子供の発想力・応用編

 自室に戻った僕は、勉強を続けていたが……どうにも調子が悪い。先ほどの件のせいだろう。エリカの奴……あいつもしかして……。まさかね。


 そんな僕のところに中学生の女の子達が一気に押し寄せて来た。


 ドアを勢い良く開けて。


「タダヒトー、あそぼー!」


「今日は無理。というか、当分は勉強しないといけないから無理かな」


「えー。つまんなーい」


「ねー」


 そういって、僕に抱きついてくる女の子達。すでに当たり前となりつつあるので、前みたいに、あー、いい匂いだ。くんくん。すーはーすーはー。ぷはぁ、最高! なんてことはしない。……稀にはするかもしれないが。


 僕の座っている椅子をがたがたと揺らし始める女の子達。


「駄目といったら、駄目」


「えー! やだやだー!」


「ダメです」


「ぶーぶーっ!」


「かくれんぼー!」


 女の子達は騒ぎ出す。ダメなものはダメなんだ。っていうか、中学生にもなってそんな小学生みたいな駄々をこねないで欲しい。ん……かくれんぼねぇ。そうだ、魔法を使った遊びは禁止していたけど、試しにやってみるのもアリかもしれない。


 魔法は別に攻撃する為だけにあるものじゃあない。様々な用途にだって使える代物だ。応用性は非常に高い。日々の生活にだって役立つはずさ。実際、魔法を使って生活している人だっているし。


「わかった。ただし、一回だけだぞ?」


「わーい!」


「それと、今回は魔法を使ってもいいことにします」


「いいの?」


「オッケー。その代わり、鬼は二人でやることにします」


「うん、わかった!」


 習うのも大事だが、実際に体験して覚える方が早いのはたしか。魔法をこの目で見て、体験する。今ならそれなりに知識もある状態だ。とはいえ、まだ初歩の初歩だけど……。


 僕はまだちゃんとした魔法も使えないしなぁ。この子達に教えて貰うのも、アリだろう。


 一先ずは、別の子に鬼をやって貰うことにして、僕は隠れることにした。

 すると、みんなは一目散に散っていった。中には飛んで移動している子もいるぐらいだ。


 やっぱり、みんな魔法を当たり前のように扱っているんだな……そりゃそうか。魔法学園に通っている生徒だもんな。


 かくれんぼの距離は指定してある。寮とその庭だけ。それ以上になると、今みたいに飛んで行かれたりすると発見出来なくなるし。それと、屋根の上は禁止にした。それも同じ理由だ。


 さて、僕は庭の草むらに隠れているんだけど。魔力感知ってどうやるんだっけなぁ……。


 そんなことを考えていると、女の子がこちらに視線を送って来ていた。


『タダヒト、こっちこっち……』


 呼ばれている……罠か? いや、違うだろう。そこにいると見つかるから、こっちに来いってことだろうか? とりあえず、行ってみることにした。


「こんな木のところで……逆に目立たない?」


「任せておいてっ!」


 そういって、女の子は魔法を使う。すると、僕と女の子の姿が木に同化した。


「これは……」


「しっ。動いちゃダメ」


「あ、うん」


 ようするに、カメレオンの状態。カメレオンって意外と、どんな色にでも同化出来ると思われているけど、そうじゃないんだよね。それはともかく、周りの背景に溶け込むことも出来るのか……魔法って奥深いな。


 どういう作用で行っているんだろう?


「ねえ、これってどうやってやっているんだい?」


「んー。こう、ばーって」


 わからない……その、バトル的表現はやめてほしい。


「教えて欲しかったら、キスしてっ♪」


「えっ……」


「じゃなきゃ、やだー」


 この子は……意外とませているな。キスって……僕だってまだしたことありませんよ。


 ああ、今からすればカウントされるわけだけど。


「うーん……ほっぺでもいい?」


「えー……しょうがないなー」


 しょうがないのか。それって、唇オッケーってことじゃん。いやいや、好きでもない女の子にキスするのもなー……って、僕は乙女か。硬派か。と突っ込みたくもなる。


 ほら、セックスはいいけど、キスは嫌とかいう女子いるじゃないですか。あれって意味不明だと思っていたけど、今ならなんとなく理解出来る気が……しないわ。ありえないだろ、そんなの。なんで、セックスがよくてキスは駄目なんだよ。ねーよ。


 そんなどうでもいいことを考えていると、「はやくぅ~」と女の子が目を瞑ったまませがんで来ていた。仕方がないので、軽くほっぺにキスをしておいた。


 うーん、柔らかいね!


 ちょっと、ざらざらするけど……。


 唇でのキスって、レモンの味とかこう、女の子向けの漫画とかだと書かれているけど、実際はそんなことはなく、人によってはその日の食べ物の味とか、タバコの味とか、コーヒーの味とか、口臭が半端ないとか、夢も希望もないらしいね。聞いた話によるんだけど。


 皆さんも、お口のエチケットはして下さい。僕との約束ですよ?


「それで、どうやっているのかな?」


「えーとねぇ。わたしはぁ、火属性と光属性が高いから、その属性を上手く組み合わせて、温度と光の加減に合わせて自分の周りを変化させているだけなんだよ」


「……」


 驚いた。てっきり、風属性とか土属性的なものだとばかり。中学生でもうこんな高度なテクニックを使えるなんて……遊びもバカに出来ないよなぁ。必死になって考えるもんな。やっぱり、実戦が大事ってのは、なんだかわかる気がするよ。


 その後、鬼側もやることになったけど、魔力感知や、探査魔法、光の屈折、匂いなど探す方にも色々な魔法バリエーションがあることがわかった。


 魔法というのは、奥が深くて楽しい。戦闘だけじゃない。遊びにも沢山応用出来るということだ。


 僕としてはそういった日常にちょっとしたアクセントというか。色んな事に魔法を活用したいな。


 まあでも、現実としてのしかかっているわけで。やっぱり、戦闘系をメインに覚えて行かないといけないんだろうな……次の試験もあるし。


 それと、筋トレをしないとなぁ。明らかに僕は戦闘経験がない。エリカにそれも付き合って貰うか……なんか、それだとほとんどエリカと一緒にいることになってしまうじゃないか。もし、今の関係が少しでも壊れたら……顔を合わせにくいよなぁ、やっぱり。


 だからなのかもしれない。一歩踏み出せないのは。


 心の距離感とでもいうのだろうか。そんなところだろう。


 なんとも言えない気持ちのまま、今日は終わっていった。

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