ステータス

 現在の僕のステータスは大したことはない。下の下である。僕と、みんなのステータスの差はこんなところだ。



 ◆小尾唯人


□:マナ総量:8502/8502

■:魔法力:35

□:身体能力:28

■:魔法抵抗力:30

□:魔法防御力:33

■:物理防御力:20


■得意スキル:シャイニング


□属性系統:???

■特化属性:???

□低下属性:???


-----------------------


◆エリカ・ヴィアルイン


□:マナ総量:652/652

■:魔法力:135

□:身体能力:280

■:魔法抵抗力:130

□:魔法防御力:120

■:物理防御力:175


■得意スキル:飛竜槍


□属性系統:特化タイプ

■特化属性:火・風

□低下属性:水・土


-----------------------


◆ミュリエル・キャンデロロ


□:マナ総量:1508/1508

■:魔法力:318

□:身体能力:80

■:魔法抵抗力:258

□:魔法防御力:175

■:物理防御力:120


■得意スキル:スターバースト


□属性系統:特化タイプ

■特化属性:光・闇

□低下属性:火・水・風・土・雷


-----------------------


◆マリリン・ブランシャール


□:マナ総量:958/958

■:魔法力:278

□:身体能力:180

■:魔法抵抗力:175

□:魔法防御力:155

■:物理防御力:135


■得意スキル:オーロラアロー


□属性系統:バランスタイプ

■特化属性:なし

□低下属性:なし


-----------------------


◆ヘルミー・ベジャール


□:マナ総量:558/558

■:魔法力:88

□:身体能力:580

■:魔法抵抗力:85

□:魔法防御力:75

■:物理防御力:535


■得意スキル:ポイズンダガー


□属性系統:特化タイプ

■特化属性:闇

□低下属性:光



 圧倒的なステータスの低さである。マナ総量だけは本当に異常だった。こうして、数値化して貰うとよくわかる。


 属性についてはまだよくわかっていない。精密検査をしなければ、わからないのと、そもそも使える魔法自体がまだまだ少ないのでわからないのだ。


 魔法力も低いせいか、どれも同じ程度の魔法威力になってしまうし。


 経験不足により、全体的に低い数値だ。これはこれからの僕の成長次第で上がっていくらしいけど、どこまで上がるのかはわからない。僕の努力次第だろう。


 魔法力というのは、一度に込められる魔力の高さを指す。


 身体能力というのは、運動神経とか、総合的な身体能力のこと。魔法抵抗力というのは、これが高いと相手の魔法の影響を受けにくいということ。


 相手の魔法に当てられたりすることなく、束縛魔法や毒魔法などの異常にかかりにくいってことかな。


 単純に相手の魔法に対する抵抗力の高さってことで。防御力ってのは、障壁密度のことだね。魔法障壁……バリアみたいなもんさ。


 物理を防ぐか、魔法を防ぐか、両方防ぐか。基本的には両方防ぐのだけど、どちらか片方が高いことが多い。両方高いっていうのは、相当の術者でなければ不可能らしい。


 低い属性値の攻撃を受けるとダメージが加算されるなどといった属性における弱点というものはないらしい。もちろん、属性魔法同士がぶつかり合った場合は別だけど。


 つまり、魔法防御面の話。魔法防御は無属性で行う為、属性の影響を受けないってわけ。


 本日、レイラ先生は用事があるとのことで、僕は一人で鍛錬をしていた。


 そこに現れたのはヘルミー・ベジャールだった。


「よう、唯人。調子はどうだ?」


「ぼちぼちかな」


「そうか」


 ヘルミーはよいしょっと口走って、地面に座ってあぐらをかく。まるで、男みたいな奴だ。風貌といい、喋り方といい。姉御肌的存在だろうか。スカートが全然似合っていない。制服もそうだけど。試験の時のようなハイレグアーマーみたいな奴のがよっぽど似合っている。なんていうか、妙なエロさがあったよな……あれ。


