紫外線と赤外線
『もし光を操れるのなら、紫の外側には手を出すな』
そう受け取れる一言は、ルクシアの好奇心を刺激してしまった。
「一応、危険と聞いたからいつもの実験場に来たけれど····· 杞憂よね」
ルクシアは『紫のその先』へと踏み込むべく、人のいない絶海の孤島·····のさらに先、
いわゆる『ポイント・ネモ』と呼ばれる、生物さえほぼ居ない絶海と言われるエリアだ。
その海面に、ルクシアは『ルクシオン』を発動して浮遊していた。
「いくら危険と言っても、流石に光になっていれば平気よね」
そう呟いたルクシアに返事をする者は、ここには居ない。
海のどこにでもいる魚はおろか、プランクトンでさえかなり少なく、何処にでも行けるはずのクジラや、最強のドラゴンでさえこのエリアには近付かない。
何せ、何も無いのだから。
「さて、まずは『紫外線』と『赤外線』ね」
そんな絶海の上で、ルクシアは紫外線と赤外線を利用した魔法を使う事にしたようだ。
ルクシアが手を前に突き出すと、その手元に
そしてその色は白から徐々に青へ紫へと近付き、しまいには姿を消した。
·····しかし、その手元には強烈な光が渦巻き、周囲に有害なレベルの威力を持つ紫外線を放出しはじめていた。
もしここに生物が居れば、皮膚を焼き焦がししまいには遺伝子を破壊し狂わせ、癌を引き起こすほどの出力の光に晒されていただろう。
そして唯一の生物であるルクシアは、自らも光へと変化していたため、紫外線の影響を受ける事は無かった。
「なるほど、確かにかなり強い光ね····· 何となくだけれど、消毒効果があるのが分かるわ」
現在、ルクシアが放っている紫外線は一般に殺菌用に使用される光の数百倍の出力がある。
さらにその波長は威力が高く人体にも有害な255nmの短波紫外線で、仮にここに生き物がいれば相当なダメージを負っていただろう。
さらにこの出力の紫外線は肉眼で見れば目が焼け失明する程だが、光と化しているルクシアには影響は無かった。
ちなみに短波になるとルクシアの目でもほぼ見えなくなるが、ルクシオン中はその光を感じ取る事が出来ているため、実質見えていた。
「さて、次は赤外線の方ね、直接的な攻撃ならこっちの方が良さそうね」
紫外線の力を確かめたルクシアは、今度は赤外線を確かめる事にした。
「赤外線に変調開始·····」
ルクシオン状態でのみ感じられる、光の波の頻度をルクシアは長く伸ばし、紫から赤色へと色を変えてゆき、そしてその色は普通の人の目では見えない色へと変化した。
「これが赤外線で間違い無いわ、·····無いのだけれど、何も起きないわね」
ルクシアが放出している赤外線は相当な出力があるが、特に変化は起きていない。
それもそのはず、ルクシオン中は熱を感じなくなり、さらに周囲の海水は量が多くそう簡単には赤外線で温められないからだ。
「·····流石に何かに当てないと分からないわね、流木も周囲に無いしどうしようかしら」
悩んだルクシアは、とりあえず近くの····· 近くでも数千kmは離れた陸へと、的を確保するために移動したのだった。
◇
数分後、ルクシアは再び絶海の上へと帰ってきていた。
光速の前では数千kmなんて目と鼻の先程度の距離なのだ。
ちなみに少し時間が掛かったのは、いい的が見つからず探すのに手間取ったからだ。
「これヤシの実で合ってるわよね、·····浮いたわ、間違いなさそうね」
持ってきたのはヤシの実を3個で、ルクシオン中でも手に抱えられるくらいの物であれば、体以外でも一緒に光にして持ち運べる。
·····でなければ、ルクシアはルクシオンを使う度に全裸になるだろう。
閑話休題
「さて、赤外線光線のテストを再開するわ、ざっとだけれどこのくらいかしら·····」
持ってきたヤシの実を海面に浮かべると、その中の1つに狙いを定め、ルクシアは赤外線光線を照射した。
「·····反応が無いわね、出力を上げていくわ」
最初に当てた赤外線は弱く、ルクシアは感じられていないが炭に遠くから手をかざした程度の熱量だった。
当然、海水を吸ったヤシの実が燃えるはずが無い。
·····が。
「なかなか手強いわね、本当に熱せられるのかしら?·····あっ、変化し始めたわ」
出力をこれでもかと上げ続け、波長も熱を伝えやすい遠赤外線へと変化させると、ヤシの実に変化が起き始めた。
海面に出ている部分が急速に乾きはじめ、炭化し赤熱し始めたのだ。
「確かに、普通に光を当てるより威力がある気がするわ····· さらに強くしたらどうっ」
パァンッ!!!!
「ひゃっ!?」
といった次の瞬間、ヤシの実が爆散した。
遠赤外線により実の内部に溜まった水分が蒸発し体積が膨張、その圧力が限界を迎え、硬いヤシの実が爆弾のように破裂したのだ。
その破片はルクシアにも直撃したが、光になっていたため破片はすり抜けて怪我は無かった。
「びっっっくりしたわ·····」
まだ心臓がバクバクしているような気のしているルクシアは心を落ち着かせながら赤外線魔法の考察を始めた。
·····赤外線魔法、ヤシの実相手だと分かりにくかったけれど、もしかすると生き物相手ならもっと早く効果が出ていたかもしれないわね。
このくらいなら悪影響は少ないでしょうし、あとで陸地でゴブリン相手にでも実験してみようかしら。
ちなみにゴブリンは少し服を捲って下着を露出しているだけで、そこら辺からすぐに出て襲ってくる手頃な実験台だ。
実際にルクシア以外にも、武器の試し斬りや魔法の的にする為に野外露出をしてゴブリンを誘き寄せる手段は結構使われる。
·····まぁ、
ルクシアも過去にというか数日前に、間違えてブラまで捲ってしまい、ゴブリンどころかオークまで猛烈に集まってしまい、慌てて光速魔法で薙ぎ払ったりしている。
そんなルクシアのドジは放っておいて、赤外線も確かめたドジっ娘ルクシアは·····
「·····踏み外すかしらね、紫の外側に」
本の著者にやめるよう言われていた、『紫外線の先の色』へと興味を抱いてしまった。
正確には、光の波長を極限まで短くしてみようと思いついてしまったのだ。
そう、人類が扱ってはいけない、禁忌の光の領域へと·····
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます