好敵手と書いて親友と読む


 スパァンッ!


 ルクシアのハイキックが、狙っていた部分を的確に捕え、その破壊力を余すこと無く相手へと伝えた。


「よいしょーっ、相変わらず良い蹴りね!」


「えぇ、そっちも受け流す技術上げたんじゃないかしら」


 ·····が、その力はミットで吸収され上手く受け流された事で、相手にダメージはほぼ通らなかった。


「シッ!」


 ッッパァンッ!!

「よっ、とぉ、今のかなり力入れてた?」


「えぇ、狙いも正確でしょう?」

「うんうん、もうバッチリよ」


 今度はハイキックを喰らわせた勢いそのままに、体の回転を使って今度は拳を相手の顎目掛け叩き込んだ。

 ·····けれど、練習中で本気で狙ってるわけでもない拳はあっさりと見極められ、体を後方に逸らされた上にミットで受け止められてしまった。


 ·····強いわね。


「ふぅ、5日くらいやってなかったから鈍ってるかしら·····」

「むしろ鋭くなってるかな?うんうんそれでこそ私のバディね」


「私の拳を真正面から受け止められるのは貴女くらいよ、サルート」

「いや真正面からは無理ね、上手く逸らさないと骨が折れちゃうから」


 スパァンッ

  タァンッ!


 私が戦っている····· のではなく、格闘技のトレーニングをしている相手は、格闘部で出来た親友のサルートだ。


 彼女は私が所属している学科ではなく商業科に所属しているのだけれど、その実力は折り紙付きね。


 対人格闘においては私と対を成すほどの実力者で、正直私でも勝率は五分くらいの強敵よ。


「ちなみにぃ、そのブラどうかしら?」

「凄くいいわ、激しく動いててもズレ無いししっかり支えてくれてるわ」


 ドゴッ!

  バスッ!!


「ふふっ、それなら良かった」



 ちなみにサルートは実家が王都の王室御用達の高級衣料品店で、既に自分でも服をデザインしてブランドを立ち上げている。

 その中でも、彼女自身がルクシアと並ぶほど胸が大きいため立ち上げた大きめサイズ専門の下着はルクシアも愛用していた。


 現に今も彼女のブランドのスポーツランジェリーを身につけて練習をしている。


「でも装飾が無いのが残念ね、もう少し可愛くても良いと思うのだけど」

 ブオンッ!!

  パシィンッ!!

「うーん?それに装飾したって何の戦術的優位性も無いでしょ?」


「それもそうね、オシャレなのは普段使い用だけで我慢しておくわ」

「うんうん、それがいいと思う」


 ガッ!

  バガァンッ!!