「この間の試験はよく勇気を振り絞ったな。見なおしたぞ」


「そりゃどうも。ほとんど足手まといだったけどね」


 あんまり思い出したくない。馬鹿みたいに一人で騒いで、みんなに迷惑をかけたことぐらいしか記憶に無いし。


「たしかにそうだ。でも、お前は最後に勇気を出したじゃねえか。男を見せたんだろ?」


「そいやあの時も言っていたけど、男って……意味わかっているのかい?」


「ん? ドルーダの誇りを胸に! みたいなもんだろ? お前らの部族もそんな感じじゃないのか?」


 あぁ、そういうことか。まあ、意味合い的にはほとんど同じだからいいけど。そうだよねぇ、そんなクスハみたいな事情知っている子が何人もいるわけないし。


 クスハとはどうもあの後、疎遠になってしまった。近づこうとすると逃げられる始末。何かしたっけ、僕。それとも斉藤の野郎が、余計なことを吹き込んだのだろうか。


 まあ、ああいうおどおどした喋り方の子って見ていてちょっとイラっとくることがあるから、別に話さないなら話さないでいいんだけどね……。


 なんかちょっともどかしさを感じるというか。そんなところ。


「あたしは強い奴が好きだ」


 ヘルミーはガッツポーズをしながら、そう言う。


「だろうね。そんな感じするよ」


「けどな。それは肉体的な強さだけじゃねぇ。精神的な強さ、すなわち勇気が大切だ。自分よりも強い相手に立ち向かう勇気。あの時のお前はそういった勇気があった。それも強さの一つだ」


「あんまり、あの時の話をほじくり返さないで欲しいんだけど……僕としては、思い出したくない出来事の一つなんだから」


「そうか? 結構、カッコよかったと思うぞ。もし、お前があたしより強かったら、惚れてたかもしれないな」


「えっ……」


 急に何を言うんだろう、ヘルミーの奴は。びっくりしたじゃないか。冗談のつもりだろうか。本気にしちゃうじゃないか。


 ヘルミーはどうも、ストレートで思ったことをハッキリというタイプだ。僕には案外、こういうタイプの方が合っているかもしれない。こんだけストレートに言われると、そりゃ普通に嬉しいし。僕自身はどっちかというと、優柔不断なタイプだからね。


 普通、人は怒られて伸びるより、褒められて伸びるからね。レイラ先生も僕をある程度、褒めて伸ばしているように。褒められて悪い気はしないから。


 人によっては嫌味に聞こえるので、アレだが……ヘルミーは正直なので、僕もそのままに受け止めている。それに、気さくで話しやすい。おや……付き合うならヘルミーみたいな子のがいいんじゃないのか? ヘルミーもまんざらでもないことを言っているし……いや、あれは冗談か。でもなんか、友達から抜け出せないまま終わるみたいな感じがしてならないけどね……あまりに、気を使わなさすぎて。


 では、ミュリエルみたいな子はどうだろうか。僕としては、中学生ぐらいならまだ許容範囲なんだけど、ミュリエルって見た目から話し方まで小学生にしか見えないんだよなぁ……。僕は別にロリコンじゃないんで。小さい子はそれはそれで好きですけどね。


 見る分にはってだけで、恋愛対象になるかと言われれば……ねえ?


 まあ、小学生にしか見えないってだけであって、高校生として見れば意識も変わるのかもしれないけど。うーん……アリ、か?


 大体、僕に人を選り好み出来る資格はないのだけど。


 ついでなので、マリリンも当てはめて見よう。タカピーお嬢様はあまり好きではないのだけど、権力と金髪ってのには憧れるよね。


 いやもちろん、二次元のタカピーお嬢様は嫌いじゃないさ。現実にいるとやっぱりどうもね……。金もありそうだし、逆玉か。


 将来安泰。いいかもしれない……こんな世界だ。僕のいた世界より安定を求めるのは至極当然のことだろう。


 と、僕は相手の気持ちも考えずに勝手に女の子達と付き合える前提で考えてしまっているわけだが。まあ、この手の思考というか妄想というか。そういうのって男なら誰でもあるよねぇ?


