団結するチーム

 前回同様、カードを受け取る僕ら。すると、カードに試験内容が表示される。


『指定されたポイントへ移動すること』


「これだけか? 随分と簡単だな……」


「かんたん? 前回の試験は簡単でしたか、小尾唯人?」


「う……」


 たしかに、これだけ見ると簡単に見えるがそんなはずないのだ。


「このポイントにたどり着くまでに障害があるか、たどり着いてからあるのか、もしくはその両方か、いずれにせよ気を引き締めて貰わなくては困りますわ」


「ごめん。僕が悪かった。その通りだ」


「わ、わかればいいのですわ……物分りだけはいいのですから、ほんと……」


「?」


 マリリンが何やらもじもじしていた気がするが、気のせいか。


 トイレでも行きたくなったのだろうか。さすがにそれはないか。なんだろう、まあいいか。


 そんな僕らの様子をエリカがジト目で睨んでいた。怖い。僕の視線に気づくとそっぽを向いてしまう。


「若いっていいねぇ!」


 ヘルミーがそう言う。意味がわからない上に、ヘルミーも同学年だろ……。


「ま、そこの金髪ロールが言うとおり、何かあるのは間違いねえ。警戒は最大限に行うことだ」


「誰が金髪ロールですか!」


「またやってるよ、この二人……」


「そこのドルーダが悪いのですわ、人のことを金髪ロールなどとおっしゃるから!」


「そっちだって上から目線でドルーダが、なんて言うからいけねぇのさ」


「なんですって!」


「はいはい……そこまで。ていうか、それならお互いに名前で呼び合えばいいでしょうが」


「どうしてわたくしがこんな蛮族の名を呼ばなくていけないのですか!」


「誰が……蛮族だって?」


 明らかに、空気が変わった。ヘルミーの顔つきも。触れてはいけない部分だったのだろう。


「あら、蛮族を蛮族といって、何がいけないのかしら? おーっほほほほ!」


「てめぇ……」


 そういって、拳を振り上げるヘルミー。エリカはそれを見て、驚いている。動けない。ミュリエルは不思議そうに見ているだけ。


 瞬間、僕は二人の間に割って入っていた。


 衝撃音。僕は二人の拳を同時に受け止めていた。物理障壁を展開させつつ。


 驚いたのは二人の方だった。エリカはさらに驚いていたようだが、マリリンとヘルミーも僕の動作に驚いていたようだった。


「唯人、お前……」


「小尾唯人……貴方」


「二人共、いい加減にしてくれませんか? 遊びじゃないんですよ、これは。僕らはチームです。その輪を乱す者はどちらの言い分であれ聞けません。僕からお願いするとすれば、お互いに名前で呼び合って貰うことです」


「……わぁったよ、すまなかったな。ブランシャール」


「いえ……こちらこそ、言い過ぎましたわ。ベジャールさん」


 どうにかまとまったようだ。僕を中心にメンバーが纏まってくれればいいのだけど……この中で全員と共通点があるのは僕だけだしなぁ。


 となると、僕がリーダーシップを発揮して、このチームを纏め上げた方がいいのかもしれないけど……前回、足手まといだった僕がそれをやるわけにもいかないし。


 ちらっとエリカの方を見る。エリカではまたマリリンと揉めることになるし……逆もそうだ。かといって、ミュリエルでは……。そう思っていると。


「あんたがやれば? リーダー」


「えっ?」


 そんな言葉をくれたのは、意外にもエリカだった。


「そうだな。あたしは別に構わないぜ」


「……異論はありますが、他の方にお任せするよりはマシですわね。わたくしがやりたいところですが、また揉めるでしょうし」


「ミュリエルは構わないよ!」


 何故か知らないが、勝手に決まってしまった。上手くいったからいいけど……マリリンが同意してくれるとは。


「じゃあ、お言葉に甘えて。ただ、僕は君らよりも経験が不足している。迷った時は各々の判断に任せるよ。それと、アドバイスをしてくれると心強い。判断が決まらなかった時だけ、最終決定を僕がすることにする。それでいいかい?」


