ダンジョンバトル配信でバズって【赤鬼】と呼ばれてる俺が、クーデレ幼馴染と世界最強になるまで

いちまる

第1話 彩桜瑛士!

「――瑛士、『ダンジョンズ・ロア』に出てほしいの」

「は?」


 俺――彩桜さいおう瑛士えいじは、突拍子もない幼馴染の声にぽかんとした。

 高校2年生になってから、久しぶりに俺の家に遊びに来た彼女――蒼馬そうま深月みつきはリビングでそう言ってから、軽く首を傾げた。


「一から説明した方がいいかも。ダンジョンズ・ロアはダンジョン配信型バトルアリーナ、常にトレンドの最先端を往くエクストリーム・スポーツの一種で……」

「いやいや、そりゃ分かってる。動画サイトでたまに見てるんだからさ」


 この世界の地下に突如としてダンジョンが現れたって事実は、もう世界の常識だ。

 モンスターは捕まえられて養殖化、珍しい鉱物は今もざくざく掘られてる。

 で、残ったのはだだっ広くて無駄に階層があるダンジョンだけ。

 世界中で500は下らないそれの有効活用手段は、すぐに見つかった。

 さっき深月の言った、俺達人間が特殊なアーマーを纏ってダンジョンで戦う『ダンジョンズ・ロア』だ。


「でも、なんで俺なんだ? 俺は冒険者の登録なんてしてないし、そんな目立った才能もないし……自分で言うのもなんだけど、凡人の極みだぞ?」

「そんなことない。でも、理由は他にある。これを見て」


 彼女はスマホを取り出すと、俺に寄ってきて画面を見せた。

 藍色のロングヘアーと一部が白く染まった前髪、真っ白な肌に長いまつ毛と丸い瞳。

 クールで気品ある佇まいと落ち着く香りが漂う彼女に、ここまで近寄られると、たいていの男子は勘違いする。

 俺は彼女がただ、人との距離感が分かっていない天然だって知ってるし、慣れたけども。

 とにかく、深月が見せてくれたのはインタビュアーの隣に立つ彼女自身の動画だ。


「これって……深月のウィナー・インタビュー?」

「そう。ダンジョンズ・ロアの勝者の中でも、特に高得点をたたき出した冒険者にはインタビューの権利が与えられる。そして昨日は、私がその権利を得た」


 静止画面の中の深月は、いつもの無表情の中にどこか誇らしさを感じる。

 ダンジョンズ・ロアの試合は、世界中に動画配信サービス『Nikotubeニコチューブ』を通じて配信される。

 中には投げ銭で生活できる人気者もいるとか、いないとか。


「昨日の試合は、ブロンズランク5から4へのランクアップがかかった試合だよ」

「深月はすごいな。お前の父さんもきっと誇らしいと思ってるはずだぜ」


 見た目の通り、深月はお嬢様だ。

 なんてったって父親の蒼馬我心がしんは、ダンジョン探索用のアイテム製造のパイオニア、『ソーマ・エレクトロニクス』の代表取締役なんだからな。

 あの人がいなけりゃ、ダンジョン探索は10年遅れてたって言われるほどだ。

 久しく会ってない我心おじさんの顔を思い出していると、深月が動画を再生した。


『――では、蒼馬深月さん! 最後にあなたを応援してくれているファンの方に向けて、何か一言お願いしますっ!』


 ダンジョンを包む大歓声の中、マイクを近づけられた深月が口を開いた。


『……私には、幼馴染がいます。彼は私よりも強いです』

『はい?』

「はい?」


 インタビュアーと俺の声が被った。

 あれ、今もしかして俺のことを話した?