 そんなどうでもいいことを考えていると、ヘルミーが話しかけてきた。


「どうだい、いっちょあたしと組手でもやらないか? 今日は担任教師がいないんだろ?」


「いいのかい? 後、手加減してくれよ。僕はまだまだ見習いのひよっこだぞ」


「わかってるって! さっそくやろうぜ!」


 ヘルミーは嬉しそうに制服を脱ぎ捨てた。おいおい……僕以外誰もいないからって、それは……てか、僕以外の子に見られても女の子しかいないから問題ないか。逆に僕に見られることのが問題な気がする。


 まあ、今更か。かといって、過剰反応されてもそれはそれで困るし。いちいち、着替えの度に移動とかしないといけなくなるのも困るし。


 実は、体育や訓練などの着替えは女子と一緒にしている。つまり、下着見放題ってわけ。性別の概念については、寮にいる子達は知っているけど、学園の子達は詳しく知らない。僕が男だという話は入学時にしてしまったから、種族名とか部族名みたいなものだと思われている。


 多少人体構造うんぬんも話した気がするが、誰も覚えちゃいないだろう。質問攻めだったし、あの時。


 知ったところで寮の子達同様、気にもしないのがオチだ。


 よって、トイレすら同じところを使っている始末である。まあ、女子トイレは個室なので特に問題があるわけじゃないけどね……音とか話し声は聞こえるけどって何を言っているのか僕は。特にやましい気持ちはありません。


 妙な緊張感はあるけどね……痴漢者とかってこんな感じなのかね。よくやるよ。


 僕はそんなリスクを犯す気にはなれないな。


 ……いや、犯してましたね。風呂場とか……ベッドとか。いやいや、あれは合意の下ですから。相手が嫌がっていないから問題ないんです。はい。


 制服を脱ぎ捨てたヘルミーは下に例のハイレグアーマーを身につけていた。何故?


「常に戦闘態勢でいる為さ。いつどこで戦闘になるか、わからねぇからな」


 この世界ってそんな物騒だったのか? まあ、たしかに盗賊やら山賊やらもいるような時代ですし。奴隷もいるし。それは、現代もか……。しかし、この王国の首都に近い町のそれも学園でそんな事態にはそうそうならないんじゃ。


「いいんだよ、心構えって奴さ。あたしらの村じゃいつもこうだった。習慣で身についてしまっているのさ」


 どこかの暗殺部隊みたいな話だな……。本当にそうだったりして。ヘルミーのあの人間離れした動きは、明らかに異質だったしな……普通の生徒とはレベルが違うというか。一定の領域を超えている気がする。


「とにかく、行くぞ。準備はいいな?」


「あ、ああ……」


 ヘルミーの動きはレイラ先生とはまた別の意味で凄かった。その動きに翻弄されっぱなしで、付いていくのがやっとといったところ。


 ヘルミーはわざわざ、動きについても説明してくれている。どうして、こういった動きをしてこうなったか、など。


 講座のようなものだ。元々、僕とヘルミーとじゃ実力に差がありすぎるし。特に肉体面では圧倒的に。ヘルミーはマナ総量が低く、魔力もそれほど高いわけじゃないが、それを肉体面で補っているようだ。十分すぎる技量だ。



 以前、レイラ先生が言っていたことがある。


『小尾、戦争と一口に言うが、実際、大規模な戦闘が起きたとして、その決着までにはどれぐらいの時間がかかったと思う?』


「え? 二週間とか……一ヶ月とかですか?」


『違うな。二、三時間だ。数百人、数千人ほどの戦闘でこのぐらいだろう』


「そんなに短いものなんですか……」


『そうだ。その際に互いが斬り合ったとしよう。一対一での相手との戦闘時間は数秒だ。かかっても数十秒だろうな。もちろん、周りには大量の敵がいる。ほとんど一対一というよりは、複数対複数になるが。場合によっては一対複数もありえる』


「……」


『このような戦闘状況では、常に動き回っていなくてはいけない。止まれば、弓や魔法の狙い撃ちに合う。相手を倒すのに一分も二分もかかっていられないのだよ』


『つまり、何が言いたいのかといえば、戦争においてマナ総量が高いということはそれほど重要ではないということだ。必要なのは、『瞬間的』な強さ。これのみである。戦いは数秒で終わり、また次の数秒へと移る。つまり、瞬間的に動作し、考えることが出来なければ行けないわけだ。行動における判断力の高さでもある』


『また、大規模な魔法は周りの味方をも巻き込んでしまう為、戦争において使われるケースは基本的に少ない。大規模な魔法はそれだけ準備が必要であり、簡単に敵側に察知されてしまうからだ。やるとすれば、待ちぶせで魔法をセットしておき、そこに誘導する方法だが、上手くいく可能性は低いだろう』


