賞金総額600万円、受賞者はKADOKAWAからの作家デビューが予定されている第7回カクヨムWeb小説コンテストが、今年も12月1日(水)から始まります。
そこで、かつて皆様と同じようにコンテストへ応募し、そして見事書籍化への道を歩んだ前回カクヨムコン大賞受賞者にインタビューを行いました。受賞者が語る創作のルーツや作品を作る上での創意工夫などをヒントに、小説執筆や作品発表への理解を深めていただけますと幸いです。
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 異世界ファンタジー部門大賞
新巻へもん
▼受賞作:酔っぱらい盗賊、奴隷の少女を買う
kakuyomu.jp
──小説を書き始めた時期、きっかけについてお聞かせください。また、影響を受けた作品、参考になった本があれば教えてください。
小説を書き始めたのは今から三年前のことになります。当時携わっていた仕事の関係でJNSA様主催の「サイバーセキュリティ小説コンテスト」の存在を知りました。なんと賞金百万円! 割とニッチな業界のことですし、参加者が少ないんじゃないかと勝手に思い込み、参加することを思い立ちます。そしてカクヨムに登録しました。
ほとんど勢いで決めたので、私はその当時ウェブ小説というものを良く知りませんでしたし、他の投稿サイトを覗いたこともありません。二十年ほど前を最後に読書からも離れていたので、いわゆるライトノベルを読んだことも無い。今思えば無謀な挑戦でしたね。結果は……言わずもがなでした。それ以来、このカクヨムで活動しています。
影響を受けた作品は、火浦功さんの「未来放浪ガルディーン」でしょうか。一九八六年刊なのでまだライトノベルという概念すらない時代の作品です。ただ文体は軽妙だし、会話文も多くライトノベルとの共通点は多いと思います。この方が凄いのはとにかく話のテンポが速い。戦闘シーンも敵に向かっていくところで切って、次のページでは敵が倒されてしまっている。主人公の撃剣シーンはその前でたっぷり描いていて、主人公の強さは説明済みなので、もうくどくど描写しないのです。
自分でも文章を書くようになり読み返し改めて凄いなと思いました。物書きの性として、慣れてくれば文章なんていくらでも書けちゃうし色々と説明したくなる。それをバッサリ切っているのに手を抜いた感じはしない。本当にバランスのとり方が上手でした。
──今回受賞した作品の最大の特徴・オリジナリティについてお聞かせください。また、ご自身では選考委員や読者に支持されたのはどんな点だと思いますか?
「再生」をテーマにしたことでしょうか。主人公は物語の開始時点で失意のうちにあり、相当やさぐれています。そこからの展開なのですが、不幸なままでは面白くもなんともない。ただ、それまでの人生をリセットするのではなくて、今までの延長線上で幸せになっていけたらという思いがありました。
▲2021年12月24日発売予定『酔っぱらい盗賊、奴隷の少女を買う 1』カバーイラストを公開!(イラスト/むに)
人生思うようにいかないですし、星の巡りあわせが悪ければ容易に転落するものです。色々と思い出したくないこともあるでしょう。でも、自分の辿ってきた道は否定したくない。ほんのわずかでも学び積み重ねてきたものは、その人の財産です。心に負った傷ですら何かの糧になるかもしれません。
ひょんなことから出会ったヒロインに善良で尊敬すべき人物であると思われた主人公は、その虚像に当初は戸惑います。しかし、かつての自分にその片鱗があったことを思い出し、虚像に合うように自らを律していきます。その結果ますますヒロインの信頼は厚くなり、正のスパイラルが生じて、主人公の人生が好転していく。この再生の過程が新鮮だったのはないかと考えています。
──今回受賞した作品を今までに執筆した作品と比べてみたとき、意識して変えた点や、後から気づけば変わったなと思う部分はありますか?