「ああ」


「ええ」


「仕方ありませんわね」


「オッケーだよー!」


 ようやく、纏まりを見せたチーム。僕らは指定されたポイントへと向かうことにした。


 指定されたエリアは森を抜けた先にある。そこで、最短ルートを通るか、遠回りをするかで意見を交わしている最中だ。


「罠がある可能性は高い。最短ルートだからな。当然、警戒しているだろう」


「ですが、どこへいってもそのリスクはつきまといますわ。なら、最短ルートの方が結果的に短時間で移動可能ですし、いいのではないかしら?」


「私は遠回りするべきかな。さすがに危ないでしょ」


「ミュリエルはタダヒトに任せるよー」


「うーん……どちらの言い分も一理あるんだよな。こっちが最短ルートを通らないと判断していたら、敵の数は遠回りの方が多くなる可能性もある……まずは、誰かが様子を見に行った方がいいんじゃないか?」


「なら、あたしが行こう」


「頼むよ、ヘルミー」


 ヘルミーが様子を見に行くことになった。前のように軽快に木に登り出す。


「どうだった?」


「ぱっと見はわからねえな。人の気配はなさそうだ。モンスターはいるかもな。トラップはわからねえ。見てわかるようなトラップは、トラップとは言わねえけどな」


 僕は考える。意見が分かれた時は、僕が最終判断を下すんだったな。早くもそうなってしまったわけだ。


「遠回りで行こう。どちらにせよ、最短ルートには何かしらの罠があって当然だと思うし。遠回りも同じように警戒しながら行こう。時間制限は書かれてないし、問題ないと思う」


「わかった」


「わかりましたわ」


「そうね」


「おー」


 僕らは目的のポイントまで遠回りをしながら、向かうことにした。


 しばらく、森の中を進んでいると、がさがさと物音がし始めた。


「敵か?」


「でしょうね。人かモンスターかまではまだわからないけど……かなりの数よ。気をつけなさい」


「来ましたわ!」


 マリリンの声と共に一斉に飛びかかって来たのは、モンスターだった。


 デビルアイという闇属性空中モンスターと、アーマードラゴンという地属性の凶暴なモンスター。特にアーマードラゴンの鱗は硬く、その上俊敏。これが群れで襲いかかって来るとなるとかなり危険だ。そして今がその状況。どうする。やるしかないか。


「マリリンとミュリエルは空中モンスターの相手を! 残りがアーマードラゴンを担当しよう!」


「「了解!」」


 単純に弓持ちのマリリンと、魔法を放つミュリエルが空中を担当するのは当然のことだった。僕らも一応、攻撃魔法は使えるが、武器に魔法を乗せる方が得意だし、実際に武器持ちであるから、その方がいいと判断した。ミュリエルのような放出魔法は武器から行えない。やれなくはないが、相当の魔力変換が必要になる為、効率的ではない。


 よって、放出系の魔法を使う際は、手のひらからか、杖からが主流だ。


 僕は剣に魔力を変換し、込める。すると、クリスタルが輝きを増した。光ったのは一つ。服も同様に光っていた。使い勝手がよくわからないが、これでどうだ!


 そういって、剣をアーマードラゴンに叩きつけた。


「グォオオオオオオオッ!」


 すると、あの硬いアーマードラゴンの鱗を、まるで紙のように切り裂いた。


「凄い……」


「何、あれ……」


 エリカは驚いていた。僕もだけど。やっぱり、普通じゃないのか、この威力は。


 剣のクリスタルの輝きが消えていた。今ので使いきったのか?


 すると、しびれを切らしたアーマードラゴン達が僕に向かって襲いかかる!


