第15話 迫る危機!
「お、さっきの活躍で投げ銭をくれるのか」
ちょっと話が逸れるが、アドヴァンスド・アーマーの内部モニターにはダンジョンやアーマーの情報だけじゃなくて、配信の状況なんかも表示される。
例えば今、このゲームは世界中で500万人が見てるとか、俺に投げ銭がトータル5万円振り込まれてるとか。
投げ銭の回数と金額は、細かく定められてるらしい。
実際問題、参加するだけで5万円ももらえるのはありがたい。
まだこのくらいしかもらえないなら、ゴブリンを倒して注目させるだけだ!
「おらぁっ!」
迫りくるゴブリンをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
ちぎっては、と言いつつパンチとキックでぶちのめしてるんだけどさ。
その気になれば本当に真っ二つにできるんだが、なんだかグロテスクな映像になっちゃいそうだからやめといた。
それでもゴブリン相手なら、一撃で十分すぎる。
『ブギャギ!』
『ギャス!』
うすのろな棍棒の打撃なんて、一発だって当たってやらない。
むしろ敵の攻撃は、カウンターを叩き込むチャンスだ。
「ふんっ!」
ナックルガード付きの拳の突きは、残った最後のゴブリンの顔をひしゃげさせた。
何メートルも先まで吹っ飛んだゴブリンは、少しだけ痙攣してから回収された。
同じアドヴァンスド・アーマーすら一撃でノックアウトするパンチをくらったなら、まず生きてはいないだろうな――
『グゥ~レイトォ! 小鬼じゃあ、赤鬼には敵わなかったな!』
とにかくこれで、最初の障害はクリアしたわけだ。
実況DJの言う通り、俺への反応が観客席でかなり良くなってきてる。
“やっぱつええ!”
“赤鬼推し¥500-”
“今回もクリア確定だな”
“アーマーくれ”
人気になれば、稼げる額は今より何倍も増えるはず。
そうすりゃ、母さんをもっといい病院に移してやれるかもしれないし、うまくいけば海外ですっげえ治療をさせてやれるかもしれない。
ダンジョンズ・ロアで戦っていく以上、有名になって損はない。
ただ、自分で言うのもなんだが、有名になれば敵も増える。
「いたぜ、“赤鬼”の彩桜だ!」
「あいつを倒せば、俺達も有名人だぜ!」
今度は高い壁で挟まれた通路の奥から、ふたりの冒険者が駆けてきた。
モニターのマップに表示された赤いアイコンが、既に武器を構えたことを意味してる。
まあ、長槍を構えた侍のようなアーマー『鋼龍二式』と、掌で風を渦巻かせる三角頭の武骨なアーマー『トライヘッド』を見れば、バカでも分かるんだが。
「ったく、かまってやる暇はないんだけどな」
とはいえ相手は人間、話せばどいてくれる可能性がある。
「悪りい! 今、蒼馬深月を追ってるんだ! シルバーゴーレムはここにはいなかったから、他を当たってくれ……うおわっ!?」
なーんて、期待した俺がバカだった。
俺の言い分も聞かず、トライヘッドが旋風を放ってきた。
紙一重でかわしたけど、隣で長槍を振るう冒険者も、道をあけてくれる雰囲気じゃない。
「お前の事情なんか知るか!」
「どうしても蒼馬と会いたいなら、さっさとリタイアして外で会ってきな!」
ダメだ、こりゃ話にならない。
今度こそアンカーの出番だと思った俺の耳に、実況者の声が聞こえてきた。
『おうおう、こりゃ早速デンジャラスだぜ! あのクレイジーガイ、田村山がプリンセス蒼馬と一騎打ち……いや、下っ端を引き連れて大暴れしてんぜェ~っ!』
ぞわり、と背筋に嫌な予感が奔った。
まだ深月と別れて、そう時間も経ってないのに、あっちは早くも仇敵同士でエンカウントしてしまったみたいだ。
「あの野郎、早速深月を見つけやがったのか!」
深月がどこに行ったのかは、『
(このまま進んでも、他の冒険者やモンスターに遭遇すれば、もっともたついちまう!)
どうにか深月を探さないと、と必死に考える俺にとって、迫ってくるふたりは邪魔だ。
「おいおい、聞いてんのか彩桜! 赤鬼なんて呼ばれてるからって調子に……」
「うるせえ」
「ごげっ!」
だから、左腕に増設されたアンカーを射出して、片方の頭に直撃させた。
先端の尖った武器ではあるけど、さすがにアーマーを貫通するほどのパワーはないし、ダメージもさほどない。
ただし、展開した三つの爪が相手の頭を捕まえれば、話は別だ。
「な、何をしてんぎゃっ!」
「邪魔だって、言ってんだろうがッ!」
超硬質ケーブルを掴み、アーマーを捕まえたまま振り回した俺は、アンカーを引き離そうともがくそいつを、隣の冒険者に向けて思い切り叩きつけた。
「「ぶっぎゃああ!?」」
アーマー同士の激突はさすがにひどいダメージが入ったようで、ふたりとも地面に倒れ込んだまま動かなくなり、すぐにダンジョンの床の奥に消えていった。
『オ~ウ! いくら強固なアドヴァンスド・アーマーでも頭にぶつかり合えばノックアウトだ! ユニークな戦い方もできるんだな、赤鬼ベイベー!』
カシャン、とアンカーを収納してから周囲を見回すが、もう視界にもセンサーにも、敵の存在は見当たらない。
よし。邪魔者がいなくなったなら、さっき思いついた手段を実行する時だ。
(田村山の部下と合流しない、モンスターとも遭遇しない、深月を助ける手段は――)
幸い、深月のもとに向かう最短ルートはもう思いついていた。
俺の背丈の何倍もある、巨大で分厚い壁。
それを前にして、俺は右腕の巨大な刃を展開する。
「――壁をぶっ壊す! ブレイクエッジ、出力最大!」
“は?”
“いや無理無理”
“デンジャーモンスターでも壊せないぞ”
コメントがモニターに流れるが、そこはやってみないと分からないだろ。
少なくとも、試す価値はある!
青く光るマナをまとわせた、俺より巨大な剣なら――やれる!
「どりゃああああああぁぁッ!」
俺は思い切り右腕を振りかぶり、壁に叩きつけた。
めきめき、バキバキと、耳をつんざくような音が鳴り響く。
そして、鈍器のような剣を渾身の力で振り下ろした先には、大穴が開いていた。
「よっしゃ!」
俺はぐっと、ガッツポーズをした。
壁を崩すまではいかなかったし、マナを抑えないとガス欠するから「最大」と言いつつ多少は抑えたけど、それでもダンジョンの壁を破壊できるんだな。
“うそ!?”
“頭おかしい”
“かっけええええええ”
“すげええええええ”
『……あー、壁をクラッシュ、オーイェー……』
騒然とするコメント、茫然とする実況を置いて、俺はまた走る。
ピコン、ピコン、と鳴るモニターのセンサー音が、俺の心をわずかにざわつかせた。
「待ってろよ、深月……!」
知らないうちに、マニピュレーターが音を立てて握り締められていた。
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