服って……あんた、それ。オートマジックガード機能のない魔力供給型の服よ……」
「え……? どういうことだ、それは?」
「つまり……魔力を込めないと効果を発揮しない装備ってことですわ」
マリリンがそれに答える。……えっと、間違えたのか、僕は。よく生きていたもんだ。元の防御力の高さに助けられたのだろうか。そう思っていると、
「これ、魔力を込めないとさっきの魔法弾を受け止めるのはほとんど無理よ。なしだったら、死んでたかも」
「え……うそ、だろ」
「でもそれって、僕に魔力がないと無理ってことじゃないのか?」
「だから、たぶん……魔力があるのよ。知らないうちに目覚めたんじゃない?」
そんなバカな……と言おうとしたが、そこで僕はあることに気づいた。そういえば、いつの間にか視力が回復していて、それをシーナさんに尋ねたら、マナが僕の体に宿った影響みたいなことを言っていたな……つまり、マナが宿ったことにより、魔法が使えるようになったのか? 魔法が使えるっていうか、魔力供給が可能になったというべきか。
「そうですわね。マナが体内にあるのなら、それを変換することで魔力を生み出すことは誰でも出来ることですもの。コツさえ掴めば簡単ですわ。というか、ほとんどの方はその方法を取っていますわ。一部の例外者は別としますが」
「うーん……まあ、いいか。とにかく助かったわけだし。後のことは後で考えようか」
魔法が使えるようになったっていうのは、いいことなのかどうか……なんとも言えないな。ないよりはいいかもしれないが。いや、厳密には魔法は使えてないんだけどね。魔力を生み出せるようになっただけで。
それによって、救世主扱いに拍車がかからなければいいけど……。
「あれ、あんたのその服……焼き切れてるわね。オーバーロードしたのかしら……でも、それってよっぽど……」
「何をやっていますの! さっさと戻りますわよ!」
「……ったく、あの女は。わかったわよ!」
エリカが少し気になることを呟いていたが、僕は終わったという安心感のが強く、それを聞き流していた。
とにかく僕らは試験を終え、見事合格したのだった。
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