無条件の愛、優しさ
服だけでもすでに大量だというのに、その上日用品まで買い漁るのだから、とんでもない話だった。重い。重すぎる。よりにもよって、洗剤などの重量のある日用品を買うのだから、こいつは。わざとやっているんじゃないだろうな。
「なによ。私だって半分持っているじゃない」
「当たり前だ……日用品はともかく、お前の趣味が半分以上を占めているんだぞ」
「うるさいわねぇ。文句ばっかり言ってるとモテないわよ」
「ただの荷物持ちにされるぐらいなら、モテない方がマシだろ……」
大体、モテるって。女しかいないところでよくもまあそんなセリフを。エリカって同性愛推奨してたっけ? ……してないな。たぶん。隠れ百合でもない限り。
それともこの間、僕が性別について教えた関係で目覚めたとか……ないな。そもそも、概念がなかったんだ。知ったところで、急に何かが変わるわけもない。
単にニュアンスというか……大した意味合いを持って言ったわけではないのだろうけど。
どうでもいいことか。いちいち事あるごとに突っ込んでいたら、キリがない。
日用品も買い終わり、後は寮へと帰るだけだったはずなのだが、エリカは途中の店で足を止めてしまった。
おいおい、まだ買う気なのか? と、恐る恐る店を覗くと……。
そこはアクセサリーなどの小物を扱うショップだった。
女は光物に弱いからなぁ……仕方がない。僕は荷物を地面に置いて、エリカが満足するのを待つ。
しかし、中々終わらない……。
じーっとアクセサリを見つめては、こちらをちらっちらっと覗いてくる。何がしたいんだ?
あれか。もしかして、買えと? たしかにこの手のシチュエーションだとよく男が女の子に買ってあげるパターンだけどさ。そんな義理は僕にはないし。
大体、荷物持ちまでさせておいて、アクセサリーまで強請るとか、どんだけですか。
まあ、エリカのことが好きな男子ならここらでアクセの一つでもプレゼントしてポイント上げるんだろうけど。って、男、僕しかいないけどさ。
僕にはそこまでの感情はない。少しは気になるけど……いやいや、あのエリカだぞ。
まだ見てるよ……そんなに欲しいのか?
「それより、そっちのローズクォーツは?」
「え?」
エリカは驚いて、僕が教えたローズクォーツのアクセに目をやる。
「あ、うん……いいかも」
「お前にはそういうちょっと控えめのピンク色ぐらいのがいいんじゃないか?」
「そ、そうね……」
何をおどおどしているのだろうか。
「買わないのか?」
「えっ……えっと、どうしようかな……」
手をもじもじさせながら、悩むエリカ。僕は深いため息をした。
仕方ない……買ってやるか。そう思って、値札を見ると……8000ルビー。
高い。3000ぐらいだと思ったら、8000って。大金だよ。今の僕には。いや、現代でいうと8000円ぐらいですから、現代でも大金です。高校生には。
うん、無理。とても出せない。せめてその半分じゃないと。
「高いな。やめといたら?」
「……そう、ね。やめといた方がいいかな……」
ああ、もう。うざったい。なんなんだ、まったく。どうして僕がこんな気持ちにならないといけないんだ。
気づいたら、僕は財布からお金を取り出していた。何をやっているんだろう。バカじゃないのか。8000ルビーだぞ? 僕にそんな余裕はないし、ニーナさんにも悪いだろ。やめておけ。でも、もう止まらない。
「仕方のない奴だ。半分だ」
「え?」
「半分、出してやる。後の半分をお前が出せ」
「……うん」
エリカにしては素直だった。てっきり、「はぁ? 半分? ふざけないで。出すなら全部出しなさいよ、このばかっ!」とか罵られるのかと思ったが。
そこまで人が出来ていないわけでもないか。
「まいどあり!」
店員の掛け声と共に、エリカはローズクォーツのアクセサリーを受け取った。それを首にかける。
「ど、どうかな?」
「いいんじゃない? 僕はよくわからないけど」
「よくわからないって……あんたが選んだんでしょ!」
似合っている、なんて恥ずかしくて言えるかよ。ボケ。
「いいから、さっさと行くぞ」
「ちょ、ちょっと! なによ、もう!」
僕は荷物を持って、さっさと進む。その後をエリカが慌てたように追いかけて来た。
「ったく……ほんと……ぶつぶつ」
エリカは何やらぶつぶつと言っていたが、よく聞こえなかった。大方、褒めてやらなかったことに不満があるのだろう。人に半分出して貰っておきながらこれだ。なめてるね。
「……ちなみに、ローズクォーツってのは『恋愛成就』の意味があるらしい」
「え? そ、そうなの?」
エリカは驚いていた。まあ、たしかに『恋愛成就』なんてこの世界じゃほぼ不要だしな。なら、どうしてあんな石が売っているのかって話だが。いや、恋愛だけじゃなくて『無条件の愛、優しさ』って意味合いもあるんだけどね。
後は、『自己愛』か。トラウマからの脱却とか、ね。
ようするに僕はもっとエリカにやさしさを持てと、そう言いたかったのさ。
しかし、エリカは何やら勘違いをしてくれたようで。
「れ、恋愛成就ねぇ……ふぅん。そうなんだ。へぇ……」
「いや、他にも意味があって……」
「ふぅん~。へぇ~♪」
まったくもって、人の話を聞いていなかった。
急に態度が変わったかのように。さっきまでの不満顔はなんだったのか。女心は秋の空か? ころころ変わって、付き合う方の身にもなって貰いたいね。
そんな僕の気持ちをエリカは知るはずもなく、にこにことひたすらに笑顔だった。
僕はそれを見て、軽く笑みを浮かべた。
まあ、いいか。と。不覚にもそう思ってしまったのだった。
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