【ピックアップ企画】カクヨム公式レビュー企画 「必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品」第2回

カクヨム運営です。

先月より始まりました「必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品」。 毎回カクヨム上に公開されている作品の中から毎回5作品を選者がピックアップ! キャッチコピー+レビューで紹介いたします。

愛咲優詩さんに続く、第2回の選者は村上裕一さんです!


村上裕一
FSDとMTGが好きなだけの開店休業中の批評家・編集者であったが、意外とライトノベル産業には粉骨砕身の従事をしており、未来のライトノベル作家たちの作品と戯れる仕事については早15年目。Y社のSJでライトノベルの選定委員、K社のBA新人賞ではプレゼンターなどを歴任。たまに受賞作も出している。読みやすい作品が好きだが、読みにくい作品も好きである。長い作品も好きだが、短い作品も好き。ジャンルに囚われない視野も大事だが、特定ジャンルの王道に忠実であるのもまた美しい。
いつの世も物議を醸すのはランキングという制度の存在だが、とりあえず虚心坦懐にその様子を眺めてみるとひとつわかるのは、とにかく異世界ファンタジーがいまだにカクヨムを席巻しているということであって、なかなかこれは一大勢力である。『ロードス島戦記』でいえばファーランドでひたすら物語が継続しているような連帯感や安心感もあるのだが、たぶんこのジャンルはほかのレビュワーがとりあげてくれると固く信じているので、今回はそれ以外の領域を渉猟させていただいた。気にいる作品に出会うかはまさに占い当たらぬ八卦といったところだが、「袖すりあうも他生の縁」(『魔術師オーフェン』)というし、読者の読書のなにかのきっかけになってもらえればよろしいかなと存ずる次第。

「女優は二度死ぬ。一度目は刺されたとき、二度目は忘却されたとき」

エンバーミングカットアウト/ポンチャックマスター後藤

 女優志望の25歳・友里恵が殺害されたことをきっかけに、自称ライターの藤田が、関係者に聞き込みをしていく様子を描いた作品。荒削りだが独特の緊張感を持った心理小説で、芥川龍之介の「藪の中」を彷彿とさせる。が、この作品では犯人や動機はもはや重要ではない。ここで表題を想起すると、つまり死者の情報を集めることで死者のイメージを再構築する作業がまさに「エンバーミング」「カットアウト」ということになるのだが、いわば本作はその時間的進行の中で人々が振り回され、発狂や忘却という形で変容していく様が、テープ起こしや手紙といったメディアの意匠を駆使することで描かれる。ミステリであれば、謎という中心へ物語が収斂する様子が描かれるだろうが、この作品ではむしろ発散していくところが興味深い。登場人物はそれぞれ好き勝手なことを言い、犯人である峠の述懐すらもはや友里恵そのものとかけ離れた、独自のイメージを語ることになる。そんなところへ連れて行かれる読書体験が奇妙に心地よい。 kakuyomu.jp


「"花葬り"は、言葉を絶たれた死者の、汲めども尽きぬ想いを咲かせる――」

御伽術師・花咲か灰慈/乙島紅

 なんの変哲もないただの高校生がよくライトノベルでは活躍しているような印象が持たれがちだし、実際そう供述している主人公は少なくなさそうだが、この桜庭灰慈少年は決してそういうことではなく、花咲かじいさんを祖先とする第15代花咲師で、なんと人間国宝だそうだ。では花咲師はなにができるのか。昔話を紐解けば推測もたやすいが、灰を花に変える能力を持つ。ではそれを用いてなにをするのか。彼らのもっとも大きな仕事は"花葬(はなはぶ)り”。火葬されて残った遺灰を美しい花に変えるのだ。だがその花は常に葬儀にふさわしく、適切な美しさで咲くわけではない。弔いの気持ちを持たず、死を冒涜する人間関係では、どんなに艶やかに咲いた花も、単なる溢れた絵の具のようなものでしかない。単なる灰を咲かせるのではなく、そこに残る人の気持ちを咲かせようとする 灰慈と、彼を取り巻く人々の息遣いが、繊細な文章とともに伝わってくる秀作である。 kakuyomu.jp


「5分もあれば落ちがつく、世相をうまく切り取ったショート作品集」

【連載】トイレで読む、トイレのためのトイレ小説/雹月あさみ

 いきなり繰り返して恐縮だがこの作品は「トイレで読む、トイレのためのトイレ小説」ということでここまででトイレと七回も言ってしまった。そもそも「トイレ小説」とはなんなのか。せいぜいトイレを舞台にするなりトイレが登場するなりといった意味合いだろうが、すでに私はこの段階でトイレという言葉がゲシュタルト崩壊してむしろトワレに見えてきた。それはそうと本作を取り上げたのは実に小説らしい作品だとも思ったからでもある。トイレのときにでも読んでほしいライトな作品集なのをウリにしているわけだが、実際には私はトイレで読んだことはなくむしろ電車の中とかメールの受信トレイを開きながらとか蕎麦屋のトレイの上に携帯を置きながらとかそういうことの方が多くて、要はトイレにいないのにまるでトイレのなかにいるような気分にさせられるわけだが、そういう時間感操作などの誘導を果たす言葉の力が凝縮された芸術というのもまた小説の重要な一面なのである。 kakuyomu.jp


