第4話

 その後、ルシアといろんな話で盛り上がり、そして校舎に入った。校舎に入るとそれぞれ自分たちの教室に行く。もう、あの方に遠慮も何もしなくていい、こんなに心が軽くなったのは何年ぶりだろうか?

 私はルンルンと心を弾ませて教室に入った。


「あ、エミーリア嬢、おはようございます」 と男子生徒Aが挨拶してきた。

「おはようございます」


 珍しいわね。彼から挨拶をしてくるなんて。


「おはようございます。レグルス嬢」 と男子生徒Bが挨拶してきた。

「おはようございます!」


 あら、彼も話したことがないのに。


「お、おはようございます。レグルス様」 と男子生徒Cが挨拶してきた。

「おはようございます?」


 だ、誰? どこのご令息なのかしら?


「レグルス嬢! おはようございます!」 と男子生徒Dが挨拶をしてきた。

「おはようございます??」


 え? このクラスにこのような方はいたかしら?


 私と挨拶を交わした男子生徒は、顔を赤らめる人や、「レグルス嬢からご挨拶を頂いた!」と喜んでいる人もいる。中には、違うクラスの人もいたようで私と挨拶を交わすと教室から出て行く。


 ん? 何か変だわ。いつもより男子生徒から挨拶があるような気がする。面識のない、誰かも分からない人からも……いつも、こんなものだったかしら?

 

 私は不思議に思いながら、気のせいだと思うことにした。気のせい、気のせい……


 そして私は自分の机に目を向けると、段ボールの箱が置いてあるのに気付いた。その周りを女子生徒が騒いでいる。


「ごきげんよう。どうなされましたか?」


 私はその女子生徒たちに声を掛けた。


「あ、ごきげんよう。エミーリア様。エミーリア様の贈り物が沢山届いていたので、箱を用意してその中に入れておいたのですが……すみません、こんな箱しかなくて……」


 一人の女子生徒が段ボール箱を置いた理由を教えてくれた。その箱の中にはリボンがついた箱や封筒に入った手紙などが、ざっと十数個ほどが入っていた。


「あなたが、箱を用意してくれたのですか?」


 は、はい、とその女子生徒は恐る恐る返事をした。そしてまた、すみません、こんな箱しかなくて、と謝ってきた。私は段ボール箱に対して文句を言うつもりもない。彼女なりに善意で箱を探したけれど、これしかなかったのだろう。


「いいえ、ありがとうございます。助かりました。箱が無いと私の机の上から落ちてしまいますものね」


 は、はい! と女子生徒は嬉しそうに返事をする。


「でも、どうして私の机にこんなにたくさんの手紙や贈り物が? 送り主は誰かと勘違いされていらっしゃるのでは?」


 私は右手を頬にあて、首を傾げ目の前の女子生徒に聞いた。


「いいえ! 全部すべてエミーリア様への贈り物でございます!!」

「はあ?」


 あ、しまった、また淑女らしからぬ声が出てしまった。でも聞き間違いですよね、私宛の贈り物なんて。

 しかし、箱の中を確認すると、確かに私の名前が書かれている。


「あ、あの! 婚約が無くなってエミーリア様がフリーになられたので、皆さんがごそって贈り物やお手紙を持ってこられたのだと思います! な、中には私からの手紙もあるので読んでください!」


 女子生徒は顔を真っ赤にしてそう言うと、もうすぐ授業が始まるというのにどこか走って行ってしまった。確か彼女は同じクラスのリリエラ・ハミルトン子爵令嬢。あまりおしゃべりをしたことがないけれど。


 彼女の説明で贈り物や手紙がここにある理由は理解したけれど、最後のあれは何? 私の手紙もあるので読んでくださいって、え? 彼女からの手紙? 女の子よね? 何故?


