第3話 一撃必殺!
ゲーム開始とともに、とてつもない大歓声が、ダンジョン中に響いた。
「よーし、行くぞ!」
「真っ先にクリアしちゃうもんね!」
今は壁のせいで姿が見えない冒険者達が、駆け出す音が聞こえる。
(さてと、スライムってのを倒さないといけないんだけど……すごいな、ダンジョンって)
一方で俺はというと、初めて生で見るダンジョンにちょっぴり感動してた。
深月に無理矢理誘われた時は乗り気じゃなかったけど、こんな光景を見せられたらワクワクしないわけがないよな。
(デカくて長い壁に、青い空と風は人工気候だっけか? ダンジョンが出現した時には人類が滅ぶなんて言われてたけど、1年くらいで制圧して、技術研究の末にこんなもんを作っちまうんだから。人間の底力もバカにできないもんだ)
だけど、いつまでもぼんやりしてるわけにはいかない。
なぜなら通路の向こうから、小型犬程度の大きさのブルースライムが跳ねてきて、それを追いかけるアーマーがふたつ迫ってきたからだ。
あれは確か、『アドベンチャー』って商品名のアーマーだ。
角ばってごつごつした、目がひとつのアメリカ製のアーマー……だったような。
『キューン! キューン!』
「待て、スライムめ! スキルメモリ発動、『フレイムランス』!」
冒険者のひとりがスキルメモリ――手のひらサイズのUSBメモリのようなアイテムを腕のプラグに差し込むと、炎がスライムを襲う。
これも生で見ると感動ものだな。
アーマーのマナ容量に回数が左右されるうえに、ダンジョン限定だけど、人間が魔法を使えるなんて、10年以上前じゃああり得ない話だ。
「お、言ってるそばからスライムだ。他の冒険者より先に倒さないと……」
とにかく俺も、さっさとスライムを倒してゲームクリアしないとな――。
『――ゴオオオオオオッ!』
なんて考えてると、不意にスライムの姿が消えた。
いや、消えたんじゃない。
壁を壊して飛び出してきた巨大な石造りの足が、踏み潰したんだ。
そいつは信じられないほど、高い壁に迫るくらい巨大な岩でできたゴーレムだった。
顔には三つの目がついてて、その全部が、さっきスライムを追いかけてた冒険者に向けられてる。
「うわあああ!」
「す、スキルメモリ……ぎゃああ!」
冒険者も装備した剣や魔法で応戦しようとしたけど、腕で薙ぎ払われて吹っ飛んだ。
壁に激突して動かなくなったそいつらの姿が、ぱかっと扉のように開いた地面の中に吸い込まれていく。なるほど、強制送還ってのはこういうことか。
「……こいつが実況の言ってたデンジャー、ってやつか」
危険なモンスターが俺をじろりと睨むと、実況席だけじゃなく観客席まで沸き上がる。
『おっとっとぉ! これはツイてない、早くも複数の冒険者がデンジャー枠のAランクモンスター『ヘカトンケイル』と遭遇しちゃいました! わはは、あんなデカい足で踏み潰されたらトラウマになっちゃうかもですね~っ!』
実況者の声も、モニターを流れる大量のコメントも、どこか楽しそうだ。
さしずめ俺達はグラディエーター、あいつらは富裕層って感じだな。
『おやおや、まだ逃げてない冒険者がいますね? 大人しく逃げた方がいいですよ~!』
ヘカトンケイルとやらは、すっかり俺を標的に定めてる。
逃げようったって、俺が立ってるのはスタート位置だ。動きようがない。
(んー、スライムも一緒に踏み潰されちまったし、探すのも面倒だしなあ)
そもそも、逃げる気なんて毛頭ない。
俺の考えはひとつ。
「――こいつ、ぶった斬る方が早いんじゃね?」
結論は出た。このデンジャーモンスターってのを倒して、ゲームクリアだ。
『ガアアァァッ!』
ヘカトンケイルが拳を振り下ろすと、『
けどそれは、俺は敵の攻撃に当たった時の話だろ。
「よっと」
俺が地面に踏み込んで跳躍すると、ヘカトンケイルの岩の拳がダンジョンの床を粉砕した。
俺はというと、まだ宙を跳んだままだ。
なんで俺が、こんなに身軽に動けるかって?