「石を投げれば配信者に当たるこんな時代じゃ、配信ノートを拾ったことで始まる恋愛があっても不思議じゃない」

告白したクラスメイトが実は有名配信者で、その秘密を知った僕は配信の手伝いをさせられている/きなこ軍曹

 まあ作品タイトルどおりなのだが、マジで甘酸っぱくてよい。いや、実際問題として、自分の好きな動画配信者が実はクラスメイトで、告白は失敗したけれども彼女の配信ノートを拾ったことで彼女の配信ライフにパートナーとして関わることになるとか、どう考えても勝利の王道パターンではないですか? 俺も配信ノートを拾いたいと思う読者が大挙しても不思議ではない。それはそうと配信者というテーマはなかなかよくて、完全フィクションだった時代からシフトしてオタクネタやライトノベル作家ライフといった、いわば「読者自身」を題材とする表現を洗練させてきたライトノベルにとっては、隣のあの子が実はトップアイドル、という現実的にはなかなか起こりそうにないファンタジーではなく、「となりの子が配信くらいやっていても不思議ではない」というリアルで殺伐した世界観は格好の題材であって、まさに現実的なファンタジーとはこれなのである。 kakuyomu.jp


「たとえ中身がおっさんであっても、3歳児はかわいい(迫真)。いやホント」

おっさん(3歳)の冒険/ぐう鱈

 結局異世界ファンタジーそれも転生ものを取り上げてしまった。一流企業のリーマン課長が3歳児として異世界転生してみたら、そのバブバブよちよちとした活躍の様子がかわいかったので、しょうがない。主人公の勝は、妻に不倫と托卵を食らって絶望しており、新しい彼女との新生活に回復の兆しがあるかと思っていたところ、なぜか異世界の3歳児に転生してしまった。この伝統芸の描写もなかなか面白かったが、むしろ筆者的にそういう疲れた社会人のゴシップ的世界観をさらに掘り下げてほしいと願っていたところ、気づいたら勝はマイルズという名前で異世界無双(ちやほや)。とはいえそこで描かれているものは、単なるチート勇者の大活躍というよりは、勝がリアル社会では手に入れられなかった幸せな家庭生活という趣きが強く、いうなれば異世界子育てものであり、マイルズが恨みを記録した「まーちゃん閻魔帳」などのほのぼのガジェットの魅力もキラリと光っている。 kakuyomu.jp 文=村上裕一


次回の「必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品」は5月19日の公開を予定しております。

NOVEL 0「大人が読みたいエンタメ小説コンテスト」開催決定!

“カッコいい大人の生き様”をテーマにした小説レーベル「NOVEL 0(ノベルゼロ)」が主催となって、新しいコンテストを開催します。

その名も・・・・・・
NOVEL 0「大人が読みたいエンタメ小説コンテスト



異世界転生以外ならオールジャンルOK! 成人男性主人公求む!

大賞受賞者には賞金授与の他、NOVEL 0からの書籍化の可能性も! 題材は「異世界転生」以外であればなんでもあり! 
このコンテストでは、成人男性を主人公にした「今の大人が読みたい!」と思う小説を広く募集します。

時代も舞台も内容もオールジャンルOKの、今の大人に向けたエンタテインメント性溢れる小説をお待ちしております。


賞・賞金等
大賞:30万円+書籍化
受賞者には、連絡先等の確認のため、株式会社KADOKAWA(以下「KADOKAWA」といいます)よりカクヨムに登録しているメールアドレス宛にご連絡を差し上げます。当該通知の記載内容に従い、必要事項をご連絡ください。所定の期日までにご連絡いただけない場合、受賞が取り消される場合があります。

応募方法
応募作品を、「カクヨム」の投稿画面より登録し、小説投稿ページにあるコンテストの応募欄で『NOVEL 0「大人が読みたいエンタメ小説コンテスト」』を選択し、公開することで応募完了となります。応募の時点で、応募者は本応募要項の全てに同意したものとみなされます。

応募の時点で、応募者は本応募要項の全てに同意したものとみなされます。

作品形式等
・本コンテストでは自ら創作したオリジナル作品(一次創作作品)のみ応募可能です。
・読者選考期間終了時点までに本文が10万文字以上あること。なお、長編、連作短編等小説の形式は不問といたします。完結した作品には「完結」にチェックをつけてください。
・既にカクヨム上で公開されている作品についても、2017年6月1日(木) 00:00以降に、小説作成画面から本コンテストに参加することが可能です。
・お一人で、2作品以上の応募も受け付けます。
・応募作品の内容は、日本語で記述されたものに限らせていただきます。
・応募作品が受賞した場合、当該作品の元データ(保存形式は問いません)をご提供いただくことがありますので、データを削除・紛失等しないよう、ご注意ください。

スケジュール
応募受付&読者選考期間: 2017年6月1日(木) 00:00 〜 2017年7月16日(日) 23:59
最終選考対象作品発表: 2017年8月上旬頃 発表
最終選考結果発表: 2017年9月頃 カクヨムにて発表します。

審査方法
応募された作品の中から、読者選考によるランキング上位作品と編集部からピックアップされた作品が最終選考対象作品としてエントリーされます。編集部内で最終選考を行い、大賞作品を選定いたします。
※読者選考期間中の読者による評価が、ランキングに反映されます。

