女だらけの学園生活

 僕は今、教壇の前に立っていた。それなりに緊張している。当然だろう。思春期真っ只中の僕が、女の子しかいない楽園……じゃなかった、学園に通うことになったのだから。一体、どうやって入学手続きをつけたのかはわからない。もしかして、シーナさんって結構すごい人? いや、十分凄いんだけどそれとはまた違う意味というか……。


 目の前には一面女の子。物凄い注目を浴びていた。隣の席同士で僕のことについて話し合っている様子が伺える。何を言われているのだろう。まるで初めて見る珍獣でも拝むかのような視線。好奇の的にされるのがこんなに苦痛だなんて。


 人によっては、ハーレムでいいじゃないかと思う人もいるかもしれないが、今現在に至ってはストレスで胃に来そうな状況だと説明しておく。


 たしかに、席を見渡すと結構かわいい女の子が多い。よりどりみどりで選びたい放題かもしれないが……。そもそも女の子をデートに誘えるだけのコミュ力が僕にあるのかどうかは疑問なところだ。それにもし振られたりしたら一斉に僕の噂は瞬く間に広まるだろう。女の子の独自のネットワークって凄いからね……。誰かを誘っただけでも凄い噂になりそう。


 そんなことは今どうでもいい。とにかく、挨拶をしなければ。


「初めまして。小尾唯人です。えぇと……よろしくお願いします」


「何やってんのよ、あのバカ……」


 どこかで聞いたことのある声。よく見ると、エリカの姿がそこにあった。あいつと同じクラスなのか……よかったのか、悪かったのか。半々ってところか。


「タダヒト!」


 どうやら、エリカだけではなく他にも寮の住人がちらほらいたようで。なんとかクラスの中で孤立せずには済みそうだった。


 朝のHRが終わると、一斉にこちらに集まりだす女子達。そして、降り注ぐ質問の嵐。そんなに答えられないから。っていうか、何言っているのかすらわからないぐらいに揉みくちゃだ。


「何、貴方! ミュセルじゃないの!? 男? ニホンジン? なにそれ!」


「変な声ね! まるでドルーダみたい!」


 ドルーダというのは、獣と人間のハーフ的な存在というか。生殖行為がないのでハーフなんていないのだけど。ようするに獣人か。何が言いたかったのかというと、声が男っぽい種族ってこと。低いってことかな。


 この学園は主にミュセルが通っている学園らしい。しかし、他の種族もそれなりにいるようで、このクラスにも先ほどのドルーダを始めとしてエルフィ、フェルシー、インバイアなどの種族が混在しているようだ。エルフィはエルフ。フェルシーはフェアリー、インバイアはヴァンパイアに近い感じの種族みたいだ。近いだけで別物だけど。フェアリーは妖精で小さい生き物だけど、こっちはそうじゃないし。羽はあるけど。


「あたしらの声が変だと? ふざけるなよ!」


 引き合いに出されたドルーダの一人が怒り出す。


「だってそうじゃない。低いっていうか、ダミ声っていうかさー」


「ま、まあまあ……よしなよ。僕は結構好きだけど、ハスキーな感じで」


「そ、そうか? なら、まあ……いいけどよ」


 正直、僕を挟んで怒鳴り合われるのは御免だった。うるさくてしょうがない。なので、適当に取り繕ってこの場を収めただけである。別に他人の声質にそこまで興味もない。たしかに聞いていて好きな感じの声とうざったい声というのは、あるかもしれないけど。


 しかし、今の印象からするとやはり種族間の差別や偏見っていうのはありそうだな……これは僕の世界でもあることだから、どうにもならないことかもしれないが。ここはミュセルがほとんどだから、当然声が大きいのはミュセルということになる。


 新たな別種族である僕がここでどういう扱いを受けることになるのか……先行きは不安だな。みんながみんな、シーナさん達のようないい人なわけないだろうし。


 そんなことを考えていると、先ほど揉めていたドルーダの女の子が、こっちを見て話しかけて来た。


「あたしは、ヘルミー・ベジャール。よろしくな!」


「あ、ああ。僕は……」


 ぼーっと考え事をしていたせいか、反応が遅れた。言葉を考えながら、話そうとしていると向こうが被せてきた。


「知っているって。小尾……タダヒトだっけ? さっき自己紹介したろ」


「そうそう」


「ちょっと! ドルーダとばかり話してないでこっちの質問にも答えてよ!」


「い、いやっ。ちょっと!」


 そういって、引っ張られる。


「こっちが今話してんだろーが!」


 今度は逆方向から。お互いに僕の腕を掴んで離さない。このままじゃ、腕がちぎれる。……さすがにちぎれるとは思えない、思いたくないが。痛い。マジで。


 コレは強い口調で一気に引き剥がさないとまずいと思い、息を貯めこんで吐こうとした瞬間──。


「はいはい、ストップ。唯人はモノじゃないのよ」


 腕の引っ張り合いに割って入ってきたのは、意外にもエリカだった。


 腕の痛みが引いていく。ふー、助かった。そうやって、エリカの顔を見る。


 すると、目が合ってエリカがにこっと笑みを浮かべる。思わず、ドキッとした。あれ、エリカってこんなに可愛かったっけ……。いやいや、人前だから取り繕っているに違いない。気性の荒い雌豚だからな、こいつは。いや、山猿か?


