死の光



『光』



 それは電磁波の一種とされ、人間が見える波長の範囲を『可視光線』と呼ぶ。

 そのすぐ外側にいる光は『紫外線/赤外線』と呼ばれ、現代では様々な事に利用されている。


 ·····が、光にはさらにその先の波長も、当然のように存在している。



「赤外線より更に外は····· あまり何も起きないわね」


 まずルクシアが確かめたのは、本でも止められていなかった赤外線の更に外にある光だ。


 ·····が、ルクシアの目には特に何が起きたか分からなかった。



 それもそのはず、赤外線の更に外にある光は電磁波の領域になり、一般に『電波』と呼ばれるものになる。

 もっとも、この世界ではその呼び方さえ存在しない光だ。


 電波は現代では電子機器の通信などに用いられ、人類の発展へと大きく貢献した光なのだ。

 ·····が、まだ電子機器の無いこの世界では意味も無く、超高出力にしてようやく電子レンジのような効果を発揮する程度の物だ。



「こんな程度ね····· 確かに赤外線の外側を使うのを止めないのも理解できたわ」



 ちなみに、仮にここが電子機器のある世界だった場合、周囲の電子機器に強烈なノイズを発生させ、あらゆる通信を途絶させる最悪の攻撃が可能となるのだが、攻撃対象が無いため宝の持ち腐れである。



「赤外線の外はこんなものかしらね、さて、·····始めるわ」


 ルクシアはそんなものはオマケと言うかように、本来の目的であった『紫外線のさらに先』を目指す事にした。


「まずは紫外線からね、·····さっきはあまり派手な事は起きなかったけれど、なんで禁止したのかしら」


 そう言いつつ、ルクシアの手元には紫外線を放つ光の玉が発生した。


 相変わらず、肉眼で見れば失明するほどの出力をもつが、ルクシアは直視しても平気だった。



「·····ふぅ、禁止された事をやるのは何だか緊張するわね、まぁやるのだけど」


 私は手のひらの上に浮かぶ光の玉の波長を徐々に変化させ、青白い紫のような色だった光が徐々に筆舌に尽くし難い色になって行くのを見届けた。


 そして光の波長が短くなっていくにつれ、光が私でも見えなくなってきた。



「流石に見えないわね····· あれ、光を感じられないわ」


 ·····が、一定の波長を超えた瞬間に急に光が出るのが停止した。


 その波長は1nm、紫外線の領域が終わる限界ギリギリの波長だ。



「どういう事かしら、何か制限でも掛けられてるというの?·····いえ違うわね、消費魔力が桁違いに増えているわ」


 そして光が出なくなった理由が判明した。

 その波長を境に、どうも消費魔力が100倍近く増えているみたいね。


 それなら私の豊富な魔力を使えばいいのだけれど、それでも少し心許ないほど消費量が多い。


 やはり、本当に踏み込むべきでは無い領域なのでしょうね。



 でも


「·····せっかく太陽も出ているし、使わない手は無いわね」


 私は、周囲の太陽光を吸収すると魔力へと変換を始めた。

 その代償に周囲が薄暗くなり、私の体に途方もない量の魔力が溢れ始めた。


「んっ、ぇくっ····· 吐きそうね····· 相変わらず、物凄い魔力量だわ·····」


 その魔力量は凄まじく、一瞬で超えては行けない壁を易々と突破できるほどに魔力が溜まった。



「じゃあいくわ、はあっ!!」


 そしてルクシアは、吐き気を催すほどの魔力を一気に光魔法へと変換した。




 瞬間、超えてはいけない壁を突破した光魔法が、暴走した。


 波長は1nmをさらに下回り、紫外線の外側に存在する光線·····



 放射線の一種『X線』へと姿を変え、周囲に医療用の範囲を超える有害な出力の光をばら撒きはじめた。


 ·····が、それも一瞬で終わりを迎えた。


 有り余る魔力は光魔法の波長を止めることなく変化させ、さらに短い波長へと至ったのだ。



「まっ、ヤバいわ、やばいっ、これは絶対にヤバいっっ·····!!!〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッッ!!!??!?」



 あらゆる生命はおろか物質さえも根絶する死の光



 『ガンマ線』



 死の色を放つ光の玉がルクシアの手のひらの上に現れた瞬間、太陽光を吸収し暗くなっていたはずの世界に、再び青色が戻った。



「この光は絶っっっ対にマズいやつよ!!体に悪そうな青色ってすぐわかるわ!!」


 その光は太陽光を拡散して発生する光ではなく、超高出力のガンマ線が周囲の水分子を破壊し、核反応を引き起こした事により発生した荷電粒子が水中での光速(真空中の約0.75倍)より早く飛散した事で、残った水分子に衝突して発生する核反応の光だ。


 いわゆる『チェレンコフ放射』と呼ばれる、最悪なほど危険な光はルクシアの周囲の海水はおろか、大気に含まれる水分までも反応させた。


 それにより、ルクシアの周囲は異様なほど青白く光り輝いていた。



「くっ、逃げ·····っ!!?」


 ごぼっ


 ·····という音と共に、私の背筋におぞましい程の悪寒が走った。

 この場に居てはいけない。


 いえ、この場から去れと言わんばかりに、青白く輝く海水が輝度を増し、海水がゴポゴポと煮えたぎり始めたのだ。



「っ、『ルクシオン』全開っ!!!」


 カッッッ!!!





 ッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!


 ルクシアがガンマ線球をその場に残し光速で去った瞬間、核分裂反応により生じたエネルギーが臨界点を突破し、莫大なエネルギーが一気に解き放たれた。




 それは、この世界で推定だが初の、核爆発であった。












side ???


「今日の晩飯は〜·····」


 ウウウゥゥゥウウウゥウゥウウウウッ!!!


「っっっひゃぃいいいっ!!?!?!」


 ???が晩御飯の献立を考えていると、突然信じられないほど大きな警報音が鳴り響いた。


 驚いた???は持っていたアッツアツのカフェモカ入りのカップをぶん投げた。

 放射線ではなく放物線を描いて吹っ飛んだマグカップは、ズボラな性格故に放置されていた洗濯物の山の上へとオリンピックで金メダルを狙えるほど綺麗に落ち、洗濯物をカフェモカ色と香りに染め上げた。


「あぁぁあっ、あーーーーッ!!??ってウワァァァアアアッッッ!!?核攻撃のアラート!?ナンデ!?」


 ???の部屋に鳴り響いたのは、絶対に鳴るわけが無い、核攻撃が起きた事を知らせるアラートだった。



「い、一体何が····· 場所は大洋のド真ん中?·····なんでこんな場所で?他の惑星文明の核兵器でも落ちた?」


 ???は即座に核攻撃が発生した場所を見たが、途方もない威力の水蒸気核爆発と大津波しか無かった。



 ·····が、???は███故に、原因を即座に見つけることが出来た。


「·····ふぅん、光魔法の限界を超えられた子が使った魔法が原因·····か」


 ルクシアは???に、その存在を認知されてしまった。


「さてと、はどうするかな····· 今の規約だと滅却だけど····· 面白そうだし経過観察って事で」


 ???は一旦落ち着いて椅子に腰掛けると、ウィンドウを操作して表示されていたルクシアの表示にブックマークをつけ、楽しそうに必死に逃げるルクシアを画面越しに見ていた。





「んふふっ、ルクシアちゃん、君に·····





 『光あれ』

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