選考委員
NOVEL 0編集部
※18歳未満の方は、保護者にも本応募要項をお読みいただき、保護者の同意を得たうえでご応募ください。


その他、詳しい応募要項はコンテストページをご確認ください。

【5/1~7/31開催】集え、熱きロボット同志諸君! 「KRF -カクヨムロボットフェスティバル-」

MF文庫Jが贈る渾身のロボットノベル『エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~』の6巻が発売し、ロボ好きの担当編集イケモト氏は考えました。

「同志が欲しい・・・! 志(ロボット)を同じくする(愛する)熱き仲間が・・・・・・!!」

今は一人の編集者としてロボットノベルを世に送り出す立場にいますが、その心はロボット作品に魅了された少年時代から変わりません。だからこそ、この作品を世に送り出したいと考え、また未だ見ぬ素晴らしいロボット作品が現れることを、誰よりも心待ちにしています。

そんな熱いロボット愛を持つ編集者・イケモトとカクヨムがタッグを組み、一つの企画を打ち立てました。

それが集え、熱きロボット同志諸君! 「KRF -カクヨムロボットフェスティバル-」です。




このイベントの趣旨はただ一つ。
ロボット同志たちが「我こそは」と思う最高の作品を持ち寄って交流できる場所を提供したい。ロボットを愛する仲間がたくさんいると感じてほしい。その場所として、カクヨムを使って欲しい・・・・・・!! ただそれだけです。

このイベントで書籍化を保証したりとか賞金が出たりとかは、残念ながら特にありません。それでも、ロボットを好きな人たちが集まれる場所を作りたい! この世界で、ロボを愛する心の炎を絶やしたくないのだ・・・・・・!!
そういった気持ちを皆様と共有できる一つの機会として、ご参加いただければ幸いです。

なお「カクヨムロボットフェスティバル」に参加していただいた作品は、本イベント主催の一人であるMF文庫J編集部イケモトが、KADOKAWAである、MF文庫Jである、編集者である...といった垣根を超え、ただ“ロボットを愛する一人の男”として読ませていただきます
その中で、もしもキラリと光る「何か」を持つ作品が現れれば、その先の道が拓けることもある、かも・・・??

まあでもそんなことは関係なく、ただ本当に好きなものを同じくする仲間と出会い、ロボット魂を熱く燃やし、明るいロボットの未来に向けて共に切磋琢磨する場所を、一緒に作り上げましょう!

さらに、このイベント開催を記念してイケモト氏がただひたすらロボットについて語るインタビューも公開中!
ロボットを好きになったきっかけやこのジャンルの魅力、そして「ロボットジャンルで商業作品を出すということ」といった、ロボットにまつわるあれやこれやを愛と情熱で語り尽くします。こちらもぜひお読みください。

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集え、熱きロボット同志諸君! 「KRF -カクヨムロボットフェスティバル-」自主企画イベントページを見る

◆賞・賞品:
特にありません
※きらりと光る何かを持つ作品があれば応募作の書籍化を検討する可能性があります。

◆応募要項:
・本企画では自ら創作したオリジナル作品(一次創作)の、ロボット小説のみ応募可能です。
・文字数に規定はありませんが、本文10万字以上の作品は、作品紹介文に特に読んで欲しいエピソード名、もしくは話数をお書きください。
・お一人につき1作品までのご応募でお願いします。
・応募作品の内容は、日本語で記述されたものに限らせていただきます。
・全長3m以上の人型ロボット、もしくはそれに準ずる形態のロボット(多脚や、足下がキャタピラなどはOK)が登場する作品を、『本コンテスト』のロボット小説の定義といたします。
※人間とサイズの変わらないアンドロイド、装着型ロボットが主体の作品は本小説コンテストのご応募はご遠慮下さい。
※5/10迄にご応募された上記の定義外の作品については、担当イケモトが全て読ませていただきます。そのまま応募された状態で問題ございません。

◆スケジュール:
・作品応募期間: 2017年5月1日~7月31日
・結果発表: 2017年9月頃 カクヨムサイト上で発表

◆主催者:
・カクヨム編集部
・MF文庫Jイケモト

イベント開催は5月1日からを予定しています。ぜひ奮ってご参加ください!

…なお、ロボット応援強化シーズンとして、最新刊6巻が4月25日に発売されたロボットノベル『エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~』のシリーズ1巻が、期間限定でカクヨムに無料公開中です!

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とにかく熱くて、火傷する!大人気ロボットノベル『エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~』の世界に触れてみてください。

皆様の心には、響きましたか?

【最新刊】2017年4月25日発売!
『エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~ 6』
著:東龍乃助, イラスト:みことあけみ, 汐山このむ, 貞松龍壱

f:id:kadokawa-toko:20170419184134j:plain 商品詳細を見る



2017/4/29追記:
告知ツイート100RT達成記念! ということで、KRFの公式ロゴをクリエイティブ・コモンズ・ライセンスにて配布いたします。


表示—非営利—継承
※クリエイティブ・コモンズライセンスは、製作者自らが、その権利の一部を解放し、クリエイティブな再利用を推進することを目的としています。カクヨムでは、カクヨムロボットフェステイバルと、ロボット文化の推進のために皆様にもお使いいただきたいという姿勢のもと、このような形で公開することといたしました。クリエイティブ・コモンズについて詳しくは公式サイトをご確認ください。

2017/4/30追記:
公式ロゴを使う際のルールにつきましてはこちらのツイートをご覧ください。
https://twitter.com/kaku_yomu/status/858529228794540032

