ひとつ言っておくわ、私は『加速』する
散々怒られた私は、翌日に休みを貰って真の光魔法、光速魔法を試してみていた。
·····というと聞こえは良いが、先日のアレで3日間の停学を食らっていた。
成績にかなり響きそうだけれど、別に問題は無い。
何せこの光速魔法さえあれば魔法の実技の試験も満点間違いなしだからだ。
しっかり狙いを定めれば偏差射撃をする必要も無く、相手に直撃するのだから。
「でもまだよ、まだ私と光速魔法はやれるわ·····」
そして偶然もらえた3連休を活用し、私は光速魔法の更なる可能性を確かめるべく、冒険者ギルドへとやってきていた。
ちなみに寮に半分謹慎させられていたが、とある方法で抜け出してここまで来ていた。
バァンッ!!
「ここで冒険者になれると聞いてきたわ、どうやればいいのかしら!」
「ん?ギャハハッ!こんな時間に魔法学校の生徒が来てんぞ!どうした?停学でも食らったか?」
「その通りよ、暇だから冒険者にでもなって依頼でもしにきたのよ」
「お、おぅ····· そうか·····」
「い、いつも冗談言ってるアニキが的中させちまって困惑してるぜ·····」
「ん?私、何かやったかしら?」
盛大に色々やらかしているのだが、ルクシアは全く気がつく様子がなかった。
実は彼女、ド天然キャラなのだ。
「ったく、てめぇみてぇな女子供が冒険者になれるとでも思ってんのか?」
「なれるでしょう?誰でも歓迎って書いてあるのだから」
「·····制度的にはそうだけどよォ!間違った事ァ言ってねぇんだけど俺が言いてぇのはそうじゃねぇんだよ!!」
「あとやりてぇのも尽く回避されてやすね、アレっすよね、こういう世間知らずに」
「いちいち解説してんじゃねぇよテメェもよォ!!」
賑やかで騒がしい所だなぁ····· とルクシアは思いながら、荒くれ者の冒険者の横を素通りしてカウンターへと向かった。
·····が、ガラの悪い冒険者が立ちはだかった。
「おっと待ちな、通りた····· あれぇ!?どこいったァ!?」
「うふふ、光の速度に追いつけるかしら?」
はずだが、次の瞬間にはルクシアは受付カウンターの前にあった。
「てめぇ!今なにをしやがった!」
「それを言ったら意味無いじゃない、女には秘密があった方が良いというでしょう?」
「こ、こいつ·····」
「やめときやしょうアニキ、なんかこれ以上やってても惨めッスよ!!」
「うるせぇ!!!」
私はなぜか漫才をやってる冒険者····· いえ違うわね、たぶん営業に来てる芸人ふたりを無視して受付けの職員に話しかけた。
「で、どうすれば冒険者になれるのかしら?」
「はい、ええと····· 2つ方法があるのですが、ご説明しますか?」
「頼むわ」
どうやらギルド所属の冒険者になるには、2つ方法があるようだ。
1つは、最低ランクのFランクから始めてコツコツと依頼をこなしてランクを上げていく方法。
もうひとつが、ここで戦闘試験をして実力を見極めるテストをして、それに見合ったランクにする方法。
このふたつを選べるようで、前者の場合は名前の記入と料金1000イェンを払うだけでなれるようだ。
後者だと試験料1万イェンと色々な書類記入が必要なようだ。
「そんなの決まってるじゃない」
「お?なんだ?やるつもりか??なら俺がお前の実りょ」
「最低ランクから始めるわ」
ズッテーンッ!!