 なるほど……。よく、アニメとかだと一気に敵を強力な魔法で蹴散らすイメージがあるが、強力な魔法ほど発動に時間がかかる……一分一秒を争う戦闘状況でそんな時間はないということか。それでも、後方待機で弓や銃みたいにセットして打つことも可能だとは思うけど。


『強力な魔法を撃てるということは、強力な障壁を展開することだって可能だということだ。基本的に魔法抵抗力の高い者や障壁力の高い者が前面に出て、一つの障壁を全体に張り巡らせて、展開する。これにより、魔法の威力は大幅に緩和され、攻撃魔法は障壁によって角度がそれてしまう。本隊に大きなダメージを与えることはしにくいということだ。となると、知っての通り、障壁は物理攻撃に弱い。もちろん、物理障壁の高い者も存在するが、少ない。つまり、物理と魔法を組み合わせた攻撃で障壁にダメージを与えて破壊することが優先とされる。大規模魔法を使うよりは、銃や弓に魔法を込めて放つ方が効果的というわけさ』


 そういうことか。もちろん、状況によっては大規模な攻撃魔法の使いどころもあるとは思うけど、基本的には使いにくいということ。


『だが、マナ総量が高いということは、一つの戦闘での消費を気にしなくてもいいというメリットがある。連戦になることだってありえるからな。終わった後に不意打ちを喰らうことだってある』


 たしかに高くて困るということは普通ないだろう。とはいえ、単純にマナ総量が高いからって何事にも有利に働くというわけじゃないと先生は言いたいのだろう。マナ総量が低いからといって、油断するなってことか。


 □ ■ □


 とまあ、そんな話を僕は思い返していた。


 ヘルミーがそのいい例だろう。戦闘能力としては一級だ。戦いは一瞬だ。この間の試験だってそうじゃないか。ものの数十秒で戦いは終わってしまった。


 僕なんて数秒で地面に倒れこんだぐらいだし。それも、一対一で。


 つまり、強い魔法が使えるようになったとしても、それを使える状況下に出来るかどうか。発動までにかかる時間も重要だということだ。


 となると、威力が高く発動時間も短い魔法が戦闘では好まれるということになる。


 初級から中級の魔法が使いやすいということになるのか……?


 それなら僕でも早い段階で習得出来るかもしれない。後は、経験……か。


 ヘルミーとの組手はしばらくの間、続いた。わざとだ。本当なら一瞬で終わっているようなことを、わざとヘルミーは時間をかけている。僕に戦闘における経験値を少しでも与える為だろう。


 僕は明らかに恵まれている。そんな条件下で訓練が出来ていることに感謝しなくてはいけない。斉藤のことを思い出すとなんだか、胸が苦しくなる。


 考えるな。別に僕のせいではないはずだ。手を差し伸べたのは、僕だがあれは斉藤から声をかけてきたからであって、そもそもあれが斉藤をこの世界に連れ込んだ直接の影響ではないと思うし。


 それはわかっているが、なんとなく罪悪感のようなものがある。僕のせいではないとしても。まあ、僕は僕で大変だったので一緒なのだが。


 しかし、試験が終わっても特に学園側が僕に何かを言って来ることもなかったんだけど……あの話は一体、なんだったのだろう。僕の思い過ごしだったのか、それとも試験の結果が散々だったので、話にならないとうやむやになったのか。


 僕は救世主なんてそんなものを望んでいるわけじゃない。この世界で平和に暮らせれるか、元の世界に帰れるか。どちらかがあればいい。


 斉藤を見てしまったせいで、僕が元の世界に帰れる可能性は非常に低いことがわかってしまったのが辛い。元々、その可能性は高いと思っていた。けど、わずかながらの希望が打ち砕かれるのは……。


 いや、斉藤があまり自分で行動を起こさなかった可能性もある。パン屋がどうのこうの言っていたし。この世界で暮らすことを早々によしとしてしまったのなら、頷ける。


 まだ早い。結論を出すのは……あらゆる手を考えてからでも遅くはない。


 それにはやっぱり、知識と経験が必要だ。今はこの学園で魔法を習うのが一番の近道だろう。卒業後は旅に出るのもいいかもしれない。


 この世界を周って様々な出来事に触れることが重要だ。


 ヘルミーとの有意義な時間を過ごした僕は、物思いに耽りながら学園を後にしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る