期末試験

 そして、期末試験の日。二度目の魔法実戦試験である。この日までに僕は出来る限りの努力をしたであろう。そして、それなりに力もついたと思う。それが、実戦という場でどれほど効果があるのかはわからない。やるしかない。


 次は、足手まといにはなりたくないから。


 弱いっていうのは、惨めなもんだと思う。何も出来ない自分に、苛立ちを覚えてしまう。


 けど、それをバネにして這い上がった者のみが得られる境地だってあるのさ。見てろよ、と。チンケなプライドもこういう時には役に立つもんだ。


「さて、これより試験を開始する。今回のチーム編成だが……」


 担任のレイラ先生が試験内容を発表するようだ。そういえば、今度はチーム編成もバラバラになるのかもしれないな。前のチームの方が勝手がいいんだけど。


「チーム編成は前回と同じだ。番号を今から発表する。番号順に並べ」


「ちょっと待ってくださいませ! どうして前回と同じなのですか!」


 これに反応したのは、やはりというか。マリリン・ブランシャールだった。しかし、マリリンの他にも声を上げる者がいるようだ。恐らく、前回のチームで合格出来なかった人達や、チームメンバーが合わなかった者達だろう。不合格者たちは特に前回のチームメンバーに不満が出てくるだろうし、当然といえる。


 中には自分は優れているのに、周りがクソだったから不合格になったんだと勝手な思い込みをしているものだっているだろうからな……。そういうのもあって、チーム分けに文句が出始めて来たということだ。


「お前らは私に意見出来るほど、えらくなったのか?」


 レイラ先生の一言で大勢が黙った。こんな先生は初めて見る。


「仕方がない。バカなお前らに一つ教えてやろう。前回の試験は『チームへの適応能力を』判断したんだ。だから、結果がよかろうと不合格になったチームがいたというわけだ。そんなことがわからない時点で、不合格になっても文句は言えんだろ。今回の試験内容については当然、教えることは出来ん。足りない脳みそを使ってよーく考えろ、いいな?」


「……」


 まさに、一喝したといったところか。


 恐らく、次の試験では適正能力を見極めるテストだろう。それは、チームの適正なのか、魔法使いとしての適正なのかは定かではないが。後者だとは思うけど。


 戦争はすでに始まっているらしいし、これを軍隊として考える場合、即席の部隊ですぐに統率が取れるかどうか。非常に重要だ。これが出来る者は重要な任務や部隊長などの役職につかされることが多いのではないだろうか。


 逆にそうでない者は、小隊で最前線に送られて捨て駒扱いか……ありえる話だな。


 たしかに、与えられた状況を分析して判断出来ないようでは話にならない。ああやって事ある度に文句をぶつけるだけでは、ただのガキだ。


 大人は理不尽な要求を常にされるものだ。それに答えられないなら不要。そんな世界。


 それは僕のいた世界でも変わらない、普遍的なもの。この世界はもっと酷いだろう。


 その後は誰も文句を唱えるものもおらず、沈黙の中、試験がスタートされることとなった。


「そうだ、小尾。お前に渡しておくものがある」


「はい? なんでしょうか?」


「これだ。受け取れ」


 そういって、レイラ先生が渡してきたものは、剣だった。


「剣、ですか。でも、試験用の装備が今回も用意されているのでは?」


「それはそうだが、お前の場合、マナの総量が高いだけでなく、変換量も大きいからな。普通の装備では、オーバーロードしてしまうんだよ。後、魔法服もお前専用にカスタマイズしたのを用意したから、それを着ろ」


 服まで。随分と用意のいいことだ。僕個人にそんなカスタマイズされた装備を渡して、不公平じゃないのか? っていうか、予算突っ込めるのかそんなことで。まあ、オーバーロードしてしまって装備壊されたら一緒か。それにそれはそれで公平じゃないし。


「わかりました。ありがたく受け取っておきます」


 あからさまに僕に視線が集まる。そりゃそうだ。テスト直前に装備一式渡されて注目を浴びないわけがない。ぶつぶつとこっちにハッキリ聞こえないぐらいの音量で何やら言っている奴も多い。大方、不満の声だろう。放っておくしかない。


