【カクヨム短歌賞】選考委員・青松輝さんインタビュー。期待する作品像や歌作のヒントとは?

「カクヨム短歌賞」選考委員にインタビュー!

6月2日(月)より応募受付を開始した「カクヨム短歌賞」
10首連作部門では、20代の歌人3名による選考が行われます。

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kakuyomu.jp

本賞をきっかけに初めて短歌を作ってみる人や、1首で作ったことはあっても「短歌連作」に挑むのは初めてという人も多いと思います。
そこで今回は選考委員の3名にインタビューを実施。ふだんどのように歌作に取り組んでいるかどのような作品を期待しているかなど、気になる疑問を聞いてみました。

今回お答えいただいたのは青松輝さん。若手歌人として高い評価と人気を得つつ、20万人以上の登録者を持つYouTuber「ベテランち」としても活躍されています。
ぜひ歌作の参考にして、「カクヨム短歌賞」を楽しんでいただければ幸いです。

GUEST
青松輝

青松輝(あおまつ・あきら)

1998年生まれ。YouTubeでも活動。歌集『4』(ナナロク社)。

短歌をはじめたきっかけ

――このたびは、「カクヨム短歌賞」の選考委員をお受けいただきありがとうございます。まず読者の方に向けて、自己紹介をお願いします。

青松:青松輝です。1998年生まれです。2023年にナナロク社から『4』という歌集を出しました。歌人としての活動のほかに、別名義でYouTubeなどもやっています。よろしくお願いします。

――よろしくお願いします。早速ですが、青松さんが短歌を作り始めたきっかけを教えてください。

青松:東京大学に進学したとき、「Q短歌会」という短歌サークルに入りました。そこで短歌を作るようになったのが最初です。

――「学生短歌会」とも呼ばれる大学のサークル活動は、多くの歌人にとってキャリアを始めるきっかけになっていますね。短歌サークルを選んだということは、もともと短歌には読者として興味を持っていたんですか?

青松:そんなにすごくあったわけじゃないんですが、なんとなくTwitter(現X)のbotで見かけたり、紙の本もちょこちょこ読み始めたりはしていました。最初に買った歌集が穂村弘の第2歌集『ドライ ドライ アイス』なんですけど、神保町で古書祭りみたいなことをやっていたときに掘り出し物のサイン本が出ていて、なんとなく買ってみたらおもしろかった、という出会いでした。

――そこから今のように本格的に短歌にのめり込むには、なにかきっかけがあったのでしょうか。

青松:明確なきっかけがなにかと言われるとちょっと思いつかないんですが、短歌の世界には「歌会」という、お互いに短歌を持ち寄って評し合う文化があって。何回か歌会に参加してみて、自分があんまりうまくなかった、っていうことがあるのかなと思います。もっといい歌を作れそうなイメージはあるのに、その志に手元が追い付いていない感覚というか。いわゆる、歌会で点が入るような「いい歌」があって、自分はそこを乗り越えたさらなる「いい歌」が作れると思ってやってみるんだけど着地がうまくいかず、ただ「いい歌」になりそこねて変なことになってる、みたいな感じです。歌会では「評は芯食ってるけど、短歌はなんか変だね」で終わってしまうことも多くて。これがどうにか形になるまで、ちょっとやめたくないな、ちゃんとしたものを書けるようになりたいな、と。

――いまでは歌集『4』を出版し短歌の第一線で活躍されているほか、ユニット「第三滑走路」でも同人誌を出すなど精力的に活動されていますね。同時に、YouTuberとしての顔も持ち、多くの支持者を獲得されています。もともと、YouTuberとしての活動を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

