第12話 鋼龍二式乙型!

 部屋を出てエレベーターに乗り、地下3階まで降りる。

 重厚なドアが深月の首からかけられたカードを認証すると、すっと開いた。

 そうして先に広がる光景は、男の子なら誰もが憧れるものだ。


「すげえな……右も左も、アドヴァンスド・アーマーばっかりじゃねえか!」


 まさしくロボットアニメのガレージのような空間が、今まさに俺の前に広がってた。

 ロボットの格納庫みたく、左右にずらっと並んだアドヴァンスド・アーマー。

 ごうん、ごうんと音を立ててクレーンが動き、武器や装甲が装着されてゆく。

 それらを調整するメカニックに、せわしなく動き続けるコンピュータの画面に、ホログラムで表示される様々なデータとアーマーの動画。

 こんなの、テンションが上がらないわけがないだろ!


「ソーマ・エレクトロニクスのラボだから。ダンジョンズ・ロアにかかわる技術が、ここに集約してると言っても過言じゃない」


 やや興奮気味の俺の気分は、ちょっぴり呆れた様子の深月がいても変わらない。

 ただ、疑問を頭に浮かばせるくらいの猶予は生み出してくれた。


「そう思うと、深月がすぐにダンジョンズ・ロアに参加しなかったのも不思議だな」

「パパがまだ幼いからって、許してくれなかった。会社に所属する冒険者も多かったし、無理に参加する必要もなかったみたい」


 侍の鎧をほうふつとさせるアドヴァンスド・アーマー『鋼龍こうりゅう二式』が組み立てられるのを見つめながら、深月が言った。


「でも今は、私の意志でダンジョンに足を踏み入れた。なすべきことを、なしとげてみせる」

「何だか知らないけど、深月ならできるさ」


 こいつはこいつで、きっと俺の踏み入れられない何かを背負ってる。

 幼馴染にできるのは、深月の肩を軽く叩いてやることくらいだ。

 それにしても、その道のプロばかりのところに、学生がいるのは妙な気分だな。


「ところで、こんなところに俺が入ってもいいのか? 皆、ふつーに手を振ってるけど……」

「問題ない。瑛士のディバイドも、今はここにあるもの」

「あ、そっか。ディバイドはソーマ・エレクトロニクスに回収されてたんだな」


 ダンジョンでは地面からせり出すものだから、うっかり忘れてた。

 アドヴァンスド・アーマーはここから、ダンジョンに専用の装置で運ばれてる。

 どうして知ってるかって言うと、さっきから俺の前でアーマーがトラムに乗せられて、どこかにびゅんびゅん運ばれてるから。

 そんでもって、それを主導しているのはおなじみのケイシーさんだ。


「ハーイ、瑛士クン! また会ったわね!」


 俺達を見つけて手を振る彼女は、インパクトのある髪色だからとても分かりやすい。


「ケイシーさん! 無事に学校から解放してもらえたんですね」


 俺が皮肉っぽく言うと、ケイシーさんはばつが悪そうに舌を見せた。


「深月が事情を説明してくれたから、ノープロブレムよ。ティーチャー達も、背の高い外人がのそのそ歩いてるから驚いちゃったみたいね……それで深月、今日はどうしたのかしら?」


