ヘルミー・ベジャールの存在。
カードに次の目的が表示される。『敵の食料庫を狙い、これを破棄』とのこと。
なんだ……まるで、戦争シミュレーションのような内容だな……。敵を倒した後は食料庫を襲うだって? こんなのが、試験内容なのか?
「食料庫……どこかしら?」
すると、ヘルミーが木によじ登る。
「小屋らしき建物がいくつかあるな……北西の方だ。警備兵もいるみたいだ。恐らくは、一番警備の厳しい場所がそうだろう。食料は重要だからな」
ヘルミーって、筋肉バカタイプに見えたけど、意外と賢いというか……多種多様な状況に応じることが出来る万能タイプだったのか?
褐色の肌に銀の髪……どっかの蛮族みたいな感じの風貌だよな、ヘルミーって。顔や肩もマーキングしているし。よく見ると、拳の装備以外に短剣も用意しているじゃないか。接近戦タイプなのはわかるけど……凄いな。
先ほど、ファイアリザードに立ち向かった時の身のこなしも凄かったし、ドルーダってみんなこんな動きの出来る種族なんだろうか。
凄いと言えば、みんな凄いけど。エリカやミュリエルまで、あんな戦い方が出来るんだし。驚いたよ。普段の彼女たちを見ているせいか、余計に。
しかし、こんな試験があるなら、授業でも戦闘訓練とかやるべきじゃないのか? いきなり、こんな実戦形式の試験って……。
「魔法訓練なら、前からあったわよ」
「え、そうなのか?」
「あんたは魔法力がゼロとかいう話で、免除になってたんじゃないの?」
「聞いていないけどな……そんなこと」
「魔法訓練は授業後に行うから。あんたはいつも、すぐ帰ってたじゃない」
なるほど……それなら、僕が知らないのも無理はない。けど、事前に説明があってもいいんじゃないのか。それの。やる必要がないから説明も不要っていうなら、それまでだけどさ。だったら、この試験だってパスさせてくれよ……。
「武器は魔法がなくったって一応、扱えるじゃない」
「そりゃそうだけどさ……」
僕は手にした剣を見る。スイッチを押すとカバーが外れて刃がむき出しになる。魔法関連の装備だけどうにも未来的というか……科学の発達しすぎじゃない? 科学というか、魔法と科学の両方を使っているんだろうけど。
ショートソードで、魔法を使った剣なのか、それほど滅茶苦茶重くはない。日本で手にしたことのある真剣よりは明らかに軽い。片手でもギリギリ持てるかどうかってところ。
剣に魔法を宿す……魔法剣として本来は使用するようだが、僕にはそんな技術はない。
よって、ただの剣として使うしかない。
びくびくしていた僕だが、ようやく少しは落ち着きを取り戻していた。とはいえ、戦いに参加するなんていうのは、無理そうだ。腹をくくるしかないのはわかるが、怖いものは怖い。今なら、エリカたちのサポートもある。少しでも参加して、実戦に慣れた方がいいのかもしれないが……。
剣道の授業とはわけが違うからなあ……。習ってたわけでもないし。ただの学校の授業の一環だし。
そうこうしているうちに、小屋の前まで来ていた。僕らは体勢を低くして、遠巻きに様子を伺う。
警備の数は……見えるだけで、十人ほどだろうか。多い。警備しているのは人間だ。服装からして、生徒か? 教師ではなさそうだ。
なるほど。討伐側と警備側で分かれているのか……試験内容が。
「数が多いですわね……小尾唯人が役に立ちませんので、一人辺り、二人以上……出来れば三人相手にしなくては行けませんわよ?」
「わかっているわよ。そんなこと」
「ミュリエルが魔法でどっかーん! とすれば大丈夫だよ!」
「なら、そこの小娘にお願いしようか。小娘が魔法をセットする間の時間をあたしらが稼ぐ。魔法で小屋ごと吹き飛ばせば、あたしらの勝ちってわけだ」
「いいのか、小屋ごと吹き飛ばして」
「作戦内容は、食料庫を襲撃して食料を破棄することだ。方法までは書いちゃいない」
「それは、そうだが……」
小屋を吹き飛ばすほどの魔法って……下手すりゃ死人が出るだろ。魔法服とやらで、魔法がある程度防げるのかしらないけどさ。中に人がいたら、どうするつもりなんだ?
