お茶もシバく普通のお茶会



 たったったっ


「ごめーん、待たせた?」


「はぁ····· 待ったも何も、私、貴女の3秒前に外でたのよ?」

「あははっ、お約束ってヤツよ?」



 今日のトレーニングも終え、着替え終わった私とサルートは一緒に下校していた。

 ·····というタイミングで、誰かが話しかけて来た。


「お嬢様、お迎え····· は不要ですね」


「あっ爺や、ごめんね折角来てもらったんだけど、今日はお茶して帰るから」

「畏まりました、ではごゆっくりと」


「うんうん、ありがとね?爺やも近くでお茶でもして帰っていいから」


「はい、では」


 そう言うと、執事服をキッチリと着こなした老執事は颯爽と馬車に乗って帰っていってしまった。


 サルートは普段はその財力を示すかのように貴族のように登下校は馬車でしているのだが、ルクシアと一緒の時は普通に歩いて下校している。


 もっとも、たまにルクシアも横着して乗せて貰う事もあるが·····



「·····流石は大商人の令嬢ね、いつ見ても羨ましいわ」

「え?ルクシアだって貴族の令嬢でしょ?頼めば来てくれるんじゃない?」


「来ないわよ、貴族と言っても英雄爵、褒美で貴族にさせられただけの由緒も何も無い家系よ?小さな町を維持するだけで精一杯だわ」



 ちなみに偉さで言うとルクシアの方が上だが、1代限りの準貴族のため、由緒正しい名家であり下手な貴族より資金もあるサルートの家の方が実質的に格上だ。


 まぁ、この2人に関しては家柄ではなく殴り合いで培った仲のため、垣根を越えて仲良くしているのだが。



「今のルクシアならお迎えなんて要らないんじゃない?だって光になってピャーッとすぐに帰れるでしょ?」


「えぇ、どんな場所でも一瞬よ、たぶん魔王城にも一瞬で入り込めるわ」

「わお、暗殺とか出来るんじゃない?」


「·····!」

「え、本気にしてる?冗談よ冗談!まさか本気でしないよね·····?」


「しないわよ」


 とは言ったが、後で魔王城でも覗き見してやろうとルクシアは内心考えていた。


 魔王のプライバシーの危機である。



「まぁ私の光速魔法があれば魔王でも瞬殺できると思うわ、どうせ王座で偉そうにふんぞり返ってるだけでしょうし」


「強いらしいって聞いたけど?強敵相手には自ら前線に立って戦いを挑むとか····· しかも不敗らしいし?」


「ふん、光の速度で殴れば避けられるはずが無いわ」

「暴論ねー、まぁ実際そうなんでしょう?」


「当然よ」



 何やら女子とは思えない物騒な会話をしているが、2人はお茶をするために街の広場へと向かって移動を続けた。





 ワイワイ·····

  ガヤガヤ·····

 ザワ····· ザワ·····


 サクッ


「んっ、今日は上出来ね、美味しいわ」

「ふふん、私も腕を上げてるのよ?」


 街の噴水広場に到着した2人は、自由に座れるテーブルに座ると早速作ってきたというお菓子を食べていた。


「私のカロンは王都のパティスリー直伝だからね、そのうちロザリア商会で売ろうかしら」


「手を広げすぎじゃないかしら」

「あははっ、冗談冗談、沢山は作れないし趣味の範囲だから」



 サルートが作ったのは、カロンというふんわりサクサクした焼き菓子でクリームをサンドしたお菓子だ。

 結構な技量が無ければ上手く作れないお菓子で、多少は料理も出来るルクシアでさえ上手く作れない難しい物だ。



「ふぅ、紅茶ともよく合うわ」

「それ用に甘く作ってるから、合って当然よ?」


 ルクシアが1口飲んだお茶は、近くのカフェで購入した物だ。

 火属性魔法の使い手であればその場で湯を沸かして紅茶を作れるのだが、生憎2人はその属性は使えなかった。


 ちなみにルクシアは光と重力、サルートは岩属性の使い手だ。

 サルートは岩属性魔力を体に浸透させる事で体を頑強にし、柔軟なのに岩のように堅牢な攻防一体の戦術を得意としているのだが、それはまた今度·····



『なぁ聞いたか?今話題のユーシャってやつ、この町に来るって言ってるらしいぜ』

『あん?誰だソイツ』

『やたら強いらしいぜ?知らんけど』

『知らねぇのかよ』

『いや、なんか強ぇのと、魔王を倒しに向かってるってのと、あんま見ねぇ髪と目の色してんのと、イケメンな青年なのと、美人数人を侍らせてやがんのと、いま仲間を探してるって事くれぇしか·····』

『色々知ってんじゃねぇか』


「·····ユーシャ?」


「なんか最近話題の冒険者らしいわ、私の買った木剣も元々はユーシャの持ち物だって言ってたわ」

「·····その変な木の棒?」


「えぇ、正直曲がってて微妙に使いにくいのだけど、絶対に壊れないって利点があるのよね」


「へぇ、試しに私も折ってみていい?」

「良いわよ」


「よし!へし折ってみせるからよーく見てて?」


「はいはい」



 木刀をサルートに渡したルクシアは、紅茶を飲みながらちょっと考え事を始めた。


 今話題のユーシャとやらは、どうもかなり強いらしい。

 パーティ単位だけれどドラゴンを倒したとか、ゴーレムに蹴られても無傷だったとか、致命傷でも1晩寝るだけで回復したとか、人の家に勝手に入って花瓶を割って怒られたとか·····


