第18話
「恐ろしいですわね。そこまで執着して情報を得ようとするのは」
メイナードの執着に対して、ルシアも両腕で自分の体抱きしめるようにしてブルブルと震えていた。ミナリーの行動は褒められるものではなかったけれど、その行動があったからこそ、私がメイナードの側近に跡を付けられていることを知れたのだ。逆に言えば、ミナリーがいなければずっと知らないままだった。何かされたわけでもないのだけれど、流石に怖い。
でも、とリリエラが伏し目がちになり、とても言い難そうに口を開く。
「第二王子殿下の肩を持つわけではないのですが……お姉様の事をちゃんと考えていらっしゃるような気がするのです。今日の待ち伏せも、規律が守られた学園の中でした。あれが校門から出た外で……学園の規律が効かない場所で待ち伏せをされていらっしゃったら……私たちもどうすることも出来ませんでした。安全な学園内だったので、私たちも先程は強気に出れたのです。そう思うと殿下も王家の強制力、権力を振りかざしたくなかったのではないのでしょうか。だから、学園内で待ち伏せをしていたように思われました。感情表現が下手な方なのかもしれません。回りくどいことをしないで素直に自分を見てほしい、と言えばいいような気もします」
小難しい分かりにくいやり方だわ、と思ったけれどリリエラの言う事にも一理あると思った。先日の手紙もそうだった。
「先日の手紙……私の兄も手紙の事で似たような事を言っておりました。簡易的な手紙で王家の刻印がないから、逃げ道を作ってくれていると」
「刻印があると正式な手紙になってしまいますものね。そうなると否応なしに王家の強制力が働いてしまいます……それに思いの外、かわいいところがおありなようで」
ルシアの一言に皆が目を見開いた。私は素っ頓狂な声が出そうになったので慌てて口を両手で抑える。何故、口に手を当てているのかとリリエラとミナリーは私の様子を不思議そうに見ていた。
「だって、他の人と同じように普通にしてみたかったっておっしゃっておりましたわよ。普通の男の子って感じだったわ。好きな子に手紙を渡そうなんて。案外とロマンチストな方なのかもしれませんわよ」
「普通の男の子でロマンチストでもあそこまで執着やストーカー行為はしないと思いますが」と私は呆れてしまう。それにあの手紙はロマンチストも何もなかった。ときめきも何もない、半分脅しのようなものだった、私にとっては。
「それもそうね。かなり性格が歪んでいるわ。権力をかざせば自分の思う通りになるのに、そうしない。だけど、ちょっとは自分の方に向いてくれ、と言って中途半端な権力を振りかざす。本当に歪んでいるわ」
ルシアも第二王子殿下に対してちょっと失礼な物言いをする。だけどあれほどのストーカー行為をされると、本当に歪み方が半端がないんじゃないかと思ってしまう。
「でも、お姉様。私、父から聞いたのですが、確か王家は代々、公爵家か侯爵家から王太子妃、王子妃を選んでいると。それは本当なのですか?」
メアリーの言葉に「そうなのよね」と私は頷いた。
「え? ちょっとお待ちください。それでは第二王子殿下と伯爵家では国王から婚約の許可が下りないということでしょうか?」
リリエラは小首を傾げて尋ねる。確かに、王家が公爵家か侯爵家からという話は、私も父から以前聞いた。婚約、結婚が出来ないと分かっているのに、どうして私にこだわるのかが分からない。どうしたって伯爵令嬢の私では国王に認められない。認められないから、あんなややこしい婚約を私はさせられたのだ。それなのにメイナードはお構いなしに私に執着してくる。何を考えているのか理解に苦しむ。
三人とも、うーんと考え込んだ。そしてルシアがチラリと横目に、いつもの高めではなく少し低めの声で私に聞いてきた。
「お姉さーま、少々お聞きしたいことがありますの」
なんだか、怖い。何を聞かれるのだろうか、とこめかみから汗が流れる。
「国王が公爵、侯爵しか認めないと言っておられるのに、殿下はどうしてそこまでお姉様にこだわるのかが不思議なのです。何かあるんじゃないかと……私たちに話していたいことがありますわよね?」
今度は可愛らしいピンクローズの瞳でルシアは私をジロリと睨む。
あると言えばあるけれど、学園入学前の話だ。それに、あれは話しても良いものだろうかと悩む。別に口留めされていない、話しても問題ないだろうと思うけど。
「あるのね! お姉様!」
ルシアは一段と厳しい口調になり、「はい!」と言ってしまった私。ルシアはふうと息を吐くと、「話してください」と静かに言った。
ルシアは怖い。もうすでに義姉の貫禄が出てきているのではないだろうか、と思ってしまう。私の方がルシアに対して『お姉様』と呼びたくなってきた。
私は、もうどうにでもなれ! と心の中で叫び、意を決して話した。でもちゃんと口外しないでと口止めはしたわよ。一応……。
・お忍びで領地に来ていた王太子とメイナードとは幼い頃に一緒に遊んだ仲だった。けれど、記憶にある遊びが従事者や騎士にやられる役をさせたりだった。当然、その頃は王太子とメイナードとは思いもしなかった。
・その後にルピナス領で大雨による災害が起き、復興するために大金が必要だったルピナス領は王家に資金を貸してくれないか、と頼むが王家にもそれだけの資金を提供できなかった。
・そこで、祖父の代でルピナス家が知り合いだった我が家レグルス家に資金提供をお願いされ、資金提供をした。
・けれど、その金額はすぐに返せるような額ではなかったため、祖父が孫の私をルピナス侯爵家に婚約し結婚してくれるのであれば、資金は返さなくてもいいということにした。
・しかしこの案が祖父の案だと思っていたのだけれど、実際は、二人の王子たちが私と婚約したいと言い出したため、王家が早めに私を誰かと婚約させたかった。それでこれを機に王家は、私とクリフを婚約させる提案をし、婚約させた。
と言うことを三人に説明した。まだ言っていない、婚約解消、取り消し、離婚した場合の条件等の云々はあるけれど、そこまで言う必要はないわよね、と心の中で呟く。
「「「……」」」
内容が衝撃だったようで三人は暫く黙っていた。確かに私も聞いたときはびっくりだった。しかも、初めて聞いた時の話より2回目に聞いた話の方が衝撃だった。だって、最初に聞かされていない事が2回目の時に聞かされた内容もあったからだ。
結局はあの婚約は国王が自分たちの都合で決めたようなものだった。
シーンとしていた三人の令嬢で真っ先に口を開いたのがミナリーだった。
「お姉様のご婚約にはそんな事情があったのですか」
彼女は今にも泣きそうな顔になっていた。
私は次にリリエラを見るとギョッとした。彼女の頬に涙が伝っていたのだ。私は慌ててハンカチを彼女の手に渡すと「ありがとうございます」と言って涙を拭う。
「国王も国王です! お姉様の何が気に入らないというの? 私、悔しいです。こんな素敵なお姉様を!」
リリエラはそう言うと、せっかく拭いた涙がまた流れ出し、泣き崩れた。私のために泣いてくれる彼女たちに対して本当にうれしく思った。ルシアと言うと、ピンクローズの瞳が怖い、怒りに満ちているようだった。
「ル、ルシア様。お、落ち着いて下さいね。可憐なお顔が怖い顔に……ひぃっ!」
ルシアは怖い瞳で私を睨みつける。
「この国は、王家は、国王はどうなっているのですか!? これではお姉様が可哀そうです……」
とうとうルシアまで泣き出した。
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