魔法学・魔法理論・戦争

 その後、僕は学園の施設で魔力検査を行い、自身の体内に魔力がある……マナがあることにより、魔力を生み出すことが出来ることが判明し、授業後にある魔法訓練に参加することとなった。


 とはいえ、僕はまったく勝手がわからない初心者そのものなので、個別に担任から魔法指導を受けることとなった。


「いいか、小尾。まずは魔法というものが何なのかを説明する。お前はどうやら、ど田舎から来たようで、まったくもってその辺の知識がないようだからな。耳をかっぽじってよーく聞け」


「はい」


「まず、第一に魔法というのは、生物がマナから得た生体エネルギーを魔力と呼ばれるものに変換し、その魔力を使って、様々な現象を引き起こすことを言う」


 とんでも理論かと思ったら、そうでもないんだな。万能性が高すぎてとんでもっちゃトンデモだけど。


 まあでも、人間の体だってエネルギーを色んなものに変換しているわけだし、それがこの世界の仕組みなら、わからなくもないか。


「マナはマナの木から生物全体に常に行き渡っている。が、生体エネルギーが一定以上体内になければ、我々は死んでしまう。よって、魔力に変換出来るマナの総量を把握しておかなくてはいけない。それには当然、個人差がある」


 そうか。この世界の住人はマナが生命維持に大きく関わっているのを忘れていた。昨日、余計なことを口走らなくてよかったな……マナは生物なら全ての存在が持っているものなんだった。マナがあっても魔力を作れない人はいるらしいから、魔法が使えない人ってのはいるようで、そこは問題ないのだけど。


 僕は別にマナがなくても、生命維持に支障をきたすことはない。だから、それについては気にしなくてもいいのだろうけど……総量の把握っていうのは、するべきだろうな。


「検査をしてわかったことだが、君のマナの総量は非常に高い。私も見たことのない数値だ。しかし、これだけあって今まで魔力がまったく生み出せなかったのがよくわからんな」


 この間偶然マナが体内に宿るようになりました。なんて、言っても信じてくれないだろうしなあ……ていうかその発言はイコール、僕がこの世界の人間じゃないと言っているようなものだし。


 言えるわけもない。


「高すぎたせいで、逆に制御しきれなかったのかもしれないな。しかし、そうなると編入手続きの時点でどうして測定出来なかったのか……機械の故障か?」


 結構鋭い先生というか、普通に疑問に思うよねえ、その辺は。測定器の誤作動ってことで、収まると思うけど。疑問に思ったところで、それがなんなのかまでは到達出来ないだろうからね。僕だってびっくりだし。


「まあいい。次の説明に入るとしよう。魔法には属性と言うものがある。火・水・風・雷・土・光・闇・無の八つだ。意味は大体言わなくてもわかるだろう。無だけ教えておくか。無というのは、無属性。なにものにも属さない属性だ。七属性に属さないものは自動的に無属性のカテゴリーに分類される。人には得意な属性というものがあってな。これは、その人の生まれた生活環境や遺伝などが大きく影響しているとされる。極稀にオール・アトリビュート……全属性所持者なんていうバケモノもいるようだが、それは稀だ。無属性だけは誰でも持ちあわせているぞ。言うならば、マナを魔力に変換した純粋な状態……私はどっちかといえば、魔属性って名づけているけどな。無属性の一種だ。おっと、これは先生が勝手につけているだけだからな。覚えなくていいぞ」


 さすが教師だけあって、教え方が上手い。とはいえ、こんなのは小学生の段階で習うことらしいけど。それを知らないんだから、魔法どころの話じゃないよね、そもそも。


 あ、この担任教師の名前はレイラ・バルバートン。魔法学を教えている先生。


「とはいえ、全属性を使えないわけではない。属性値の問題だ。どこかが極端に高く、どこかが極端に低いか、全体的に中ぐらいの数値か。一極タイプか、バランスタイプかみたいなものだな。全属性所持者っていうのは、全極ってことだ。全ての数値が高いことを指す。だから、バケモノといったんだ。誰でも程度があるだけで全属性を使うことは可能だ。もちろん、まったく属性値がないという場合は使えないがな」


