とにかく熱くて、火傷する、大人気ロボットノベル『エイルン・ラストコード』一巻をカクヨムで期間限定無料公開!
プロローグ
──アレは、なに?
少女は、青い
大空を
天より舞い降りたソレは、およそ兵器と称するには派手すぎた。
アルファベットのAのような
まるでSFアニメの一カットを、そのまま現実で見せられているような……そんな不思議な感覚を少女は覚えた。
──どうして、そこにいるの?
ここは、
人の手に余る。人類の英知も及ばない。
少女だけに押しつけられた、
──どうして、逃げないの?
怪物なのだ。三十メートル近い全長をした。人なんて
人間をリンゴみたいに
銃弾でも、地雷でも、ミサイルでも止められない。
少女が
それを前にして、
──あなたは、いったい誰?
虚空を
少女を、【人類の最終兵器】をも制した敵は、天空に座す戦闘機を
その絵面はとてもヒロイックで、幻想的だった。その絵を誰よりも近くで見た少女は、絶望の
「あなたはわたしを……助けて、くれるの?」
少女はか細い声でそう聞く。返ってきたのは少年の優しい声だった。
『ああ。俺の全部で君を助ける。だからもう泣くな』
彼女は後に知ることになる。
この少年こそ、少女の闇を
Ⅰ ヌイグルミと魔女
西暦1999年9月9日────人は生態系の頂点ではなくなる。
世界一〇八箇所に同時発生したソレは、大地を、動植物を、人間を、
散発的に起こるマリスの襲撃を、人類は文明の粋である戦術と兵器で撃退し続けた。しかし、マリスが人の敵でなかったのは十五年の間だけ。
マリスは劇的な進化を
世界情勢は瞬く間に様変わる。平和の二文字は地球上のどこにもなくなった。
そんな劣勢の人類に転機が訪れる。
武器の獲得と生贄の誕生。
対マリスの切り札となる武器【ネイバー】を、先進各国が手に入れ始めた。
そして何より大きかったのは生贄・優先
各国政府は、最優先でマリスに
──誰か、
最新の科学技術が盛り込まれた司令管制室──スーパーコンピューターがダース単位で並ぶ。正面には巨大なモニター画面だ。左右にサブモニターが一台ずつある。その内装は、どことなく映画館を思わせた。
そこで
青のリボンタイ、右耳にインカムをつける。情報を送受信する彼らの右手の甲には、
ヘキサの証たる【六角形の刻印】が刻まれていた。
「最終確認に入ります」
一人の少女が中央に立つ。
大人びた
「本土の避難状況はどうですか?」
彼女・
「
「順調のようですね。国土交通省から許可は降りましたか?」
「道路封鎖は、ほぼ完了。関東・東海圏、走行中の全列車は、徐行にて最寄りのシェルターステーションに避難。完全終了にはあと三〇分ほどかかるそうです」
「水増しして多めに見積っているはずです。リニアと新幹線が退避したらこちらもOKでいいでしょう」
ヘキサ特別教導軍事学校・【
若年層ヘキサの育成と、マリス戦を専門にする戦闘組織である。彼らは、(各省庁を含む)国家並びにそれに準ずる様々な有権機関に命令を下せる権限を持つ。
「司令。前提状況、すべてクリアしました」
一段、高いところにある管制スペースは司令席だ。
「今日もいい仕事っぷりだ」
老婆の名前は氷室
雷鳥は
「第弐富士の全関係各所に通達。戦闘状況をAに移行させな」
「「了解!」」
雷鳥の一声で、
紫貴も、インカムのスイッチを入れた。
「こちら生途会。生途会・
【生途会】とは氷室義塾の情報統括機関で、彼ら生徒達のことを指す。
生への
「ネイバーはどうなってる? あとどれくらいで出れそうだ?」
雷鳥が担当の男子生徒に問う。男子生徒は何も
「なんだい?」
「ネイバーフッドが……逃亡しました」
雷鳥を含め、全員に衝撃が走る。その報告は数万もの命を
──誰か……、
日本第弐ヘキサ保管領・東富士人工島。通称【第弐富士】。
静岡県東部の南方一〇〇キロ洋上に位置する、総人口・七万人の
収容ヘキサは六〇〇〇人……日本最大のヘキサ保管領となる。
またヘキサの親族を始めとする民間人や、各施設で働く職員たちも、ここ第弐富士で生活を
現在、第弐富士の隣小島では砲声と爆発音が起こっていた。
──お願いだから、誰か。
一本の廊下が通り、複数の教室が並ぶ。人は誰もいない。
そこへ黒スーツ姿のエージェントが階段から
手に持つGPSを確認するや、エージェントはそのゴミ箱をひっくり返す。菓子ゴミや空き缶が散乱した。散らばったゴミの中から十字架のストラップが出てくる。
「なんてことを」
それは、ストラップを模した小型の発信器だった。
「こちらネームW。ネイバーフッドは発信器を捨てていた。カメラの記録だと、そう遠くへは行ってないはずだ」
男は通信を切ると、またその場を
──誰か、誰か、
「う! んん!!」
重い鉄製の引き戸を、小柄な少女が体重を乗せて引く。少女は人一人分くらいの
「シロ!」
足元に置いていた白いアザラシのヌイグルミを
「は! は! は!」
ここまでずっと走り続け、少女の心臓は爆発してしまいそうだった。しかし少女───セレンティーナ=エングヴィスは休もうとはしない。
だが、セレンの
セレンは体操用のマットレスを見つける。
立てかけられていたソレに手を伸ばす。拍子でマットレスが倒れ、セレンの体は下敷きになる。マットレスはカビ
「ふぐ、」
セレンは、ここが寒かった事に初めて気付く。動くのを
「ぇえ、うぇえ」
ずっと我慢していた涙が、青い
セレンは止まらない涙を
右手の甲にはヘキサの刻印があった。ただし、セレンの刻印には六角形の中に【Ⅰ】のローマ数字が刻まれている。全く同じモノが細いうなじにも。
それは、セレンを苦しめる
「誰か……わたしを、たす、けてぇ」
少女の
『エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~』
これは嘘を真実に、空想を現実に変える、いや変えていった人間達の魂の物語である。
西暦2070年。人類が謎の生命体マリスから襲撃を受けて半世紀以上の時が流れた。
「闘うの・・・・・・ヤなの。痛いのイヤ・・・・・・もう全部・・・・・・ヤなのイヤ・・・・・・助けて誰か・・・・・・」
だが、マリスに唯一対抗できる巨大兵器〈黒き魔女〉デストブルムのパイロット・セレンは絶望的な戦いに精神を疲弊しきっていた。
セレンは出撃前に逃亡を謀るも捕縛、無理やり戦場へと出撃させられる。
しかし、その日戦場に奇跡が舞い降りる。
国籍不明の謎の戦闘機が出現、この世界に存在し得ない超兵器で、マリスを一掃する。
盛り上がる人類。
だが、戦闘機から出てきたのはこの世界での大人気アニメ「ドール・ワルツ・レクイエム」のパイロット、エイルン・バザットそっくりの少年で──!?