第13話 不快な遭遇!
地上からダンジョンに向かうトラムに乗るのも、すっかり慣れた。
このトラムは信じられない速さで、東京から名古屋まで15分弱で着くのもあるらしい。
ただし、お金は新幹線以上にきっちりと取られる。
他県とつながってるからって、お手軽に旅行、なんてのには使えないわけだ。
とにかく、地下鉄に乗るような感覚で俺達はダンジョンのシティエリアを通り、エレベーターに乗って、第34階層まで来ていた。
「次のゲームのクリア条件は『シルバーゴーレム3体の討伐』、クリア人数はふたりまで……これまでと違って、かなり厳しい戦いだな」
俺と深月は並んで、次のゲームに挑む冒険者達に紛れて廊下を歩いてる。
右も左も、これから戦う相手だからか、どこかピリピリした空気が肌を刺す。
「ランクが上がるゲームは、いつもタフになる。悔しいけど仕方ない」
「ケイシーさんの話じゃ、シルバーゴーレムも本来ならビギナーランクのダンジョンには出てこないんだってな」
ダンジョンに出てくるモンスターは、ゲームのランクが高いほど強くなる。
聞けば、ビギナーランクではデンジャー扱いされていたやつも、最上位のプラチナランクばかりが集まるゲームだとザコ敵扱いらしい。
「ランクアップ戦って、もしかしてひとつ上のランクに有利になるようなゲームなのか?」
「もしかしなくても、そう。簡単にランクが上がると困る」
深月は周囲の雰囲気に呑まれず、いつも通りの凛とした口調で答える。
「でも、ブロンズランクでも参加できるのはランク3まで。2から1はほとんどシルバーランクで、ダンジョン慣れしてるから、瑛士でも勝つのは難しい」
やっぱり、タダのモンスターを倒すよりも冒険者を倒す方が難しいってわけか。
「そこらへんは考慮してくれてるってわけか……もしもクリアしたのが、ふたりともブロンズランクなら、ランクアップする冒険者はいないのかな?」
「総合点を考慮して、ひとりだけ昇格できる。でも、めったにいない」
ふうん、と呟いて顎に指をあてがうと、俺の空いた手を深月が握ってきた。
「安心して。瑛士は絶対にランクアップさせる。私がバックアップするから」
ソーマ・エレクトロニクスの未来を担う天才冒険者にこう言ってもらえると、勇気が湧いてくるのも当然ってものだ。
でも、だからと言って素直に喜べないのも、俺の悪いところだ。
だって、今の状況って、田村山と同じで徒党を組んでるようなものだろ?
こうして手を組んで戦うと、もしかすると、ペナルティがあるんじゃないか。
「今更だけど、そういうのってどうなんだ。いや、ありがたい話なんだけど……」
「よくある話。『クラン』を組めば、協力してくれる人も多い」
「クラン?」
聞いたことのない専門用語に首を傾げると、深月が答えてくれた。
「冒険者同士が、ダンジョンズ・ロアの外部で組んでるチームのこと。
だけど、彼女の説明は最後まで聞けなかった。
「――よぉ、蒼馬深月。会いたかったぜ」
いきなり俺達の前に立ちふさがった大男が、会話を
俺が顔を上げた先でにやにやと笑ってるのは、こいつが悪党じゃなけりゃ誰が悪党なんだって言えるほど、絵に描いたような悪者。
右頬に入れたタトゥーとツーブロックの髪、屈強な体つきにライダースジャケット。
深月が
「私は会いたくない。瑛士と喋ってるから、邪魔」
「そう言うなよ。恨むなら、あの時俺を叩きのめした自分を恨むんだな」
一連の会話で、俺はやっとこいつが誰なのかを理解した。
こいつはおそらく、田村山工兵だ。
「じゃあ、あんたが田村山?」
田村山工兵と思しき男は、金銀の差し歯ばかりの口を吊り上げて笑った。
「俺のことを知ってくれてるんだな、嬉しいぜ。まあ、俺もかわいい子分を倒したやつを知らないわけがないんだけどよ」
俺を見つめる田村山が、ずい、と顔を寄せてきた。
息が臭い……こいつ、もしかして今の今まで酒でも飲んでたのか。
酒好きで喧嘩好きなんて、絵に描いたような悪党も世の中にはいるもんだな。
「なあ、賭けないか? 俺はギャンブルが好きでな」
なぜか周囲の冒険者も足を止める中、田村山が突拍子もない提案をしてきた。
「話に乗らないで。ダンジョンズ・ロアでの賭博はルール違反だから」
深月は頑として拒み、俺の手を引っ張って立ち去ろうとしたけど、周りはもうこいつの子分らしい相手ばかりだ。
他の冒険者も、厄介ごとを嫌ってか近寄ろうともせず、すたすた歩いてゆく。
ダンジョン・パトロールなり警備員なり呼んでほしいとは思うが、目を付けられたくないんだろうな。
「固いこと言うなよ、ちょっとした口約束じゃねえか。お前が俺を倒すかゲームクリアしたら、金輪際、蒼馬にもお前にも関わらねえ」
ほう、案外物分かりがいいんだな。
といっても、そもそも物分かりがいいなら深月に執着もしないだろうけど。
「ただし、負けたらお前のアドヴァンスド・アーマーをよこせ」
前言撤回。
こいつは最悪のクズだ。
こんな男がディバイドを欲しがる理由なんて、ほぼひとつだろ。
「実を言うとなぁ、一目見た時からあのデザインが気に入ったんだよ」
「なんだと?」
「お前みたいなアーマーの性能だけで勝ち上がって、偶然デンジャーモンスターを倒しただけのシロートにはもったいないし、俺が蒼馬をブチ殺すのに使ってやるぜ」
で、おまけに俺の逆鱗にまで触れていくってわけだな。
「瑛士、無視して。私は気にしてない」
「……幼馴染を殺すとまで言われて、無視できる男がいるかよ」
けんかっ早い気質じゃないのが俺のいいところだと思ってたんだが、ダンジョンズ・ロアに参加してからちょっとだけ、荒っぽくなったみたいだ。
もうすっかり、俺は田村山の賭けに乗ってやるつもりでいた。
自分よりもずっと図体のデカい相手を前にしても、一歩も退く気はない。
仮に今、ここでぶちのめされたって折れてやる気はない。
こいつを再起不能になるまで叩きのめして、深月は俺が守ってみせる。
「深月に二度と近づくんじゃねえぞ。ダンジョンだけじゃねえ、地上でもだ」
はっきりと言ってやると、田村山はげらげらと笑った。
「ぎゃはははは! ああ、いいぜ! てめぇが勝てばの話だけどなァ!」
そうして子分を引き連れて、さっさとダンジョンの入り口を抜けていった。
深月が俺の方を見つめてるのを感じる。
何を言いたいのかはともかく、俺は言いたいことを言った――なら、後悔するもんはない。
ぐっと強く拳を握り締めて、俺は深月と共にダンジョンに入った。
重厚な扉の先の、いつもなら気分のいい歓声が、今だけは耳障りに聞こえた。
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