2017/5/10追記:
全長3m以上の人型ロボット、もしくはそれに準ずる形態のロボット(多脚や、足下がキャタピラなどはOK)が登場する作品を、『本コンテスト』のロボット小説の定義といたします。
※人間とサイズの変わらないアンドロイド、装着型ロボットが主体の作品は本小説コンテストのご応募はご遠慮下さい。
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【KRF開催記念】ロボットとは、人の願いを叶える万能兵器である── MF文庫Jのロボ好き編集イケモト氏が語り尽くす”ロボットの魅力”

5月1日から開催する「カクヨムロボットフェスティバル」(KRF)を控え、現在カクヨムで1巻が無料公開されているロボットノベル『エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~』(MF文庫J)を送り出した編集のイケモト氏も、応募作品には全て目を通すと意気込んでいます。

ですが、カクヨムのロボットファンの皆様には、まだ彼についての馴染みが薄い方も多くいらっしゃることと思います。
そこで、「イケモト氏ってどんな人?」「ロボット、本当に好きなの・・・?」といった皆様の疑問や、また「ロボット小説を商業でやるって、どうなんだろう?」などの気になるアレコレにお答えすべく、カクヨム編集部より「ロボット」をテーマにしたインタビューを敢行しました。
イケモト氏がロボットに嵌ったきっかけや好きな作品といった話題をはじめ、ロボットの魅力や、編集者として作品を送り出す立場から考えるロボット作品についてなど、様々な話題が飛び交った、たいへん濃い内容のインタビュー記事に仕上がりました。
ロボットファンは共感やツッコミを入れながら、そしてロボットにあまり詳しくない方はこの世界を少し覗いてみるつもりで、炸裂する彼の”語り尽くし”をお楽しみください。



──まずは、ロボットもののエンタメ作品との出会いと、好きな作品を教えてください。
幼少時に『スーパー戦隊』シリーズ『勇者』シリーズ『SDガンダム』の子ども向けロボ3本柱に触れたことから始まっています。具体的には『高速戦隊ターボレンジャー』、『太陽の勇者ファイバード』、『武者ガンダム』の玩具、プラモデルを買ってもらったのがロボとのファーストコンタクトでした。
『スーパー戦隊』シリーズはそこから『激走戦隊カーレンジャー』くらいまで、『勇者』シリーズは勿論その後も追いかけ続けて、一番好きなシリーズは『勇者指令ダグオン』でした。その後『新世代ロボット戦記 ブレイブサーガ』をダグオン勢でクリアできた時はとても嬉しかったのを覚えています。『SDガンダム』はやっぱり『騎士ガンダム』シリーズに嵌まっていましたね。


――いきなり幼少時からロボットモノジャンル(以降ロボモノ)に接触していますね。
そうですね。当時(1990年代)はロボモノのTV番組が今よりもたくさんありました。
僕は関西出身ですが一時の金曜日なんて特に凄まじく、16:30から『機動新世紀ガンダムX』、17:00から『勇者指令ダグオン』、17:30から『激走戦隊カーレンジャー』と3本連続TVでロボモノが見れた時期がありました。あとは『機動戦艦ナデシコ』『マクロス7』を楽しく見ていましたね。
バリエーションのあるロボモノがTVで流れていたのも恵まれていたと思います。


――ある種恵まれた環境でロボット作品に触れる幼少期を過ごされたようですが、その後はどうでしたか?
中学あたりからはTVで流れているものだけでなく、知らないロボモノをどんどん探すようになっていきました。
ただ当時は今のように安価なストリーミングサービスもなく、ビデオをレンタルするにしても、特にTVシリーズはレンタル本数が多くなるのでお金がかかる。映像には中々触れられないが、ロボには触れたい。ということで古本屋さんで昔のアニメのムック本とか、雑誌とか、小説を買うようになりました。そこで出会ったのが小説『機動戦士Ζガンダム』です。


――富野監督自ら書いていたものですね。
そうです。そこで感銘を受けました。
小説は自分の時間の中でずっぷりとロボの世界に浸れるんですね。自分で映像を脳内に作り出せますし、わからないところも何度も読み直して答えを探し出すことができる。映像ではわからない細かい設定とかも小説だとわかったりする。それでもう小説でロボモノを読むことに嵌まってしまって、富野監督が書いていたものはもちろん、ガンダムの外伝小説を見つけたら片っ端から買って読むようになりましたね。
結果的に『機動戦士ガンダム第08MS小隊』の小説で衝撃を受けたりするんですが。
そして同世代の友人と漫画やアニメ、ロボモノについての激論を重ねるようになっていきました。『機動警察パトレイバー 2 the Movie』、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』をひたすらに何度も見てましたね。TVシリーズよりも映画版アニメを見る機会が多かったです。
その後もコンシューマーゲームでは『高機動幻想ガンパレード・マーチ』に嵌まって「起きる、ガンパレやる、寝る」の毎日で貴重な学生の長期休みを全て使ったり。もちろん『スーパーロボット大戦F』『α』、『SDガンダム ジージェネレーション』シリーズ、『機動戦士ガンダム ギレンの野望』といったシミュレーションゲームにも没頭しました。
それからアーケードゲームの『機動戦士ガンダム 連邦vs.ジオン』ですね。学校をサボって友達とプレイしにいって。アーケードモードを旧ザクだけでクリアしようとしてたんですが、設定が高難易度だと敵の体力ゲージが全然減らないんですよね。攻撃を当てても当ててもタイムアウトしてしまうという(笑)。
あとは『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』にもかなり嵌まりました。もちろんガンプラもバッチリ作っていたんですが、ビーストウォーズの変形が好きで好きで(笑)。ずっといじってましたね。