 そんなわけないよな。だって深月のインタビューだから、うん、気のせいだ。


『彼は近いうち、ダンジョンズ・ロアの世界にやってきます。彩桜瑛士、彼はダンジョンズ・ロアの配信の歴史を変えると思います。ファンの方も、応援してください。以上です』 


 気のせいじゃないわ。

 名前言ってるわ、完全に俺のことだわ。


『え、えっと……その、あの、サイオウ、エイジさん、というのは……?』

『補足説明を忘れました。瑛士は私の、未来の夫です』


 ここでとうとう、俺は動画を停止した。


「――何を言ってくれてんだお前はぁーっ!?」


 あまりの事態に、三白眼さんぱくがんの目をひん剥いて叫んだのは仕方ない。

 なんせ深月のせいで、俺は何の経験もないダンジョン配信バトルの歴史を変える、とまで言われてしまったんだから。


堅物かたぶつの父が最近、縁談の話をよく持ち掛けてくるから。私には伴侶がいるって言っておかないとって、思ったの」


 さて、肩をいからせる俺を見ても、深月はいつも通りのマイペースだ。


「でも、関係性を深めるには、まず恋人からかも。飛躍しすぎた、てへぺろ」

「そっちじゃない、じゃなくてそっちもだけど! ダンジョン探索バトルなんて一度もやったことがないやつを、なんでダンジョンの歴史を変えるとか言っちゃうんだ!?」

「瑛士にはがある。だけに、ふふふ」

「うまくねえよ!?」


 俺のツッコミを聞いたのと、自分のダジャレで、やっと深月が少し笑った。


「大丈夫、私は瑛士を世界中の誰よりも知ってる。その私が言うから、信じて」


 そうして真摯しんしな瞳で見つめられると、悲しいかな、俺はまったく拒めない。

 昔からこうだった――幼い頃、庭で結婚式をしようとか、カカオからチョコを作ろうとか、突拍子もない提案に振り回されて来たもんだ。


(深月はいいやつなんだけど、昔からクールな見た目で猪突猛進というか……縁談を断る名目に幼馴染を使うなら、最初から相談してくれればよかったのに)


 で、今回は縁談除けでダンジョンの危険なバトルに誘われた、と。

 深月を知らないやつならすげなく断るんだろうけど、残念ながら俺は幼馴染だ。


「……ったく、お前は昔からこうだったな、そういえば」


 頭をポリポリと掻きつつ、俺は笑った。


「――行くよ、ダンジョンに。深月に恥をかかせるわけにもいかないからな」

「ありがとう。安心して、ずっと瑛士だけを見てきた私の目に、狂いはないから」


 こうして話は決まったわけだが、準備しなきゃいけないものが一つだけある。


「瑛士、『アドヴァンスド・アーマー』のことなら心配しないで。ソーマ・エレクトロニクスに私から声をかければ、1着くらいならタダで渡せるから、ね」


 アドヴァンスド・アーマー。

 ダンジョンで採掘される金属を使った、特殊合金製パワードスーツ。

 かつてはモンスターで溢れかえるダンジョンを踏破するのに重用された装備が、今はスポーツに使われているというのは、平和の証でもある。

 そして全身を覆うこの装備がないと、安全面からダンジョンズ・ロアには参加できない。

 深月はタダでくれるって言うけど、そりゃさすがに申し訳ないな。


「いや、いくらなんでも、うん10万円を軽く超えるようなもんを買わせるのも借りるのも、もらうのも悪いよ。ちょうど思い出したんだ、うちにもそんなのがあったなってさ」


 深月を連れて、俺は家の外に出た。

 俺を引き取ってくれた祖父母の家だから、和風でかなり広い。玄関から庭をぐるっと回ると、どでかい蔵があるほどには広い。


「アーマー……もしかして、お父さんの?」

「ああ。父さんの形見、蔵の奥に突っ込まれてるんだけど……動くかな?」


 がちゃり、と蔵の鍵を外して重い扉を開けると、それはあった。


「お、あったあった。こいつだよ、父さんが一人で家族もかえりみずに作ってたアドヴァンスド・アーマー。ええと、確か名前は――」


 蔵の奥に、戦国武将のごとく鎮座する、鬼のように赤い角と牙を持つアーマー。


「――『断ち切るものディバイド』だ」


 埃をかぶった父さんの形見を見て、俺は強く頷いた。




【読者の皆様へ】


 本作を選んで、読んでいただき、ありがとうございます!


 「面白い!」「続きが読みたい!」と思ったら!

 ブックマーク&☆評価をお願いしますっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る