 どうも、周りの様子が変だ。私は考えても仕方が無いのであまり深く考えずに席に着いた。カバンの中から教科書を取り出し、机の中に入れようとしたら、パサパサと数枚、何か落ちてくる。それを拾うと手紙だった。


「え?」


 まさかと思い、私は机の中を覗き込む。


「……」


 机の中にもリボンのついた贈り物の箱が三個入っていた。少し頭が痛くなってきたわ。一体何なのかしら……

 贈り物の一つを手に取ると、周りにいた女子生徒が、あ! と声を上げる。

 今度は何かしら? と私が声を上げた女子生徒を見る。

 華奢で私より少し長身のスラっとした女子生徒が……彼女も顔を赤らめている。彼女はたしかミナリー・バルティア子爵令嬢。


「エミ、エミーリア様、それは私からの贈り物ですわ。使っていただけたらとても嬉しいです」

「……あ、ありがとう……ございます?」


 何故? 彼女も私に贈り物を?

 まあ、取り合えずお礼を言うと、「キャー、エミーリア様からお礼のお言葉を頂いたわー!」と言ってミナリ―も藤色の髪を靡かせ、走って教室から出て行ってしまった。もう授業が始まってしまうのだけれど。

 私は、恐る恐る周りを見渡した。目が合うと顔を赤らめる男子と恥ずかしそうに眼を逸らす女子。


 一体何なのかしら? 皆様はどうしたというのかしら?


◇◇◇◇


 今日一日、様々な方からじっと見つめられ、目が合うと顔を赤らめられ、何とも居心地の悪い一日となった。お昼には、余りの居心地の悪さにルシアと二人で昼食を中庭で頂いたけど、可憐で控えめなルシアと一緒だと逆に悪目立ちしてしまった。


 ベンチに座って、ランチボックスを開ける。先程食堂で買ってきたものだ。今日はサンドウィッチ。野菜やハム、フルーツサンドも入っていて彩りが綺麗だった。一口食べるとパンはふわふわで、中に入っているパリパリのレタス、卵焼きがとても美味しい。ルシアの表情を見てもとても美味しいというのが伝わってくる。


 そして彼女は、皆の前では猫を被っているいるのではないか、と思う程、本当に何に対しても控えめで話し微笑む。すると、周りの生徒たちの周辺には、ほわ~っと花が咲いたように見えた。さすが、ルシアだわ。微笑みで絵になる。それに釣られて私も微笑むんだが、その直後、顔が引きつりそうになった。周りの生徒の花が一段と咲き誇ったのだ。


 んん!? 生徒たちの周りの花が一段と咲き誇ったように見えたのは何故?


 はあ、と軽く溜息を吐いたそんな私を見てルシアは、そっと小声で話した。


「大変な事になりましたわね」

「どうなっているのよ。 落ち着いてご飯も食べれないじゃない」

「ふふふ。それだけエミーリア様が魅力的なのですわ。私はこんな方が私の義妹になるなんて、鼻が高いですわ。そうだわ。私、エミーリア様の事を『お姉様』と呼んでもよろしいですか?」


 ルシアは目を輝かせてこちらを見る。いくら私よりルシアが年下でも、立場上、兄の婚約者だ。こちらが義妹でルシアを『お姉様』と呼ばなければならない。


 そ、それは……、ダメと言おうとしたら、ルシアが立ち上がり私の方を向いた。何か嫌な予感がする。ルシアが良からぬことを考えていなければ良いのだけれど、額から汗が流れてきた。


「お姉様! 食後の散歩でもしましょう!」


 ルシアは、そう控えめに……いえ、控えめでない声で言った。それを聞いていた女子生徒たちは、キャー! と声を上げる。


「ルシア様がエミーリア様を『お姉様』とお呼びになったわよ」


 そう一人の女子生徒が言うと、見に覚えのある二人の女子生徒がこっちに向かって走ってきた。今朝、手紙をくれたリリエラと贈り物をくれたミナリーだ。まだ中身は確認していないけれど。


「エミーリア様! わ、私も! 『お姉様』と呼んでもよろしいでしょうか!」

「わ、私も! 『お姉様』と呼んでもよろしいでしょうか!」


 彼女たちの、余りにもの物凄い勢いで言われ圧倒されて「は、はい」と返事をしてしまった。しまった、と思ったけれど、時はすでに遅し……。

 興奮した二人のご令嬢はきゃっきゃっと大喜び。そして、その後は何故かそのお二人も一緒に数分の散歩をすることになった。






 


 

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