実戦の恐怖
外に出て、先ほどのアナウンスの場所へと戻る。すると、
『カードを受け取り下さい』
「カード? これか」
僕は、カードを受け取った。
『カードの内容に従って行動して下さい。また、そのカードはカードキーとしての機能も兼ね備えておりますので、無くさないようにお願いします』
『それでは、試験スタートです』
ピーっという音と共に、試験が始まった。まずはカードを見る。すると、そこには『ファイアリザードを五体倒せ』という指示が書かれていた。
ファイアリザード……火属性のモンスターだ。火のエレメントを持つモンスターで、凶暴。口から火炎を出す危ないモンスター。
そんなのを、五体も倒せというのか。
「ファイアリザード? 楽勝ですわね」
「そうなのか? 僕は最近、この学園に編入して来たばかりでよくわからないんだが……」
「まあ、貴方のような魔法も使えない落ちこぼれでは、危険ですわね」
言ってくれるよ。事実だけど。事実なので、僕は後方支援かな。……なら、どうして剣にしたんだよ。まあ、なんとなく剣って強そうで、勇者とか英雄とかが持っているイメージだよね。だからどうしたというのか。僕にはまったく関係のないことだった。
どちらにせよ、飛び道具を扱える自信もないし……本当にただの足手まといでしかないようだ。困ったな。
「ま、こいつが使えないことなんて最初からわかっていたことだし、気にすることないわよ」
それはけなしているのか、フォローしてくれたのか、よくわからないラインだな……。
僕らは森の中を進む。嫌いな虫がうようおしていて、最悪だった。まあ、バッタやチョウぐらいならまだマシだが……ハチやハエなんかいた時には大変だ。僕は裸足で逃げ出すぞ。お前らを放ってでも。
しかし……一歩間違えれば死者が出てもおかしくないんじゃないのか? これ。モンスター討伐なんて……僕なんて、火炎の直撃を受けたり、噛み付かれたらアウトだろ……ゲーム感覚でやっているのか、ここの連中は。ふざけているな。
これがこっちの常識だとすると、余計に最悪だ。こんな命がけのバトルをどうして僕がしないといけないんだ。単位なんていらないから、帰らせろといいたい。
ぶつぶつ言っても帰れるわけじゃない……切り替えろ。じゃないと危険だ。
そんなことを言っていると、さっそく目当てのファイアリザードが姿を表した。数は二体。
「行きますわよ!」
そういって、マリリンが弓を構える。弓矢に魔力を込めて、解き放つ!
ファイアリザードはうめき声を上げる。死んだわけではなく、矢が突き刺さったまま、こちらへ向かって突進してくる!
それをエリカが槍でガード。そこでヘルミーがジャンプして、頭上から拳を振り下ろす!
鈍い音がして、ファイアリザードは叫ぶ。嫌な予感がした。
「避けろ!」
ヘルミーの声。え? え? 避けろつったって、どうしろと! そんなことを考えている暇もなく、ファイアリザードの口から炎が吹き出す! ヤバイ!
直感的に僕は右に動いた。後ろ髪を少し焦がしたが、ギリギリ間に合ったようだった。
はっ……はぁっ。た、助かった。冗談じゃない。こんなのが後、何回続くんだよ!
アニメやゲームじゃないんだぞ! 実戦だ! 命がけだ! 死んでしまう! もう、嫌だ! やめてくれ! 誰か助けてくれ!
当然だが、誰も助けてはくれなかった。
僕がパニックを起こしかけている間に、ミュリエルの詠唱が完了していたようで、魔法をぶっ放す。ファイアリザードにそれは炸裂し、ファイアリザードはまもなくして、息絶えた。もう一体も、四人の連携で上手く倒した。
「なんだよ……これ。危険すぎる。こんなことを僕らはまだ続けないと行けないのか? おかしいだろ!」
「何を言ってますの? まだ始まったばかりではありませんか」
「そうよ。これぐらいでヘコたれてどうするのよ、あんた」
「お前らは魔法が使えるから平気なんだろ! 僕は何も使えないんだぞ! こんな試験、やっていられるわけないだろ!」
叫んでいた。マリリンも、エリカも唖然とした表情。おいおい……なんだその目は。おかしいだろ。僕は何も間違ったことは言っていないぞ。
現代でいうなら、実戦経験のない人間に剣もって、ライオンやクマと戦えと言っているようなものだ。出来るわけがないし、非人道的だろ、どうみても。
この世界は狂ってる。こんなのがまかり通るなんて。これだから、異世界ってやつは。早く元の世界に帰してくれ、僕を!
「タダヒト、怖い? 大丈夫、ミュリエルが守ってあげる!」
「……」
「おいおい、大将。頼むぜ。そんなへっぴり腰でどうする! 気合入れろ、気合!」
うるさい。気合なんかでどうにかなるわけないだろ。
くそっ、ずっと何事もないから安心仕切っていた。こんなことなら、学園なんかに来なかったっていうのに!
僕が俯いていると、エリカが目の前に近づいてきた。そして、槍を地面に突き刺す。僕はそれを見て、一瞬びくっとした。
「はぁ……まあ、あんたが怖いっていうのもわからなくはないけど。私だって、最初の頃そうだったし。魔法が使えないんじゃ、無理もないわね。田舎の方じゃこんなことやらないもの。私の後ろにいなさい。そこから離れないように。あんたは私のサポート。いい?」
「あ、あぁ……」
戻りたかったが、一人で戻れるわけもないし、誰もついて来てはくれないだろう。となれば、早く終わらせるしかない。エリカの背中が妙に頼もしかった。
エリカマジ愛してる。だから、僕を助けてくれ。今なら、そんな冗談みたいなことも言ってやれる自信がある。なんて、ダメ人間なんだろう。僕は。
けど、これが普通の人間の感覚じゃないのか? 少なくとも、現代の日本人で我先にモンスターに飛びかかる奴なんて、ただのアホとしか思えない。死ににいくようなものだ。そんな単細胞の能なしバカと一緒にしないで欲しい。
こんなことなら、身体を鍛えておくべきだった……。試験内容を発表しない学園が悪い。ふざけやがって。マリリンじゃないが、抗議もしたくなる。
くそ……くそっ。僕は愚痴りながら、エリカの後ろにぴったりひっついていた。エリカはそれを少しうざったいと感じていただろうけど、何も言って来なかった。
エリカのでかいケツがどうとか、言っているような余裕すらなかった。ただ僕は震えながら、後をついていくしかなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます