第4弾『ひげを剃る。そして、女子高生を拾う』著者・しめさば さんインタビュー篇

2016年3月に第1話が「カクヨム」に投稿された少女×バイクの青春物語『スーパーカブ』、つづいて2017年3月に第1話が投稿された家出JKと26歳サラリーマンの日常ラブコメディ『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』

どちらも投稿中から話題をさらい、角川スニーカー文庫からシリーズ刊行。さらに人気を集めて漫画化され、今年4月からはとうとうTVアニメも放映開始!

『スーパーカブ』『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』は、カクヨムの数ある投稿作の中から、いかにして見出され、人気を博していったのか?

このたびのメディアミックス化を記念して、著者のトネ・コーケンさん、しめさばさんはじめ、企画に関わったスタッフたちの熱い想いを、直撃インタビューの連載形式でお送りします!

▶第1弾 『スーパーカブ』 トネ・コーケンさんインタビューはこちらから
▶第2弾 『スーパーカブ』担当編集者・アニメプロデューサー篇はこちらから
▶第3弾 『ひげを剃る。そして、女子高生を拾う』担当編集・アニメプロデューサー篇はこちらから

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最終回 第4弾『ひげを剃る。そして、女子高生を拾う』 著者・しめさばさんインタビュー篇

Q:ひげと女子高生。異色の組み合わせに加えて強烈なインパクトのあるタイトルですが、本作の着想はどのあたりから得られたのでしょうか?

しめさば:ある日トイレをしている途中で、ふと「ヤらせてあげるから泊めて」と言う台詞が浮かんだんです。そこから、それを拒否されて、「じゃあタダで泊めて」と返す流れを思い付いて、お、これは面白そう、と思ったのが構想の始まりでした。

Q:すべてはその台詞から始まった、と。

しめさば:はい、完全な見切り発車でしたね(笑)。カクヨムで連載していた頃は、書きたいことを書きたいように書いていただけで、なんとなくのテーマは自分の中にあったものの、明確な「ジャンル付け」はしていませんでした。

当時は、『本屋の店員がダンジョンになんて入るもんじゃない!』という異世界ファンタジー作品を楽しく執筆していたのですが、他ジャンルも書いてみたいなぁと漠然と思っていたときに、ちょうど浮かんだアイディアだったんです。便宜上「ラブコメ」というタグをつけて投稿していたものの、私の中では、「果たしてこれはラブコメなのか?」という疑問が常にある状態でした。そんなスタートの切り方をしたのに、すごいところまで来てしまったなぁ…という気持ちです。

Q:なかなか際どいシチュエーションをほのぼのコミカルなラブコメに仕立てていくにあたって、キャラクター造形などはどのように工夫されていったんでしょう?

しめさば:まず「ヤらせてあげるから泊めて」という台詞を吐くのはどんな女の子だろう、と家出女子高生の「沙優」というヒロインを想像し、その対比として、それを拒否しそうな堅物キャラクター「吉田」のプロトタイプが生まれました。さらに沙優のバックグラウンドを考えていき、沙優とぶつけたら面白くなりそうなキャラ造形を煮詰めていった結果、「吉田」のイメージがだんだんと固まっていった形でしたね。

Q:据え膳をあえて食わない男、という設定が新鮮ですよね。

しめさば:沙優と吉田の造形がはっきりしてきたあたりで、私の中で「この二人、めっちゃ嫌いだな……」という気持ちがありました。“すべてをうやむやにして逃げ続ける女子高生”と“モラルがないくせに、『善行』に対する意識だけが高いサラリーマン”の二人の組み合わせって、ちょっと、いやかなり、嫌じゃないですか……(笑)?となれば、他キャラクターも、自分にとって「こいつ嫌だな……」と思う一面をガッツリ持っているキャラクターにして、そのキャラクターたちに物語を展開させたらどうなるのか、見てみたくなったわけです。

Q:吉田が恋する上司の後藤や、吉田を慕う後輩の三島。たしかに、どの登場人物も、みなひとクセある人物です。

しめさば:巨乳上司の後藤というキャラクターも本当にタチが悪く……私は本当に嫌いです(笑)。でも、当の吉田は一途に片想い。後輩キャラの三島も、比較的可愛らしい恋心を見せてはいますが、その根底には“物語に狂っている”ところや、“若干ストーカー気質”なところがあり、外見とは裏腹に、案外異常行動が多いキャラです。でも、見せ方によってはしっかりヒロインになりました。

Q:なるほど。作者は必ずしも、愛すべきキャラクターを描かなくてもいい、と。

しめさば:結局、物語の書き手も、読み手も、物語の中で動いているキャラクターたちを「観測する側」なので、別に、「私がこいつらを好きである必要はないなぁ……」という気持ちで、とにかく嫌いな部分をしっかり書いて、でも、物語の上では全員が活躍するように作っていきました。結果的に、その「嫌な部分」が、キャラクターたちのリアリティとして息づいていく形になったのかなぁと私は思っています。

Q:なんと、それは目から鱗の逆転の発想ですね!

