過ぎた力

 合図と共に僕とヘルミーは走りだす。敵は当然、僕らに気づく。時間差でエリカ達も動き出した。


 相手が一斉に襲いかかってくる。僕は冷静に対処した。しかし、剣の出力をどうすればいいかだけがわからず、最小限に抑えて攻撃を放った。


 相手の魔法服を切り裂いて、出血。やはり……予想以上に威力が高すぎる。最小限でこれか。相手は僕と同じ生徒だ。なるべく傷つけたくはないんだけど。


 僕の一撃を見た生徒は少し怯んだが、それでも襲いかかって来た。複数なら、やれると見たのだろう。しかし、魔法服のカウンター魔法を受けて吹き飛ばされる。


 ヘルミーは、当然のように敵の攻撃を軽快なステップで回避し、攻撃を加えていた。レベルが違うとはこういうことなのだろう。


 僕も以前とは違う。過信はしないが、足手まといにならないように努力してきた。その成果を今出す時だろう。


「うぉおおおおおおおおおお!」


 飛び込んできた敵を斬り裂く。


「はぁっ!」


 僕も気合を入れて敵に攻撃を加えていった。辺りはざわつき始める。


 それにしても多い……どれだけ参加しているんだ? 今回の警備側の人数は。


 こんな大立ち回りをしなくてはいけないなんて。多人数との戦闘は未だに経験が少なすぎる。魔法服のカウンター機能がなければ、今頃やられている。


 しかし、こんな性能のいい服を貰って、セコくないだろうか。剣もだけど。


 後で、不合格者から文句を言われるんじゃないかなぁと他所事を考えてしまっていた。僕は。


 それが、油断だったのだ。


 相手の一撃を受けて、立ちくらみを起こす。まずい。余計なことを考えている場合じゃなかった。一つの油断が命取りになる。それはわかっていたはずなのに。


 剣は……無理だ。ふらつきでまともに握りしめられない。なら。


 僕は手のひらにどうにか魔力を集中させ、相手に向かって放った。


 敵は思いっきり吹き飛んでいった。


「はぁ……はっ」


「あのバカ、油断するなって……あれほど!」


 エリカが何か叫んでいたようだが、よく聞き取れなかった。文句を言っていることはわかったが。なんとか、服の方に魔力をストックできていたおかげで、即座に集中出来ずとも発動出来たからいいものの……。またも、装備に助けられた形だった。


 剣を手に持って、エリカの方を見る。


 すると──エリカに向かってかなりの数の敵が迫っていた。


「エリ──」


 エリカは気づいていない。先ほどの僕のミスでこちらに気を取られたからだ。間に合わない。どうする。なんとか、なんとかならないのか!


 ようやく、エリカは気づいたようだった。しかし、敵の数が多すぎる。あれではすぐに押し切られてしまう。エリカが危ない。そう思った。助けないと。それだけの感情。


 僕は──何かが弾けた。


「うぉおおおおおおおおおおお!」


 魔力を限界まで剣に込めた。


 すると。


『Hyper-charge』


『Mode Change』


 なんだ、声が……。剣が喋っているのか? クリスタルが三つ輝いている。剣の形状がいつの間にか、変化していた。これは……。いや、今はそんなことより、エリカを!


『burst』


 瞬間。僕が勢い良く剣を振った瞬間だった。物凄い魔力の波動が駆け抜けていったのは。


 そして……悲劇は起こった。


「エリカ、伏せろ!」


 僕の声に反応したエリカは、その異常な魔力を同時に感じ取ったのだろう。即座にその場に伏せて、尚且つ障壁を上に展開させていた。


 その障壁を粉々に砕いて、さらにエリカの背後にいた警備兵達を……全て。




 真っ二つにした。




「い、いやぁああああああああああっ!」


 辺りは……騒然としていた。いや、叫んでいたのはエリカだけで、周りは静寂に包まれていた。そのまま棒立ちのように動かなかった。誰一人として。


 エリカの目の前には血まみれで胴体が吹き飛んだ残骸だけがあった。ぐちゃぐちゃでわけがわからない。なんだ、これは。僕がやった……のか?


 無我夢中だった。だから、出来る限りの魔力を瞬間的に込めて剣に乗せて放ったのだ。


 その結果が、これ。


「こ、こいつは……」


 さすがのヘルミーも声が出なかったようだ。しかし、この中で一番冷静だった。血まみれの現場を見ても、物怖じもしていない。単に僕の攻撃の威力に対して驚いているかのようだった。


 その状況を見ることが出来ていなかったマリリンとミュリエルが目的地に到達していたようで、カードには『ミッション・コンプリート』の文字。


 そして、戻ってきたマリリン達はその惨状を見て、押し黙っていた。


 僕らは合格した。しかし、それ以上に大きな犠牲を生んでしまったのだった。

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