魔法試験、開始!

 ある日の朝、僕はいつものようにベッドから起き、一緒に寝ている女の子達をどけて、メガネをかける。ところが。


「あ、れ……なんだ。何か、ぼやけるぞ……」


 どうしたんだ? 急に前がぼやけて……どうかしてしまったのか? 僕は。まずいな。救急車は……ないし。誰か助けを呼ばないと……そうだ、ここで寝ている子達に……。


 そう思った時、メガネが落ちてしまう。


「あっ……」


 その瞬間、ぼやけていた視界が一気にクリアになったのだ。


「えっ……」


 僕は驚いていた。どういうことだ? メガネをかけていないのに……眼が見える。はっきりと。ぼやけていたのは、僕の視力が上がったからなのか? どうして?


 ここの食生活のおかげで目がよくなった……ないとは言い切れないが、こんなに視力が急に上がるとは思えない。


 何で急に目が見えるようになったのだろう。わからない。


 このことをシーナさんに話してみると、少し驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの表情に戻った。


「そうねぇ……『マナ』が宿ったのではないかしら?」


「マナが?」


「えぇ。『マナ』っていうのは、全ての生物に宿るモノ……異世界から来た唯人君もそれは例外ではないと思うの」


 つまり、『マナ』が僕の体に流れるようになって、視力が回復したということなのだろうか。


「恐らくね」


「凄いですね、マナって」


「そうよ。マナのおかげで私達は無事に生活出来ているのですもの。感謝しないとね」


「そうですね……」


 聞いたところによると、マナのおかげで健康も維持出来ているらしい。年をとるとそのマナの供給が老化により、少なくなっていく為、最終的には老衰するということの模様。


 なるほどねぇ……まさに、マナ様様ってところか。


「それより、今日は試験の日よね。頑張って下さいね、唯人君」


「あ、はい。頑張ります」


 そう、今日は学園で試験のある日だった。試験内容は一切、知らされていない。何をするのだろうか。勉学の追いついていない僕としては、どんな内容であろうと、ほとんどわからないだろうなと思うのであった。


 □ ■ □


 マリリン・ブランシャールは抗議をしていた。何の抗議かって? それは、本日行われる試験について、だ。


「納得行きませんわ! どうして、このわたくしが、ドルーダなんかと! それに……エリカ・ヴィアルインまでいるではありませんか! 後……そこの『男』も……ま、まあそれはどちらでも構いませんわ。それより、あの二人と同伴など、考えられませんわ! 変更してくださいませ!」


「これは決定事項だ。変更はない」


「な、なんですって! このわたくしを誰だと思っているのです! ブランシャール家が黙っておりませんわよ!」


 とうとう、元老院の圧力までかけようとしているマリリン。さすがに教師も眉をひそめたが、変更はしないようだ。それどころか、驚きの答えが返って来た。


「お前の母親のマリー・ブランシャール伯には、今回の件について承諾を得ている。もう一度言う。変更はない」


「な……そんなバカなこと! お母様が!?」


 父親はこの世界にいないが、母親は当然いるので、この世界においても母親という単語は存在する。


 しかし、元老院の参事官にわざわざ試験ぐらいで許可を得るほどの物なのか……? それとも、マリリンが駄々をこねることを教師が予測していて、先手を打ったのか……いやいや、そんなことぐらいで呼び出しに応じるわけないだろ、参事官が。


 じゃあ、なんだ……? まさか……。


 僕はこの間の学園長室での話を思い返していた。


 救世主という単語……僕という存在の適正を検査しているのだとすれば。それならば、納得が行く……しかし、ありえるのか? そんなことが。


 学園側が何を考えているのかわからないがどの道、この試験でハッキリするだろう。僕には何の力もないことぐらい。しかし、問題はそれで僕を用済みとし、斉藤みたいな仕打ちをする可能性も……。