しめさば:ただ、やはりこのやり方を思い切ってできたのは、これが「WEB小説サイトでの個人的な投稿」だったからであって、プロ作家になった今、この作り方をするかというと……多分、よほどの理由がなければしないと思います。ライトノベルを作る上では、「読者に好きになってもらえるキャラクター」を作るのは命題だと思うからです。そういった意味では、カクヨムだからこそできた物語であったのは間違いないと思います。

Q:「カクヨムだからこそ」とのお言葉、嬉しいです。投稿中に苦労されたことなどはありましたか?

しめさば:趣味で書いていただけなので、苦労した記憶もなく、とにかく楽しかったです。励みになったことは、やはり読者さんからの反応でした。小説投稿サイトは、投稿してから割とすぐに反応を感じられるところが良いですね。 応援がついたり、コメントがつくたびに、とても嬉しい気持ちになっていました。

Q:自由に発想し、自分のために楽しんで書かれた物語が、商業出版という形で世に送り出されることになった時は、どんなお気持ちでしたか?

しめさば:プロの編集さんの目に留まり、お声がけをいただけたことは、自分の創作活動に対する自信につながりましたし、本当に嬉しかったですね。

最初に担当してくださった編集さんはとても誠実な方で、この物語を書籍化するにあたって、「私はこれを本として出すことに賛成だけれど、はっきり言ってこの物語は今の売れ筋ではなく、この本を出版して売れなかった場合は、今後の本の出版は厳しくなるかもしれません。それでもこの本を出しますか? それとも、二人でもっと他の、売れそうな話を作っていきますか?」という質問をしてくださいました。

Q:第三弾のインタビューでも、デビュー担当がしめさばさんの才能に惚れ込んで、たとえラノベのパッケージから多少はみ出していたとしても、このただならぬ物語を世に出さねばという気持ちに駆られた、と熱く語っています。

しめさば:私の人生の大きな転機でもあるので、見つけてくださった編集さんには、今でも頭が上がりません。一生忘れないと思います。結局、私はそれでもこの物語を出版したいとお伝えし、最終的にはWEB版からだいぶ構成を変えて出すことになりました。書籍化にあたって、編集さんがこの作品を「ほのぼの日常ラブコメ」と銘打ってくださったので、そこから、私の中では、「そうか、この話はラブコメとして仕上げる必要があるんだな」という気持ちが強くなりました。シリーズを続けていくにあたっても、物語の芯になる部分はブレさせないようにしながら、「ほのぼの日常ラブコメ」という部分に嘘をつかないよう、バランスを心がけて書きました。その舵とりも、結果的に多くの方に読んでいただける作品になった理由なのかもしれません。編集さんと一緒に「信じて出して良かったですね」というお話をできたのが本当に嬉しかったです。

Q:それがコミカライズをきっかけにますます人気を得て、今や累計150万部!コミカライズについてはいかがでしたか?。

しめさば:編集さんから、「コミカライズ決まりました~。漫画家さんのコンペが行われまして、この人がいいと思ってるんですけど……」と伝えられるのを「はい、はい……」と頷いているだけで、すべてがトントンと進み、結果、足立いまる先生がコミカライズを開始してくださる流れとなりました。

漠然と「やった~」という気持ちだけがあり、長い間ふわふわとしていたのですが、実際いまる先生からコミカライズの原稿が上がってくると、ようやく実感が追いついてきて、とても嬉しくなったのを覚えています。

足立いまる先生の漫画は、原作の意図を最大限汲んでいただいた上で、さらにもう一歩先を行くイラスト描写を続けてくださっているので、私も原作者というよりは、ほとんど一読者のような気持ちで楽しんでしまっています。本当に、素晴らしいコミカライズ化でした。ありがとうございます!

Q:そして、今回のアニメ化。めまぐるしいスピードで、作品が世の中に広まっていきましたよね。

しめさば:これについては、喜びより前に「大丈夫なのかな……?」という心配の気持ちのほうが強かったですね、内容が内容なので……(笑)。ですから、アニメ化の打診をいただいた際も「放送するにあたってのリスクを容認できるのであれば、是非!」とお答えしました。

当初、そういう不安からスタートしたので、コミカライズと同じく、話が進んでいく途中ではあまり実感が追いつかず、実際に映像が上がってチェックする段階になって、「わ、ほんとにアニメになってる……!」と、じわじわと嬉しさがこみ上げてくる感じでした。

Q:実際にアニメをご覧になって、原作者としてのご感想はどうでしょう?