――映像だけでなく、多方面でロボットに触れていた感じですね。
そうなんです。映像以外でも、コンシューマーゲーム、アーケードゲーム、玩具、小説、漫画と本当に色々な方面でロボモノに触れることができました。今考えると、物凄く幸せでしたね。
ビデオのレンタル代が出せるようになってからは、TVシリーズ含めどんどん過去のロボモノを見るようになって、好きな作品がどんどん増えていきました。


――そんな中でも、どうでしょう、好きな作品と聞かれると?
好きな作品はやっぱり『機動戦士ガンダム』(初代)で、一番好きな機体は『ザクⅡ』です。
もちろん星の数ほどたくさん好きな作品も機体もあるのですが、一番長い間浸っていた作品は、やっぱりガンダムでしたので。


──お話を伺っただけでもイケモトさんがたくさんのロボット作品に触れてこられたことがわかります。そこでお聞きしたいのですが、他と比べた時に「ロボット」ジャンルにはどのような特徴があると思いますか?
とても個人的な意見であることを前提で、お話します。あくまで個人的です。
僕にとっての「ロボット」は”人の願いを叶えてくれる万能兵器”です。
例えば「世界を救いたい」と思ったとき、一機の飛行機、一両の戦車、ましてや一人の人間が世界を救えると思いますか? 炎や水を出す魔法のようなものが使えたり、超強力な異能でも持っていれば別ですが、個人が現在の複雑かつ高度に発達した世界に対して介入するのは難しいように感じます。だけどもし自分の手に「1体の特別なロボット」があれば、「もしかしたら世界救えるかも?」という風に思えませんか?
これが僕はロボの最大の魅力だと思っています。ロボットがあれば不可能と思われることも覆せるんじゃないか、そういう期待ができる存在とも言えます。
もちろん魔法や異能、超能力でもいいんですが、それらはまだ現実世界で発見されていない。だけど、ロボが持つ武器の多くは大抵、現実世界の兵器の延長線にあるもの。そして、巨大人型兵器自体もテクノロジーの発達と共に、どんどん現実味を増している。
古いですがアイボとかもありましたし、AIが発達してチェスや将棋といった頭脳競技でも人を席捲し始めていたり。ルンバとかもそうで、部屋を勝手に掃除してくれる機械がこんなに早く一般家庭に普及するなんて思っていませんでしたよね。
つまりロボはフィクションの中で最も現実感のある「身体拡張」をしてくれるモノであると思うんです。1人の人間の力を極限にまで高めてくれる、そういう存在なのではないでしょうか。


──ロボットはフィクションにおいて個人の力を増幅させる「身体拡張」である、面白いですね! それでは、イケモトさんの考えるロボット作品の魅力とはやはりそこにあるのでしょうか?
リアリティを失わない中で、最大限個人の力を拡張できるのがロボット。なのでロボットモノの物語というのは、普通の設定の物語よりもとんでもない幅や深さを持たせることができます。4クールロボットアニメをやったら大河ドラマ並の歴史の歩みを魅せることができる。それはロボモノあるが故なのかなと思います。
ロボットモノに名作が多いのはそれもありますよね。ロボットが個人の力を最大拡張するので、どこまでもダイナミックにお話が進められる。しかもリアリティを失わない。
そして、個人の力を拡張できるので、思想なんかもロボを通じて伝えることができますよね。「こういうことを考えたんだ。聞いてくれ」っていうこともロボがあれば世界の人に聞いてもらえる。
ロボットにはたくさんの魅力がありますが、僕は小説や物語が好きで、しかもそれを扱う編集という立場ですから、ロボットがあるがゆえ、物語が拡張するというところに最大の魅力を感じます。


──ここまで充分にイケモトさんのロボ好きが伝わってきましたが、逆に好きなジャンルを仕事として手がけるとなった時、苦労した点や感じた点はなんですか?
こちらも超個人的な意見なのですが、「ロボット」は日本のエンタメの中で最も発達したジャンルの1つだと思っています。あくまで超個人的ですよ。
本格的にロボットアニメが製作され始めた1970年代から2010年代の今まで約50年ありました。その長い期間、ありとあらゆる種類のロボットや設定、世界観が考えられて、新しいものなんていうのはもうないんじゃないかというくらい、たくさんのロボモノが作られてきました。しかも、その時代毎のスーパークリエーターが皆集大成の1つとしてロボットアニメに取り組んできている。たくさんの人、時間、お金、そして煌めく才能が費やされて、それがロボモノの歴史になってきたんです。
それらの歴史が、一般の人が理解しやすい形で体系化もされています。『スーパーロボット大戦』シリーズやガンダムだと『SDガンダム ジージェネレーション』シリーズ等のゲームの存在がそうですね。いわば「遊んで学べるロボットにおける歴史の教科書」が高クオリティで製作されてきた。そのため、他のジャンルに比べて過去の作品に興味を持つ機会が格段に多い。こんなにも過去の作品を、多くのユーザーがきちんと認識しているジャンルは凄く珍しいと思います。
ただ、それが一方でクリエイターの苦しみの原因にもなっていると感じます。