青松:短歌を始めてから数年間、めちゃくちゃ短歌をやりまくってたんですよね。歌会に行ったり、「第三滑走路」でネットプリントを出したり、Q短歌会の機関誌の編集をしたり……。めっちゃがんばってたんですけど、なんか途中で「これをずっとやっていても、今後大きな変化ってないだろうな」って気がしてきて。このまま一生懸命、短歌に自分のエネルギーを全部注ぎ続けたとしても、結果も出ず、同じような感覚のまま30歳になってしまう想像がついたというか。当時22歳くらいで「何かやらないといけないな」という気持ちもありました。それで、なんか短歌とかそういう、自分の好きなかっこいい感じのことだけやっててもダメかも、みたいに思って。だったら、いちばん変で自分らしくないYouTubeをやってみようかな、という感じでした。

――「YouTuberのような活動をいつかやってみたかった」ではなく、「自分のやりそうなことの逆張りでYouTubeを始めた」ということなんですね。

青松:明確に、そうですね。今までの自分らしさみたいなものを一回捨てて、YouTubeでも東大生であることとか、学歴みたいなトピックを前に押し出していこう、と。短歌にメタゲームがあるのと同じように、YouTubeにも再生回数のメタゲームみたいなものがあって、「こういう動画を上げたらこうなる」という感覚を掴んでいくと、さらに再生を取ることができるようになる。それは短歌をはじめたときと同じような感覚で、新しいことをいろいろ試せるのがおもしろくて、それでハマったんだと思います。

――歌人とYouTuberというのは、やや意外な組み合わせだと思う人もいるかもしれません。青松さんのなかで、なにかモードを切り替えているような感覚はあるのでしょうか。

青松:意識的にマインドセットを切り替えているというよりは、「単に使う技術が違う」という感じです。塾でバイトした後、飲食でバイトしてるみたいな。切り替えるというよりむしろ、同じスタンスのままどう矛盾なく両立させるか、ということに興味があります。短歌を作ったり短歌について書いたりするときは誠実な言葉遣いだけど、YouTubeではもっとデフォルメした言葉遣いになる。でも僕のなかでは短歌のほうも誠実っぽく見せる演技というかパフォーマンスのようでもあって、その観点では一本の線で繋げられるんじゃないかみたいなことをよく考えていて。人からは「ベテランち」が嘘で「青松輝」が本当、みたいな見られ方をすることもあるんですけど、自分のなかではそういう感覚ではないですね。

「カクヨム短歌賞」の印象

――カクヨム短歌賞は、WEB小説投稿サイトによるコンテストとして作られました。どのような印象をお持ちですか。

青松:賞って、ないよりもあったほうがいいので、率直にできてよかったなと思います。選考委員も、年齢がすべてではないとはいえ、全員20代と若くて。これまで短歌の新人賞だと、書肆侃侃房の「笹井宏之賞」の選考委員が平均40歳くらいで一番若かったのかな。そこに、さらにもう一つ若い賞ができたというのはいいことだと思います。

――若年の歌人やはじめて短歌に触れた層にとっても、参加しやすいコンテストになってくれればと思っています。

青松:短歌だと過去に「歌葉新人賞」という、荻原裕幸さん・加藤治郎さん・穂村弘さんが選考して、笹井宏之さんなどの歌人を輩出した賞があるんですけど、これも応募受付や選考が「カクヨム短歌賞」と同じくWEB上で行われていました。そのときに、選考委員はそんなに評価していなかったけど、ユーザーが特に褒めてる作品があると、それも選考委員が取り上げざるを得なくなった、みたいなことがあったはずなんですけど。今回も、そういうことが発生するとうれしいですね。

――10首という歌数についてはいかがでしょうか。ほかの短歌新人賞では30首や50首など、もっと多くの歌数を求められるケースも多いと思います。

青松:選考委員にとっては「ちょうどいい歌数」という印象ですね。それ以上減っちゃうと作者の地力が見えづらい。仮にいい歌を見つけても、たまたま当たって結果的にホームランになっただけかもしれないので。逆にそれ以上増えると、前半を読んだ時点ですでに印象が決まってしまって、後半をあんまりちゃんと読めないような気がします。10首ならパッと見で全部の短歌が目に入るし、誠実に選考できるのかなと。

