クスハ・ミルロード
僕が学園の廊下を歩いていると、廊下の角から現れた女の子とぶつかってしまった。こんなことあるんだなぁ……。今どき、漫画でもないような……。いや、あるか?
「あっ……」
誰かと思えば、クスハだった。
「す、すみませんっ……」
そういって、立ち去ろうとしたクスハを僕は呼び止める。特に理由はない。
「な、なんですか……」
「いや別に」
「そ、そうですか……では」
「まあまあ、もう少し話そうよ」
再び呼び止める僕。まるでナンパ男のよう。日本にいた頃じゃここまで女の子とスムーズに会話出来ただろうか。割りと強引だし。慣れって怖いね。女の子しかいないと、もうそれが当たり前になって。
「あの……私は特に用ないのですが」
随分とよそよそしい態度。元々ほとんど接点がないからしょうがないけど。
「斉藤に僕と関わらないようにとでも言われているのかい?」
「!」
図星か……どうだろう。半分正解ってところかな。
「そういうわけじゃ……いえ、そうかも……しれません」
「うーん。僕は別にこれ以上、斉藤と関わるつもりはないけど、別に君とは関わったっていいじゃないか」
「……それは。でも、どうして?」
「そりゃあ、縁があって知り合ったわけだしさ。勿体無いだろ?」
「……勿体、ない?」
「君は嫌なのかい? 僕と話すの」
「別に、嫌じゃ……ないです」
「だったら、いいじゃないか」
「……」
黙ってしまった。なんだろう、悪い子じゃないんだけどなぁ。言葉数が少ない子は大変だね。すぐ黙ってしまうから、話を繋げるのが大変だ。
向こうからのアクションを期待していると、無言が続いてしまう。
「えっと……たまに、なら」
「たまになら話してもいいってこと?」
こくりと頷いた。無理に会話する気もないんだけどさ。とりあえず、たまに話をするぐらいはいいってことのようで。一歩前進かな?
「そういえば、クスハはこの間の試験どうだった?」
「受かりました……」
「そっか。僕も一応合格はしたんだけどさ、みんなの足手まといになっちゃって、大変だったよ。クスハはどんな感じだった?」
「私は……サポートですから」
「サポート?」
「……回復とか、補助とか……そういうのです」
「なるほど」
支援専門の魔法をメインにしているってことなのかな。回復とかトラップの解除とか、様々な場面で使われるし、重宝されるよね。
僕らのチームにはいなかったな……そういえば。うーん、支援かー。僕もそういうのの方がよさそうな気がするなぁ。でも、攻撃魔法を先行しちゃってるから今更無理か。
「今度教えてくれないかい?」
「えっ」
「駄目?」
「……先生に教わった方が、いいと……思う」
「まあ、そうだよね」
「……かんたん、なのなら」
「いいの?」
「うん」
「そっか、ありがとう」
支援魔法に対する知識はある程度持ちあわせてはいるんだけど、実技的なことはほとんど行っていないから、教えて貰えるならそれはそれで助かる。
話題作りにもなるし。クスハとの交流にもいいだろう。
「それじゃ、斉藤によろしく言っておいてくれ。じゃ」
「あ、はい……それでは」
そこで僕とクスハの会話は終わった。なんとも言えない空気感というか。
相手に合わせるのも大変だなと思った。それが人ってもんだけど。社会人になったら、もっと色んな人と会話することになるんだろうし、合わせて行くのが大変だろうな。
相手に話を合わせる、目線を合わせる、考え方に合わせる、行動を合わせる、合わせることだらけだ。
そういや、エリカとかが相手だと合わせるってことを忘れてしまうな……つい、ぽろっと本音が出るというか、勢いで話してしまうというか。うーん。
気を許している証拠……なのかね。どっかの本で、本当に気を許している相手には本音で接してしまうって書いてあったなぁ。本音もそうだし、つい強い口調になったり、偉そうになったりしてしまうらしい。たしかに家族とかといるとそんな感じだしな。
当たって……るかもなぁ。
そんなことを考えながら、僕は廊下から姿を消したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます