第35話 シルバーランクのゲーム!

 リゼが高校に来た日の夕方、俺はダンジョンに足を運んでた。

 いつもはエレベーターに乗ってそのままダンジョンズ・ロアの控室に向かうんだけど、今日の目的地は違う。

 今回、俺は冒険者じゃなく、観客としてやって来たんだ。

 観客席は冒険者専用の入り口じゃなく、シティエリアから直通の移動用モービルに乗って、お土産屋やアイテムショップを通り過ぎてやっと着く。

 いつもと違うところに行くからか、どこか遠く感じるのは俺だけかな。


『お待たせしました。『第20エリア』でございます』


 アナウンスに従って、俺は初めてダンジョンズ・ロアの観客席がある、コロシアムの外側に到着した。

 それにしても、ダンジョンって広すぎだろ。

 ゲームエリアだけで20もあるんだから、本当に迷いかねないぞ。

 なんて考えながら廊下を歩いているうち、『東Dゲート』と書かれた場所についた。


「すいません、ブロンズランク2の冒険者、彩桜瑛士です」


 スマホアプリ『ロア・ニューロン』の画面を開き、受付嬢に見せる。

 観客席のチケットはアプリと紐づいてるから、予約の証明にアプリが必要なんだ。


「ああ、冒険者の方ですね。『ギルドポイント』を使って観戦されますか?」


 がやがやと騒がしい中、受付嬢が笑顔で俺に説明してくれた。

 ダンジョンズ・ロアの受付や運営、周辺施設のバイトはかなり大変だって聞いてるのに、笑顔を絶やさないのはすげえよな。


「『ギルドポイント』……確か、ダンジョンズ・ロアで勝利するともらえるポイントですよね? それで、観戦料金を支払えるんですか?」

「はい。そちらのポイントであれば、全額お支払いできますが、いかがいたしましょう?」

「じゃあ、お願いします」


 ピロン、とポイントで入場料を支払って、俺はゲートをくぐる。

 短い通路を抜けると、大歓声と熱気に包まれたダンジョンが、俺の前に現れた。


「すごいな……観客側になるのは初めてだけど、すごい歓声だ」


 いつもはダンジョン側から観客席や天井のモニターを見てるから、こうして客としてダンジョンを見ると、皆のワクワクした気持ちが分かる気がする。

 予約していた席に腰かけてすぐ、アナウンスが場内に鳴り響いた。


『――皆、待たせたなーっ! 『ダンジョンズ・ロア』、本日最大の目玉のビッグゲームが、この第20エリアで始まるでーっ!』

「「わああああああーっ!」」


 お、今回は関西弁の女性が、実況担当か。


“きたあああああ”

“観客席で見たかったなあ”

“盛り上がってきました!”


 モニターのコメントが流れていくのを眺めているうち、ダンジョンの床が開き、冒険者たちがたちまち姿を見せた。


『まずは注目選手の紹介や! シルバーランク4の二刀流、松井良平に同じくランク4の大道安奈! シルバーランク5、超分厚い防御壁がウリの堂本幸太郎!』


 ダンジョンズ・ロアの部隊を囲むように立つメンツは、このゲームにさほど詳しくない俺だって知ってるような有名人ばかり。

 アーマーも独自のチューンが施されているし、スポンサーがついてる奴もいる。

 何よりこのピリピリした空気――この空気が、シルバーランクってことか。


『そしてシルバーランク5! ソーマ・エレクトロニクスの姫、蒼馬深月! 黒いニンジャ・アーマーを纏って参戦や!』


“かっけえええええ”

“好き~~~~~~”

“みつーきに、告白しようと思ってる。”


 中でも深月と、彼女の前に立つ漆黒のアーマー『鋼龍二式乙型』の存在感はすさまじい。


『それだけで終わりとちゃうで! 今日は『ゲストプレイヤー』として、最新型アーマーを引っ提げて日本に殴り込みしてきた選手がおるんや!』


 でも、今日ばっかりは、注目を集めるのは彼女だけじゃない。


『ドイツの超新星――リーゼロッテ・アイレンベルクやあぁーっ!』

「「うおおおおおおおーっ!」」


 信じられないほどの大歓声とともにスポットライトを浴びるのは、リーゼロッテ。

 聖騎士のようなスーツに着替えた彼女と、愛機のシュタルドラッヘだ。


“まさかあの騎士?”