「唯人!」


 エリカが叫ぶ。僕は、冷静に魔法服に魔力を込めた。すると、自動的に襲いかかって来た敵に向かって、服から魔法が放たれた。


「グォオオオオオオオッ!」


 ドラゴン達が苦しむ。その間に、再び剣に魔力を込めて敵を斬り伏せる。


 深追いは禁物だ。一匹を倒した後に、僕は後方へと下がった。


「ひゅー、やるじゃねえか。それに、その剣……やっぱ、ヤベェ代物だったな。服もか」


 と、ヘルミー。たしかに、ヤバイ。出力が高すぎる。加減が難しいにも程がある。軽く強めに込めただけで、あれだ。クリスタルの輝きは一つ。つまり、最高で三つまでチャージ出来るってことか。それに、服でも増幅されているし……。


「今回は唯人の心配をする必要はそれほどなさそうだな。なら、あたしは好き勝手に動き回らせて貰うぜ!」


 そういって、ドラゴンの群れへと突き進むヘルミー。俊敏なドラゴン達をそれを上回る動きで翻弄している。なんて奴。


「おらぁ!」


 ドラゴンの足を切り裂いた。鱗は硬いから足を狙ったのか。本来はそうやって倒すのが定石なのだろう。僕のやり方は異常だっただけで。


 エリカも、槍を上手く使って、ドラゴンの足や尻尾を狙っていた。


 一方、ミュリエルとマリリンだが、ミュリエルは詠唱の早い魔法でデビルアイを撃ち落とし、マリリンは相変わらずの命中力の高さで魔力を込めた弓矢を放って、敵を撃ち落としていた。


「なかなかやりますわね」


「えっへん!」


 得意げなミュリエル。マリリンにしては珍しく、相手を褒めていた。エリカやヘルミーとの相性が悪いだけで、本来はこっちがマリリンの姿なのかもしれない。


 敵を片付け終わると、僕らは集合する。


「あら、そちらも片付いたようですわね」


「ミュリエルもどっかーんと倒したよ!」


「おう、こっちは唯人が予想以上の活躍をしたぜ。なあ?」


「いや、それほどじゃないよ。ヘルミーこそ」


「やはり、装備がいいと凡人でもそれなりの力を発揮するものですわね」


「あんたねぇ……」


 マリリンの何気ない一言で、また空気が悪くなりそうだったので、僕が止めておいた。


「まあ、実際その通りだしね。とはいえ、強すぎる力を制御するのって思った以上に大変そうだ。気をつけないと」


「あら、わかっていらっしゃるのであればよろしいのですわ。過ぎた力は身を滅ぼしますわよ。肝に銘じておくのですわね、おーっほほほ!」


 今のはマリリンなりの注意のつもりだったのだろうか。そう受け取っておくことにした。たしかに、この装備……予想以上に危ない。さっきの自動反撃だって、周りに味方がいたらどうなっていたことか。自動認識しているならいいんだけど……その辺もどこまで信用出来るのかわからないしなあ。意図的にON、OFF出来ないのだろうか……オートカウンターとか。


 さらに森を進むと、ヘルミーが呼び止めた。


「待ちな! ……ちょっと下がれ、みんな」


 言われた通りに下がる僕ら。すると、ヘルミーは石をさっき僕が歩いていた場所の先へと投げた。


 ドッカーン! まさにそんな感じだろうか、地面が吹き飛んだ。


「うわ……」


「トラップだ。わずかに地面が浮いていたからな。うまく、地面を掘った後を消していたが、あたしにはバレバレだぜ」


 やはり、経験の差だろう。僕には全然わからなかった。それに、トラップの解除やどこに仕掛けられやすいかなどの専門知識的なものや訓練などを受けたことがあるのではないだろうか。いや、それこそ実戦で……。考えすぎだろうか。


 とにかく、頼れる味方ヘルミーがいてくれて心強い。


 それより、火薬の量おかしいだろ……大怪我どころか、死んでるって。前も思ったけどさ。僕は知らなかったんだけど、ここを入学する際は書面上で魔法関係の授業等で死んでも学園側は責任を取らないってことにサインしているらしいんだよね。


 恐ろしい話だ。そんな養成所的な学園だったのか、ここは?