 僕が考えていることを察知したのかどうかはわからないが、すぐにキッと睨みつけてきたではないか。しかし、一瞬でまた笑みに戻る。恐ろしい女だ。


「そう言えば、知り合いなのあんた達? ミュリもさー」


「うんっ。タダヒトは色んな遊び、知ってるのー!」


 この高校生とは思えない中学生のような……いや、ヘタをすると小学生にも見えなくもない女の子──ミュリエル・キャンデロロ。その見た目もあってか、ミュリの愛称で呼ばれている。金髪の可愛らしい女の子だ。いやぁ、子供は可愛いね……って、同い年だよ。危ない危ない。まるで子供を愛でるかのような目線で見てしまった。あのようなスタイルの為、ついつい子供扱いしてしまうことが多い。本人はあまり嫌がる様子はないが、たまに大人として見て欲しい部分も見られる。大人というよりは、同学年として見て欲しいというのも、少なからずあるのだろう。でも、子供にしか見えない。声もなんだか、子供っぽいし。いや、自分も子供なんだけどさ。そういう意味じゃなくて。


「あのねぇ、ミュリ。そういうことじゃなくて。ええと、ウチの寮で住んでいるのよ。こいつ」


「えぇえええええええええっ! マジッ!? 何で言ってくれなかったの! 遊びに行ったのに! ずっと前から知っていたわけ? ずるーい!」


 大騒ぎである。何をそんなにはしゃぐことがあるのか、わからないが。とにかく、女の子って生き物はどこの世界でも共通してお喋りだということのようだ。正直、疲れる。それに、目のやり場にも困る……さっきから、ちらちらと胸のでかい女の子の胸が揺れるわ、人が集まっているせいで、密集してこっちに当たるわ。服が乱れている子はいるわ、短いスカートの癖に足上げたり、組んだり、机に乗せたりしているせいでパンツが見えまくりだし……。


「あー、っべー。授業中に毛の処理しようと思っていたのにさー。これじゃ出来ねえじゃん」


「ばっか! 下敷きで隠せばいいじゃん!」


「あー、その手があったかー!」


「あははははっ!」


 なんというか……想像以上に女子校って風紀が乱れているのな。毛の処理って……。どこ毛? まさか……あそこも? いやいや、まさかなぁ……。でも、どっかでそういう話を聞いたことも……。つーか、何か臭う。女子の匂いって……案外、臭いな。生理臭がするのと、これ制汗剤か? つけすぎだろ……香水の匂いも入り混じって……うーん。よく見ると急に化粧とかし始めた子がちらほら……そんな気にするほどのものなのか?


 しかも、ナプキンの受け渡しを堂々としているという……。り、リアルすぎる。これがリアル女子校って奴なのか……正直、実態を知らない方が夢見れた気がするなぁ。いやまあ、でも中にはマトモな子もいるはず。うん。そうだそうだ。最悪、このクラス以外でもいいわけだしってなんだ、恋人探しでもする気満々なのか、僕は。そういえば、女子しかいないだけあって同性愛とかもあるんだろうな……。実際、言語を習っていた時に結婚というキーワードはなかったが、恋人というキーワードらしきものはあった。つまり、お互いに付き合う関係になって居心地がよければ、そのまま一緒に住むこともあるらしい。しかし、基本的に生殖行動がない為、結婚やらなんやらはないということなのかな。そういった行為とは別に複数で住み合うこともあるらしいけど。


 でもどうやら、一部の子はそういった行為をしている子もいるとかいないとか。本に書いてあった内容を鵜呑みにするなら、だけど。全体の数%もいるかいないか程度らしいけど。まあ、付き合うって行為がある以上、キスとかそういうのもあるわけで。ってことだろうね。子供は出来ないけど、そういう行為をしている人は少ないけどいるとか。うん、想像していると色々困ることになるのでやめようか。


 取り敢えず、女の子に揉みくちゃにされすぎて面倒くさくなってきたので僕は机に突っ伏した。女の子達は話し足りない様子でギャーギャー何かを言っていたが、何の反応もない僕を見てすぐに飽きたように去っていった。

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