第25話 人気者!
『コングラチュレーション、瑛士クン!』
ゲームが終わると、アーマーが回収され、冒険者はダンジョンの控え室に戻る。
俺もその例にもれず、一息ついてからケイシーさんとスマホで通話してた。
ダンジョンで獲得された新技術は、地上と地下がどれだけ離れていようがテレビ通話がつながるんだから、ありがたいもんだ。
「ありがとうございます、ケイシーさん。いつも通り、ディバイドの整備はお願いします」
『オーケー! 前に話した
ピッと通話が切れると、俺はスマホのダンジョンズ・ロア専用アプリを起動する。
3Dホログラムで表示されるのは、ディバイドのグラフィックと、新しい能力の詳細だ。
「……『レッドアラート』じゃない、新しい力……『レッドブースト』……これなら、ダンジョンズ・ロアをもっと勝ち抜けるな」
あの時は暴走同然だったレッドアラートの、調整版ともいうべき力。
使うのがどうにも待ち遠しくて、俺がそわそわしてしまった時だ。
「あ、あのっ! 彩桜瑛士さんですよね!」
不意に、すぐ近くの女の子に声をかけられた。
ベンチから立ち上がると、ふたりの女の子が、まるで人気アイドルでも見つけたかのような顔で俺の前にいるんだ。
見たところ、ダンジョンズ・ロアの冒険者って雰囲気じゃないな。
「うん、そうだけど……」
首を傾げる俺に、女の子が色紙とペンを突き出してきた。
「こ、こ、これにサインしてくださいっ!」
「えっと……俺なんかのでよければ、だけど。これでいいか?」
「ありがとうございます! やったやった、赤鬼からサインもらっちゃったー!」
「ははは、こうしてみると、有名になるのも悪くない……」
手を振って遠ざかる女の子たちに手を振り返していると、今度は肩を叩かれた。
「――彩桜選手、『ダンジョンジャーナル』の者ですが!」
しかも、見ず知らずの新聞記者らしい身なりの男だ。
「わ、わあっ!?」
ぐっと近づいてきた顔に驚いていると、廊下の奥から、同じような連中がたちまち俺の周りに集まって来たんだ。
「『冒険者速報』です!」
「こちら『迷宮通信』です、インタビューお願いします!」
「ダンジョンズ・ロア参加からひと月足らずでブロンズランク2まで昇格しましたね! 歴代で見てもかなり早い部類に入るのですが、強さの秘訣を教えてください!」
「市販されていないアドヴァンスド・アーマーを装着されていますが、どこで手に入れたのですか? 独自に開発されたのですか!」
「近頃散見されるバグメモリについて、どうお思いですか!」
「ソーマ・エレクトロニクスと契約されるという噂は本当ですか!?」
参った、いくら有名になったからって、取材なんてノーサンキューだぞ。
「ま、待ってください! あのですね、取材は、というか勝手に写真を撮られると――」
「取材はすべて、ソーマ・エレクトロニクスの広報担当を通してください」
そんな俺を、深月が記者連中から助けてくれた。
凛とした顔つき、青い髪と冷たい瞳は、相手を黙らせるほどの威圧感がある。
「深月、助かったぜ……」
ほっと胸をなでおろした俺なんて構わず、連中は標的を深月に変える。
幼馴染にふざけた質問なんてしようもんなら、俺がぶっ飛ばす。
そう言いたかったけれど、やっぱりソーマ・エレクトロニクスの令嬢の深月の方が、俺よりずっとインタビューに慣れてるんだ。
「蒼馬深月選手! シルバーランク昇格のご感想を!」
「広報を通してください」
こんな風に、さらりと質問を受け流せるんだからな。
「『鋼龍二式乙型』の詳細な発売日を教えてください!」
「ここでは答えられません」
取り付く島もない態度ならきっと、早々に相手も諦めるだろうよ。
「彩桜瑛士選手とのご関係は!?」
「瑛士は私の幼馴染です。幼いころに将来を誓い合う関係になりました。来年までには籍を入れていると思いますので、会見を開いた時には招待させていただきます」
「なんでそこは話すんだよ!?」
と、思ってた俺がバカだった。
真顔でめちゃくちゃな返答をする深月の隣で、俺は思わずずっこけた。
「ずっと昔から、瑛士は私のわがままをいくつも聞いてくれました。幼稚園では結婚式ごっこに付き合ってくれましたし、いじめられていた私を身を挺して守ってくれました。彼は私にとっての太陽、何よりも明るい存在です」
しかも、記者連中が黙るほど好き勝手にしゃべってるじゃねえか。
「だから、私は瑛士のもの。放送を見ている私のファンには、私とのチャンスはないよ。ごめんね」
挙句の果てに、記者のひとりが構えてたカメラに向かって、爆弾発言をする始末だ。
逆ギレした深月のファンに刺されでもしたら、化けて出てやるからな。
「彩桜選手! 蒼馬選手の想いに応えるつもりはあるのですか!」
おまけに、俺たちを囲む奴らがヒートアップしてやがる。
スキャンダル手前のネタを生で仕入れたんだから、そりゃこうもなるよな。
「女性にここまで言わせて放置するつもりですか!」
「お似合いのふたりだと思いますが! 全国の気ぶりファンが黙っていませんよ!」
「抱け! 抱けぇーっ!」
おい、誰だ今「抱け」って言ったやつは。
お前のところのダンジョン情報誌は、絶対買わないからな。
とにもかくにも、これ以上、こんな取材に付き合ってやる義理はない。
「まったく……もう行くぞ、深月」
「分かった。私と瑛士の馴れ初めを聞きたい人は、次の生放送に来てね」
ひらひらと真顔で手を振る深月を連れて、俺はエレベーターに続く廊下を歩く。
シティエリアに行って、喫茶店でゆっくりしたい気分だけど、こうして歩いてるだけでもどうにも注目を浴びてしまう。
ゲームの中だけならいい気分なのに、これが有名税ってやつか。
「はあ……近頃、ダンジョンズ・ロアの試合が終わるたびにこれだよ。ほかにも何十ってゲームが開催されてるのに、俺のところにばかり取材が来るじゃねえか」
「おかげで、他の参加者からのヘイトをいっぱい買っちゃったね。ふふっ」
「なんで楽しそうなんだよ……ん?」
呆れる俺のポケットで、スマホが震えた。
メッセージアプリを開くと、ダンジョンズ・ロア運営からのお知らせが届いてる。
タイトルはこうだ。
『ダンジョンズ・ロア運営:レイドバトル開催のお知らせ』
どうやら俺以外にも――冒険者全員に、同じメッセージが届いたみたいだった。
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