「相手もバカじゃなけりゃ、逃げるだろ。ほら、行くぞ」
「行くって……え? 僕もか?」
「当たり前だろ。何も出来なくても、囮ぐらいにはなるだろ」
「……マジかよ」
ヘルミーに腕を掴まれて、引きづられる僕。やるしかないらしい。覚悟を決めろ。逃げまわっていればいいんだ。さすがに殺すつもりでかかって来ないだろ? そうだろ?
さっきのモンスターじゃないんだ。人間なんだし、それぐらいのことは心得ているはずだよな?
そう思わないとやってられなかった。
ミュリエルが詠唱を開始してからでもいいじゃないかと思ったが、その詠唱を悟らせない為に、囮になるらしい。正しい判断だと思う。そこに僕が含まれているのが最悪だけど。
ヘルミーが走りだす。警備兵の後ろ側から回りこんで、一撃を与えた。当然、倒れこむ。背後から思いっきり殴ってたぞ……あれ、マジでヘタしたら死ぬって。
ヘルミーの存在に気づいた警備兵が集まって来た。ヘルミーはすかさずしゃがみこんで、足蹴りを喰らわす。二人ほど蹴り倒したところで、右に転がりながら移動。
それを追いかける警備兵。しかし。
「ぐあっ!」
そこにマリリンの弓矢が炸裂した。相手の左肩に命中。凄い精度だ……。ってか、弓矢もヘタしたら死ぬよね。何これ……殺し合い?
いくら実戦試験だからってこれは……危険すぎないか?
「来るぞ! 唯人!」
そんなことを考えている暇はなかった。ヘルミーが僕の名前を呼んだので、相手が突っ込んで来ていることに気づく。僕は、剣を構える。
いや、逃げた方がいいんじゃないか? でも、相手の足の早さはかなりのものだ。逃げるには厳しい。迎え撃つしかないのか。
実戦では、一分一秒が明暗を分けるというがその通りだと思う。僕が少し考えている間にもう敵は目の前にいた。やるしかない。
僕は剣を振り下ろした。あっさりと敵はそれを回避する。うわっ!
さらに蹴りを繰り出して僕の手に攻撃を仕掛けて来た! 剣を蹴りで弾くつもりか!
どうにか、剣を強く握りしめたので、剣を手放さずに済んだが……今のでバランスを崩した僕にさらなる追い打ちをかけてきた。
ボディに拳が突き刺さる。
「がっ……!」
「唯人! てめぇ……!」
ヘルミーが怒って、敵に襲いかかる。僕はお腹を抑えるので精一杯だった。凄い攻防が続いた後、ヘルミーが敵を倒した。
追いかけてくる敵をエリカが上手く分散させる。マリリンの弓も百発百中だ。押されていると判断したのか、小屋の中からも警備兵が出て来た。
敵も魔法詠唱を開始している。弓持ちも現れた。うまく、弓矢を槍でいなしているが、多勢に無勢か。次から次へと敵が現れる。他の小屋からも援軍が来たようだ。
これは、やばい。それに、僕はお腹の痛みに耐えられず、その場に座り込んだ。
「おい、大丈夫か?」
「僕のことはいい……加勢に行ってくれ」
「わかった。任せておけ!」
とはいえ、数の差は歴然だった。もうどうにもならない。その時だった──。
ミュリエルの魔法詠唱が完了したのは。魔法陣が展開されており、杖から物凄い光が溢れでた。
「いっくよぉー!」
ミュリエルの杖から放たれた魔法は、まっすぐ小屋へと突き進み、小屋に直撃。小屋は見事にバラバラになり、目的を達成した。
『ミッション・クリア』
カードに表示される。しかし、まだ終わりではなかった。次の目的が表示される。
『研究施設から、極秘情報の回収』
カードキーが必要な場所とはここのことか。極秘情報って、どういう媒体になっているかわからないな……書類だったり、カードだったり……。
それに、また戦うのは人間か? 勘弁してくれないか……あんな痛い思いはもうしたくない。未だに痛いし。モンスターと戦うのも嫌だが……人間だって嫌だ。
ごちゃごちゃ文句を言っても始まらない。進むしかない。
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