“すっげえ、超かっけえ!”

“あのアーマー欲しすぎて星になった”


 コメント欄も深月の応援から、たちまちリゼへの関心へと変わる。

 ちなみにゲストプレイヤーってのは、他国からの参加者。手続きが終了するまでの一定期間、ポイントを得られない状態のプレイヤーのことだ。

 勝っても得られるものがないから、期間中はゲームに参加しない冒険者が多い。

 それでもリゼは、自分の力を示すために、日本のダンジョンに飛び込んだんだと思う。


「なあ、リーゼロッテ、ずっとこっち見てねえ?」

「ホントだ! お辞儀もしてくれたし、ファンサービスすげえな!」


 俺の隣の席に座る男たちが言うように、リゼはこっちを時々見つめてる。

 ……俺の方を見てる、わけないよな?

 こんなに人がいるし、ただのファンサービスで、偶然だよな?


『ほな早速、今回のゲームのクリア条件を説明するで!』


 観客の声に負けないほど大きな実況アナウンスが、ダンジョンにこだまする。

 冒険者たちもファンサービスをやめて、アーマーを装着し始める。


『ダンジョンに放たれたモンスターはたった4頭! それを先に倒した冒険者4名だけがクリアする、サバイバル方式や!』


 モンスターが、2匹だけ?

 いつものゲームと違って、ザコモンスターもいないのか?


『おっとぉ~? 今、それだけなら苦労せえへん、そう思った観客はおらんか?』


 あ、俺のことだ。


『そんな気持ちでクリアできるほど、ダンジョンズ・ロアのシルバーランクは甘くないで! なんせ今回の討伐対象は、“ブラッドグリフォン”や!』


“やべえ”

“シルバーランクだと勝てなくね!?”


 実況の関西人が声を張り上げると、観客席とコメント欄がざわめいた。


「ええと、ブラッドグリフォン、っと」


 スマホアプリでブラッドグリフォンについて調べてみると、こんな情報が出てきた。


『ブラッドグリフォン:全身に赤い血管のような模様があるモンスター。シルバー3までのダンジョンでは、デンジャーモンスターとして出現する』


 おいおい、デンジャーモンスターってことは、あのヘカトンケイルみたいなもんだよな。

 本来ならそいつから逃げてゲームクリアを目指す敵だし、ディバイドがあいつを倒せたのは、ほとんど不意打ち+一撃で仕留められたからだ。

 そんな怪物と、真正面から戦うなんて、冗談だろ。


『ほな、アーマーの装着も終わったみたいやし、さっそく始めよか! エクスプローション・スタートっ!』


 ダンジョンなのに壁のひとつもせり出さないまま、ゲームの幕が上がった。

 まるでグラディエーターが戦うコロッセウムのような空間に、床が開き、巨大なグリフォンが出現する。


「よぉーし、いきなり出てきたぜ! 蒼馬やドイツのガキより、俺が先にクリア――」


 アドベンチャー型のアーマーを纏った冒険者のひとりが、右手に握りしめた剣を振り、勢いをつけて攻撃しようとした。


「――ぶげえッ!?」


 だが、攻撃をする間もなく、グリフォンの翼で打ち付けられた。

 床に思い切り叩きつけられた冒険者は、そのままダンジョンの真下に収納される。


「……速いな」


 俺が思わずつぶやくと、歓声が爆発した。


『いきなり1名、リタイアや! 波乱のゲームの幕開けやでぇーっ!』


 皆のテンションが最高潮に達する中、ほとんどの冒険者が一歩後ろに下がったのが、確かに見えた。

 作戦や理知的な動きじゃなく――恐怖で、だ。





●お知らせ●

本作品ですが、諸事情によりしばらく休載させていただきます。

読者の皆様には申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

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ダンジョンバトル配信でバズって【赤鬼】と呼ばれてる俺が、クーデレ幼馴染と世界最強になるまで いちまる @ichimaru2622

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