実地演習 魔物討伐
今日から3日間、私たちは非常に危険な演習に挑む事になっている。
「では本日より実地演習を行う、この演習は油断すれば分隊全滅も十分あり得る危険な演習だ、自分の命は自分で守り、訓練を完遂する事を祈る」
『『はい!』』
この演習は、3日間で魔物が蔓延る森を抜け高さ2700イェドの山脈を越え、反対側にある村まで向かうという内容だ。
そしてこの山脈には最高Bランクにもなる強力な魔物が生息していて、私たちのような学生が1分隊10人集まっても蹂躙され皆殺しされるような危険地帯だ。
更に、危険なのは魔物だけではない。
2700イェドの山々は高いだけでなく険しい事から登山に慣れていない人にはかなり厳しく、そこでも死人が出る場所だ。
「我々教師陣も君たちの命を奪うためにこの演習を行う訳ではない、危険だと判断した場合は救援要請の魔法を放つ、もしくは即座に引き返すように、その場合加点は全て無くなるが基礎点は取得でき卒業および進級への考査は問題なく通るようになっている、·····決して無理はしないように」
そんな危険地帯でわざわざ演習を行うのは、私たちの卒業後の進路に理由があった。
「だが君たちは卒業後魔族との戦争に従事する物が半数だ、残る者も魔族から町を守るために魔法を学んでいる、戦争ではこの程度の事は日常茶飯事だ」
私は卒業後、魔族との戦争に従事する。
私の父親は戦争の英雄だから、私もその戦争に従事しろと幼い頃から教えられてきていた。
·····けれど、母親は女の子の私にそんな過酷な運命を辿らせる必要は無いと反対していて、私に前線に立つ能力が無い光属性しか持っていないと知り隠れて喜んでいた。
その賛成と反対の板挟みの末に、私は後方支援に尽くすという折衷案でまとまり今ここに居る。
·····まぁ、今では最前線に出る事になりそうだけれど。
「君たちに教えているように、魔族との戦争は非常に危険でここに居る者も命を落とす者が半数以上だろう、その戦死の理由の中でも戦地へ赴く途中での死を最小限にとどめるべくこの演習を行う」
戦争は非常に過酷だ。
魔族との戦いだけでなく向かう途中や野営で死ぬ事もよくある。
この訓練ではその移動と野営で死ぬことの無いよう実習を行うのが目的なのだ。
ついでに魔物を5体討伐しその証を持っていく事も成績評価に加わる。
·····というより、道中は教員はほぼ同行しないため、評価ポイントは『この演習に参加する事』『生きて目的地に到着する事』『魔物の部位を持ち帰る事』の3つだけだ。
特に一番評価に影響しやすいのは最後の魔物討伐だ。
到着後に評価出来るようなものは魔物を倒した証拠しかないため、必然的に評価の基準になってしまうのだ。
「1分隊で10人、1人も欠けることなく山の向こうで待っている、では健闘を祈る」
そして私たちの決死の演習が幕を開けた。
◇
「皆、荷物は大丈夫ですの?」
「問題ないぜ」
「しっかり入れてきたよ」
「·····悪い予感がする」
「なんかルクシアさんが居れば何とかなる気が·····」
「あっルクシアスパイス持ってくるの忘れてた!」
「なぜオーロラがリーダーなんですか、僕も出来るのに」
「仲間割れはやめよう、成績どうのこうのより生き残るには結束が大事だ」
「ウチもそう思うわ、結構せぇへん?」
「·····荷物忘れたわね」
ルクシアの所属する分隊は第3分隊で、メンバーは順に
・オーロラ・ウェンザー(ですわの人、リーダー(仮))
・ヘンチ(マッハの子分みたいな友人)
・ルビー(ルクシアの同室の治癒魔法使い)
・ウォーリー
・メンリル
・デルタ
・ジェロス・シェルバート
・ベルファスト
・コメリカ・ライバー
・ルクシア・ターディオン
となっている。
苗字のある人は貴族、もしくは名のある商人の子だ。
また、他の分隊もだが男女比率は1:1となっており、基本的に寮で同室の者が同じ分隊になるようになっている。
そのためルクシアとルビー、オーロラとコメリカ、ジェロスとデルタは同じ分隊に所属する事になった。
ちなみに全部で3分隊あり、クラスは合計で30名が所属している。
今回の演習で減る可能性も十分あり得るが·····
「はい注目ですわ、ベルファストの言う通り言い争いは良くないですわ、だから私は女子リーダーを、ジェロスには男子リーダーを任せますわ」
「·····ならいい」
「決定ですわね、では早速作戦会議としましょう」
オーロラはリーダーが良かったと駄々をこねたジェロスを男子チームのリーダーにすることで一瞬で納得させた。
流石は侯爵家のご息女、なかなかやるわね。
「まず今回のルートですわ、初日は森の中で魔物を狩りながら一気に山の麓まで向かいことを考えていますわ」
「·····メリットは?」
「山登り中に魔物と戦うなんて無理だよ····· わたし苦手だし·····」
「確かにな!山登りに専念しないと死ぬかもだし俺も賛成だ」
「ただ道はどう決めんだ?マトモな地図もねぇんじゃね?」
「うん、地図も自分たちで作れって言われてるもんね·····」
「地図かしら?あるわよ」
そう言って私は、この場所を『千里眼』で上空から写した光の絵を皆に見えるよう展開した。
前にルビーと一緒に男風呂を覗き見したりした時に使ったあの魔法だ。
「·····ま、まさか地図ですわ?本物だとすれば物凄い完成度の地図ですわよ!?」
「なんだこれ、·····僕らも映ってる?」
「ホンモノだよ、この魔法作った時わたしも居たから」
私が写した上空地図には、越えるべき山も道中の森も全て映っていて、更には山脈越えのルートを決めるのにも使えるほど精密だった。
これさえあれば、ルートを決めるのも容易だろう。
一応事前に簡易的な地図を教えられ、コメリカさんがそれより少し詳細な地図を学院の蔵書室から書き写していたけれど、私の地図はそれよりずっと正確·····
というより、実物なのよね。
「ちなみに魔物の位置はわかるか?わかるならかなり楽になりそうなんだが」
「この魔法では無理ね、一応開けた場所で大型の魔物なら見つけられるけれど·····」
「ひとまずルートを決めますわ、この森の西方にある沢沿いを進んで麓の湿原まで向かうのはどうかしら?」
「·····若干反対だ、沢が見える範囲の少し離れた位置を進むべきだ」
「なぜですの?」
「増水したら巻き込まれる、それに沢のすぐ近くは魔物とか動物が集まるから危険だ」
「一理ありますわね、ではジェロスの案で良いかしら?」
「大丈夫だぜ」
「わたしはよく分からないから任せるよ」
「構わないわ」
「決まりましたわね、では出発ですわ!」
こうして、私たち第3分隊の演習が幕を開けた。
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