短歌連作と「強い1首」

――カクヨム短歌賞には「1首部門」と「10首連作部門」の2部門がありますが、今回青松さんには「10首連作部門」の選考委員を務めていただきます。物理的には短歌が10首あればそれで「10首連作部門」の応募規定は満たすわけですが、「連作」とはどういうものだと考えればよいでしょうか。

青松:これは難しいですけどね。僕は、「短歌が並んでいたら続けて読むし、続けて読んだらひとまとまりっぽく読めること」が連作の本質だと思っています。作者が「最近詠んだ10首を並べているだけですよ」と言ったとしても、読者は10首を続けて読むのだから、ある種の連作に読めてしまう。たとえば友達が家に来たときに、ご飯を準備できた順に出したとしても自然とコース料理っぽくなるというか、一連の食事になるじゃないですか。そんなふうに「並んでいる」というその物理的な事実をあなたがどう解釈するかによって、いろんな捉え方ができるのが「連作」だと思います。だから10首が並んでいさえすれば、基本何をしてもいいし、どんな状態でもいい。

――10首並んでいたら、作者の意図にかかわらず、読者には「なにか連なっているひとまとまりのもの」だと読まれうる、ということですね。

青松:「連作のコツ」みたいなものをネットで調べれば、いろいろ出てくると思います。状況説明するための「地の歌」と、大きなテーマを含んでいたり読者の心を動かしたりするための「決めの歌」をバランスよく配置しなさい、みたいな。僕としてはそういうのはあんまり真に受けないでほしいというか、「あなたの思う連作」ができているほうが僕は好きだし、評価したいです。

――なるほど。「こういうのが『よい』連作である」という決まりがあるわけではないので、10首が並んでいることを自分なりに解釈して、ぶつけてきてほしいということですね。ちなみに、ご自身が連作を作るときにはどのように考えていますか?

青松:僕が新人賞に応募していたころはもっといろいろ構造とか構成とか考えていたんですけど。最近はだんだん、とにかく強い歌を連打したほうがいいのではという気分になってきていますね。連作ごとに特定のテーマを掘り下げる作り方もあるけど、それよりただただ強い歌を連続でぶつけるほうがいいかもしれない、という。最低限、モチーフがなんとなく重なっていたほうが読者側が自由に楽しめるから、多少そういう調整はしているという程度ですかね。連作感というのも大事なんですが、僕は自作についても他作についてもまず、強い1首があるかどうかで判断したいです。

――連作のなかに、1首でも強い短歌があるかということでしょうか。もしくは1首単位でも平均的にレベルが高いか、ということでしょうか。

青松:「連作として読んだからボーナス点が発生して、1首がよく見える」ということはもちろんあると思います。その上で、10首のなかの「1首の最高値」で考えたいですね。たとえば、傷はあるけど絶対的な1首が入っている10首連作と、全体的に70点でよくまとまった10首連作なら、僕は絶対的な1首が入っているほうが大事だと思うし、評価したいです。

言葉が持つ「テクスチャー」

――強い1首、「絶対的な1首」に関するお話がありましたが、そもそも短歌は具体的にどこから着想すればいいのでしょうか。もしよければ、青松さんが実際に採用されている作り方を教えていただけるとうれしいです。

青松:1首が1首の形でいきなりドンとできるわけではないので、多くの歌人はまずパーツを集めるところから始めているのではないかと思います。ここからの過程はだいぶ人によって違う気がしますが、大きく分けて「意味」から作るタイプと「テクスチャ―」から作るタイプがいると考えています。テクスチャ―というのはその言葉が持っている質感とか手触りとかそういうことなんですけど、僕はテクスチャ―重視のタイプなので、テクスチャ―の感覚に従ってパーツを探したり組み合わせたりして、最後に意味をなんとか整えて完成させる、という作り方をしています。

――たとえば、よいテクスチャ―の言葉とはどういうものでしょうか?