 正直、噂が広まりすぎて根も葉もない噂が混ざってる気がするのよね。


 実際はそんなに強くないんじゃないか、というのが私の見解だ。



 ·····でも、噂が本当なら手合わせを願いたいわ。


 光速魔法を使った私の攻撃を耐えられるのなんて、サルートくらいしかもう居ないもの。



 ちなみにサルートは極音速のルクシアの蹴りを受け流す事が出来た、正真正銘のバケモノだ。

 流石に無傷とはいかず、腕に打撲を負って余波で吹っ飛ばされて全身擦り傷まみれにはなったが·····


 ルクシアが求めているのは、それが出来るほどの強敵だった。



「ふんっっっっっ!!!」


「·····無理よ、金剛不壊の効果は亜光速で叩きつけても無傷で済むのよ?貴女が折れる訳ないじゃない」

「はぁっ、やってみなきゃわかんないでしょ!せぇのっ!!」


 バリッ!!


「あっっっ·····」

「·····はぁ、どこが破れたのよ」


「さ、さぁ、でも致命的な音がしたわ·····」


 が、そんなルクシアの闘志は、無茶をやったサルートの服の何処かが引き裂ける音で止められてしまった。

 ちなみにインナーのシャツが張り裂けた音だったが、外からは見えないため2人とも原因は特定出来なかった。


「ほら諦めなさい?それよりお茶が冷めるわよ?」

「そ、そうね、お茶にしよっか」



 サルートは服のどこが敗れたのか探りながら、慌ただしく席へと着いたのだった。




 しばらくサルートとお茶をしながら他愛も無い会話をしてそろそろ撤収し始める頃になり、少しトラブルが起きた。



「おぅ俺ァユーシャなんだけどよぉ、そこの嬢ちゃん2人、仲間になんねぇか?魔王倒そうぜぇ」


「偽物ね」

「分かりやすいわ」



 明らかに偽物のユーシャが現れた。


 いや、さっき変な髪の色をしてると言ってたのに、話しかけて来たのはハゲだった。

 ·····透明な髪、という訳じゃないわよね?


 というか邪魔なのよね、これから帰ろうってタイミングで道を塞いできて·····



「邪魔よ、退きなさい」


「あぁ?なんだテメェらユーシャ様に歯向かうってか?テメェらみてぇな弱い女」


「そこ通るわ」

「お邪魔〜」


 すっ


  するっ


「あ?おい、何」


「足元がお留守よ」


 ガッッ!!

 ぐりんっ


「はぇ?」


 武芸の達人級の2人は、相手の意識の隙間をかいくぐり真横を通り過ぎた。

 次の瞬間、ルクシアの足払いにも見えるローキックが偽ユーシャの足を弾き飛ばした。


 その余りの威力に、偽ユーシャは転けるどころか天地がひっくり返った。



「おっとスカートの中は見せないわよ?そして頭上注意〜」


 バキャッ!!


「ぎゃんふっ!?」


 そこへすかさずサルートの蹴りが叩き込まれ、本来足があるはずの場所に····· つまり顔面に蹴りが直撃した。


 大木さえへし折れるサルートの蹴りを食らった偽ユーシャはまた半回転し、天地が元に戻った。


 が、偽ユーシャの目の前にはまた足があった、



「ふんっ」


 ドバキャッ!!


「ゴッ!!ぱぁがっ!!!??」


 サルートが蹴っている間に、ルクシアは蹴った勢いを利用しハイキックを繰り出していたのだ。


 光の如き速さの蹴りは偽ユーシャの顔面をモロに捉え、バク転するかの如く縦方向に有り得ない回転をしながらどこかへ吹き飛んで行った。



「おっ、ナイスバディーの2人か、やってんねぇ」

「早すぎてパンツ見えねぇ·····」

「流れが華麗すぎるぜ」

「うわ今回はスペシャル技だな、珍しい」

「って言ってるお前も食らってただろ」



 容姿端麗で、男を惹きつける体をしている彼女たちだが、それに釣られて不用心に近付いてしまうと待っているのは手痛いしっぺ返しだ。


 現役の格闘家2人に手を出そうとすれば、待っているのは実践練習の相手サンドバッグになる運命だ。

 そしてその様子を見守っていた彼らもまた、偽ユーシャと同じく過去に2人にボコボコにされた者たちだった。



「さて邪魔者も居なくなったから帰ろっか」

「えぇ、カロン美味しかったわ、ありがとう」


「いやいや、こっちこそいつもサンキューね?」



 そんな不憫なヤツらを一瞥する事もなく、不埒な偽ユーシャをシバき回したルクシアとサルートは帰路についたのだった。




「ごふっ·····」

「さっ、行くぜ?まだ夜はこれからだからなぁ」

「ナイスバディー応援団の新たな入団者だぜ」

「仲良くしようネェん♡」

「お前····· まだ股間蹴られたの治ってねぇのか」

「可哀想に····· 酒奢ってやるからな」


 ちなみにナイスバディー応援団被害者の会は新たなメンバーを加え、夜遅くまで酒盛りに興じたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る