「どうかしたわけ?」


 そんな様子を見てか、エリカが話しかけて来た。それに僕は答える。


「ああ、どうやら僕はマナの総量が高すぎるせいで装備がオーバーロードしてしまうらしい。だから、これを装備しろとさ」


「あー、やっぱり。あの時も、服が焼き切れてたもの。おかしいと思ったのよね。やっぱり、オーバーロードしてたのね」


「気づいていたのか?」


 だったら、その時に言ってくれればいいだろ。


「言ったじゃないの。あんたが上の空だったから聞いていなかったんでしょうが」


「そうだっけ……そうだったかもしれない。そうか、しかし……オーバーロードなんてあるんだな?」


「そりゃ、魔力を装備に直接流し込んでいるんだし、過度な負荷がかかれば、オーバーロードやオーバーヒートすることがあるわよ。まあでも、そうそうないけどね」


 そりゃそうそうあったら、装備として成り立たないしな。しかし、この剣……驚くぐらいに軽い。持っている感覚があるかないかってぐらいに。こんな剣で本当に大丈夫なのだろうか。魔力の干渉に特化した剣っぽいけど……切れ味が鈍っていたら、困るぞ。


 服も同じように重さがないに等しい。まるで普段着のようだ。前の魔法服はそれなりに重さを感じていたけど。そりゃ、魔法面だけじゃなく、物理面でも強固にしないといけないから、必然的に重くなるよな。


 なんだか不安だな、この装備。装備って大事なんだなーと改めて思う。装備一つで状況変わってしまうだろうしな。メンテナンスも重要だ。


「あら、その服……ウチの近衛兵が着ている装備に似ていますわね」


「え? 近衛兵?」


「えぇ。服のあらゆる箇所に特殊なクリスタルが埋め込まれていますわね。それで、魔力を貯蓄、増幅するのでしょう。さらにオートガードシステムだけでなく、オートカウンターもあるようですわね。一定以上の魔力量がある場合は、自動的に敵を感知して、反撃も行うようですわ。最新のマーキングシステムが用意されているようですわね」


「よくわかるな……そんなこと」


「おーっほほほ、これぐらい当然のことですわ! わたくしは魔法技師の資格も持っているのですわよ!」


「凄いな。さすが、有名貴族の出だけある」


「そ、そうですか。もっと、お褒めなさってもよいのですわよ。おほほほ」


 魔法技師の資格って、国家資格だったよな。この歳でそれを所有しているというのは普通に凄いだろう。かなり高度な技術を要求されるはず。


 どうやら、かなりいい防具のようだった。これなら、安心か。敵の攻撃を感知する方法は二つあって、一つは敵が魔法をこちらに向かって放って来た場合。二つ目が、刃物などを持ってこちらに攻撃を仕掛けて来た場合。それを感知するって、普通にすごくない? オーバーテクノロジーだよねぇ……。


 っていうか、そんな近衛兵が使うような装備を学生に渡していいわけ? いや、似ているだけで違うのだろうけど……うーん。もしかして、モルモットにされてる? 僕を使って新型装備のテストをしようとか……ないな。そんな機密情報を学生に渡すわけないし、普通そういうのは専用のお抱えテスターがいるはず。もしくは軍関係者だろう。


「じゃあ、この剣は?」


「うーん……よくわかりませんわね。特殊な素材が使われているようですが……まあ、魔力が込めやすくなっているのはたしかですわ」


「マリリンでもわからないのか」


「わたくしでもわからないことの一つや二つはありますわ!」


「別に責めてるわけじゃないんだけど……」


 そう僕が言うと、マリリンは慌てたように顔を赤らめていたけど、そこにヘルミーが現れた。


「その剣、ヤベェな」


「そうなの?」


「たぶんな。そんな気がするぜ」


「たぶんって……しかもどうヤバイのかもわからないじゃないか」


「しるかよ。そんな気がするだけだ。自分で考えな」


 なんだかなあ。まあ、ヘルミーなりに気を使ったのか? ヤバイって言われても……扱いにくいってことなのか、自身に副作用的なものがあるとか? 威力が強すぎるとか? 考えてもわかることじゃないし、そんな剣を普通、先生が渡すだろうか。


 単に魔力を込めやすく、オーバーロードしにくい剣じゃないのかね。


 とはいえ、戦闘経験も豊富そうな感じのするヘルミーの言葉だ。何か直感的なものを感じたのだろうか。一応、気に留めておこう。


 剣のフォルムは綺麗だ。こっちにもクリスタルが埋め込まれている……3つ、か。


 単純に魔力を増幅させるものなのだろうか。それとも、ストック出来るとか?


 ていうか、レイラ先生も説明ぐらいするべきじゃないのかなぁ……突然、こんなもの渡されても扱いに困るんだけど。


 これもテストの内ってことですか。まあ、たしかに場合によっては敵の使う武器を奪って使用することだってあるわけだしなぁ……説明書がないとわかりませんなんて言ってられないし。


 よくわからないまま、試験はスタートすることとなった。

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