青松:たとえばですが、「スマホ」より「iPhone」のほうがかわいいよね、みたいなことです。意味の上ではほとんど一緒なんですけど、「iPhone」って言ったほうが音もいいし、「スマホ」より具体的な質感やデザインが浮かんでくる。もちろん、状況や好みによっては逆のときもあります。

――音や字面の印象ということでしょうか。

青松:そうですね。音と字面は大きな要素だし、あとは「その後がもたらす映像的なイメージ」みたいなものもあります。それらは、既存の短歌、または短歌以外の場も含めて、その言葉がどういう扱われ方をしてきたかによって決定づけられる。そういった含みをすべての語が持っていて、いい含み方をしている言葉が、テクスチャ―のよい言葉という感じですね。

――「椅子」よりも「安楽椅子」のほうが、ふかふかした感触や暖炉前のあたたかい温度などいろいろなものを連れてくる、というイメージでしょうか。ここまでの例を見ると、基本的に抽象的な語よりも具体的な語のほうがテクスチャーがよいと見なされそうですが、必ずしもそうではないですか?

青松:抽象的なもののほうがテクスチャーがよいということも、大いにあり得ると思います。つまり、余計なテクスチャーがないケースですね。たとえば「ベガ」とか「アルタイル」とか言うとどこかで聞いたことのある、創作に出てくるちょうどいいおしゃれワードみたいになってしまうから、それよりは一個引いた「星」のほうが純粋に星としてのテクスチャーを持っている。どちらが優れているということではなく、使いたい場面によって最適な語を選ぶのが大事なんだと思います。自分の歌を挙げてしまいますが、〈数字しかわからなくなった恋人に好きだよと囁いたなら 4〉(『4』、ナナロク社)という短歌では、数字の〈4〉のテクスチャーが強調されています。この歌を作っているとき、1でも2でも3でも、5以上でもなく〈4〉のテクスチャーが最適だと確信がありました。その上で、意味の流れとしても〈4〉のテクスチャーを味わえるように統制が取れている、というのが目指していた形です。

――たしかに、説明は難しいですが〈4〉が最適だという納得感があります。

青松:今は、だいぶ詳らかに歌の作り方を説明したんですけど、これを読んでいる人には、100パーセント同じやり方で作るのはおすすめしません。自分の考え方にうまく取り入れていただけるといいな、と思います。

応募者へのメッセージ

――ありがとうございます。最後に、「カクヨム短歌賞」への応募を考えている方にメッセージをお願いします。

青松:とにかく「応募してほしい」ということですかね。短歌10首と20首出して10万円ゲットできると考えればおいしい話だな、くらいの感覚でぜひやってみてほしいです。僕としては、ほかの読者にとってもそうですが、「読めてよかったな」という作品がたくさん公開されるといいなと思います。そのためには、この記事でもすこし作り方みたいな話はしましたが、「傾向と対策」に取り組んだり選考委員3人の作風に寄せたりするよりも「自分はこういう作品が好きで、こういう作品を作りたいんだ」ということをやってほしい。中途半端に、いいと思っていないのに受賞したくて寄せてきても、正直わかっちゃうので。芯から「いい」って思っているものをちゃんと書いていただければそれでいいんじゃないかな、と思います。作風が僕と違う短歌でも、その人がやりたいことを読み取ったうえで、そのなかでの点数をちゃんとつけたいから、そこは信頼してぶつけてきてほしい。結論、「何でもいいよ! 短歌書けたら送ってみて!」って感じかな(笑)。

――ありがとうございました。選考、よろしくお願いいたします。

青松:ありがとうございました。楽しみにしています。


「カクヨム短歌賞」の応募受付は、6/2(月)より開始しています。
ぜひ奮ってご応募ください!

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