エリカさん、デレツン。

 そうして始まった第一戦目。最初から僕のカード運は最悪だった。こんなカード状況で勝てるはずもない。誰か革命でもしてくれないだろうか。しかし、プレイ人数が十数人もいては、革命なんて出来るわけもなく。これだけの人数相手だとどうしてもカード運が物を言う。逆に言えば、大富豪になったところで二枚程度のカード交換では太刀打ち出来ない状況だということだ。


 つまり、毎回大富豪が入れ替わる可能性が高い。それはそれで困った。何故なら、同じ人物が毎回大富豪になった場合、仮に僕に何かを命令するとしても、毎回僕に命令するとは限らないからだ。そのうちにネタが尽きて、別の人にも命令するようになるだろう。しかし、毎回誰が大富豪になってもおかしくないということは、毎回僕は誰かに命令される可能性が非常に高いということになる。酷すぎる。


 もういっその事、大富豪をやるのをやめればいいんじゃないだろうか。だがそれを許してくれる女性陣ではないだろう。それに、ミュリエルが泣きそうでそんなことをするわけにも行かない。まさに阿鼻叫喚。地獄絵図。……さすがに例えが酷すぎただろうか。こんなことぐらいで阿鼻叫喚もクソもない気がする。王様ゲームでもそうだが、本当に嫌ならやらなきゃいいだけのことだ。命令も何もない。嫌なものは嫌。それだけのこと。周りの空気に合わせて空気読めよと言われてもやりたくないことまでやる必要はない。


 しかし、この手のゲームの熱にアテられると、本当にやりたくないことはしないが、ある程度我慢出来てしまうものだと我慢してしまうケースが多いってこと。


 さて、ともあれ僕は大富豪にはなれなかった。最初に大富豪になったのは見知らぬ女生徒だ。一体、彼女はどんな命令を僕にしてくるのだろうか。ごくり、と。生唾を飲み込んだ。


「んー、じゃあ小尾君。私の代わりに宿題やって来てー!」


「あー、ずるーい。私もそれにしよっかなー」


「さすがに僕が書くと筆跡でバレるだろうし、写すのは君がやらないとマズイんじゃないのか? っていうか、そもそも僕の成績はさっきの通り、良いとはいえないぞ」


「だよねー。あー、もう。めんどくさいなぁ」


 それぐらいで面倒ぐさがるなよ。ていうか、堂々と宿題を写そうとするなよ。もしこのせいで僕が宿題を気軽に写させてくれるようなイメージがついてしまったら、後々面倒なことになる……いや、その時は拒否ればいいんだろうけど。


 しかし、予想していたのとは違った命令だったな……かといってとんでもないのが来ても困るが。服を脱げとか、キスして! みたいなのとか……ないか。さすがに。


「タダヒトー、タン○ン買って来てー」


「自分で買って来い!」


「えー。私、大富豪なんだけどー」


「関係あるか! 人に生理用品を買いに行かせるな!」


「ちぇー」


 こんな調子で、微妙にめんどくさくて嫌な命令が続いていった。ミュリエルが大富豪になった時は新しい遊びを教えてーなんていう可愛らしいお願いだった。もちろん、後でちゃんと教えてあげるつもりだ。皆が皆、ミュリエルみたいな子ならいいのに……。


 そして……あの女がついに、大富豪になってしまったのだ。


 一体、何を命令する気だ。エリカのことだ。下手したら、寮を出て行けなんて言われかねない。さすがにそれは拒否せざるを得ないが。今後一ヶ月の皿洗いを一人で担当とか!? マジで勘弁して欲しい……それは。


「えっと……」


 ごくっ……。


「その……今度、セールで色々と安く売り出しがあるから。か、買い物にでも付き合って欲しいか、も」


「……へ?」


「なにそれぇ! デートぉ!?」


 周りの女の子達が叫びだす。黄色い声を上げるなよ。ありえないだろ、普通に考えて。その発想は。てか、デートなんて単語が飛び交うとは。性別のない世界だというのに、やっぱ色恋話はどこにいってもあるのだろうかね。もしくはこの学園において予想以上に同性愛者が多いとか? まあ、性別ないんだから同性愛というよりは同種族愛? いやいや、他種族もいるし。わけわからんな。まあ、体の作りは僕らの世界の女の子と大差ないみたいだし、同性愛ってことでいいや。割りと多いのだろうか。


 それとも僕という異性に初めて触れたことによって、目覚めたとか……ねーよ。


「ち、違うわよ! 荷物持ちよ! 十キロオーバーするぐらい買うんだから!」


 十キロっておい。どんだけ買うつもりだよ。米か? 米なのか? もし、服だとしたら結構な量だぞ……。どんだけ買うつもりだよ。二十着ぐらいか? 女って奴は……。いや、寮の買い出しかもしれないぞ。色々と日用品がなくなって来ているしな。うん、そうに違いない。わははは。はは……。


 何で僕がッ!


 思わず、叫びたくなった。

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