【6巻発売記念】とにかく熱くて、火傷する、大人気ロボットノベル『エイルン・ラストコード』シリーズ1巻をカクヨムで期間限定無料公開!

 
このエントリーをはてなブックマークに追加

とにかく熱くて、火傷する、大人気ロボットノベル『エイルン・ラストコード』一巻をカクヨムで期間限定無料公開!

『エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~』

著:東 龍乃助、イラストレーター:みことあけみ、汐山このむ、貞松龍壱

 

>>カクヨムで読む

プロローグ


  ──アレは、なに?

 

 少女は、青いひとみでソレを追った。

 大空をける、【真紅の巨大戦闘機】。

 天より舞い降りたソレは、およそ兵器と称するには派手すぎた。

 アルファベットのAのような全体像フオルムは、兵器特有の理論やモジュールを感じさせない。底面部には二門の砲頭。紅の装甲板が陽光を反射して輝いている。

 まるでSFアニメの一カットを、そのまま現実で見せられているような……そんな不思議な感覚を少女は覚えた。

 

 ──どうして、そこにいるの?

 

 ここは、ばけものうごめく戦場の爆心地だ。

 人の手に余る。人類の英知も及ばない。

 少女だけに押しつけられた、くさった現実の底の底……誰も下りることがかなわない。誰も少女を救いあげてくれない地獄のはず。しかし、彼はどこからともなく現れ、ここへ来た。

 

 ──どうして、逃げないの?

 

 怪物なのだ。三十メートル近い全長をした。人なんてひとつかみで何人もとらえられてしまう。

 人間をリンゴみたいにほおり、骨肉をしやくし、うまそうにえんする。

 銃弾でも、地雷でも、ミサイルでも止められない。

 少女がたいしているのは、人類を食物連鎖の玉座から引きずり下ろした、なかば反則じみた怪物なのである。

 それを前にして、、あのパイロットは逃げないのか。

 

 ──あなたは、いったい誰?

 

 虚空をあおぐ怪物──身体からだはビルよりも大きい。数両分の列車よりも長く、太い腕が八本。人を模したしゆうあくな顔面を二つ持つ。

 少女を、【人類の最終兵器】をも制した敵は、天空に座す戦闘機をめ上げる。

 その絵面はとてもヒロイックで、幻想的だった。その絵を誰よりも近くで見た少女は、絶望のやみに一筋の光を見る。

 

「あなたはわたしを……助けて、くれるの?」

 

 少女はか細い声でそう聞く。返ってきたのは少年の優しい声だった。

 

『ああ。俺の全部で君を助ける。だからもう泣くな』

 

 彼女は後に知ることになる。

 この少年こそ、少女の闇をく、本物の勇者だということに。


Ⅰ ヌイグルミと魔女


 西暦1999年9月9日────人は生態系の頂点ではなくなる。

 なぞの巨大生命体。

 世界一〇八箇所に同時発生したソレは、大地を、動植物を、人間を、った。

 国際連合UNは、怪物を悪意マリスと呼称……敵性生物と認定する。

 散発的に起こるマリスの襲撃を、人類は文明の粋である戦術と兵器で撃退し続けた。しかし、マリスが人の敵でなかったのは十五年の間だけ。

 マリスは劇的な進化をげる。またたく間に人類との力関係は逆転した。

 わずか数年で十億もの命が奪われた。

 世界情勢は瞬く間に様変わる。平和の二文字は地球上のどこにもなくなった。

 そんな劣勢の人類に転機が訪れる。

 武器の獲得と生贄の誕生。

 対マリスの切り札となる武器【ネイバー】を、先進各国が手に入れ始めた。

 そして何より大きかったのは生贄・優先ぎやく対象者【ヘキサ】が生まれたことだった。

 各国政府は、最優先でマリスにねらわれるヘキサをかく・管理し、おとりとして利用し始めた。そしてそれは、西暦2070年、現在も続いている────

 

 ──誰か、

 

 最新の科学技術が盛り込まれた司令管制室──スーパーコンピューターがダース単位で並ぶ。正面には巨大なモニター画面だ。左右にサブモニターが一台ずつある。その内装は、どことなく映画館を思わせた。