背後でジャーマンとやらがズッコケた音が聞こえたが、私は無視した。
だって私は別に最強の冒険者を目指すとかそんなつもりは無いから。
ただ、冒険者になれば町の外に行って自由に魔物の討伐が出来るからなりたいだけなのよ。
それに1万イェンもあれば可愛い服や下着も買える、なら1000イェンで煩雑な手続きも無い方を選ぶに決まっている。
「おいてめぇ!なんで俺のやりてぇ『ギルドに入ってきた初心者に突っかかるアウトローな冒険者』をやらせてくれねぇんだよ!!」
「それがアニキの生き甲斐ッスからね!!」
「生き様って言えよ、ほんとテメェもよぉ!!」
「ちょっと、後ろのお2人は騒がないでください!特にジャーマンさんはいっつもそれやってますけど迷惑ですから!!」
どうやら邪魔してきたのはジャーマンと言うらしい。
確かにさっきから煩くて邪魔だし、いっつもあんな感じなようだ。
あんなのが居たら、冒険者の評判もあまり良くないのも納得だ。
「黙らせるべきかしら?」
「辞めておいた方が良いと思いますが····· 彼はあんなのでもC級戦力の実力があります、大型の蜥蜴の魔物やオークの群れなども1人で捌き切れる実力者ですので·····」
どうやら彼はかなりの実力者のようだ。
まぁオークや大型蜥蜴がどれくらい強いかは知らないけれども。
「おっ?なんだ俺の事黙らせてみるか?」
「えぇ、黙ってくれるのなら有難いわ」
「じゃあ力ずくでやってみろ!!ッし、やっと流れに持ち込めたぜ」
こいつは何がしたいんだ。
私は訝しみながらも、腰から下げていたナイフを取り出した。
そして、寮から抜け出すのにも使った『光速魔法』の新たな技を繰り出した。
「ひとつ言っておくわ」
「なんだ?」
「私は『加速』するわ」
「『ルクシオン』」
ッッッ
チャキッ
「っ、なんっ·····!」
「黙ってくれるかしら?そうしないと掻き切るわよ」
私は途方もない速度でジャーマンの背後を取り、首にナイフを押し当てた。
まだ刃を引いていないから切れないが、既にこの時点でチェックメイトだ。
「瞬間移動·····!?」
「ち、ちげぇ、いま確かに風が感じられた·····!それに足跡も付いてるぜ·····ッ!!って事はよォ、超スピードだったんじゃねぇか!?」
「ええそうよ、光の速さになった私は止められないわ」
今のは、私が学校から帰って早速謹慎を食らって暇している時に思いつき、実行したところ成功した新たな光速魔法のうちのひとつだ。
その名は『ルクシオン』、私自身を光と考える事で魔法で制御できるようになり、光速で移動するという魔法だ。
その速さはとてつもないモノで、光と同じ速さで動く事が出来る。
·····が、欠点もあった。
この魔法は移動にしか使えない。
というのも、普通に使っても光の速度には達する事が出来なかったからだ。
試している時は光速に近づくほど体が重くなり、かえって遅くなっていた。
そこで私が覚えている『重さ魔法』を自分に掛けて体重をゼロになるようにしてみたところ、なんと光の速さに達する事が出来たのだ。
ちなみに彼女は自力でこれを見つけたが、現に質量のある物体は光速に至ると質量が無限大になりブラックホール化、周囲の太陽系諸共全てを吸い込んで無にしてしまうと言われている。
〜閑話休題〜
「私の実力はこんなものじゃないわよ?」
「·····っ」
「·····?」
「·····!!!」
「何か喋ったらどうかしら」
「いやお前が喋るなって言っただろうが!!」
「あっ今喋ったわね、殺すわ」
「待て待て待て待て待て!!今のは俺どうすんのが正解だったんだよ!!わかった参った参った!俺の負けでいい!!」
「あ、アニキが負けちまった·····!!まぁしょっちゅう負けてるけど」
「言うんじゃねぇよハゲ!!」
「ハゲてねぇですよ!」
また漫才を始めたようなので、邪魔するのも悪いと思い私はジャーマンの首に突き付けていたナイフを仕舞い、受付けへと戻った。
「で、登録したいのだけれど·····」
「は、はい、ではお名前をお願いします」
「ルクシア・ターディオンよ」
「·····あの、記入を」
「·····分かったわ」
間違えて名乗ってしまった。
私は恥ずかしさで若干頬を赤く染めながら書類に自分の名前を記入した。
そして机に1000イェンを置いて、職員へと返した。
「はい、確認しましたこれで登録は完了です」
「助かるわ、それで身分証とかはいつ貰えるのかしら?」
「すぐに完了します、·····はいできましたよ」
「早いわね····· ええと?·····あら?これ間違ってないかしら、私目が悪いから見間違いかしら」
私が受け取ったギルドの身分証は、ランクの欄が『D』となっていた。
通常なら一番下のFと書かれるはずなのよね·····
「間違っていませんよ、C級の彼を瞬時に制圧した実力を加味してD級にさせて頂きました、ちなみに本日の試験官が彼なので試験と同格の判定をさせて頂きました、それに魔法学校の生徒さんですので手続きも大半は省略できましたので」
「そ、そうなのね·····」
どうやら私はいきなり中位の冒険者になってしまったようだ。
別にこんなはずじゃなかったのだけど·····
私は困惑しながら、とりあえず試験代の1万イェンが浮いてオトクだった事に気がついて気分を取り戻し、とりあえず低ランクの依頼を受けてみる事にしたのだった。
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