里帰り



「·····特に体に異常も無いわね、安心したわ」


 あの激ヤバな光から大急ぎで逃げ出した私は、故郷のスィーエンス皇国へと逃げ帰り、家の屋上で体のチェックをしていた。


 本能的な直感なのかもしれないけれど、あの光に生身で当たったら即死より恐ろしい事になる気がしたからだ。



 ただ、やっぱりルクシオンを使っていたからなのか、体に異常は無さそうで安心した。



「あの魔法は、使うのはやめておくわ····· 魔王城で放てば魔族も全滅させられるでしょうけど、流石にやったらダメだわ·····」


 ルクシアはあの爆発が何かは気がついていないためナレーションでは仮に『核撃魔法』と呼称するその魔法は、現実世界では核兵器禁止条約に抵触する禁忌の魔法だ。


 放てば周囲の物質を悉く消し飛ばし汚染し遺された人に致命的なダメージを与える、最悪の魔法だからだ。



 ·····もっとも、この星の人間にはこの世界を██する█████である███達の協議により、現段階での核反応を利用する事に制

 [検閲済み]





「はぁ、安心したわ····· またあの時のように体を壊したら元も子も無いもの····· 危険なことはすべきじゃないわね」


 何も無いとわかり一安心した私は、どこかの屋根の上に大の字に転がり、燦々と····· はいかず薄曇りの太陽光を浴びて消耗した魔力を回復することにした。



「魔力消費も尋常じゃない、それに加え明らかに危険な光が出る魔法より、光速で殴った方が安上がりね·····」



 などと言っているが、科学でのコスト的には核撃の方が光速質量兵器を作るより安上がりだ。

 光速と亜光速を扱えるルクシアは完全に異常な存在なのだ。



「·····でも、いざと言う時は使うべきね、そんな日が来ないことを願ってるけれど」


 なお、普通に核撃魔法より亜光速で殴った方が強い。



『誰だ!オレの家の屋上に居るのは!!』


 ガスッ!!


「っっっひゃあっ!?」


 ぼんやりしていると、誰かの怒号と共に開脚していた足の間から槍が飛び出してきた。


 どうも勝手に屋上で休んでいたのがバレ·····



「·····あれ、その声はパパかしら」


『なんだ貴様!貴様にパパと呼ばれる筋合いは····· ってその声、ルクシアか!?待ていますぐそっちに行く!!』



 ガッ


 ドバギャァァアッ!!!


「ふんっ!!」


「ひゃ」


 そして槍に続き、筋骨隆々な若々しい中年の男性が屋根をぶち破り破壊しながら現れた。


 ·····というより、やっぱりそうだったわ。



「ここ、私の家だったのね」

「ルクシアか!?やっぱりルクシアだな!!ひと目でわかったぞ!!!」


 現れたのは私のパパ、ヒッグス・ターディオンだった。

 つまりここは、私の実家のターディオン家だったみたいね。


 ·····どおりで見覚えのある景色だと思ったわ。



「いつ帰ってきたんだ!?来るのに3週間は掛かるだろう!!?いつぶりだ!!!?!?確か前は3年前の特別休暇の時だったか!!!!!·····というか学校はどうした!!」


「相変わらず耳が破裂しそうな声量ね·····」


 パパは私の肩をガシッと掴むと、至近距離で物凄い大声で喜んでくれた。

 ·····けど、うるさいのよね。


 昔から何も変わってないわ。



『あなた!!煩い!!!!』


「お、おぅ·····」


 が、ママよりは弱い。

 ママに叱れたらパパの声も小さくなるのも何も変わってないわ。



『どうせまた屋根を壊したのでしょう!!』


「·····おぅ」

「とりあえず降りるかしら」


 私は聞き取るのもやっとの小声になったパパを引き連れ、急だけれど実家に里帰りする事にしたのだった。





 その後はもう大変だった。


 私の姿を見たママは、学院から逃げ出して帰ってきたと勘違いして私の頬をビンタしようとして間違えてパパを引っぱたき、事情をある程度説明したお陰で誤解は解け、引っぱたかれたパパは屋根を壊した事を怒られ泣きそうな顔で修理に向かわされ、私とママはリビングで話をすることになった。



「とりあえず、おかえりなさい、ルクシア」


「えぇただいま」


「でもどうやってここまで来たのかしら?馬車で3週間、早馬とか魔物車でも2週間は掛かるわよ?」


「それは····· 新しい魔法を覚えたのよ、そのお陰で光の速度で移動出来るようになったから、何処へでも一瞬で行けるのよ」



 ちなみに魔法学院からルクシアの実家までは約1700kmほどあり、とてもではないが気楽に行き来できる距離では無い。

 (東京ー博多間の約2倍、新幹線でも推定10時間掛かる距離)


