指導と特訓
レイラ先生のマンツーマン指導が始まって、はや一ヶ月。基礎的なことに関しては大体、学び終えたといったところだろう。家に帰ると魔法学の勉強と、エリカとの特訓。
学園ではマンツーマン指導。これで伸びないわけもなかった。
僕はめきめきと学習していき、それなりに魔法も扱えるようになっていた。とはいえ、まだまだ戦闘には使えないレベルではあるが。
次の魔法試験が差し迫っている為、魔法学の中でも、戦闘だけに重点を置いた授業内容だった。次も実戦形式であることは間違いないだろう。
戦闘だけの授業内容であれ、とても数ヶ月で追いつけるはずもないのだが、やれるところまでやるしかないと言ったところか。というか、常に勉強と訓練漬けで僕の方はいい加減、まいってきていた。
過剰なストレスでどうにかなりそう。たまには息抜きも必要だと思う。
そんな僕の様子をよく見ているレイラ先生。こういう時は授業を放り出して、釣りに連れて行ってくれたり、気分転換をさせてくれた。こんな先生は見たことがない。
最近の自分の主張だけを押し付ける先生じゃなくて本当によかった。
良い教師に巡り会えたことで、僕の能力は飛躍的に向上していったのだった。
「正直、小尾がここまで出来る奴とは思わなかったぞ。普通の人間ならここまでの努力はそうそう出来まい。それは誇ってもいいことだ」
「まあ、知らないことを学ぶのは昔から好きでしたから。すぐに調べる癖もありましたし」
「そうか。それにしても、よく頑張った。そろそろ先生と組手をしようか」
「組手、ですか?」
「そうだ。知識面ではもう十分だろう。とはいえ、それは戦闘関連の魔法学において、という意味だが。これからは全般的な魔法学の授業も行っていくつもりだ。それに伴い、組手などの戦闘訓練を重点的に行っていく」
もう次の試験までの時間がほとんどないので、肝の戦闘訓練を最優先として持ってきたんだろう。僕が今までやって来たことは、魔力を練る訓練や、初歩的な魔法の使い方などだ。僕の場合、マナの総量が多い為、変換にも気を配って行わなければ、予想以上の威力や暴発を起こしてしまう可能性が高い。
なので、本来ならば基礎をしっかりと身に付けるべきなのだろうけど……そんな暇もないってことだね。
さっそく、僕と先生は訓練場へと足を運ぶ。周囲の空間には魔法障壁が展開されており、強力な魔法を使っても、壁や窓などが破壊されることはない。
これを破壊出来る者は相当の術者であり、最低でも魔導師クラスの技量を要求される。魔導師でも上のクラスだろう。
魔導師というのは、王国によって認定された魔法を専門に教える人間のことを指す。
魔導師にはランクと称号が存在し、F~A、そして最上級にSランクが存在する。称号は大魔導師、賢者、大賢者とあるが、いずれも国家レベルの功績が必要になり、賢者クラスともなると、世界レベルの功績を求められる。
よって、大陸に存在する賢者の数は圧倒的に少ない。数百年前に世界を救った勇者のパーティーの一人が今の大賢者である。
ランクについては、戦闘レベルだけではなく、総合的な技術レベルを要求される。
なので、必ずしも戦闘能力が高い魔導師が高ランクになるわけではない。
最低レベルのFランクでさえ、国家資格合格者なのを忘れてはいけない。そこらの魔法使いとは比べ物にならない。いうなれば、魔導師以下はF以下のランクだと思えばいい。
実際にはそんなランクは存在していないが。
また、学園によっては魔法技術をランク分けしているところもある。そのランクもF~Aとあるが、魔導師のランクと混合してはいけない。ちなみにSはない。
ちなみに僕のランクはEだ。魔力の高さ・総量だけがAで、残りがF認定の為。
しかしこの魔力の総量というのは重要である。魔力の総量というものは、人間の成長によって、変動はするが、17才を過ぎれば安定し、そこで一定化する。魔力の総量というものは、意図的に変えることが困難なのだ。つまり、生まれながらにしてほぼ決まっているといってもいい。例外は存在するが。
他の技術面は努力である程度カバー可能な為、この自身の努力ではどうにもならない部分が高いというのは、非常に大きな意味を持つ。
現在の大賢者もこの魔力の総量が大幅に高く、技術面は大したことのない一般的な少年だったとされている。世界規模の戦いの中で勇者と共に成長した結果だろう。
となれば、将来は有望とも取れる。それも、本人の努力と才能次第ではあるが。
すでにレイラ先生の準備は完了しているようだった。僕も、準備完了だ。当然、魔法服を装備している。グローブも装着。靴もそれ専用の物だ。
レイラ先生との組手が始まった。魔力を拳に集中させて、相手に叩きつける!
それを軽くいなした先生。それに合わせて勢い良くボディに拳が飛んでくる。しかし、僕はそれを冷静にバックステップして、回避した。
「おぉ、やるな。小尾。今のはいい動きだ」
「どうも……」
前の試験でボディに一撃食らっているせいか、そこに敏感なだけなんだよね……。そのおかげで先生の一撃を回避出来たけど。腹に最初から神経を集中していなかったら、きっと回避出来ていなかった。
僕と先生は武器を装備していない。体術を習った方が武器がない際にも役立つし、拳なら魔力も乗せやすいとのことで、こうなった。
当然、僕と先生の実力差は明らかだ。先生は手加減をしている。こうしたら、こう返されることを教えてくれているのだ。
一応、エリカとも道場で組手をしているのである程度はわかるのだけど……やっぱり、全然隙がない。
「小尾ぃー。お前、攻撃する前から拳に魔力を集中させてどうするんだよ」
「だって……そうしないと無理じゃないですか」
「おいおい、そんなことしたらそっちで攻撃しますと言っているのと同じじゃないか。それをフェイントに使うのなら、いざしらず。攻撃する際に魔力を一気に込めるんだよ。場合によっては、色んな箇所に込めて、相手の動作を遅らせるフェイントに使うこともある」
「無理ですよ……動きながら一気に魔力を込めるのなんて」
「それが出来ないと、実戦では役に立たんぞ」
「それはそうですが……」
それだけではなく、防御する際もそうらしい。基本的に全体に魔力を流して防御すると、防御力は全体に行き渡った分、減少するが、一点に集中して防御した場合、通常よりも強力な防御を生み出すことが出来る。上手く相手の攻撃に合わせることが出来れば、相手の攻撃を無効化することも可能だということだ。
「まあ、お前は魔力の総量が馬鹿みたいに高いからな。防御も魔力を大量に使って全体をカバーしてもそれほど問題ではないが、それ以外の戦い方も覚えておけということだ」
「わかりました。努力します」
「よろしい! では、行くぞ!」
そういって、先生は攻撃を繰り出す。僕はそれをなんとか見極めて防御しようとするが、上手く行かずに、薄い防御力の部位をどんどん攻撃された。
「ぐっ!」
「痛いか、小尾。しかし、痛みで覚えなければ身につかんぞ!」
早すぎる。一発が早い上に重い。全然ガード出来ない。もう、全体防御に切り替えるしかない。
切り替えた瞬間、先生のパンチが止まった。
そして、魔力を貯め出したのだ。拳に相当量の魔力が込められ始めた。やばい。
「ちょ、ちょっと先生! それ、やばいですって!」
「……」
先生の表情は真剣そのものだった。
おいおい。マジかよ。冗談でしょ? そんなの打たれたらガードしきれないぞ!
先生の攻撃する箇所を把握して、一点集中させて防がないと!
どこだ……落ち着け。動きを見るんだ。さっきまでの先生の動きはどうだった?
瞬間、先生の目が見開いた。
来る!
「──」
僕は先生の動きに合わせたように前蹴りを繰り出すが、先生はそれを左手でガード。そのまま、右の拳で渾身の突きを僕に与えようとする!
「──っ」
物凄い、衝撃音がした。
魔力と魔力がぶつかった影響で白い煙のようなものが立ち上がる。粉のようなものも舞っている……。
「……」
先生の拳は僕のボディに当たっていた。しかし、僕は倒れこむ様子もない。ガードしたのだ。先生の拳を。
「よくやった、小尾。それでいい」
「……はい」
正直、死ぬかと思った。
「ちなみに、ガードミスってたら、どうなってましたか?」
「そうだなぁ。内蔵破裂ってところか?」
「……洒落になってませんよ、それ」
「はっはっは、気にするな!」
「気にします」
「はっはっはー!」
上機嫌の先生はこの後、アイスクリームを奢ってくれました。一緒にアイスを食べている時に先生のアイスがぽろっと落ちて、そのでかい胸にぺちゃっと乗っかって、まるでざー……いいえ、ケフィアです。……アイスだった。
そんなこんなで僕と先生の組手は終わったのだった。
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