 ぞっとした。ああはなりたくない。僕はこの世界で平和に暮らしたいだけなんだ。帰れるなら、帰ってもいいさ。とにかく、平和……平和が一番。


 面倒なことに巻き込まれるのだけは御免だった。出る杭は打たれるんだ。強い力も権力も僕には不要だ。現状で満足している。この現状が一番なんだ。


 他に何もいらない。必要ないんだ。


 結局、マリリンは納得していなかったようだが、これ以上文句を言える材料もなく、しぶしぶ承諾したのだった。


 試験は五人一組のチームになって、行われる実技試験のようだ。チームメンバーは、僕、エリカ、ミュリエル、マリリン、そしてヘルミー・ベジャールの五人。


 僕はほとんど役に立たないだろうから、実質四人チームに等しい。


「まったく……貴方達、わたくしの足を引っ張らないで下さいな」


「うざ……あんたに言われなくったって、ちゃんとやるわよ」


「ミュリエルも頑張る!」


「ったく、出だしからあんなこと言われちゃ真面目にやる気も失せるぜ。金髪ロールさんよ」


「う、うるさいですわね! ドルーダ風情がわたくしに文句を言うなどと……」


「はいはい。そこまで。チームとして選ばれてしまった以上は仕方ないだろ。とにかく、今は喧嘩はやめよう。そういうのは試験が終わってからにしてくれ」


「貴方に言われる筋合いはありませんわ!」


 だから……ったく、面倒な性格してるなぁ。これだから貴族出のタカピーは。少しは人に合わせるってことをして貰いたいものだ。僕だって団体行動には合わせようとするのに。


「次! 試験番号506! 中に入れ!」


 教員が、僕らの番号を呼んだ。僕らはまとまりのないまま、教員に促されて中へと入る。


「なんだ、ここ……」


 見渡す限り森だった。しかも、飛行モンスターなどが飛び交っている。おいおい、ここって学園の裏だよな……こんな無法地帯だったっけ?


 試験用に放し飼いにしたってことか? 僕みたいな魔法も使えない戦闘能力皆無の人があんなのに襲われたら、ひとたまりもないんですが。


『まず、そちらのメンテナンスルームで装備を整えて下さい』


「メンテナンスルーム? あそこか……」


 僕らはアナウンスの指示に従って行動する。装備と言われても……どれを持っていけばいいんだか。


 そう思って、周りを見ていると、いきなり服を脱ぎだして着替え始めているではないか。おいおい、男いるんですけどって……そうだったね。概念なかったね。今更か。下着どころか裸体も見まくっているし、触りもした僕に今更下着が見えたぐらいで……これはこれで、エロいな。うん。たまらん。じゃなくて。


 エリカの奴はやはりというか、僕に見られないように装備室に入って着替えているようだった。周りに何も言わなかったのは、言っても無駄だと判断したのと、マリリン・ブランシャールとまた揉めることになるのを避ける為だろう。


 ちなみにミュリエルは純白のパンティーに、ブラジャー。マリリンはガーターベルトの白パン、白ブラ。ヘルミーは黒のTバックに黒のブラジャーである。エリカは知らない。


 おっと、下着の観察をしている場合じゃなかった。僕も着替えないと。僕は用意されていた魔法服に着替える。何か、少し温かみを感じるな……これが、マナか?


 武器はどうしよう。色々あったが、僕は剣にしておいた。剣なら、振るうだけだし、剣道の授業もあったので、多少は出来る。銃にしてもよかったが、持ったことのない武器は危ないし、銃は下手をすると周りに危険が出る可能性があるので、やめた。


 エリカは、槍を装備。マリリンは弓。ミュリエルが杖で、ヘルミーは拳。バランスがいいのかどうかはわからない。どれも魔法力が込められた装備らしい。


 自身の魔法エネルギーを開放して変換することが出来るようで、それを装備に載せて放つということか。僕には魔力なんてないので、ただの剣だが。


「みんな、準備はいい? 行きましょ」


「ちょっと、エリカさん。勝手に指示をしないでくれます!」


「なによ。誰だっていいでしょ、そんなの」


「よくありませんわ! このわたくしが! 皆さんの指示を行いますわ」


「はいはい……もうそれでいいわよ」


「なんですか、その態度は! 大体あなたは……」


「いいから、さっさと行くわよ」


「ちょっと、まだ話は……」


 やれやれだな……最初からこんなバラバラのチームワークで大丈夫なのか?

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