第11話 卑劣な男!
「……あの時の子か。無事にクリアできたって聞いたよ、おめでとさん」
ゲームの後、俺は念のためクリアした冒険者のリストを見てみたんだ。
そこにはあのふたりの名前が入ってた。
名前は聞いてないけど、使ってるアーマーの種類ですぐに気づいたよ。
“あなたのファンになりました。”
“今度は助けてもらわなくてもクリアできるように、頑張ります。”
“本当にありがとうございました。いつか私達が、赤鬼さんを助けてみせます。”
ここまでお礼を言われると、ちょっぴりむず
ほっとけないと思って、ムカつくやつをぶっ飛ばしただけだってのに感謝されるなんて、悪い気はしないけど。
とにかくここは、ちょっぴりカッコよくキメとくか。
「うん、楽しみにしてる。ダンジョンズ・ロアには『レイドバトル』とか『トレジャーハントバトル』なんて種類もあるらしいし、その時は胸を借りさせてくれよな!」
ダンジョンズ・ロアには、俺が2回体験したゲームとは種類の違うゲームがある。
モンスターの討伐じゃなくて宝物を探すのとか、ダンジョンを一番早く脱出したやつが勝ちのゲームとか。
あとは、ヘカトンケイルなんて比べ物にならないほどデカいモンスターと、複数名の冒険者でチームを組んで戦うイベント形式のゲームなんてのもあるらしい。
もちろん、これは全部深月の情報。
俺はずぶの素人だし、ちっとも詳しくないんですよ、はい。
“いいやつじゃん”
“【朗報】赤鬼、ヒーローだった”
“俺も応援してっからな!”
コメント欄も何だか暖かくて、ほっこりしてしまう。
ついでに後ろから体をもたれかからせてくる深月の体温も、ちょっぴり感じる。
「瑛士、私の胸ならいつでも貸すから」
「配信中はセクハラ発言はやめような。いや、そうじゃないならいいって意味じゃねえよ、だから顔を寄せるんじゃ――」
このまま朗らかに雑談配信が続くかと思ったけど、そうはいかなかった。
“調子に乗ってんじゃねえぞ、彩桜瑛士”
ピロン、という音と共に、不穏な文章が流れてきたからだ。
「……なんだ、こいつ?」
これまでのコメントとは明らかに違う、異質な文言。
アカウント名も数字とアルファベットだけの「今作りました」感がすごいものだ。
“後ろの蒼馬と一緒に地獄みせてやるから覚悟しとけ”
俺だけならともかく、深月にまで暴言をぶつけるのは放っておけないな。
「何だか知らないけど、そんな言い方はないだろ? マナーってのを知らねえのかよ」
こう言うと、少しだけ間をあけてから、俺が驚くほどのコメントが送り付けられてきた。
“殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す”
1行、2行、もっと。
コメント欄が物騒な言葉で埋まるほどの物量を叩き込んでくる異常さに俺が息を呑むと、見かねた様子で深月がディスプレイを指でタッチした。
「皆、今日の雑談はここまで。それじゃあ、また今度ね」
“またこいつか”
“別垢作ったの?”
“最悪だわ”
“深月ちゃんに関わんなよ”
そしてコメント欄が少し動いたのを最後に、配信はぷっつりと終了した。
深月は何もなかったように、いつも通りの無表情でさっとパソコンから離れたけど、明らかに何かがおかしい。
そんなのを無視できるほど、俺は気が利くタイプじゃない。
「……どうしたんだよ、深月。なんで配信を終わらせたんだ?」
深月はふう、とため息をつく。
不安というよりは、面倒くさいとか、邪魔だとか――たかるハエがやって来たのを見る時のような顔だ。
「
「コメントをしたやつを知ってんのか?」
俺の問いかけに、深月が頷いた。
「
「グループって、なんのだよ?」
「暴力を振るいたいだけの、くだらない連中。いつだって数の暴力で倒すから嫌われてる。でも、ダンジョンズ・ロアのルールは破ってないから追い出されない」
どんなやつかはちっとも知らないけど、おおむね想像がつく。
女の子ふたりを寄ってたかって攻撃するような連中のリーダーなんだから、ろくなやつじゃない。
全然関係ないとしても、アーマーの色もサイケで気持ち悪かったしな。
「特に田村山は、いい噂がない。軽犯罪の常習犯だし、ダンジョンの闇取引に関わって、違法なパーツを集めてるって。噂だけどね」
でも、深月が知る情報は、俺の知る以上の危険さをもたらした。
闇取引は、ダンジョンが市街地になってから発生した問題だ。
ダンジョン由来の素材とか、モンスターそのものの密輸は特に大きな問題で、近頃はダンジョンズ・ロアにも影響があるアイテムを取引してるとか、してないとか。
ここら辺の情報は全部、ニュースから引っ張ってきたものだ。
でも、俺にとって何より大事なのは、幼馴染がそんなイカレヤローに付け狙われてるってところだ。
キチガイに刃物とはいうが、異常者にアーマーなんてもっと危険だ。
何より、その事実をちっとも教えてくれない深月にも、知らない俺にも苛立った。
「……そんなやつに狙われてるのか、深月」
明らかにヤバい状況が、どれだけ続いてたんだ。
真顔の深月を見ても、彼女が気にしていない調子なのが、余計に複雑な気持ちにさせる。
「心配してくれるの?」
「当たり前だろ! 幼馴染がクズヤローに襲われてひどい目に遭うかもしれないってんなら、心配しないやつがいるかよ!」
半ば怒鳴るような声でそう言ってから、俺は語気が強くなってるのを悟った。
しまった。言い過ぎたかな。
「……ふふふ」
心配する俺なんて見えてないかのように、深月は笑ってた。
自分が狙われてるってのに笑顔を見せるなんて、こいつは無敵かよ。
「何で嬉しそうなんだよ?」
「なんでだろうね」
「はあ……とにかく、ヤバくなったらいつでも俺に言えよ」
「うん、そうする」
後ろ手に組んだ彼女は、どこかうきうきしてるように見える。
「ねえ、瑛士。見せたいものがあるから、ラボについてきて」
ちょっとだけ跳ねて、白い部屋を歩き回ってから、深月は俺に振り向いた。
深月の急な提案を断る理由は、俺にはなかった。
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