 なるほど。属性値ね。普通は属性値の高い系統の魔法を使うのが当たり前なのだろう。何だか、どっかのネトゲみたいな内容になって来たな……まさか、VRMMOじゃないよな、この世界。ないない。さすがにゲーム世界に飛ばされるなんてのはありえないわ。


 物理法則無視というか、データベース上に人は存在出来ないでしょ。普通。


 異世界に飛ばされるってこと自体、普通にありえないんだけどさ。そこは置いておいて。というか、小説の読み過ぎだな……。しかし、現実にあるわけないことが実際に目の前で起きてしまっているんだから、仕方ない。色んな事を想像してしまうし、疑ってしまう。


「聞いているのかね、小尾君」


「え、は、はい。すみません」


「聞いてなかったようだな。やれやれ。君の魔法に関する知識がほとんどないことはわかった。まずは基礎中の基礎から学んでいくしかないだろう。出来る限り、先行して行きたいから、君も家に帰ったら独自に勉強することだ。学んだ部分は言ってくれればいい。そこは省略して次に進めるからな」


 本当にいい先生のようだ。普通は自分が教える部分を省略して次に進むなんてことはしないだろう。細かく指導もしてくれるようだし、周りに追いつくのは無理だろうけど、足手まといにならないようにならないとなとは思っている。


 とはいえ、小学生並の知識からつけていくわけで……当分かかりそうだな。


 ま、言語をマスターするよりは楽か。ほんと、ここに来た当初は大変だったもんなぁ。


 それに比べれば、魔法知識を身につけるぐらいはわけないだろう。ただ、知識は身についても、力が身につくとは限らないわけで。実戦がなぁ……。


 正直に言えば、あんなのはもう懲り懲りだった。僕としては、戦いなんて行為は別にやりたいとは思わない。そりゃ、自分がまったく傷つかないゲームのような世界や感覚だったら、歓迎するだろうけどさ。現実は自分の生命がかかっているわけですよ? わかります? そんなの誰が好き好んでやるんだよ。戦闘快楽者ぐらいなものだ。


 大体、この間の試験もやり過ぎじゃないのか? 普通に怪我人は出ているし、死者が出なかったのは幸いだけど……それもありえるような内容だったし。


 そう考えていると、レイラ先生から意外な答えが返ってきた。


「お前もすでに知っているかもしれないが、我が国では現在、戦争中である。場合によっては、学園の生徒も駆り出されることもあるだろう。よって、今回の試験内容は従来よりもより実戦的なものになったわけだ」


 え? 何それ? 聞いてない。ってネタやってる場合じゃなかった。


 戦争って……マジで言っているのか? たしかにこんな世界だ……戦争も普通にやっているとは思ったけどさ。僕の世界だって未だに内紛は続いているしな。世界規模の戦争がないだけで、小規模な戦闘行動は行われているし。


 でも、聞いているとどうも大陸規模の戦争のようだ……。まったくそんな気配がなかったんだけど。


 それはどうやら、ここが首都の近くにある町だからのようだ。おかげでここまでは戦禍が広がっていないが、最前線では、熾烈な戦いが繰り広げられているらしい。


「なぁに、心配するな。さすがに我が国もお前らの手まで借りねばならないほど、兵力に余裕がないわけじゃないだろう。もしもの時はという話だ」


 レイラ先生はそう言う。しかし、僕の心の中に出来た不安は拭えそうもなかった。


 僕の嫌な予感は的中したわけか……さすがに戦争なんかに参加する気はない。もしも学園から駆り出されることとなったら、学園をやめるね、僕は。


 でもそうなると、行く宛がなくなるんだけど。大体、学園をやめたぐらいで徴兵が終わるわけないか……。病気でもない限り、強制なんだろうな……。嫌なら国を出て行くしかないわけだ。


 勘弁して欲しい。どうしてこんな世界に来てしまったんだろう……この間までの平和ライフはどこへ行ってしまったのか。


 誰が一体、僕をこの世界に呼んだんだ? 元の世界に帰して欲しい。


 急に恐怖感に苛まれた僕は、元の世界が恋しくなってしまったのだった。

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