──どういうことですか?
例えば、今異世界召喚、転生モノのジャンルが流行っていますが、ロボモノにとっての異世界召喚だと『聖戦士ダンバイン』の「東京上空」を超える展開をもってこないとユーザーは驚かないわけです。本当にハードルが高い。
ロボファンの多くの頭の中に過去の名作が入っているだけに、過去の名作を超える何か、もしくは過去の名作とは違う何かを用意しなければならない。しかもロボモノは過去の名作の数が多いだけでなく、バリエーションにも富んでいます。
なので作る側としては、物凄い険しいジャンルということは間違いありません。ただ、それゆえにやりがいがあるというか、本気で挑む相手としては最高の対象と思います。


──積み重ねた歴史が、新しいクリエイターにとってのプレッシャーになっているのですね。
それから、ロボモノを作る上で難しいポイントは、ロボ好きの数だけ異なる魅力のポイントが存在するところにあります。僕はロボットの身体拡張性に物凄い魅力を感じていますが、ロボットの魅力は決してそれだけではありません。
例えばメカニカルな面白さ。実際にはない巨大人型兵器をリアリティを崩さず存在させていく面白さ。造形はもちろん、「変形」とか「合体」とかロボットだからこその面白さがあります。
それからミリタリー方向の面白さもありますね。よりメカニカルな部分をリアル方向に寄せていって、量産機を愛していったり。また兵器や軍隊っていうのも現実世界にあるものですから、組織やそこに存在する人間のリアリティもある。
それにキャラクターですよね。ロボに乗るってことには相当な決意やドラマがある。そして戦場を駆け抜けていく中での成長が描かれて、キャラクター達の人間的な魅力も物凄く高まっていきますよね。キャラクターなしにロボモノは語れない。
そしてロボットを操る「パイロット視点」での魅力。操作の面白さ、操縦するテクニックを高めて挑むライバルとの戦い、その先に存在する自分だけの世界。見ているうちに自分もロボに乗りたいと思わせる強烈な魅力がロボモノにはあります。
また世界観もあります。フィクションの世界とはいえリアリティを持ってロボットを存在させるために、SF的な破綻無い世界観を作ったり、目から鱗の面白い世界観設定が考えられています。考えていくだけでわくわくしますよね。
ロボモノにはそういった魅力がまだまだ語り尽くせないくらいたくさんあります。それが、ファンの数だけ魅力があるジャンルという意味です。
だから、ロボ作品を作るのは実は物凄く難しいんです。時として同じ作品が好きだったはずなのに、よくよく突き合わせてみると全く違う部分が好きで意見が合わない時もよくある。「あれ、おかしいぞ、好き同志で集まったはずなのに・・・」ってことが、意外と頻繁に起こってしまう。皆の意見が合致しづらいんですね。
なのでロボモノを作る時には「お互いのロボモノに感じている魅力」というものを認めていくということが大事だと思っています。

これはロボモノに限った話ではないとは思います。人が面白いと思っているモノを否定せず受け入れて、面白さの根源を探るというのはとっても楽しいことだと思います。


──「今の時代にロボ物を作るのは難しい」と言われることもあるようですが、そんななかでロボット作品を新しく作りたいと感じているクリエイターにアドバイスなどがあればお聞かせください。
単純にロボを好きな人、というのは残念ながら若い人たちの中でも減っているのは確かだと思います。作る側にいてもそうで、若い人達だとロボの話題が出ても反応は鈍め。ロボが共通認識であったところから、一歩下がったものになってしまっているという感じを受けてはいます。逆に、ここ近年の深夜アニメは共通言語になっていますね。
自分の仕事の領域でもそこをすごく意識して取り組んでいます。例えば、僕の所属するライトノベルレーベル(※MF文庫J)の場合、ユーザーの平均年齢層が20歳ちょっとで過半数は中高生です。ライトノベルの高年齢化に嵌まっていないレーベルで、そこは長所でもあるのですが、一方でロボモノに見識がない人が多い可能性が高い。そんな読者にも受け入れてもらえるように準備して挑む必要があります。
僕の時代は幼少期からロボに自然と触れるタイミング、洗礼を受けるタイミングがありましたが、おそらく今の子どもたちは、僕の世代以前の人に比べると接触機会が薄い。
なので、自分が担当する作品の場合、ロボのコアな面白さよりも初めて読むロボモノが『エイルン』である人がたくさんいるであろうことを意識して、編集をしています。『エイルン』の本編で挿絵が連続する「ロボ作劇」(※注:下記)などはそのアイディアの中にありました。

(※注:小説媒体におけるロボットの「見せ場シーン」を効果的に演出するためにイケモト氏が考案した「ロボ作劇」サンプル。『エイルン』本編では戦闘シーンの本文挿絵に差し込まれた)

ロボアニメの見せ場って、やっぱり超絶構図や演出、音楽の決めバトルシーンだと思うんです。「あの作品」「あのシーン」というのが、時としてキャラクター以上に記憶に残る。何かしらロボアニメに触れていたりすれば、活字から近いシーンをイメージできたりするかも知れませんが、ロボアニメを見たことの無い人相手にどうやってあの感動を伝えられるか、と考えた末に取り入れたのがロボ作劇でした。
その他にもロボットは大きくて強いとか、ロボットの本質的な面白さをできるだけ表現したいと考えていますね。
そのため、何かアドバイスするとすれば誰に向けて作るモノなのか、というところは意識していくとよいところだろ思います。それによって同じ設定のお話でも描き方が全然違ってきます。