 ·····と、会話をしつつもルクシアの攻撃は手を休める事は無く、サルートの防御も一切の隙もなく的確にルクシアの攻撃を逸らしていた。



「·····なんか、すげぇエロそうな話してんだけどよ」

「割って入れねぇよな、あの『ナイスバディー』の2人には」

「本人たちはあれでって言ってんのが怖ぇぜ」


 格闘部には当然男子も居るが、2人がガールズトークの中でも特にガールズな会話をしていても、男子たちは鼻の下を伸ばせて居なかった。


 何せ2人は格闘技のプロの大会の如きスパークリングを披露していて、もはやそれどころじゃない状態になっているからだ。



 変にニヤニヤしていたら、確実に2人に顔面を前が見えなくなるほど攻撃される。

 特に2人がやった事も言ったことも無いが、ここに居る男子の大半が本能的にあの2人は別格の生物だと感じているが故の反応だった。



「ふぅ····· そろそろ攻守交替かしら」


「いや大丈夫よ?途中で何度もカウンター入れられそうなタイミングは覚えたから、本番で披露するからね?」

「ふふっ、今やって欲しいわ」


「嫌、試合の時の楽しみにしておいてね?」

「ちぇっ·····」


 ·····ちなみに仲良く話してはいるが、2人ともライバル同士で試合になると本気で殺す気で戦う好敵手だ。

 たとえ仲良くしていても常に相手の弱点を探りあってもいる、そんな不思議な関係だ。


 そんな関係の間に男が挟まろうだなんて無理があるというか、今入ったら間違いなく死ぬ。

 故に男子たちは聞き耳を立てながら自主練をひたすら繰り返しているのだ。



「ねぇそれより、そろそろ切り上げてお茶でもしない?お菓子作ってきたのよ」

「あっいつものかしら?是非食べたいわ」


「うんうん、運動したあとは糖分が欲しくなるからね」



 しかしそんな時間も終わりを迎え、ルクシアとサルートは練習を切り上げてお茶でもするようだ。


 2人は汗を拭きながら、女子更衣室の中へと消えていった。





 シャワァァァアッ·····


「はぁ、運動後のシャワーは最高ね、ほんとスッキリする」

「同意するわ、私この前南国にバカンスに行ったのだけれd」


「えっいつ!?羨ましいなぁ····· ねぇ私も連れて行ってよ」


 更衣室のシャワールームの中で、ルクシアとサルートはのんびりとガールズトークを楽しんでいた。


 そして話題はルクシアが先日いった南国のバカンスの事になっていた。



「最近覚えた光速魔法を使ったのよ、普通に行こうとしたら数ヶ月は掛かるわ」


「そっか、行きたかったなー」

「なんか申し訳ないわね、他の人にも光速魔法の効果を付与出来たら良かったのだけど·····」


 光速魔法を他の人に付与するのは、試したことはあるけれど不可能だったのよね。

 光属性に適性がある人ならまだしも、適性が無いと『ルクシオン』はおろか『ターディオン』さえ使えなかったのよ。


 たぶん、光属性かつ重力魔法が使えないと不可能なんじゃないかしら?

 フィジクス先生も無理だと言っていたから、たぶん無理なのでしょうね。



 これで使えたら、サルートと一緒にバカンスも出来たのだけれど·····


「私はここのシャワーで十分よ?だって····· えいっ」

「ひゃっ、何するのよ!」


「うーん、また大きくなった?」

「そう言われると····· 胸筋がついた気がするわ」


「さっすがバティね、ムキムキじゃない」

「·····サルートの体型がちょっと羨ましいわ」



 ちなみに、シャワールームで裸でわちゃわちゃしている2人の体型は、ルクシアは一部を除き脂肪が少なく筋肉が結構しっかり見えるタイプで、サルートは程よく肉付きの良いタイプだ。


 また、ルクシアの方が胸や太ももなどの女性的な部分が脂肪も少しついていて大きいが、鍛え抜かれた筋肉のせいでウエストは太い。

 対するサルートは筋肉は控えめな代わりに、全体のバランスが非常に良く、見事な体型をキープできている。


 そのため、通称ナイスバディーの2人のどちらが良いかはいつも論争になっている。



「ははーん、この鍛え抜かれた筋肉からあの破壊的な一撃を繰り出せるのね····· うーん硬っ!」

「擽ったいからやめて貰えるかしら?·····そういう貴女の体は軟らかいわね、ふにふにじゃない」


「ふふん、私の筋肉は靱やかな筋肉だからね、それはルクシアが1番分かってるんじゃない?」


「·····そうね」


 ルクシアの筋肉は常に頑強で硬く、それから繰り出される一撃は破滅的な威力を持っている。

 対してサルートは柔軟な筋肉を持ち、まるで鞭のような靱やかで強靭な攻撃を絶え間なく繰り出してくる。


 ·····それはともかく、美人ふたりがお互いに絡み合って体を触り合う絵面は、かなり刺激的だ。



「ふへ、ふへへへ····· 春画執筆が捗る····· このために運動部に潜入してるから····· へへへ·····」


「うわ出た、ユリズキーさんこんな所にまで·····」

「遍く女子同士のスキンシップを見守るため、そして春画にするためにあらゆる部活動に入って文武両道で何でもできるようになった万能変態ですわ!憧れますわ!百合オタクな所以外」



 凛々しい顔つきの2人は女子ウケも割と良い。

 そんな2人のスキンシップにも一定数の女子のファンが居る。


 一部界隈では、2人は既に間柄なのだという研究結果も報告されているほどだ。



 なお、2人にはそんなつもりは全くなく、ただ友達として交流してるだけなのだが·····



「さて、そろそろ上がってお茶にしましょ?」

「そうね、じゃあ先に上がってるわ」



 そんな2人はシャワーを終えると、髪を乾かしたりして着替え、約束通りお茶をする事にしたのだった。

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