 しかし光速なら数百分の1秒で到着できる、部屋の中で移動するよりも近い距離でしかない。



「·····物凄いわね、パパにそんな魔法があると聞かれたら即座に戦争に連れて行かれるわよ?実力はちゃんと隠しなさい」


「·····言っちゃったわ」


「はぁ····· やっぱりそうだったのね」



 ママは私が戦いの場に出る事を強く反対しているから、本当は魔法学院には通って欲しくなかったらしい。

 ·····でも、王都防衛の英雄であるパパの娘となるとそうもいかず、女子でも構わず徴兵されてしまう。


 だからママはその時間を先延ばしして、あわよくば参戦させないように私を魔法学院へ進学させた。



 パパは『戦争に行って武勲を挙げることこそが我が一家の使命』と言って、たとえ命を失っても功績を挙げる事を優先するスタンスだから、命だけは守りたいママと意見が食い違うのよね。



「で?コレはデキたかしら?」


「私みたいなのを娶ろうとするバカはそうそう居ないわよ」


 そしてその最大の目的は、在学中に誰かと交際し妊娠させる事だ。

 流石に妊娠し子供を持っては戦争には参加出来ないから、可愛いわが子を守るためにママは私に恋人を作るよういつも言っている。


 ·····元々は無理やりお見合いをさせられたのだけれど、全部拳で断り続けたら魔法学院に入れさせられたのよね。

 自由恋愛ならワンチャンある、とか言って。


 まぁ、結果はお察しの通りね。



「ルクシアは美形だから大丈夫よ、男に言い寄ればイチコロよ?」

「だから、興味無いのよ、そういう事に」


「でも気になる人とか居るんじゃないかしら?」



 そう言われると誰かの顔が頭に浮かぶのかもしれないけれど、生憎私の脳裏には誰も浮かばなかった。


 ホントに興味無いのよね·····



「居ないわ、強いて言うなら今の私より強い相手にしか興味無いもの」


「そんなに強くなったのかしら·····?」


「あぁ、話を聞く限りドラゴン相手でも勝てるな」

「·····パパ、屋根の修理は」


「終わったぞ、もう3ケタ単位で直してるからな!」


 ちなみに戻ってきたパパは屋根の修理の達人だ。

 何度も家を壊してきたせいで、修理がやたら上手になってしまったらしいのよね。


「で?アイリス、ルクシアは戦争に行く気になってくれたか?」

「断られたわ」


「ガハハ!まったく!オレに似て頑固な娘になっちまったな!」


「え?行くわよ?」


「え」「えっ?」



 私がそう答えると、2人は別々の理由で驚いた。


 パパはママから私が戦争に行くのは断固拒否されてると言っていて、パパはそれを信じて粘り強く戦争に行くように伝えていた。


 だから、私が普通の事のように戦争に行くと言ったから驚いたのだ。



「そうか!やっと行く気になってくれたか!!」

「ルクシア、今からでも引き返せるわ、考え直して」


「考え直す気は無いわ」


 そして、私に戦争に行くのを止めるつもりは無い。


 だって私は·····



「武勲とか興味無い無いわ」


「は?」


「合法的に人を殴れるじゃない、ふふふふふ·····」

「は?」


「もっと刺激が欲しいのよ、格闘技の試合だけじゃもう満足できない、命懸けで命を奪い合う戦いがしたいのよ!」


「え?」「え?」


 私は、とにかく誰かを殴りたい。

 日々強くなっていく私の力は、学友にぶつければ死に至ってしまう。


 ·····私の黒歴史になったあの試合の日、もう同級生や普通の人相手には本気を出せないって理解したから。



 さらに、そこら辺のゴロツキを殴り殺してしまっても、私は捕まって退学になる。


 ·····だから、ストレスが溜まってるのよ。

 本気で殺りあえるそんな相手が欲しいって。


 魔物でもいいのだけれど、あくまで代用品であって私の望みは叶えられない。



 ママの言う事には反する事になるけれど、私は命を掛けて命を奪い合う刺激的な戦いがしたいの。



「だから、戦争ならお咎めなんてないじゃない?だから楽しみなのよ」


「ちょ、ちょっと待ってくれるかしら?」

「あ、あぁ、アイリスちょっと作戦会議だ」



 そう言うと2人は部屋の隅に集まってヒソヒソと話始めた。



(ね、ねぇあなた、アレってあなたの狙い通りかしら·····?)

(んな訳あるか、なんであんなバトルジャンキーに育ってんだ?お淑やかな子だったよな?)


(え、えぇ····· あなたの闘争心が変に遺伝したのかしら·····)

(あそこまでじゃねぇ!!なんなんだ、ルクシアは·····!!)



 ルクシアのイカレっぷりが想定を上回ってしまった2人はだいぶ困惑していた。


 戦争に参加させたくないアイリスと、戦争で武勲を挙げさせたいヒッグスのどちらの思惑を上回る·····



「手当たり次第に殴りたいわ····· うふふふふ」


「もう好きにしろ····· 子に親の都合を押し付けて育ててしまったオレらが悪い·····」

「ちゃんと育てるべきだったわ·····」


 というか、手の付けられないバトルジャンキーに育ってしまった。


 光になった彼女を止められるのは、強大な重力源か時間停止くらいしかもう存在しないだろう。




 せめてルクシアより下の子は、これからでもちゃんと子育てしようと心に誓った2人であった。


 

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