第29話 鋼の竜!
インパクトナックルを収納すると、壁の一部が開き、ケイシーさんと深月が駆けてきた。
「さすがね、瑛士クン。初めて見る相手を、ここまで圧倒するなんて」
ふたりが出てきたなら、本当に勝負は終わったと思っていいらしい。
「……ケイシーさん、勘弁してください」
俺はディバイドの背面を開いて、アーマーを脱ぎながらケイシーさんをじろりと睨む。
「危うく『レッドブースト』のフルパワーで、こいつを再起不能にするところでしたよ。今度から模擬戦闘をするときは、あらかじめ俺に説明してください」
「ソーリー、ソーリー!」
彼女にも俺を騙したという自覚があるのか、舌を出して謝った。
今更だけど、この人、結構無茶苦茶をするタイプなんだな。
「ところで、このアーマーは何? どう見ても鋼龍タイプじゃない」
一方で深月の興味は、まだ倒れ込んだままのアーマーに向いていた。
そういえば俺も、こいつについては何も聞かされてないな。
「ふたりとも、口は堅い方かしら?」
「ここまで俺に戦わせておいて、秘密主義なんて感心できないですよ」
「ふふっ、それもそうね。じゃ、説明してあげる」
ケイシーさんがくすりと笑うのと、天井から出てきたクレーン状の器具が謎のアーマーを持ち上げるのは、ほぼ同時だった。
「あれはソーマ・エレクトロニクスドイツ支部で開発された、試験型最新鋭機――『シュタルドラッヘ』。直訳すると、“鋼の竜”ってところかしら」
「鋼の竜……なるほど、道理で空を飛ぶわけだ」
「鋼龍と同じだね。空は飛ばないけど」
ぶらりと両肩を掴まれて持ち上げられた姿は、竜というよか騎士、ってイメージだけど。
「まだ世間的には発売されていない『飛行魔法』を内蔵したスキルメモリと、脚部バーニアに加えて全身のスラスターによって、短時間かつ直線的だけど飛行が可能になったのよ。その脅威は、瑛士クンがしっかり味わったでしょう?」
「ええ、嫌というほど。あれと戦うと思うと、ゾッとしますよ」
「飛行機能は、ダンジョンズ・ロアにおいて圧倒的なアドバンテージになるわ」
俺は『レッドブースト』のおかげで正面突破できたけど、もしも初対面でいきなりアーマーが槍を持って飛んで来たらと考えると、ぞっとする。
普通なら、スキルメモリを使う前に風穴を空けられてリタイアだ。
そうじゃなくたって、連撃を叩き込まれれば、まず装甲がもたないだろうよ。
「加えて強固なプレートと、専用武器の『
「あの槍にも、ギミックが?」
「槍の後部にも加速魔法噴射装置があるの。一撃の威力を、限界まで高めているわ」
やっぱり、あの槍にもギミックがあったのか。
道理で一撃が重く、ディバイドでも弾ききれなかったわけだ。
「そんなに強いアーマーがゲームに参加すれば、たちまち大騒ぎだな」
ディバイドがクレーンで運ばれていくのを眺めながら、俺は肩をすくめる。
騎士型のアーマーはというと、俺たちのそばにガコン、と立たされた。
中に人がいる割には、随分と乱暴な扱いだ。
「でも、利点ばかりじゃない。弱点も多い」
「目の付け所がいいわね、深月ちゃん」
じっとアーマーを見つめる深月の頭を、ケイシーさんが撫でた(すぐに払われた)。
「センサー類を強化していても、瞬間的な判断が間に合わなければ、さっきみたいな強烈なカウンターを受けることも珍しくない。武器もランスだけだから、ブレイクされればたちまち攻撃手段を失うのよ」
ふむふむ、あのドイなんとかって槍以外に武器がないのは、明確なデメリットだな。
ディバイドの場合は、ブレイクエッジをどうにかされてもインパクトナックルで戦えるし、最悪、拳と蹴りでどうにかできる自信がある。
……というか俺、さっきからディバイドと比較してばっかりだ。
自分で思ってるよりもずっと、こいつに
「長所も短所も、かなりはっきりしてますね」
「ピーキーだね。私じゃ、とても使いこなせなさそう」
「実際、ドイツ支部のほとんどの冒険者がシュタルドラッヘを装着したけど、ほとんどが試験運用中に気絶したわ。体への負荷と、衝撃に耐えられないのよ」
使用者が限られてるところも、ディバイドに似てる。
なんというか、ディバイドを元に作りましたって気がするのは、俺だけか?
「どんな冒険者が、装着してるのかな」
さて、深月がこう言うと、俺の興味も装着者に移った。
「あれだけの加速に耐えられるんだ、きっと筋肉ムキムキマッチョマンだぜ」
「……さて、どうかしら」
けらけらと笑う俺を、なぜかケイシーさんがいじわるそうに一瞥した。
どうしてだろう、と首を傾げるよりも早く、俺の疑問は解決した。
ぷしゅう、と煙が噴き出るのと共に、騎士型のアーマーの背中の部分が展開して、装着者が出てきたからだ。
果たして中身はマッチョマンでも、ごつい男でもなかった。
「マジかよ」
――美少女だ。
思わず見とれてしまうほど愛らしい、外国の美少女が、すっと騎士の隣に立ったんだ。
珠のように白い肌、高いところで留めた金色のポニーテール、エメラルド色の瞳。
俺よりも年下っぽく見えるのに、俺よりもずっと凛とした、貴族のようなたたずまい。
そして、その、背は低いのに、胸部装甲がすごい。
どう見ても深月の3、4倍はある……口に出したらぶっ飛ばされそうだから、絶対に言わないけど。
「女の子、だったね」
ああ、そうだな、と俺はうわごとのように返事しようとした。
ところが、それはできなかった。
「――エイジ様。ようやく、お会いできました」
「え?」
目の前の少女が日本語でしゃべり、俺のそばまで来たからだ。
何を言っているのか。
俺は彼女と面識がないのに、俺の名前を知ってるなんて。
ああ、ダンジョンズ・ロアで俺を見たのか――なんて、考えているうちに。
「この僕、リーゼロッテ・アイレンベルクが――貴方に永久の忠誠を誓います!」
彼女はつま先で立ち、俺に唇を近づけた。
驚くケイシーさん、目を見開く深月の前で。
「んむっ!?」
俺は、彼女とキスをした。
人生初の、記念すべきキスを――俺は、見知らぬ美少女に奪われたんだ。
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