デート気分でどっきどき。
今日はエリカと寮の買い出しに出かける日だった。
エリカの奴は何故か朝からご機嫌のようだった。何故だろう? 寮の買い出しなんて面倒なだけだと思うけど……まあ、みんなの生活用品から生鮮品まで買いに行くわけだから、面倒とか言ってしまうのはよくないんだけど。
僕らが買い出しに行くことになって、寮の子達は自分達も「いくー、いくぅー!」と大騒ぎしていたが、エリカはそれを静止させた。結局、自分達だけで買い出しに行くことになってしまったんだけど……人手が多い方が楽だと思うんだけどなぁ……。
特にミュリエルなんて、「絶対イクぅー!」とか言い出して、僕にしがみついていたぐらいで。思わず僕も抱きしめたくなったけど、それは何か犯罪チックに見えたからぐっと堪えました。はい。
そんなミュリエルを強引に引き剥がしたエリカさん。ミュリエルは涙目で、
「いっでらっじゃぃ~」
と、僕らを見送ってくれたんだけど……。何か可哀想で。
そんなに僕に荷物持ちをさせたいのか……? 人が悪いにも程がある。
とんでもない奴だ。だから、そんなにご機嫌なのか。鼻歌まで歌っちゃってさ。
朝から気が重いったら、ありゃしない。そんな僕の視線に気づいたエリカ。
「何? なにか欲しいものでもあるの? 私はねぇ~」
滅茶苦茶楽しそうな笑顔に、思わずドキッとした。
なんだよ……その顔。可愛すぎるだろ。反則じゃないか。
そんな笑顔で見られちゃ、何も言えない。っていうか、目線を合わせるのも辛い。恥ずかしい。
よく見ると、服もいつもと違って、おしゃれだった。ピンクのワンピースにベージュの麻のバッグ。シルバーアクセサリに、大きな紺のリボン。赤い髪のエリカにはよく似合っていた。そういえば、赤い髪の女の子って基本ハズレないよなって……どういう基準だよ。それ。
るんるん気分のエリカを尻目に僕の方はドキドキしっぱなしだった。おかしい。どうしてこうなった。二回は言いませんよ、はい。
面倒で憂鬱な荷物持ちのはずだったのに……何だか、エリカの顔を見るのも恥ずかしいじゃないか。落ち着け。何を焦っているんだ、僕は。あのエリカだぞ?
あれは山猿……山猿だ。でもあの性格もそれはそれで悪くな……違う違う。そうじゃないだろ。ちょっと予想外の出来事が起きたから動揺しているんだ。吊り橋効果だ。
錯覚だ。自己知覚がおかしくなっているんだ。そうに違いない。普段と違うエリカを見て驚いているのを魅力的と錯覚してしまっているだけだ。いや、そもそも恋とかそういうのじゃないし。
そうに違いない。オッケー。とはいえ、このドキドキはしばらくの間、収まりそうもなかった。そもそも、女の子と二人で出かけたことなんて一度もなかったしなぁ……。
そりゃ、ドキドキもするよね。あぁ、いや。シーナさんとはしてたけど。年頃の女の子とって意味で……。後は、僕の現代での人生では一度もないから。
「ねぇ……」
とにかく、落ち着こう。無理だけど。深呼吸だ。すーはーすーはー。よしよし……若干落ち着いて来たぞ。そうだよ、僕があのエリカにドキドキするなんてそんなバカなこと……。
「ちょっとっ! 聞いてるの!」
「うわぁっ!」
「な、何っ! 急に大きな声出さないでよ!」
び、びっくりした。ただでさえドキドキだったのに、ひっくり返るかと思った。まったく、こいつは。なんてことをするんだ。しかし、そのおかげか、軽くイラッとした結果、僕はドキドキはしているがそれを驚いたからと認識したようだ。
さっきまでの違う意味でのドキドキは収まって来ていた。
「驚かせるんじゃない。まったく、君は。もう少し静かに出来ないのか?」
「なによ。あんたが、人の話を聞いていないのがいけないんでしょ」
「そんなことより、何を買いに行くつもりなんだ? 僕は何も聞かされていないぞ」
女はこれだから……口を閉じるってことを知らない生き物だよな。男よりも女の方が圧倒的にお喋りらしい。喋っていないとどうにかなってしまうぐらいによく喋る。声もでかい。
正直僕は、黙って歩くのが好きだ。というか、別に話すこともないからっていうのもあるが。少しは黙って街の風景を見るとか……なんていうか、いちいち感情的だよな女って。
風情を楽しむ気とかないのかねぇ……。ホント、女は花より団子っていうか。男は何か黙っていたい時もあるんだけど、そうすると女って今みたいに話を聞いていないと思われたり、つまらないって思われるんだよなぁ。今回に限っては話を聞いていなかったのは事実だけどさ。
「セールがあるのよ。服の」
「服ぅ? 生活用品は?」
「それは後で買うわよ。先に行かないと売り切れちゃうでしょ」
「大量の服を手に持って……その後、生活用品って。ぞっとするんだけど」
「うるさいわね。男は黙って持ちなさい」
「黙れと言ったり、話せと言ったり。どっちなんだ」
「ほんと、いちいち細かい奴ね。あんた」
「お前の大雑把さと自分勝手さに呆れるよ……」
「うるさいわねっ!」
そういって、エリカの足が僕の足に当たる。痛い。反論されるとすぐ暴力に出る奴って……これだから。
「蹴るんじゃない」
「ふんっ!」
エリカは怒ったように、先に進む。笑ったり怒ったり……表情がころころ変わる奴だ。情緒不安定にも程があるぞ。
文句を言うとまた揉めそうだし、エリカが先にずかずか進むから僕は黙ってその後ろをついていくだけでいいし、丁度いいか。
「ばかっ……」
何か、ぶつぶつと言っている気がしたけど、僕はスルーしておいた。女って生き物はよくわからないね。シーナさんみたいに常に笑っている人もいるけど。
そういえば、シーナさんとの会話の時はそんなに苦痛でもなかったなぁ。それほど会話量も多くなかったし。適当に答えて後は黙って付いていくだけだったし。
まあ、シーナさんは大人だからね……子供の僕に合わせてくれていたのだろう。同じ子供のエリカが僕に合わせるなんて無理な話か。
むしろ、僕がリードしないと行けないんじゃないのか? って、デートじゃあるまいし。どうして僕がそんなことをしなくてはいけないのか。
そんなもやもやした気持ちの中、僕らは市場へと足を運ぶ。
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