第2話 ダンジョンズ・ロア!

 ――蔵でアーマーを見つけた俺と深月は、ダンジョンに向かった。

 アーマーはひとりでもふたりでも運ぶのは重すぎるから、専門の業者に頼んで施設まで運んでもらった。

 俺達はトラムに乗って、あっという間にダンジョンへ。

 トラムを下りた俺たちの前に広がるのは、ダンジョンの中でも人々が往来する場所。

 今やここは、第2階層までならショッピングモールと変わらない。

 わいわいがやがやと人で賑わうダンジョンの『シティエリア』を抜け、俺達はダンジョンズ・ロアの受付までやって来た。


「――では、これで冒険者登録は完了です!」


 そしてニコニコ笑顔の受付嬢さんに契約用タブレットを返して、今に至る。

 ちなみに、ダンジョンズ・ロアの参加条件とルールをかいつまんで説明するとこうだ。


 ☆準備

 ①事前登録。個人情報に加え、誓約書※1もここで記入する。登録更新は年に1回。

 ②運営側から指定された条件のダンジョンを選び、参加申請を出す。

 ③当日、カウンターで使用するアーマーとスキルメモリ※2を登録する。毎回変更可能。

 ※1……スマホゲームの利用規約みたいな感じ。読むやついないだろ。

 ※2……ダンジョンのマナを使って、魔法を使えるようになるメモリ状の装備。


 ☆ゲームの流れ

 ①ゲーム開始と同時にダンジョン形成、モンスター出現。

 ②必要な数のモンスターもしくは冒険者の討伐、あるいは宝物トレジャーの回収。

 ③一定数目標を達成した冒険者が出た時点でゲーム終了。

 ④討伐数やクリア順位、被ダメージ量および技術点を加減し、経験値として付与。

 ⑤一定数経験値が溜まる+実績が認められると次のランクに昇格(降格もある)。

 ⑥ランクはビギナー→ブロンズ5~1、シルバー5~1、ゴールド5~1、プラチナ5~1。

 ⑦アーマーが機能停止、もしくは生命活動が危ぶまれる状態になると強制送還されて失格。


 とまあ、ここまでがダンジョンズ・ロアの説明だ。

 一昔前に流行ったVRMMOがもっと画期的になった、って感じかな。


「このままダンジョンズ・ロアのゲームに参加されるとのことですので、そちらのエレベーターに乗って、準備を整えてください! 最初のゲームはビギナーランク、向かう階層は固定となっております!」

「ど、どうも……」


 やけに明るい受付嬢さんに手を振りながら、俺達はエレベーターに乗って地下に降りる。

 ダンジョンズ・ロアの舞台になる第30階層まで、俺と深月のふたりきりだ。


「……何回来ても、ダンジョンってのは慣れないな」

「そう? 漫画の中の世界みたいで、私は好き」


 どこか楽しそうな深月がスマホを操作すると、ホログラムで俺のアドヴァンスド・アーマーが浮かび出てきた。

 今やスマートフォンは、ダンジョンの中でも電波が通じるものばかり。

 立体的に映像を表示するのも、ダンジョン由来の技術だ。


「それより『ディバイド』を軽く点検させてもらったけど、おかしなアーマーだね」

「おかしいって、どこが?」

「『スキルメモリ』のスロットがないから、魔法スキルが使えない。武器もひとつだけ……代わりにマナ総量と放出量が、常軌じょうきいっしてる。これじゃあ、ダンジョン探索用のアーマーというより、動く鈍器みたい」


