第28話 飛行する騎士型アーマー!

「新しい……アドヴァンスド・アーマー……?」


 白銀の装甲に、金色の縁取ふちどりのような装飾。

 ふたつの目を覆い隠す、スリットの入ったバイザー。

 そして左手に握られた、ブレイクエッジほども巨大な鉄騎槍てっきそう――すべてが、俺がカタログでもゲームでも見たことのないアーマーだ。


「聞こえてますか、ケイシーさん!? どうなってるんですか、あのアーマーは――」


 あれはいったい何なのか、ケイシーさんは何を考えてるのか。

 俺が通信先の返答を待つよりも先に、騎士型のアーマーが襲い掛かってきた。


「うおおッ!?」


 槍を突き立ててきた瞬間に鳴り響く、アーマー内の警告音。

 先端がディバイドの頬をかすめる音は、ホログラム相手の反応じゃないと確信できる。

 仮想的との戦いのはずが、いつの間にかアーマー同士の戦いになってるのは訳が分からないけど、一方的にやられる理由はない。


「なんだか事情は知らないけどな、いきなり攻撃されて黙ってられるほど、俺は人間ができちゃいねえぞ!」


 ぐっと構えた俺に対して、騎士はもう一度槍の突きを放ってくる。

 攻撃は鋭い反面、直線的で、見切れない速さでもない。


「槍のリーチは脅威でも……この距離なら、踏み込んで殴れる!」


 俺はインパクトナックルを展開して殴ろうとしたが、拳は見事に空振りした。


「なっ……!」


 なぜかって――謎のアーマーが、ふわりと宙に浮いたからだ。

 いや、浮いたんじゃない。


『…………』

「空を……飛んだ……!?」


 騎士が、空を飛んでいる。

 足から噴き出すマナ・エネルギーが、アーマーを空中に飛ばしてるんだ。


「あのブースターで浮いてるのか!? 飛行能力を持つアーマーなんて、聞いたことないぞ!?」


 まるでロケットのエンジンのように、足の装甲がマナを放つ勢いが強くなる。

 ただふわふわと空中を漂っているだけだなんて、そんなはずがない。


『……!』

「やべっ!」


 空中で鉄騎槍を構えたアーマーが、俺めがけて突進してきた。

 今度は地面で迎え撃った時とは、比べ物にならない速さと勢いだ。

 この攻撃は、ほとんど反射的に回避できたけど、振り向いた時にはもう、騎士型アーマーは方向転換して俺に狙いをさだめてやがる。


(速い、それに鋭い! どうやら槍以外の武器は持ってないみたいだけど、あんなのが直撃すれば、いくらディバイドでも……!)


 なんて考えているうち、二度目の槍の一撃が飛んできた。

 今度はかわしきれない――拳で切っ先を弾くのがやっとだ。


「ぐ、うあああッ!」


 脇をかすめた程度なのに、アーマーの装甲がきしむ嫌な音と、にぶい痛みが全身にはしる。


(槍の一撃が重い……拳で直撃コースを逸らしても、ダメージがデカすぎる!)


 アーマーの内側で歯を食いしばっている間にも、騎士は攻撃の手を緩めない。

 四方八方、縦横無尽に飛び回る槍の突撃は、少しずつディバイドの装甲を削ってゆく。

 これでもまだマシな方で、もしも俺が一瞬でも気を緩めれば、鉄騎槍は間違いなくディバイドの動力部分を貫いて機能停止に追い込んでるぞ。


『シミュレーションダメージ、50%。シミュレーションダメージ、50%』

「分かってるっつーの!」


 モニター上に悲鳴が浮かび、危険を示すシグナルが鳴り響く。

 このままじゃ一方的にやられる。

 ソーマ・エレクトロニクスの施設の中だし、ダメージが限界を超えても倒れたりはしないだろうけど、それじゃあしゃくじゃないか。

 だったら――こっちも、遠慮してやるのは終わりだ。


「ちょうどいい、を試すチャンスだ!」


 どうにか突進をかわしつつ、俺は拳をぐっと握りしめる。


「『レッドブースト』――シグナル『セカンド』!」


 そして『キーワード』を叫ぶと、ディバイドの内側と外側、両方に変化が起きた。

 顎の装甲が外れ、青い炎が噴き出す。

 モニターが赤く染まり、カウント数と制限時間が表示される。

 しゅう、しゅう、とうなる赤鬼の変化を待たず、騎士は突進してきた。

 その判断は、間違いなく正解だぜ。


『……!?』


 俺のディバイドが、正面から飛んできた槍を騎士ごと受け止めるというイレギュラーを除けば、だけどな。


「どうした? 槍の一撃を受け止められるなんて、予想もしてなかったか?」


 ごうごうと放たれる騎士のマナ・エネルギーと加速も構わず、ディバイドは槍の先端を握り締めて、まったく離さない。

 赤い鬼の目を通して敵を見ると、相手がひどく驚いているようにも見える。

 そりゃそうだ、こいつはダンジョンズ・ロアで一時期話題になったあの『レッドアラート』に似た力なんだからな。


「俺が使ったのは、『レッドアラート』のシステムを応用したオリジナルのスキルメモリだ。『ファースト』から『フィフス』の順にリミットを外すたびに強くなる」


 そう、これがケイシーさんの造った新機能。

 レッドアラートの調整可能バージョン――『レッドブースト』。

 総合的なパワーは劣る代わりに、俺がぶっ倒れたり、相手に致命的なダメージを与えたりっていうリスクは排除された。

 もちろん、リミットを限界まで外せば、とんでもないパワーを解き放つことになる。

 少なくとも、突進の速度を殺された騎士相手なら、今の制御で問題ない。


「『2』じゃ、さすがに本物ほどの馬力は出ないけどな……槍を掴んで、お前を持ち上げるのには、十分だあああぁッ!」


 俺は槍の先端を一層強く握り、上に持ち上げる。

 強烈な衝撃とブースターの勢いが圧し掛かるが、ディバイドなら競り負けない。

 父さんの造った最強のアーマーなら――いける!


『……ッ!』

「おらあああああッ!」


 勢いよく槍を振り回し、俺は騎士型のアーマーごと床に叩きつけた。

 みしみしと床が砕ける音が響き渡り、ブースターからマナが噴出されなくなる。

 つまり、これ以上敵は飛ばなくなったってわけだが、そこでおしまいにしてやるわけがないだろ。


「ハァ、ハァ……悪りいが、もう情けなんてかけてやれねえぞ。『インパクトナックル』で頭をぶん殴って、しばらくの間、寝ててもらうぜ」


 インパクトナックルの装甲を拳に展開し、マナを溜める。


「こいつで、終わりだ――」


 騎士型アーマーが再び動き出す前に、俺は思い切り拳を振り下ろして――。




『そこまでよ、瑛士クン!』


 ――その手を、止めた。

 騎士の頭部を砕く前に、ケイシーさんの声が部屋中に響いたからだ。

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