祖父がジークンドーの達人で、ガキの頃からいろいろ仕込まれてたからだよ。
ついでにいうと、このアーマーには身体能力をハチャメチャに強化する機能がある。
深月
『あ、あららぁ!? あのひよこちゃん冒険者、ヘカトンケイルの攻撃を避けたぁ!?』
驚く実況者とコメントの流れが、心地いい。
(えっと、さっきモニターに表示されてた武器は1種類。父さんは、当たればビルくらいデカいモンスターでも一撃必殺とか言ってたし……なんとかなるだろ!)
せっかくだし、もう一回驚かせてやるとするか。
ディバイドを装着したのは今日が初めてだけど、表示される武器の使い方は分かる。
父さんが昔、狂ったように使い方を教えてくれたから。
「『ブレイクエッジ』、展開! マナチャージ、最大出力!」
右腕の装備が展開して変形したのは、俺の身の丈ほどもある巨大な剣。
マナを纏い、背部から青い炎を模したマナを解き放ち、俺は一気に――。
「どりゃあああああッ!」
体ごと、刃を振り下ろした!
『ギャギィイイイイイイッ!』
ヘカトンケイルの頭に刃が突き刺さり、バターのように真っ二つに斬り裂いてゆく!
敵のデカさなんて関係ない。
マナを纏った青い刃を止められるものはどこにもない!
『ゴゴ……オオォ……』
俺の足がもう一度地面に着いた時、ヘカトンケイルの体が凄まじい音を立てて倒れた。
壁にもたれかかるどでかい体は左右に分かれるし、ありゃ立ち上がらないだろうな。
「……ふう。なんか、思ったよりもあっさりと倒せたな」
展開していたブレイクエッジを格納して、俺は天井とドローン、ふたつのモニターに目をやった。
映っているのは、モンスターの青い血を浴びた、赤鬼のような出で立ちのディバイド。
そしてそれは瞬く間に実況席と、
『――アンビリバボーっ! 信じられません、デンジャーモンスターをビギナーランクで倒す、前代未聞の事件が今この瞬間、私達の目の前で起きましたっ!』
次の瞬間、割れんばかりの大歓声がダンジョン中にこだました。
客席はスタンディングオベーション。
モニターにも、信じられない量のコメントが流れてる。
“やっばwww”
“こいつ強すぎだろ”
“はい推し確定”
“赤鬼の彩桜って呼ぼうぜ”
“ガチ推し不可避”
この歓声、悪くないな。
成り行きでゲームに参加したけど――最強を目指すってのも、面白そうだ!
『ええと、たった今ダンジョン探索をクリアしたプレイヤーの名前は……え、嘘、あの彩桜瑛士です!』
モンスターの死骸も回収され、アーマーを着たままの他の冒険者が突っ立っているのを眺めてる俺の耳に、興奮が途切れる様子のない実況者の声が聞こえてきた。
『現在ブロンズランクで頭角を現した、ソーマ・エレクトロニクスの専属冒険者――蒼馬深月が言っていた噂の婚約者です!』
え?
婚約者って?
俺が、深月の婚約者?
「ちょっと待て、そりゃおかしいぞ――」
アーマーを脱いだ俺の反論は、一切聞き入れられなかった。
マイクとカメラを担いで爆走してくるインタビュアーの群れと、その後ろをなぜかついてくる深月によってもみくちゃにされたからだ。
――こうして俺のダンジョンズ・ロアの初陣は、とんでもない注目を浴びる結果になった。
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