たくさんの人に見てもらいたいし、読んでもらいたいので、自分のやりたいことと読み手が求めているであろうことのバランスを考えていくのが大切なのではないでしょうか。


──編集者という立場で作品を送り出したり、クリエイターのサポートをする側となった今、ロボットジャンルの未来に向けてやりたいことや、考えていることがあればお聞かせください。
新しくロボットモノを書きたい、描きたいという人を応援したいという気持ちを強く持っています。やはり、同じロボという魔性の魅力に取り付かれたもの同士、そして高い壁に挑んでいく覚悟を持ったチャレンジャー同士なので。
フィクションなんだけど確かなリアリティ。実際にロボット産業も発達して、このままの科学技術の進化のペースでいったら、生きてる間に憧れたロボアニメのロボが、目の前に現れるかもしれない。そうやって、フィクションなのに未来と繋がっていくような、そういうワクワクを与えてくれるロボは本当に最高ですよね。


──最後に、カクヨムロボットフェスティバルへの参加を考えている方々へのメッセージをお願いします。
今回、カクヨムさんの方に新しくユーザーが主催となってイベントを開催できる機能が実装されるということで、「何かイベントを一緒にやりませんか」と提案をいただきまして、カクヨムロボットフェスティバルを開催できることになりました。
書籍化確約とか、賞金とかは難しそうなのですが、凄くいい応募作品があればもちろん担当して本にしたいと思っていますし、自分自身がまず”面白いロボモノを読みたい”と感じています。
応募期間も少し長めに取っていますので、考えてきたけれどまだ執筆に移っていなかったロボモノの作品があればぜひご応募いただければと。
当然全ての作品を読ませていただきますので、ご応募いただければ嬉しく思います。



ロボ好き編集イケモト氏によるインタビュー企画、いかがでしたか?
今回「カクヨムロボットフェスティバル」を開催するにあたっては、カクヨムユーザーの皆様がロボット作品に向ける熱量や、また互いの作品を尊重し、敬意を払っている素晴らしい関係に水を差すことなく、普段の延長線上で楽しんで参加していただけるような企画にしなければならないと考えていました。
そのため、ユーザーの方々がロボットに注ぐ情熱と、少なくとも同じか、それ以上に熱い気持ちをもってロボット作品に接している協力者の存在が運営側にも不可欠でした。
そこで今回協力をお願いし、快く引き受けていただいたのがロボットノベル『エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~』を世に送り出したMF文庫Jの編集イケモト氏でした。彼がどれほどロボットを愛しているのかが、このインタビューを通して少しでも皆様に伝われば幸いです。

今回の企画は書籍化を前提としたコンテストや、商業作品との連動企画とはまた違った切り口のイベントであるため、参加作品への賞品などもご用意しておりません。ですが、「ロボ好きである」というただ1点において、仲間と出会い、純粋に楽しむことのできる場所としてカクヨムを皆様にお使いいただければ、この企画は大成功と考えています。

カクヨムロボットフェスティバルは5月1日から開催いたします。
熱い情熱を燃やすロボットファンの方から、今回をきっかけに新しく書いてみようと思った方まで、カクヨムでロボットを楽しみたい方はどなたでも参加を歓迎いたします。

皆様から熱いロボット作品が集まることを、運営一同心より楽しみにしています。

kakuyomu.jp

【ピックアップ企画】カクヨム公式レビュー企画 「必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品」第1回

カクヨム運営です。

本日より新しいレビュー企画がスタートします。その名も「必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品」。 この企画では、カクヨム上に公開されている作品の中から毎回5作品を選者がピックアップ! キャッチコピー+レビューで紹介いたします。

記念すべき第1回の選者は異世界ならこの方――愛咲優詩さんです!


愛咲優詩(あいさきゆうじ)
フリーライター。ライトノベル歴20年以上。これまでに読んだライトノベルは約6,000冊。普段は「ダ・ヴィンチニュース」でブックレビューを担当しています。好きなジャンルは異世界ファンタジー。最近は寝る暇もおしんでWeb小説を読みあさり、埋もれた傑作の発掘を生きがいとする。ついには異世界好きが講じてKADOKAWAに異世界に送り込まれることに……。異世界から皆様へ面白い作品を紹介します。
ついにはじまりましたカクヨム公式レビュー! 第一回目は好きなジャンルである異世界ファンタジーを趣味全開でプッシュさせて頂きました。 今回レビューした作品の他にもいくつかの作品を読ませていただきましたが、いずれも個性的で甲乙つけがたい傑作名作ぞろいで選考には難儀しました。できれば次回のレビューや別の機会で紹介したいと思います。 来月以降は異世界ファンタジー以外にも現代もの、ラブコメ、SF、ミステリーなども読み込んで、さらにジャンルを広げていくつもりです。 いままでの作品にはない斬新でユニークな作品を皆様にお届けいたします。どうかご期待下さい!