 スリムでヒロイックな外見だけど、右腕にどでかい装備が取り付けられてる。

 そのアンバランスさも相まって、こいつは機械化した鬼とでも言うべき外見だな。

 そんなことを考えてると、エレベーターが止まった。


「とにかく、頑張ってくるよ。俺なりに、やれる範囲でだけど!」

「……心配ない。瑛士は本当に、すっごく強いから」


 深月は珍しくにっこりと微笑んで、開いたドアから観客席の方に歩いていった。

 俺はというと、案内に従って出場者側の通路を進んでいく。

 初めてのダンジョンズ・ロアだっていうのに、制服のまま来たのはまずかったかな。


「どうせなら、もうちょっときちっとした服を着てくればよかった――」


 薄暗い通路を歩いてるうち、ひらけたところに出た。


『――レディース! アーンド! ジェントルメーンっ!』


 その途端、割れんばかりの歓声と実況音声が、俺の耳に飛び込んでいた。

 次に視界に入ってきたのは、某Tドームと見まがうほど広い石畳の広場と、それを取り囲む満員の観客席。

 これが――ここがダンジョンズ・ロアの舞台。

 人類がダンジョンを支配して、新たな、しかも世界的な娯楽へと変えた結果だ。


『本日最後のゲームは、ひよこちゃん冒険者が始めてダンジョンに挑む、ビギナーランク戦だよ~っ! 未来のマスターランクを目指して頑張ろうね~っ!』


 あまりの勢いに気圧されてる俺の隣に、地面が開いてアーマーがせり出してきた。

 今更だけど、父さんが作ったこの『ディバイド』は未完成品だ。

 左側の腕と背中の装甲が足りなくて、黒いフレームが剥き出しになってる。


「ただで使わせてもらってる以上、文句は言えないな」


 俺はひとりごちてから、山ほどいる他の冒険者がしているのと同じように、アーマーの後ろに立って、展開部から装着する。

 真っ暗な画面に、すぐにモニターと外の光景が表示された。

 アーマーを着こんでいるのに、何もつけていないように視界がはっきりとしてる。

 ごつい外観とは裏腹に、着心地はずっと爽やかで、密着感もあるな。


『もちろんこのゲームも、他のゲームと同じように全世界に配信中っ! 超クールにモンスターをやっつけるところを、パパママ友達に自慢できちゃうかも!』


 実況の音声がすごくはっきりと聞こえる。

 モニターの中では、ダンジョンの地理情報とか装備、エネルギー源になるマナ総量、その他諸々のデータが表示されては消えていく。

 ああ、感覚としては完全にあれだ。

 モーベル映画の『ブロンズマン』。

 無敵のパワードスーツを装着して悪を倒す、あのスーツだ。


「だ、大丈夫かなあ……」

「やってやるぜ! ビギナーランクなんて、すぐにクリアしてやる!」

『それじゃあ、今回のクリア条件と人数を発表しちゃうよ~!』


 他の冒険者の不安半分、興奮半分の声を聞いていると、ダンジョンの中央にふわふわと浮いている巨大なモニタードローンに、モンスターの姿が表示された。


『クリア条件は『ブルースライム3匹の討伐』、クリア人数は5人! 参加者は30人いるから、スライムを見つけて即ぶちのめすか、邪魔な冒険者を叩きのめすかはキミたちの自由! 思うがまま、ダンジョン探索とバトルを楽しんでいこ~っ!』


 今、観客席の上にぐるっと設置されたロングモニターに表示される俺や、他の市販のアーマーをつけた冒険者は協力者であり、ライバルでもあるんだな。


『ああ、それと今回はデス・トラップ枠として『デンジャーモンスター』、キミたちの今のランクよりずっと上のランクで討伐するモンスターが配置されてるよ! デカい、強い、怖いの三拍子そろったモンスターってすごくな~い?』


 で、なんだかよく分からないトラップもあると。

 モンスター自体がどれだけ危険か知らないから、デカい、強い、怖いと言われても。


『倒せば即ゲームクリア+ゲーム終了するからMVPは間違いなしだけど、まず勝てないし何人も半殺しにされてるから逃げるのが吉だよ~ん!』


 だけど、倒すだけでクリアできるなら、そいつと戦うのも視野に入れておこう。


『さ~てさてさて、御託はこの辺にして! ダンジョンズ・ロア――』


 何もない殺風景の空間に、巨大なダンジョンの壁が地面から飛び出してくる。

 幾重、何重にも連なるそれらが俺達を囲み、文字通りの迷宮を生成した時――。




『――エクスプローション・スタートっ!』


 ブザーの音と共に、ダンジョンズ・ロアの幕が上がった。

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