 っていうか、シーナさんもこの学園がどんな場所なのかもっときちんと説明してから、入学手続きとって欲しかったというか……。


 微妙に抜けているところあるんだよなぁ、あの人。


 それともわざと教えなかったとか……それはないと思うけど。


「魔法トラップの方は、そこの金髪……ブランシャールの方が得意だろう。そっちの探知は任せるぞ」


「貴方に言われずとも、行いますわ」


 魔法によるトラップは当然、魔力がそこに残留していることになる。しかし、それを先ほどの地面じゃないが、巧妙にカモフラージュしているわけだ。


 それを探るのが、探知スキルというわけだ。マナというのは、そこら中にある。魔力の残留もモンスターや木の影響で普通にあるわけだ。そんな中でトラップを見つけるのはやはり至難の業といったところか。


 マリリンは、神経を集中させているようだ。目をつむって辺りを探っている。


「……ありますわね。恐らく、ですが。数はそれほど多くありませんわ。あまり沢山あると、自分達が困りますものね」


「おおよその場所はわかるんだな?」


「えぇ。そこを回避して移動しましょう」


 マリリンの指示の下、僕らは動き出す。前回、トラップの類がなくて本当に助かった。あったら、今頃僕は大怪我か死んでいたのではないだろうか。ぞっとする。


 それから、モンスターの襲撃やトラップなどをかいくぐって、僕らは目的のポイントに到達した。


「かなりの数がいますわね……ポイントにたどり着くことが目的ですから、恐らく誰か一人でもあそこに辿り着いた瞬間にクリアになるはずですわ」


「となると、向かうのは一人か二人にして、残りが囮になるしかないな」


「それはあっち側も読んでいると思うけど。私は今回は固まった方がいいと思うわ」


「ミュリエルはタダヒトの言うとおりにするねー」


 さて、どうしたものか。前回は小屋の破壊だったから、僕らが囮になったけど、今回は状況が違う。たしかに、普通なら誰かが囮になって敵を惹きつけるべきなんだろうけど、エリカが言うとおり、あっちは僕らの目的を知っている可能性がある。


 となると、動かずにあそこの守りを最優先にする可能性があるわけだ。下手に戦力を分散させてしまうと、突破出来なくなってしまう。


 しかし、五人同時に行くと犠牲は避けられない。まあ、囮を使ったところでそれはそうだけど……あの数だしなぁ。


「どうするんだ、唯人」


「……全員で行こう。ただし、二手に別れて行動する。目標のポイントまで誰かが辿り着けば僕らの勝ちだ」


「パーティーは僕とヘルミー。残りの三人で別れよう」


 僕の発言に何故かエリカはむっとしていたが、僕がまだ足手まといになる可能性はなくはないので、一番実力のない僕と、俊敏に動けるヘルミーが一緒になる方がいいと考えた。


 僕が足手まといになった場合でも、残りの三人が上手く行けばいいわけだし。


 だから、二、三で分けた。悪くはないと思うんだけど、何が不満なんだエリカの奴は。


「別に。いいから、行きましょ!」


 あからさまに怒っていらっしゃる。おぉ、こわっ。今から突撃するより、エリカのが怖いんじゃないか? ……いや、それはないかさすがに。


 あの時を思い出すと少し震えてくる。それをどうにか抑えながら、僕は合図を出した。


「大丈夫さ、唯人。あたしが守ってやるからよ」


「はは、どうも……本来ならそれって男の僕が言わないといけないセリフだよね……」


「気にするなって。いつか、お前がそう言える日になったら、その相手に言ってやれ」


「……そうだね。じゃあ、行こうか」


「おうよ!」

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