第27話 キーラの策略

 何故、あの女があのドレスを着ているの!?



 今日はクリフの卒業パーティーで一緒に出席した。もちろんクリフのエスコートで。でもドレスは、安物のドレスだったわ。今までかなり良いドレスだったのに、最近は何も買ってくれない。買ってほしいと言うとすぐにはぐらかされてしまう。このドレスだってやっと買ってもらった。


 それなのに、あの女は私が欲しかったドレスをきているのよ!

 

 しかも第二王子殿下とシミラールックに見えるじゃない。高貴な方が買っていったって聞いたけどもしかして殿下がエミーリアに買ったってこと!?


 何故!? 何故よ!? あああああ! くやしいいいい!



 私はキーラ・バルト。子爵家の長女ですわ。

 髪は母譲りのピンク色。ふわふわと軽くウェーブもかかっていて、可愛くてとても気に入っているのよ。この学園には婚約者を探しに入ったの。もちろん勉強も大事だと思うけど、学力なんて関係ない。どうせ結婚したら意味がないのだから。『そんなの関〇ねぇー』と踊りたいぐらいだったわ。


 学園に入学して2年以上たったころには沢山の男子生徒とお話をしたけれど、なかなかこれといった家柄の人たちと仲良くなれなかった。そのうちに3年4年と経っていき、早く誰かに決めないとと少し焦り出したころ、髪も瞳も紺色のクリフ・ルピナス侯爵令息を見かけた。


 彼にはエミーリアという婚約者がいたわ。だけど噂によると仲が悪いらしい。一度クリフと一緒にいる所を見かけたけれど、話しをするわけでもない。容姿だって私の方がいいわ。長い黒髪に紫の瞳、あれじゃあ、私の方が断然可愛いわ。何も話さないつまらない、あんな婚約者といるよりも可愛い私といた方がきっと良いに決まってる。


 私はクリフに声をかけた。最初は単に挨拶をするだけで終わらせていたけど、徐々に一言二言増やしていき、仲良く街を歩く程になった。いわゆるデートね。最初は気に入った小さい小物を買ってくれていけど、段々とエスカレートして行き、高価なアクセサリーも買ってもらった。お礼に頬にキスをすれば次はドレスも買ってくれる。

さすがは侯爵家だわ。子爵家とは全然金銭感覚が違った。


 こうなったら、エミーリアとの婚約辞めてもらって私と婚約してもらいましょう。将来、侯爵夫人になるのも悪くないわ。


 でも、どうしたらいいのかしら?


 私がエミーリアから嫉妬で陰湿な嫌がらせやいじめにあっていると言って、そんな女とは婚約破棄をして私と婚約しましょうと言えばいいんだわ。クリフも単純だから、すぐに信じてくれるわ。


 早くしないと、卒業まであと数か月。私はクリフ様を学園の裏庭に呼び出し泣きながら、本当は目薬なんだけど、エミーリアに陰湿な嫌がらせを受けていると伝えた。


「エミーリア様が……私の教科書に落書きをされてしまって……」

「はあ? あの女はそんな事をしたのか?」


 私は自分でインクで落書きした教科書を見せた。


「はい……これです。きっと私がクリフ様とよくお話をしているからですわ。今までにも他にいろいろされて……おりました」

「本当か?」

「そんな方とクリフ様が婚約なさっているのは、不釣り合いです。エミーリア様と婚約破棄をして、私と婚約いたしましょう。私ならクリフ様の心に寄り添えますわ」


 目薬だけど涙を流し、そう訴えかけた。もうイチコロですわ。


「ああ、そうしよう」と言ってくれた。そして、翌日下駄箱の中に手紙が入っていた。差出人不明の手紙だった。


 私の事が好きだから付き合ってほしいっていう手紙かしら?


 封筒を開けると、

『婚約破棄宣言は大勢の生徒のいる前の方が効果的ですよ』

と、書かれていた。一瞬驚いたわ。裏庭でこっそりと話をしていたのに誰かがあの話を聞いていた。少し怖くなったけれど、この手紙の言う通りだわ。大勢の前で言えば、エミーリアも恥をかくってものよ。


 手紙の事は言わずにすぐに、クリフに提案した。


「ああ、それは良い案だね。エミーリアも恥をかけば、心を入れ替えるかもしれない」


 え? と私は思った。別に心を入れ替えなくても良いのに、私はクリフと婚約出来れば良いだけよ、と心の中で思った。心を入れ替えたらよりを戻すなんて言わないわよね? 第一嫌がらせなんて嘘なんだし。早く婚約破棄宣言をしてほしいわ。


 

 数日後、皆が集まる教室で婚約者のクリフが声を高らかに叫んだ。


「エミーリア、君との婚約を破棄する!」


 やっと、やっとだわ! やっと侯爵令息と婚約できるのね。


 ざわつく教室の中で、私はクリフの腕の中に縋るようにくっついた。目を潤わすつもりだったけれど、やっぱり目薬がないと駄目ね。目が潤うどころか乾燥するわ。


「言い逃れは聞かない。そして君より私の心に寄り添ってくれる彼女を手を取りたいと思ってる!」


 カッコよく決めてるじゃない、クリフは。皆の前で婚約破棄を言い渡されて、恥をかきなさい! と思ったのだけど、周りの様子は少し違った。何故か周りの女子生徒の中には、軽蔑するかのように白い目で見る者や、クスクスと笑っている者がいた。それはエミーリアに向けたものではなく、こちらに向けられているような気がした。


 あの女もおかしい。落ち込むどころか、待ってました! と言わんばかりの表情を見せると、すんなり了承した。


「承知いたしました。婚約破棄を承ります。後で、取り消しされても困るので、ここは皆様に証人になっていただかないといけませんね」


 あの女は周りに生徒に微笑みかけると、何故か周りの男子生徒が目を輝かせ、首を何回も縦に振り頷き、女子生徒はうっとりしてあの女を見ていることに気づいた。


 どういう事? こっちには白い目で見るのに、あの女にはどうしてそんな風に見るのよ!


「あ、後で泣きついても……後悔しても……」とクリフも様子がおかしいことに気づいたのか、少し焦り気味であの女に言う。


「しませんわ」


 クリフが言い終わる前に否定した。堂々たる態度にイラついたけど、こちらがイチャイチャすれば少しは何か感じるのかもしれないと思い、クリフに思いっきり縋ったけれど、あの女はスキップしながら教室を出ていった。


 なんなのよ! あの女! なんかイラつく!



 だけど、次の日からクリフは学園に来なくなった。私は心配になって学園の帰りにクリフの家に行った。庭に通され、ガゼボには座ってクリフが来るのを待った。周りを見ると彩とりどりの花が立派に咲いている。さすが侯爵家だわ。


 その後、クリフに会うことができたけれど「エミーリアとの婚約破棄を勝手にしてしまったことが父上を怒らせてしまって……」とクリフは青い顔で言い、レグルス家に頭を下げて婚約破棄を取り消しにしてもらわないと、外に出してもらえないんだと続けて言った。

「え? そんな。それで、クリフ様はどうされるのですか? まさか、行かれないですよね?」

「ああ、行かないよ。せっかく婚約破棄をして、キーラと堂々と一緒にいられるのに、そんな事はしない」


 行かない、と聞いてホッとした。まさかここで頭を下げに行かれたら私の計画がパーになってしまう。それに私はどうしても欲しいドレスを見つけた。子爵家にとっては高価すぎる値段だったからクリフにおねだりしようと思った。クリフなら買ってくれるから。


「ねぇ、クリフ様。この間素敵なドレスを見つけたの。ワインレッドのドレス。シンプルだったけど、素敵な色で、装飾品を付けたらもっと素敵になると思うの。今度、一緒に見に行きましょう」

「あ、う……うん。そうだね。でも、父の怒りが収まらないと……そ、外にで、出れないから。暫く待っててくれよ」


 え? いつまで待てばいいのかしら? あんな素敵なドレス……早くしないと無くなってしまうわ。


 暫くして、クリフは学園に来れるようになったけど、いつまで経ってもクリフは買ってくれない。


「どうして、クリフ様はドレスを買って下さらないのかしら? もう卒業パーティーまであと2か月切ったというのに」


 そして先日、こっそりドレス屋を除きに行ったら欲しかった赤のドレスが無くなっていた。ドレス屋の店主に聞くと、高貴な方が買っていったと言っていた。もしかすると、クリフのサプライズなのかもしれないわ。きっとそうだわ。


 そう思っていたのに、プレゼントされたドレスは安物のドレスだった。

 そしてあの女が私の欲しかったドレスを着ていた。

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