しめさば:アニメになって動く吉田を見ていると「あらためて、こいつ嫌いだなぁ……」という感想が漏れて、一人で面白くなってしまったのをよく覚えています(笑)。ただ、やはりキャラクターが実際に動いているところを見るのは、非常に感慨深かったです。私の脳内だけで動いていたものに形が与えられ、結果的に「本を読む」ということを日常的にしていない人たちにまで彼らの行動が見えるようになるって、とてつもないことですよね。

また、声優さんのすさまじさを実感しました。当作品は要所要所で「ヒリつく」シーンがあるのですが、そういったシーンに声優さんの声が載ることで、頭の中で想像している同シーンよりも格段に直接胸に迫ってくる「ヒリつき」を感じて、圧倒されました。

アニメには小さいころから触れてきましたが、自分の書いたものがアニメになるなどと考えたことはなかったので、感無量です。とても貴重な体験をさせていただきました。

Q:最後に、いまカクヨムに投稿されているユーザーさんへのメッセージをお願いします!

しめさば:ネットに投稿されている方の中には、作家としてデビューしたいと思っている方も、そうでない方もいると思うのですが……どちらにも共通して言いたいのは、とにかく「楽しく書くのは素晴らしい!」ということです。

プロ作家として物書きをするのも、もちろん楽しさはありますが、プロになればそこにつきまとうのは「売れる見込みのあるものを作る」という命題です。好きなものを好きなように書いて出版させてもらえるわけではありません。 ですから、好きなものを書いて、他人に見てもらえる……というのは、WEB小説投稿の特権であると思っております。

しかし、私もWEB小説を書いていた身なのでよく分かるのですが……WEB小説の世界にも「流行」というものがあり、それに乗らないとそもそも読んでもらえない……というようなジレンマがありますよね。そういったものに辟易して筆を折ってしまう人を、何度も見てきました。個人的には、それはとてももったいないことだと思います。

「読まれなければ、物語としての価値はない」という意見もありますが、私はそうは思いません。あなたが「形にしたい」と思い、実際にそれを形にしたという偉業は、他でもない、あなた自身の素晴らしい歴史になります。

そして、それが誰かに「読まれる可能性がある」というだけで、とても尊いことだと思うのです。ですから、「流行」や、「読まれるかどうか」などということは後回しにして、是非、あなたの書きたい物語を書いてみてください。そして、それが、あなた自身が「渾身の出来だ……!」と思えるものであるならば、きっと、見つけてくれる人がいます

あなたの歴史を刻む場所の一つとして、是非、『カクヨム』を利用してみてはいかがでしょうか。

貴重なお話を、どうもありがとうございました!
◆関連情報:
kakuyomu.jp

TVアニメ『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』について

「あなたに出会えて良かった・・・」

原作・しめさば、キャラクター原案・ぶーたが贈る、累計発行部数150万部を超える大人気ノベル「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。」が遂にファン待望のTVアニメ化!

ある事情から家出をしてきた女子高生“沙優”と、偶然の成り行きから同居生活することになる“吉田”とのほのぼのして、もどかしくて、でも、心があったかくなる、そんな日常がはじまります!

あらすじ
片思いした相手にバッサリ振られ、ヤケ酒をした帰り道、
26歳のサラリーマン・吉田は路上に座り込む女子高生・沙優と出会った。

べろべろに酔った吉田は、前後不覚のまま行き場のない沙優を一晩泊める。
…翌朝、ふわりと美味しそうな香りに目覚めると、食卓には味噌汁が。
「おはよう」
「なんだお前!!なんでJKが俺ん家に!」
「泊めてって言ったら泊めてくれたじゃん」
「…味噌汁」
「昨日“毎日味噌汁を作ってくれ~”って」
「ハァ!?絶対言わねェ!!」

家出をして行き場のない沙優を追い出すわけにもいかず、
吉田は家事を条件に彼女の同居を認めることに…。

こうして、家出女子高生とサラリーマンの微妙な距離がもどかしくもあたたかい、
不思議な同居生活が始まった―。

TVアニメPV

アニメ『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』本PV① - YouTube
www.youtube.com

放送情報

4月5日より放送開始
TOKYO MX 毎週月曜日 24時~
BS11  毎週月曜日 24時~
AT-X  毎週月曜日 22時30分~
リピート放送(AT-X)
7日より毎週水曜日 10時30分~
9日より毎週金曜日 16時30分~

配信情報

ABEMAにて4月5日(月)24時より 地上波同時・独占先行配信
他 配信サービスでは4月10日(土)24時より順次配信開始

原作情報

『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』
著:しめさば イラスト:ぶーた

あらすじ:5年片想いした相手にバッサリ振られたサラリーマンの吉田。ヤケ酒の帰り道、路上に蹲る女子高生を見つけて――「ヤらせてあげるから泊めて」「そういうことを冗談でも言うんじゃねえ」「じゃあ、タダで泊めて」なし崩し的に始まった、少女・沙優との同居生活。『おはよう』『味噌汁美味しい?』『遅ぉいぃぃぃぃぃ』『元気出た?』『一緒に寝よ』『……早く帰って来て』家出JKと26歳サラリーマン。微妙な距離の二人が紡ぐ、日常ラブコメディ。

コミカライズ情報

『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』
漫画:足立いまる 原作:しめさば キャラクター原案:ぶーた

▶Comic Walkerで読む
■月刊少年エース(KADOKAWA刊)にて好評連載中! web-ace.jp