 そこでのうこんの士官服を着た少年・少女達がほんそうする。

 青のリボンタイ、右耳にインカムをつける。情報を送受信する彼らの右手の甲には、

 ヘキサの証たる【六角形の刻印】が刻まれていた。

「最終確認に入ります」

 一人の少女が中央に立つ。

 大人びたぼうは、冷たい印象を少女に与える。ロングのつややかな黒髪は、日本人特有の美を宿す。まとう雰囲気も外見通り、実にクールなものだ。

 

「本土の避難状況はどうですか?」

 

 彼女・九重ここのえは、お決まりの確認作業を始めた。

 

かいげんれいは依然、発令中です。東海圏はほぼ完了。首都圏もあと六区となっています」

「順調のようですね。国土交通省から許可は降りましたか?」

「道路封鎖は、ほぼ完了。関東・東海圏、走行中の全列車は、徐行にて最寄りのシェルターステーションに避難。完全終了にはあと三〇分ほどかかるそうです」

「水増しして多めに見積っているはずです。リニアと新幹線が退避したらこちらもOKでいいでしょう」

 

 ヘキサ特別教導軍事学校・【むろ義塾】。

 若年層ヘキサの育成と、マリス戦を専門にする戦闘組織である。彼らは、(各省庁を含む)国家並びにそれに準ずる様々な有権機関に命令を下せる権限を持つ。

 は次々と各省庁とやり取りを行う。すべての確認を終えると上の方を向いた。

 

「司令。前提状況、すべてクリアしました」

 

 一段、高いところにある管制スペースは司令席だ。ごうしやな毛皮のコートで身をくるむ。司令席に座す老婆は、シワだらけの笑みを紫貴たちに送った。

 

「今日もいい仕事っぷりだ」

 

 老婆の名前は氷室らいちよう──この氷室義塾の最高責任者である。

 雷鳥は煙草たばこを一本取り出す。ゆっくりとした動作で火を付けた。

 

「第弐富士の全関係各所に通達。戦闘状況をAに移行させな」

「「了解!」」

 

 雷鳥の一声で、いつせいに生徒達がおのおのの通信箇所に発令を行う。

 紫貴も、インカムのスイッチを入れた。

 

「こちら生途会。生途会・九重ここのえ会長より、本部管理中隊CCV。これより作戦を開始する。ポイントD4に第五戦車中隊ニーマルTK5を投入。支援砲撃は第一特化中隊イチゴーHSP1第二特化中隊イチゴーHSP2。ポイントはそれぞれ、C5とC8」

 

【生途会】とは氷室義塾の情報統括機関で、彼ら生徒達のことを指す。

 生への道すじという意が掛けられ、つけられたネーミングである。

 

「ネイバーはどうなってる? あとどれくらいで出れそうだ?」

 

 雷鳥が担当の男子生徒に問う。男子生徒は何もしやべらないまま雷鳥の方を向く。まるで幽霊でも見たみたいにその顔は青かった。雷鳥はまた聞く。

 

「なんだい?」

「ネイバーフッドが……逃亡しました」

 

 雷鳥を含め、全員に衝撃が走る。その報告は数万もの命をおびやかすものだった。

 

 ──誰か……、

 

 日本第弐ヘキサ保管領・東富士人工島。通称【第弐富士】。

 静岡県東部の南方一〇〇キロ洋上に位置する、総人口・七万人のようさい巨大人工浮島メガフロートである。海底隆起した小島に横付けするように浮かぶ。

 収容ヘキサは六〇〇〇人……日本最大のヘキサ保管領となる。

 むろ義塾に所属するヘキサと、それを補佐する部門別の専門班。そして一四〇〇〇人の自衛隊員がヘキサの防衛任務に就く。

 またヘキサの親族を始めとする民間人や、各施設で働く職員たちも、ここ第弐富士で生活をいとなむ。島には繁華街ブロックなどももうけられ、完全に一つの都市として機能している。

 現在、第弐富士の隣小島では砲声と爆発音が起こっていた。

 

 ──お願いだから、誰か。

 

 一本の廊下が通り、複数の教室が並ぶ。人は誰もいない。

 そこへ黒スーツ姿のエージェントが階段からおどり出た。エージェントは廊下を一直線に走り抜ける。廊下はしのゴミ箱の前に立った。

 手に持つGPSを確認するや、エージェントはそのゴミ箱をひっくり返す。菓子ゴミや空き缶が散乱した。散らばったゴミの中から十字架のストラップが出てくる。

 

