第26話 レイドバトル・エントリー!

「……レイドバトルって……」

「ダンジョンズ・ロアで不定期に開催されるイベント。冒険者同士でチームを組んで、超大型モンスターを討伐するの」


 見ると、深月も自分のスマホを取り出してる。

 ロック画面はソーマ・エレクトロニクスのロゴだけど、待ち受け画面は俺の隠し撮りなのは、もうツッコむ気力も起きない。


「そういや、そんな話もあったな。超大型って、どれくらい大きいんだ?」

「通常のダンジョンフィールドの半分、あるいはそれ以上。だからイベント参加中は、フィールドもいつもより大きくなる」


 ふと、俺が最初に相手をしたデンジャーモンスター、ヘカトンケイルを思い出す。

 見上げるほど巨大なモンスターよりも大きいやつが、ダンジョンに放り込まれるのか。


「そんなバケモノと戦うなんて、想像したくねえな……」

「でも、得られるランクポイントは普通よりもずっと多い」


 なるほど、ハイリスクハイリターンってわけだな。

 ちなみにメッセージに添付されてた、レイドバトルのルールはこんな感じだ。




 ☆レイドバトル詳細

 ①開催期間は1週間。その間、一度だけイベントに挑戦できる。

 ②勝利条件は超大型モンスターの討伐のみ。小型・中型モンスターも出現する。

 ③討伐後、生存している全冒険者がクリア扱いとなり、ランクポイントが割り振られる。




 深月の言う通り、デカい敵を皆で倒して報酬をもらう、チーム戦ってわけだ。

 普段の個人戦のゲームとは違う技術が求められるし、どうやらレイドバトル専用の装備やスキルメモリもあるらしい。


「ランク差が5つまでなら、違うランク隊の冒険者同士でもチームを組める。ダンジョンズ・ロアのいくつもあるイベントの中で、一番人気だよ」


 ふむ、と頷いてから辺りを見回すと、他の冒険者もどこかざわついてる。


『来週からレイドバトルが開催するよ~っ! 今回は圧倒的なパワーを持つ超大型モンスターが相手だから、準備を怠らないようにねっ!』


 廊下に設置されたモニターでは、実況者がレイドバトルの宣伝をしてる。


「ねえねえ、今度のレイドバトル、誰と組む?」

「俺さ、シルバー2の友達がいるんだ! ちょっと声かけてみるよ!」


 冒険者たちは互いに話し合ったり、メッセージアプリを立ち上げたり。

 きっと、バトルに参加するチームメンバーを集めて回るんだろうな。


「なるほど、道理で盛り上がってるわけだな」

「私は瑛士と組む。参加人数は3人までなら何人でもいいから、これでチーム結成だね」


 ふーん、と深月が隣で鼻を鳴らした。


「え、俺と深月が組むのは確定なのか?」

「確定。どの事項よりも最優先で確定」


 こう言えば、深月は何があっても自分を曲げない。

 小学生のころ、山の頂上で100万ドルの夜景を見たいって言い出した時も、俺の話を無視して山登りを始めたもんな。

 結果はもちろん、警察と捜索隊総出で、俺たち迷子の大探しだ。

 母さんにげんこつされたのは、今のところあの時だけだな。


「そうはいっても、ふたりよりは3人の方が絶対効率がいいだろ」

「ううん、人数の差が有利になるとは限らない。即席のチームだと互いに足を引っ張りあうし、最終的なランクポイントはチーム間で割り振るから、仲間を裏切ることもある」

「おいおい、仲間がヘマしたように見せかけるのか? 自分の評価を上げるために?」

「実例はあったよ。でも、瑛士と私だけなら安心だね」


 くすりと深月が微笑む。

 この笑顔には勝てないと思っていると、またも廊下の奥から女の子たちが走ってきた。

 さっきと違うのは、どうやら冒険者らしいってところだ。

 どうしてそう思うかって言うと、ひとりがダンジョンズ・ロア専用アプリ『ロア・ニューロン』を開いてるからだな。


「あの、“赤鬼”の彩桜さんですよねっ!」

「え、あ、うん」

「あたしたち、今ふたり組なんですよーっ」

「赤鬼さんがチームに入ってくれたら、すっごく嬉しいんだけどなー!」


 おっと、女の子からのお誘いとは、こりゃ予想外だ。

 見せつけられたスマホの画面には、彼女たちの名前が入力されたメンバー登録ページが表示されてる。

 取材はご免被るけど、俺に女の子のファンができるなら話は別だ。

 いつもなら顔がにやけてたんだろうが、さて、今回ばかりはタイミングが悪い。


「いや、ちょっと、今は困るっつーか……」

「そんなつれないこと言わないでくださいよ、申請も今から……ひっ!?」


 なんせ――俺の隣に、青いオーラをほとばしらせる深月がいるからだ。

 しかも目の前の女の子たちを、射殺さんばかりの目つきで睨んでる。


「……瑛士を私から引き離すなら、ダンジョンズ・ロアの練習フロアに来て。そこで私と一対一で勝負して、勝ったら彼を譲ってあげる」


 ばきり、と指の関節を鳴らして、深月は地獄の門番の如きうなり声で言った。


「言っておくけど、私は容赦しない。徹底的にすり潰して、シティエリアの病院に叩き込む」

「「や、やっぱりやめときまーす!」」


 ここまで威圧感を放つ深月と、俺を取り合う勇気はないらしい。

 女の子たちは踵を返して、どたどたと逃げ去ってしまった。


「深月、ビビらせすぎだろ」

「あれくらい言っておかないと、また瑛士を誘おうとするかもしれない」


 ふう、と深月が肩をすくめつつも、俺をちらりと見た。


「瑛士も、気軽に誘いに乗っちゃダメ。有名になれば、利用しようとする人も……ん」


 だけど深月のスマホが鳴ると、彼女の視線は画面の方に映る。

 しばらく画面の文字とにらめっこしてから、深月はもう一度俺を見た。


「ケイシーさんが呼んでる。私と一緒に、ソーマ・エレクトロニクスに来て」

「お、おう、分かった」


 こうして俺は、深月と一緒にソーマ・エレクトロニクスに行くことになった。

 メカニック担当のケイシーさんが呼んでくれたなら、きっと新しい武器か、ディバイドについての新たな発見を教えてくれるんだろうな。

 そう思うと、自然と俺の口端が上がった。


「……深月、手を握らなくてもいいんじゃねえか?」


 もっとも、深月の方はその真逆だ。

 いつものクールビューティーなさまはどこへやら、頬を膨らませて、おまけに大股でどかどかと廊下を歩いて行くんだ。


「よくない。瑛士は私の大事な人だって、アピールしておかないと」


 ぎゅっと俺の手を握る深月の力は、いつもよりずっと強かった。

 結局、エレベーターを上がってシティエリアを通り、トラムに乗り込んでも、深月は俺の手を掴んだままだった。

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