第27話 ニューウェポン!

「――ソーマ・エレクトロニクスの地下2階に来るのは初めてだな」


 ずっと深月とくっついたまま、俺はソーマ・エレクトロニクス本社にやってきた。

 前に来たときは、深月の部屋と研究ガレージのようなところを案内してもらったっけ。

 今回はさらに下の階層――広くて無機質な、白い空間に連れてこられたんだ。


「そう? 私はしょっちゅう来てる」

「こんなだだっ広いところに呼び出して、ケイシーさんは何をさせたいんだ?」


 壁の半分を埋め尽くすほどのガラス窓と、何かを観測するようなカメラが四方に搭載されてる様子は、まるで何かの実験室みたいだな。

 コツコツと足音が響く部屋の真ん中まで歩くと、不意に声が響いた。


『それはこれから説明するわ、瑛士クン!』

「うわっ、ケイシーさん!?」


 部屋中に聞こえた声は、ケイシーさんのものだ。

 姿は見えないけど、なんとなくガラスの向こう側――部屋の外にいるのは分かる。


『深月ちゃん、今日は瑛士クンだけに『プラクティスエリア』を使ってほしいの。悪いけど、控室で待機してもらえないかしら?』

「分かった。瑛士、頑張って」

「ちょっとちょっと!? 俺、何をするかまだ聞かされてないんですけど!?」

『ソーリー、すっかり説明を忘れてたわ!』


 深月が部屋の外に出ると、俺の足元の床が開いた。

 ダンジョンのようにせり出してきたのは、やっぱり俺の愛機、ディバイドだ。


『ここは『プラクティスルーム』――アーマーの強度を試したり、ホログラムで投影したモンスターと模擬戦闘をしたりする場所なの』

「つまり、ダンジョンズ・ロアの練習エリアみたいなものですか?」

『イエース! マナを充満させれば、スキルメモリも使えるわ!』


 そうか、要するにここは、ソーマ・エレクトロニクスの商品のテストルームだな。

 以前に見せてもらったガレージと、ここは繋がっているに違いない。


『実は少しだけ、ディバイドに調整を加えたわ。レイドバトルも近いし、ゲームの前に瑛士クンに実際に装着してもらって、使い心地をフィードバックしてほしいのよ』

「そういうことなら、分かりました」


 なんにせよ、悪い話じゃなさそうだ。

 言われるがままディバイドを背面から装着すると、モニターにデータが表示される。

 エネルギー総量、周辺のマナ濃度と、いつものようにチェックしていく。

 最後に装備項目に目を通すと、これまでは『ナックルガード』と表示されているところに、まったく別の武器が記されていた。


「ディバイドの新しい武器……『インパクトナックル』か」


 腕部を軽く持ち上げると、確かに両腕の拳に装甲が追加されてる。


『じゃあ早速、モンスターのデータを表示するわね。言っておくけど、ダメージを受ければアーマーに疑似的な衝撃が与えられるから注意して』

「大丈夫です! その方がやる気が出ますから!」


 にやり、と俺が赤鬼の面の奥で笑うと、さっそくモンスターが1匹現れた。

 といっても、ホログラム映像のゴブリンだけど。

 映像が時折ぶれるところ以外は、完全にダンジョンに出てくるモンスターと瓜二つなのは、ソーマ・エレクトロニクスの技術のたまものだな。


「まずはゴブリンか……じゃあ、いきなりこいつの出番だな!」


 本物のように跳びかかってきたゴブリンの攻撃をかわし、俺は『インパクトナックル』を起動させる。


「オラァッ!」


 そして思い切りモンスターを殴りつけると、衝撃波が炸裂した。

 ゴブリンの顔面が吹き飛び、たちまちホログラムが消失する。


「パンチにマナのエネルギーを乗せて、一気に爆発させる……ディバイドの加速力と組み合わせれば、ヒットアンドアウェイ戦法が取れそうだな」


 手のひらを開き、閉じ、新しい武器の性能を実感する。

 そうしていると、今度は別のモンスター――牙をうならせる赤い虎が出てきた。


「次はレッドタイガー、武器は変わらずこいつでいくぜ!」


 ゴブリンよりもずっと機敏で凶暴だけど、戦い方は変わらない。

 レッドタイガーの跳びかかりを片手でいなし、ぐっと逆の拳を握り締める。


「はぁッ!」


 モンスターのあごに直撃した拳が振動し、魔力が敵の骨を砕く。

 それだけじゃあ倒れないと判断した俺は、続けざまに殴りつける。

 5発ほど拳を命中させると、レッドタイガーの姿が消え、ケイシーさんの声が聞こえた。


『GOOD! 瑛士クン、いきなり新武器を使いこなしてるわね!』

「今まではブレイクエッジとアンカーだけでしたからね。出力に対してマナ消費量も少ないし……これ、どんなスキルメモリを使ってるんですか?」

『ただの『強化魔法』よ。ディバイドのマナ放出量と合わさって、チートになってるけどね』


 確かにこの拳の一撃だけで、他のアドヴァンスド・アーマーは一撃で倒せそうだ。

 マナを消費するとしても、何度か攻撃する必要のあったナックルガードよりはずっと攻撃力が高いし、不意打ちにも使えるはず。

 ところで、ディバイドがスキルを使えるってのは初耳だな。


「そういえば、ディバイドにはメモリを搭載できないんじゃなかったでしたっけ」

『それはあくまで、ブレイクエッジに重きを置いた場合よ。代わりに、ブレイクエッジのPOWERは落ちたから、注意してちょうだい』


 つまり、今のディバイドは小回りの利く武器を手に入れた代わりに、全体的な爆発力は低くなってるってわけだ。

 さしずめ――ディバイド『スペック2』とでも呼ぶべきか。

 総合的にはパワーアップしてるのは、間違いないしさ。


「今更ですけど、マナ放出量とスキルのパワーって関係あるんですか?」

『大アリよ! 載せているエンジンが違えば、車の速さは全然違うもの!』

「どんな例えですか、それ……」


 呆れた調子で返事をした俺は、ふと違和感を覚えた。


「……あれ? ケイシーさん、モンスターが出てきませんよ?」


 通信先からケイシーさんの声が聞こえてこない。

 そもそも、次のモンスターも出てこないんだ。

 仮に検証が終わったとしても、それなら深月とケイシーさんがプラクティスルームに入ってくるだろうし、何の反応もないのは明らかにおかしい。


「ケイシーさん、聞いてます? もしかして、もう終わり――」


 ディバイドの通信装置をコンコン、と叩いていると、部屋の奥で何かが動いた。

 いつの間にか床が割れ、煙と共に人型の物体が出てきている。


「――何だよ、あれ」


 煙が晴れ、姿を現したのはアドヴァンスド・アーマー。

 ただ、ダンジョンでも、テレビでも、一度だって見たことのない機体。




 巨大な槍を携えた――のようなアーマーだった。

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