第14話 ランクアップ・ゲーム!

『ヘイ、ボーイズアンドメン! 今日のダンジョンズ・ロア、第50ゲームは皆も知っての通りのランクアップ戦だ! 派手にかましてこうぜ、メ~ン!』


 さて、今日の実況は男の人だ。

 しかもディスコでディスクをキュキュッと回してそうなノリだな。


「毎日変わるんだな、実況の人……」

「とんでもない数の試合があるから。実況者は大人気のお仕事だよ」


 そういえば、ダンジョンに携わる仕事の倍率は高いって聞いたことがある。

 ダンジョンズ・ロア関連は言わずもがな、ダンジョン内のコンビニですら雇用される側が過多状態らしい。

 倍率50倍は当たり前、500倍なんてのもざらだとか。


『クリア条件はSilverなゴーレム3体をキル! クリアできるエクスプローラーはふたりだけ! つまりどういうことかって? エビバディ、互いに蹴落とし合うバトルロイヤルのスタートってわけだ、アーォ!』


 DJ実況のルール説明で、観客席のフロアが沸いた。

 ぐるりとダンジョンのアリーナを囲む冒険者の数はクリア人数の10倍近い。

 まともにゴーレムを探していれば、まず間違いなくほかの冒険者とぶつかり合うし、譲り合って「一緒に合格しましょう」なんてありえない。


 つまり、敵はモンスターだけじゃない――人間も敵になりうるってわけだな。

 次のランクに上がるゲームだけあって、一筋縄じゃいかなさそうだ。


『さぁて、要チェックのニュービーとブロンズ・ボーイアンドガールはモニターに表示してるぜ! ブロンズ期待の星の水戸門みとかど粟原くりはら、超凶悪ヒール野郎の田村山、日本最大企業のプリンセス・蒼馬――』


 天井に備え付けられた超大型モニターに参加者、田村山、深月と映されてゆく。


『そして赤きツインホーンの超新星ビッグバン! 彩桜瑛士だあぁーっ!』


 最後にパッと表示されたのは、俺の顔。

 毎度注目されるのなら、次からもうちょっと髪型をばっちりセットして――。


“おおおおおお!”

“赤鬼ランクアップか!?”

“いけー!”

“投げ銭させろ!”


『よっしゃ、アガってきたところでいくぜ――エクスプローション・スタート!』


 って、もうゲームスタートか!

 開いた地面からせり出すディバイドを装着している間に、無機質な峡谷きょうこくのようなダンジョンに、いつも通り迷宮が形作られてゆく。

 でも今回は、隣り合ったスタート地点に立つ俺と深月の間に、高い壁が反り立ったんだ。


「なっ……壁が!?」


 隣の冒険者と壁で遮られるのは、これまで何度もあった。

 それが気にならなかったのは、隣のやつが味方でも何でもない、赤の他人だからだ。

 けど、今は違う。

 隣に立ってるのは幼馴染で、そいつを狙う悪党がいるってのに!


「瑛士、心配しないで。すぐにそっちに行くから」


 心配する俺とは逆に、深月はあっさりゲームに参加するつもりだ。

 いつも通りのマイペースでいるなら、俺もここでまごついてるわけにはいかないか。


「深月こそ、無茶はすんなよ! 田村山が来たら逃げろ、俺が絶対に守るから!」

「実況者さん、聞いたよね。事実上のプロポーズだから、録音して世界中に放送して」

『ヒューヒュー! ダンジョンで告白なんざホットの極みだぜ~っ!』


 さらっと何を言ってるんだ、おい!

 確かにいつも通りだけど、こういう時はもうちょっとゲームに集中しろよな!


“リア充爆破”

“マジ許せねえ”

“えんだあああああああ”


「その調子なら余裕そうだな、このバカ深月!」

「私は先に動くね。瑛士も後でついてきて」


 その言葉を最後に、深月との通信が途切れた。

 今更だけど、ダンジョン内ではアドヴァンスド・アーマーを使った通信で会話する。

 事前にパスワードを教えておけば、双方間だけに聞こえる特殊な通信もできるんだぜ。

 もっとも、距離が離れるとたちまち何も聞こえなくなるんだけどな。

 だから深月を追いかけなきゃいけないし、俺はアーマーの内側に表示されるマップを見て迷宮を突っ走る。


 ダンジョン内の地図は自分が歩いた箇所しか表示されない、難儀な仕様だ。

 ディバイドはトライヘッドやアドベンチャー・タイプと比べて動きは軽快で、ダンジョンを駆けまわるのにはそう苦労しなかった。

 ただし、モンスターや冒険者が障害として立ちはだかるなら、話は別だ。


「おっと!」


 何度目か分からない左折と右折を繰り返した先にいたのは、散々殴打されてひしゃげたアーマーとともに呻く冒険者。

 そしてダンジョンの床に消えてゆくさまを、楽しそうにはしゃいで見つめるモンスター。


『ギギャア、ギャア!』

『ギギィイ!』


 無機質に削り出された棍棒を片手に騒ぐのは、緑色の肌をした、小鬼のようなバケモノ。

 背丈は俺の半分くらいしかない上に、鼻と耳がとても長くて、ついでに臭い。

 10匹くらいで群れを成してるのは俺でも知ってるモンスター、ゴブリンだ。


(シルバーゴーレムじゃないかと思ったけど、そう簡単には見つからないか)


 これまで俺は、ひとつのダンジョンでひとつの種類のモンスターしか見なかった。

 だけど、普通に考えてみれば、同じダンジョンの中にまったく別のモンスターがいてもおかしくないよな。


『ギュー!』

『ギャアア、ギャアアッ!』

『ガギュイー!』


 ゴブリン達は倒された冒険者がいたあたりでしばらく騒いでたけど、すぐに標的を俺に変えた。

 しかも先手必勝が信条なのか、ゴブリンはたちまち俺に襲いかかってきた。


『ヘイヘイヘーイ! ゴブリンの群れと赤鬼、瑛士が激突だぜッ!』


“毎回リンチされてて草”

“この程度なら負けないだろ!”

“いけええええ”


 さて、観客とコメントには期待されてるが、どうしたもんか。

 ブレイクエッジなんか使ってりゃあ、振り回してる間にガス欠しちまう。


「ここは頼むぜ、ナックルガード展開!」


 新アイテムのアンカーを使ってもいいけど、手の内はできれば隠すに限る。

 第一、ゴブリン相手ならこの程度でどうにかなるはず!


「でりゃああっ!」


 クロー付きのナックルガードで拳を強化した俺は、ゴブリンの一撃をかわして、すれ違いざまにモンスターの顔面に拳を叩き込んだ。


『ガギュブィ!?』


 桃を殴りつけたような感覚とともに、ゴブリンが吹っ飛んだ。

 顔面がくぼんだ同胞なんてお構いなしに、他のモンスターが棍棒を振り上げてくる。

 ならばとばかりに、俺も回し蹴りと裏拳、左ストレートで応戦する。


『ビギャア!』

『ガガアァ!?』


 ゴブリンはまるで突風に吹かれたみたいに壁に激突して、血を噴き出して倒れてゆく。

 じいちゃん直伝の武術が、こんなところで役に立つとはな。


“ゴブリンがビビっててる!”

“おおおおおお!”

“拳法だ! かっけえ!”


 流石に3匹も仲間が死ぬとまずい、と思ったのか、ゴブリンは攻撃の手を止めた。


「構ってる暇なんかねえんだ、さっさとぶちのめさせてもらうぜ!」


 観客席がわっと盛り上がる中、俺はくい、と指で挑発した。

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