「なんてことを」

 

 それは、ストラップを模した小型の発信器だった。

 

「こちらネームW。ネイバーフッドは発信器を捨てていた。カメラの記録だと、そう遠くへは行ってないはずだ」

 

 男は通信を切ると、またその場をけ出した。

 

 ──誰か、誰か、

 

「う! んん!!」

 重い鉄製の引き戸を、小柄な少女が体重を乗せて引く。少女は人一人分くらいのすきをやっとの思いで作った。

 

「シロ!」

 

 足元に置いていた白いアザラシのヌイグルミをつかる。身体からだを挟み込むようにして中に入る。内側から戸を締め、かぎをかけた。

 

「は! は! は!」

 

 ここまでずっと走り続け、少女の心臓は爆発してしまいそうだった。しかし少女───セレンティーナ=エングヴィスは休もうとはしない。

 しゆうれいまゆに、ライトブルーの大きなひとみ。肌は透き通るような白さだ。白いワンピースを着ている。例えるなら西洋人形……れんさと整った美を、セレンはあわせ持っていた。

 だが、セレンのぼうは今、恐怖にゆがんでいる。金色のロングヘアーを揺らし、必死に身を隠せそうな場所を探した。

 セレンは体操用のマットレスを見つける。

 立てかけられていたソレに手を伸ばす。拍子でマットレスが倒れ、セレンの体は下敷きになる。マットレスはカビくさくて、ひんやりと冷たかった。

 

「ふぐ、」

 

 セレンは、ここが寒かった事に初めて気付く。動くのをめると、鳴りをひそめていた不安が暴れ出す。無限の荒野に一人、ほうり出された気分だった。

 

「ぇえ、うぇえ」

 

 ずっと我慢していた涙が、青いひとみからあふれる。

 セレンは止まらない涙をぬぐう。

 右手の甲にはヘキサの刻印があった。ただし、セレンの刻印には六角形の中に【Ⅰ】のローマ数字が刻まれている。全く同じモノが細いうなじにも。

 それは、セレンを苦しめるのろいの象徴だった。

 

「誰か……わたしを、たす、けてぇ」

 

 少女のえつは、一緒に下敷きになったヌイグルミにしか届かない。


f:id:kadokawa-toko:20170419194539j:plain

『エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~』

これは嘘を真実に、空想を現実に変える、いや変えていった人間達の魂の物語である。
西暦2070年。人類が謎の生命体マリスから襲撃を受けて半世紀以上の時が流れた。
「闘うの・・・・・・ヤなの。痛いのイヤ・・・・・・もう全部・・・・・・ヤなのイヤ・・・・・・助けて誰か・・・・・・」
だが、マリスに唯一対抗できる巨大兵器〈黒き魔女〉デストブルムのパイロット・セレンは絶望的な戦いに精神を疲弊しきっていた。
セレンは出撃前に逃亡を謀るも捕縛、無理やり戦場へと出撃させられる。
しかし、その日戦場に奇跡が舞い降りる。
国籍不明の謎の戦闘機が出現、この世界に存在し得ない超兵器で、マリスを一掃する。
盛り上がる人類。
だが、戦闘機から出てきたのはこの世界での大人気アニメ「ドール・ワルツ・レクイエム」のパイロット、エイルン・バザットそっくりの少年で──!?

f:id:kadokawa-toko:20170419190149j:plain

 

このエントリーをはてなブックマークに追加

商品情報


【最新刊】2017年4月25日発売!

f:id:kadokawa-toko:20170419184134j:plain

『エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~ 6』 著:東龍乃助, イラスト:みことあけみ, 汐山このむ, 貞松龍壱
シリーズ既刊好評発売中!

f:id:kadokawa-toko:20170419184531j:plain

f:id:kadokawa-toko:20170419193128j:plain

f:id:kadokawa-toko:20170419193149j:plain

f:id:kadokawa-toko:20170419193210j:plain

f:id:kadokawa-toko:20170419193244j:plain

『エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~ 1~5』 著:東龍乃助, イラスト:みことあけみ, 汐山このむ, 貞松龍壱