「素晴らしき異世界人生の楽しみかた」

一度くらいは転生するのも悪くない/@k-tsuranori

 これぞ異世界転生ものという直球勝負で挑んだ作品。現代のビジネスマンが伯爵の三男坊カールに転生し、あるときは美女&美少女の奴隷を連れて魔物退治やダンジョン攻略で無双を繰り広げ、またあるときは経営破綻に陥った領地を立て直すため内政を推し進め、ときにレストラン経営で美食ブームを巻き起こす。さらには伝説の英雄を巡る歴史ミステリーに迫る。これまでに描かれてきた異世界転生モノのエッセンスが集約され、高い完成度でまとまったジャンルの最先端にある作品といってもいいだろう。頭脳は大人でも見た目はわずか10歳の少年が、大人顔負けの偉業や成功を達成していくギャップが面白い。平和で充実した転生ライフを目指して冒険するカールの活躍が、さまざまな波紋を呼び、世界観や夢が広がっていくストーリーに胸がワクワクする。異世界転生ってナニ?という初心者の方にも、まずはこの作品からその魅力に触れてみていただきたい。 kakuyomu.jp


「銀河で一番ブラックな企業のSF社畜苦労譚」

汎銀河企業体 メロンスター.Inc/鶴見トイ

 利益のためならばどんな違法行為でも平然とまかり通るのが主人公のセン・ペルが働く汎銀河企業体メロンスター社の実態だ。自社製品の故障やシステムトラブルは当たり前、顧客からのクレームは大量の申請書類で煙に巻き、納税を巡って税務署と宇宙戦争を繰り広げる。底辺社員であるセンが上司の命令に振り回され、毎度のごとく危機的状況に巻き込まれる姿が滑稽で不謹慎ながらも笑いがおさえきれない。ブラック企業を越えたダークマター企業ぶりにドン引きだが、さらに宇宙規模でも常軌を逸した文化や風習が偏在する独特な世界観を構築していて、物語全体に星屑のごとく散りばめられたブラックユーモアの数々に腹筋が重力崩壊する。社会人として働くということは理不尽というロケットに乗り込んで未知なる銀河へと旅立つようなものだ。今春、新社会人になった方々に是非オススメしたい。うち会社はまだマシだった!と職場と上司に感謝の念がわくことだろう。 kakuyomu.jp


「ドラゴンから商店街を救うのは雑草魂の勇者たち」

ドラゴンキラー商店街/ロケット商会

 とある町に襲来したドラゴンの脅威に商店街の草野球チームが立ち向かう。そんな日常と非日常が混在する現代の竜殺しの物語だ。主人公のケンジを始め、チームメンバーはロクでなしの不良少年や中年オヤジばかり。俺たちがやらねば誰がやる。意気込みは盛んだが、学もなければ特別な力があるでもない、ただの素人の彼らにあるのは根性だけ。消防庁の聖騎士団ですら全滅したドラゴン相手に勝つつもりで、走り込みやポジション練習を始める。どいつもこいつも正気じゃない! 普通は死ぬ。絶対に死ぬ。あまりの頭の悪さに考えるのをやめた途端、一気に物語に引き込まれた。命知らずのバカたちが身体を張って意地と執念で打線をつないでいく光景に思わず手に汗にぎり、血がたぎる。コールド負け寸前まで追い詰められても諦めない勇姿にいつしか熱い声援を送っていた。気づいたらこのチームの熱狂的なファンになっていた。ドラゴンのブレスでも燃やせない雑草魂に刮目せよ! kakuyomu.jp


「幼馴染メイドとふたり暮らしはじめました」

50%&50%/九曜

 大富豪の御曹司である男子高校生・鷹尾周が、実家を出て念願の一人暮らしを始める。しかし何故かメイドさんまでついてきて……という、ご主人様とメイドさんの同棲ラブコメディ。メイドの藤堂月子は周もよく知る幼馴染でクールな現役女子大学生。幼い頃はよく遊んでいたけれど最近は疎遠になっている、そんな親しいようでちょっと遠い微妙な距離感の二人が手さぐりで共同生活を築いていく姿が微笑ましい。帰宅すればメイド姿の美女が迎えてくれるという、男にとっては夢のようなシチュエーションだが、自立を目指す周にとっては余計なお世話以外の何物でもなく、「家に帰りたくない」と帰宅ボイコットをしてしまうのが可笑しい。ご主人様なのに月子さんに主導権を握られて頭が上がらない周だが、月子さんも女心に鈍感な周の態度にすねてしまう可愛らしい一面も垣間見えて心がときめく。主従関係のような、幼馴染のような、姉弟のようなイチャラブがもどかしくてたまらない。 kakuyomu.jp


「最強アイドル冒険者アリムちゃん、異世界にて爆誕!!」

Levelmaker ーレベル上げしながら異世界生活ー/Ss侍

 異世界転生ものでは、主人公が転生時に特別な才能やスキルを得たりするのが定番だが、この作品では純粋なレベル上げで最強に至るというのが他の作品とは一味違う。三度の飯よりもRPGの経験値稼ぎが好きな少年・有夢が異世界に転生し、ひらすらダンジョン攻略を繰り返してレベルを上げ、さらに性転換スキルを用いて美少女冒険者アリムちゃんに変身して冒険者たちのアイドルとして駆け上がっていく悪ノリがなんとも愉快。ゲームで女性アバターを選択して自キャラを愛でるというゲーマーあるあるで共感できる。強敵との熱いバトルだけでなく、お姫さまとの女子トークに癒されたり、涙を誘う感動エピソードもあったりと飽きさせない。しかしやはりこの作品の魅力は、なんといってもアリムちゃんのいつも元気いっぱいで無邪気な愛らしさ。可愛いは正義。おまけにSSSランク冒険者で勇者の剣も使える、アリムちゃんマジ最強! アリムちゃんファンクラブへの入会はこちらです! kakuyomu.jp 文=愛咲優詩


次回の「必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品」は5月12日の公開を予定しております。