 隣に来た深月が指を鳴らした。


「瑛士に見せてあげたいの――私の『鋼龍二式乙型』を」

「オッケー! ちょっと待ってて!」


 サムズアップしたケイシーさんが周りのエンジニアに声をかけると、たちまち奥のハンガーへと駆けて行った。

 他のアーマーを格納する場所と違って、どこか厳重な雰囲気だ。


「鋼龍二式乙型……聞いたことないな」

「世界でまだ、私の分しかない。製品化する前の、魔法攻撃特化試験機だよ」


 深月が珍しく、楽しそうに説明してくれるんだが、どう違うのかはさっぱりだ。

 俺が苦笑いしていると、ハンガーから架台のような装置に載せられたまま、レールに沿ってそれが現れた。


 流線型のフォルムと漆黒の装甲、対角線上に搭載された藍色の4つの目。

 同じように、隣にディバイドがハンガーを伝って連れてこられてきたけど、こいつよりもずっとスリムで、女性的なイメージ。

 何より特徴的なのは、手甲に差し込まれている左右2本ずつのメモリだ。


「すげえ……サムライっていうより、これは……」

「忍者をモチーフにしたんだって。魔法攻撃なのに、忍者なんて変なの」

「鋼龍二式よりも基本性能が低い代わりに、汎用性が高くなってるわ。スキルメモリの使用数が3つから5つに増えてて、トリッキーなスキルを使った戦闘が可能よ」


 タブレットに映し出されたホログラム・データを基に、ケイシーさんが説明してくれた。

 うーむ、魔法を使った戦いは魅力的だよな。

 俺のディバイドだと、今のところ、スキルメモリが使えないからなあ。


「主な武器は大型の弓と大小の剣に変形する『刀剣可変型とうけんかへんがた大弓だいきゅう』。火や水、雷の属性魔法を付与して放つ矢は、たいていのモンスターなら簡単に撃退しちゃうわね!」


 モンスターを一発で退けるなんて、大したもんだ。

 ディバイドのブレイクエッジも一撃の力強さには自信があるが、あっちは癖が強すぎる。


「もっとも、マナ消費量が激しいから長時間の戦闘ができないデメリットはあるけど……」

「それなら心配ない。私が着るから、決着はすぐにつく」

「売り物にするときは、そうはいかないわね。うふふ」


 悪戯っぽく笑ったケイシーさんは、次にディバイドの前に立った。


「あと、瑛士クンのディバイドだけど、こっちも少しだけ調整を加えさせてもらったわ。腕部と背部の装甲を追加したの。鋼龍二式の流用品だけどね」


 彼女が手を翳した先には、これまで黒いフレームが露出していたところに、赤い装甲が増設された相棒がいた。


「おおっ! 剥き出しになってたところが、超カッコよくなってますね!」


 きっと、今の俺の目の中にはきらきら輝く星があるに違いない。

 鋼龍二式の角ばった装甲は、刺々しいディバイドとはちょっぴりミスマッチだけど、それがかえっていい感じだ。

 男のロマンって、こういうのを言うんだろうな。


「左腕部にはアンカーを内蔵してるわ。アーマーを貫通するほどの威力はないけど、壁伝いに走ったり、モンスターをけん制するには十分よ。うまく使ってあげてね」

「ありがとうございます、ケイシーさん!」


 おまけに追加の装備までつけてくれたなんて、感謝してもしきれない。

 使い道はともかく、新しい武器が増えれば戦い方も増えるはずだ。

 ディバイドをピカピカに磨き上げてくれたソーマ・エレクトロニクスの技術者さん達に向かって、俺が頭を何度も下げてると、不意にスマホが鳴った。

 画面に映し出されたのは、次のダンジョンズ・ロアの案内だ。


「っと、次のゲームの案内か。これに勝てば、俺もブロンズランクに……」


 ただ、今度はこれまでと違った。

 選べるゲームはひとつだけ。

 しかも、参加冒険者ランクの項目にふたつのデータが入ってる。


「……深月、これって……」

「そうだよ。ランク昇格戦は、そのランクの相手との混合戦になる」


 深月の言う通り、ランクは『ビギナー』と『ブロンズ』。

 つまり、俺よりもランクが高い――少なくともダンジョンズ・ロアでの戦いを経験した冒険者たちとの戦いが待っているんだ。

 これまでと違う戦いを予感させる緊張感が奔った俺の前で、深月が笑った。


「瑛士、やっと一緒に戦えるね」


 まったく、こいつはそんなのばっかり考えてるのかよ。


「……だな」


 だから俺も、深月につられて、歯を見せて笑った。

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