とにかく話の展開のスピードを重視しました。主人公にはこれでもかというばかりに次々と事件が起きます。一つ解決したと思ったら、それが次の厄介ごとを呼び込んだり、新たな人物との出会いがあったり。バリエーション豊かに様々なイベントが起きることで、飽きられないように工夫したつもりです。
また、話の緩急にも気をつかいました。苦境に陥った主人公が辛くも危機を脱した後には、ヒロインとの癒しのひと時を挟むようにしています。ヒロインの健気な姿を描くことで、ハラハラした後の読者の方にもほっとする時間を提供できたと思います。
▲本作の主人公とヒロインである、やさぐれ盗賊ハリスと、純粋な心を持つ奴隷のティアナ。
それから、私の中で主人公以外の人物の解像度が高かったかなと思っています。話の展開を早くする都合上、明確には語らなかった部分も裏側でしっかり作りこんであったので、行動に一貫性が出て人物像が分かりやすくなっていたのではないでしょうか。
──作中の登場人物やストーリー展開について、一番気に入っているポイントを教えてください。
力とか強さではなく、知恵や機転で試練を乗り越えていくキャラクターを描けて満足しています。力と力のぶつかり合いも楽しいのですが、いずれ力のインフレーションが発生するのを避けえません。その点、今作の主人公は常人よりはやや強い程度の腕前ですので、周到な準備をしたり、その場その場で頭をひねることで解決策を見出したりします。私も毎回頭を悩ませて話を考えました。そうだったのか、そうきたか、と驚きながら読んで頂けたら嬉しいですね。
──Web上で小説を発表するということは、広く様々な人が自分の作品の読者になる可能性を秘めています。そんななかで、自分の作品を誰かに読んでもらうためにどのような工夫や努力を行いましたか?
これは回答が難しい。どうしたら多くの方に読んでいただけるかは私も知りたいぐらいです。どれほど効果があったかは分かりませんが、私がしたことはごくごく普通のことばかりですね。
まず、カクヨムでの活動を長く続けることです。私は短編・長編合わせると百五十作以上の作品を発表してきました。過去作を読んでいただいた方が、面白かったからということで次作にも目を通していただけることがあります。
PVが多ければ目に留まる可能性もあがりますので、長くお付き合いいただける読者の方々の存在は非常にありがたいです。ただ、一朝一夕に増えるわけではないので、地道に多くの作品を発表する必要があります。
あとは、更新の頻度を上げ、曜日と時間を固定して事前告知しました。そうすることで、作品をフォローしていない方にも定期的にチェックしていただけたのではないかと思っています。
──これからカクヨムWeb小説コンテストに挑戦しようと思っている方、Web上で創作活動をしたい方へ向けて、作品の執筆や活動についてアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。
コンテストに応募しようという方は、まずは規定の文量を書いてみましょう。慣れていないうちは十万字を書くというのは結構しんどいです。四百字詰め原稿用紙にびっちり書いて二百五十枚ですからね。実際には余白もあるのでもっと多くなります。書き上げられたらそれだけで凄いことです。ようこそ物書きの世界へ。
コンテストは他の方と競うので、受賞するには運も必要です。どんなに優れた作品を書いてもそれ以上のものを書いた方がいれば競り負けてしまいます。落選しても腐ることはありません。長期戦で構えましょう。
物語を作るのは基本的に孤独な作業です。嫌になることもあるかもしれません。いくら書いても読んでもらえない。評価もつかない。私にもそういう時期がありました。でも、書けば書いただけ小説を書く力は伸びます。物語を書くコスト自体は微々たるものです。あとはどこまでやるかです。
最後まで立っていれば勝てる日が来るかもしれません。私は運よく、第六回のカクヨムコンで受賞させていただきました。二年目で筆を折っていたらこの栄誉を受けることは無かったでしょう。まさに継続は力なりです。
一歩を踏み出さなければ結果は出ません。あなたの内に眠る情熱をぶつけてみてください。カクヨムであなたの素敵な物語に出会えることを楽しみにしています。
──ありがとうございました。
関連記事:カクヨム出身作家のインタビュー記事一覧
kakuyomu.jp