第5話 超バズり!

 次の日、いつも通り学校に通学した俺は、下駄箱でとんでもない目に遭ってた。


「おい、あれ!」


 きっかけは、玄関に入った俺を指さした男子生徒の一言だ。

 そいつの大声で、近くにいた生徒どころか、遠くからも俺のところに集まってきたんだ。

 ファンにサインをせがまれるハリウッド俳優みたいに、俺はもみくちゃにされてる。


「ちょ、おいおいおい! 何なんだよ、急に!?」


 なんとか脱出しようとするけど、玄関中を埋め尽くす男女に押し返されて出られない。


「彩桜だよ、2年C組の彩桜瑛士だ!」

「昨日ダンジョンズ・ロアに出てたやつじゃん!」


 そのうち一人の生徒が、スマホの画面を俺に見せてきた。

 映っているのは、俺がダンジョンでヘカトンケイルを倒す瞬間の動画だ。

 Nikotubeニコチューブで配信された試合は、もう1億回再生を超えてる――。

 ――い、い、1億回!?

 さらに画面が切り替わって、今度は俺のことを特集してるネット掲示板。

 ネットニュース、ダンジョン配信メールまで……全部俺の話題だ!?

 他のやつが見せてくるツブヤイッターは、『彩桜』のワードで検索するととんでもない件数がヒットするし、俺の戦闘シーンを切り抜いた動画が……うん万RTされてる!?


 もしかしてこれが、バズりってやつなのでは!?

