第10話 雑談配信!
「おお、すげえな! ここがソーマ・エレクトロニクスの深月の部屋か!」
初めてダンジョンズ・ロアに参加した週の日曜日、俺は深月に連れられてソーマ・エレクトロニクスの本社にやって来た。
東京のど真ん中に建ってる、信じられないほど高いビル。
ま、日本ダンジョン探索界のパイオニア――国内全体で見ても5本の指に入る大企業だから、25階建てのビルが本拠地でもおかしくないんだけどさ。
制服のまま、深月の顔パスで施設に入っていくのはめちゃくちゃ緊張したけど、15階までエレベーターに乗って奥の部屋に着くころには、すっかり慣れちまった。
というのも、周りの社員やスタッフがすげえフランクなんだよな。
普通に俺のダンジョンでの戦いを見てた人もいるし、サインまでせがまれた。
そんな調子で入った部屋は、広い窓と白を基調にしたシックな空間だ。
テーブルも椅子も、配信に使うようなパソコンまで、全部が近未来的でカッコいい。
「普段はここでダンジョンの戦闘プランを練ったり、ケイシーさんと話してる。授業もここで受けてるけど……パパと話して、学校に戻るつもり」
深月が学校にまた通うって聞いて、俺は嬉しくなった。
高校は俺と同じところに通ってるけども、深月は親の事情であまり登校できてない。
ダンジョンズ・ロアに参加してからは、先生から遠慮がちに「登校しなくていい」なんて言われてるくらいだ。
でも、俺としては幼馴染が元気に学校に来てるところを見たいもんだ。
「その方がいいと思うな。学校にだって、お前と会いたがってるやつがいるさ」
「他の子は知らない。私は瑛士と一緒に学校に通いたくなった、それだけ」
そういう理由だとしても、いずれ皆と仲良くなれるはずだぜ。
「友達ができれば、もっと楽しくなるさ……ん?」
どでかいパソコンをしげしげと見つめてると、後ろから深月が身を乗り出してきた。
「PCが気になる? ちょっと座ってみて」
持ち主から許可をもらったなら、ここは遠慮なく。
ふかふかのゲーミングチェアとやらに腰かけると、広くて真っ黒な画面に俺の顔が映る。
「おー、こりゃすごいな!」
こんなところで映画なんか見たら、きっと大迫力で興奮間違いなしだな。
ばあちゃんやじいちゃんも、これで時代劇を見たらテンション上がりそうだ。
いや、先に母さんの病室に置いてあげたい。
「パソコンにはあんまり詳しくないけど、画面がダンジョンの待合室の備え付けくらいデカいし、椅子も座り心地最高だ――」
ダンジョンズ・ロアで稼いだお金で、これが買えるかなと思った時だった。
“あれ!?”
“深月ちゃんじゃない”
“こいつ彩桜だ”
“なんで? なんで?”
ぱっと、画面が移り変わった。
さっきまで切れていたはずの電源がつき、映るのはNikotubeの配信画面と、でかでかと映し出される俺の顔だ。
しかも画面の横では、コメントが流しそうめんの如く流れてる。
「えっ」
思考がフリーズした俺のそばから深月が顔を出して、さらりと言った。
「皆、久しぶり。今日の雑談配信にはゲストを呼んだよ。瑛士、挨拶して」
ここでやっと、俺は理解した。
俺は今、深月にハメられたんだ。
「待て待て待てェーっ! これってお前の生配信じゃねえかああぁーっ!?」
こいつの配信に俺が映るように、ここに座らせたんだ!
“大草原不可避”
“見事に騙されてて草”
“打合せしてないのかよ!”
「おいおいおいおい、まさか深月、お前!」
「これが私の作戦。瑛士と私の関係を、皆に認知してもらう」
コメント欄と会話しながら、深月は俺を見て真顔のまま言った。
「瑛士は普通に呼んでも配信に出てくれないから、画面の配信をいったん止めてディスプレイの電源を消して、ここに座ってもらった。作戦大成功、ぶいっ」
「こ、このやろ~……っ!」
プルプルと体を震わせても、誇らしげにVサインを作る深月を怒る気にはなれない。
ここでキレるようなら、お化け屋敷に忍び込んだ小学生時代にも、ライオンの子供を飼おうとして動物園に忍び込んだ中学生時代にもキレてなきゃおかしいもんな。
こんなやつに付き合ってやれる相手なんて、きっと俺しかいないんだもの。
「はあ……あー、深月はガキの頃からこんな感じです」
小さくため息をついて、俺はとうとう観念した。
「やりたいと思ったこと、一緒にしたいことにどんな手を使っても俺を巻き込むんですよ。中学生の時、川を伝って海に出て、ニュージーランドに行きたいって言った時は、マジで死ぬかと思いました」
俺が話すたび、コメントが信じられない速度で流れてゆく。
同時接続者数が7桁を超えてる気がしたけど、そこは気にしないでおこう。
「初めまして、彩桜瑛士です。ダンジョンズ・ロアではビギナーランクで……世間じゃ“赤鬼”とか呼ばれてるらしいですね、あの……悪い気はしないです」
まさか自分のチャンネルよりも先に、深月と配信をするとは思わなかった。
ちなみにダンジョンズ・ロアに登録した時点で、Nikotubeには自分のアカウントが追加される。
配信の投げ銭だけで生活する猛者もいるとか、いないとか。
「瑛士もノリノリだね。自分のところで配信してみてもいいかも」
なぜか深月が誇らしげに頷いて、画面からすっと離れた。
「じゃあ、雑談して。瑛士のトークで、パーリーナイトだよ」
「雑談しろって、突拍子がなさすぎる……」
俺は生来、人前でスピーチをするとか、誰かを引っ張って物事を進めるとかが苦手だ。
何を話せばいいのか分かんなくて、頭が真っ白になっちまうんだよな。
でも、深月の配信をしらけさせるわけにもいかない。
どうしたもんか、なんてうんうんと唸っていると、ふとコメントが目に入った。
“この前、赤鬼さんに助けてもらった冒険者です。”
次いですぐ下に、別のコメントも出てきた。
“お姉ちゃんを助けてくれました。ありがとうございます。”
“あなたは私たちのヒーローです。”
誰がコメントをしてくれたのか、俺にはすぐに分かった。
前のゲームで俺が助けた、同じビギナーランクの姉妹だ。
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