 ツブヤイッターのアカウント、基本鍵垢+誰にも教えてなくてよかった。

 もしも誰かが知ってたら、今頃ヤバいことになってたぞ。


「これお前だよな! 昨日のビギナーランクのゲームで、世界最速のクリア記録を達成したのって! うちの高校にそんなやつがいるなんて知らなかったぜ!」

「あのアドヴァンスド・アーマー見せてくれよ! 鬼みたいでちょーかっけーの!」

「彩桜くん、サインちょーだい! 大丈夫大丈夫、フリマには出さないから!」


 ノートとペン、スマホのカメラ、マイクその他諸々が俺に向けられる。


「待てってば! ひとりずつ、ひとりずつ話を聞くから……」


 今度こそ、人にし潰されて死ぬんじゃないかと思った時だ。


「――皆、どいて。瑛士が困ってる」


 凛とした声が響いて、皆の動きが一斉に止まった。

 そうしてモーセの十戒じっかいよろしく、真っ二つに割れた生徒達の向こう側にいたのは、制服を着た深月だ。

 今言うようなことじゃないけど、何を着ても似合ってるなあ、こいつは。


「蒼馬深月……!」

「学校に来てるの、久しぶりに見たよ!」

「相変わらず、威圧感がすげえな……い、行こうぜ」


 クール系お嬢様の眼力に気圧されたのか、野次馬が散り散りになった。


「サンキューな、深月。昨日みたいに人に囲まれて、窒息死するかと思ったよ」

「瑛士を助けるのは、幼馴染の私の役目だから」

「いやいや、困ってる原因を作ったのはお前だろうが……」


 マッチポンプとはいえ、怒る気にはなれない。


「それでも瑛士は、私と一緒に居てくれる。それが、とても嬉しいの」

「はいはい」


 これくらいの軽口を言い合える相手なんだから、そりゃそうだ。

 ついでに言うと、深月に怒鳴り散らすよりも、もっと気になる相手が彼女の後ろにいた。


「で、後ろの人は誰だ? 深月の知り合いか?」

「ソーマ・エレクトロニクスの技術担当で、天ヶ崎あまがさきケイシーさん」


 深月が紹介した女性は、俺の前に躍り出ると、手をひらひらと振って笑った。


「先週アメリカから来た、アドヴァンスド・アーマー研究と開発のスペシャリストだよ。瑛士と、瑛士のアーマーをひと目みたいって言ったから連れてきたの」

「ハーイ、あなたが彩桜瑛士クンね? 話は深月ちゃんからたくさん聞いてるわ!」


 180センチ超えの高身長と金と黒のプリン頭のショートヘアー、ピンクのインナーカラーに白衣とかなり派手な出で立ちだ。

 口にはしないが、歳は20代後半、ってところかな。

 名前からして、きっと日本人とアメリカ人のハーフだと思う。


「もちろん、昨日の活躍もばっちりチェックさせてもらったわよ! あたしもすっかり、あなたのファンになっちゃったわ!」

「そ、そりゃどうも……」


 そんな彼女と握手してから、俺は廊下を歩きだした。

 部外者なのに、よく教師につまみ出されないなと思ったけど、深月の専属なら問題ないか。

 こいつの知名度と人気は、教師も迂闊うかつに悪く言えないほどなんだから。


「早速だけど、あなたのアドヴァンスド・アーマーを見せてもらえないかしら?」

「え? でも、ディバイドは今、ダンジョンズ・ロアの運営に預けたままですよ?」

「ダンジョンズ・ロアに登録した時、スマホにアプリを入れたわよね? あれで運営に預けてあるアーマーのデータとビジュアルを呼び出せるのよ!」


 確かに、受付嬢さんにスマホを渡して返ってきたら、変なアプリが入ってた。

 ダンジョンに入るときは『迷子探索アプリ』とか『ダンジョン限定決済アプリ』とかを入れるように勧められるけど、今回入ってたのはそのどれとも違う。

 『ダンジョンズ・ロア』専用アプリ――『ロア・ニューロン』だ。


「おお、ほんとだ。アプリを開いて、『3Dデータ転送』、と……」


 アプリを開くと、配信だとか戦績だとかの項目があるけど、ひとまずデータ転送の項目をタップする。

 そしたらスマホの画面が明るくなって、ディバイドの3D映像が現れた。

 アーマーの隣には、様々な情報が並んでる。

 俺がパッと見ても分からないけど、ケイシーさんと深月には興味深い内容らしい。

 どっちかというと、俺にとっては配信が気になる。

 もしかするとこれ、スパチャとかをもらったらお金がジャンジャン入ってくるんじゃないのか。


「これはすごいわね、『ラビリンスライト』の含有率が通常のアーマーの5倍近いわ」


 なんてことを考えてると、ケイシーさんの驚きに満ちた声が聞こえた。

 ラビリンスライトなら、俺も授業で聞いた記憶がある。

 ダンジョン原産の鉱石で、マナを吸収して硬度を高める特殊な力があるらしい。

 地上やダンジョンのシティエリアで動いてる、ダンジョン由来の技術や乗り物、アイテムの原動力のほとんどがこれだ。

 近く、火力や原子力にもとってかわるとか、まだ早いとか。


「フレームもかなり堅固だし、それでいて軽量化にも成功してる。一部装甲が未完成であることを除けば、ほぼパーフェクトだわ!」

「ん、基礎スペックは『アドベンチャー』や『トライヘッド』じゃ比べ物にならないね」


 ついでにアドベンチャー、トライヘッドも知ってる(深月に教えてもらった)。

 トライヘッドは三角形に近い形状の頭部が特徴の、アメリカに本拠地を構える『エクスプローラー社』が開発したアーマー。

 汎用性がすごく高くて、だいたいの冒険者はこれをチューンしたのを装備してるとか。


 アドベンチャーはその前身の機体。

 今じゃ旧式だけど、安価で手に入るから、これはこれで愛用者もいるし、各企業における新作の武器の試験にも使われるらしい。


「マナ放出量も尋常じゃないし……うちの『鋼龍こうりゅう二式』でも敵わないわね!」


 で、今言った鋼龍二式ってのが、深月の会社が作ってるアーマー。

 性能は近接戦重視、見た目がサムライっぽくて外人ウケがいいんだってさ。

 時代の最先端を往く2種類のアーマーよりもこのディバイドが強いなんて、正直信じられない、ってのが本音だった。

 ただ、不思議と悪い気はしないどころか、ちょっぴり嬉しかったのは内緒だぞ。

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