新たな光
私は気が付いていた。
光には、赤、橙、黄、緑、青、紫、以外にも私たちには見えないはずの色があると。
「ここ最近、変な色が見えるせいで視界が気持ち悪いのよ·····」
光速魔法を使い続けているうちに、私の体は少しずつ変化しているみたいなのよね。
いつの間にか、他の人に見えない色が見えてきているのよ。
虹の赤の外側にある、赤より紅い不思議な色、紫の内側にある言葉で表せない謎の色。
それが見える私の視界には、本来見えないはずの物が多く見えていた。
「熱ければ熱いほど、紅い色が多くて、でも強い紫は炎とか以外から出ないみたいなのよね、先生は何か知らないかしら」
「知らねぇよ」
流石のフィジクス先生も、私にしか見えない『色』については知らなかったようだ。
「·····けど、ドワーフとかドヴェルグのような種族は俺らには見えない『熱色』が、エルフは果物や花が良く見える『花色』が見えているとは聞いた事がある」
「なるほど、私が見えているのもそれの可能性があるわ」
けれど、有益な情報は得られた。
人間には見えない色でも、他の種族なら見えている。
つまり私の幻覚ではなく、れっきとした存在している色で間違いないみたいね。
少し安心したわ·····
「で?」
「·····で?」
「またなんか悪用すんだろ」
「悪用とは心外ね、有効活用って言って欲しいわ」
私は別に光速魔法を悪用してるつもりなんて無い。
使えるものはちゃんと有効活用するのが私の流儀だから、何もおかしい事はしていない。
「むしろ私の方が聞きたいわ、この光って何かに使えないかしら」
「はぁ····· お前、また変な曲解をして妙な使い方をしそうだから教えたくねぇんだけど·····」
「ちゃんと使うわよ」
「·····ちっ、仕方ねぇ、この部屋のどっかに誰かが熱色と花色を調べた本があったはずだ、好きに探して読め」
「この本の山の中からかしら?別に覚えてる事を教えてくれてもいいのよ」
「覚えてねぇよ」
結局、直進する光をフィジクスは屈折させられず、渋々だが特殊な光について教える事になってしまった。
が、フィジクスも流石にそこまでは覚えておらず、資料探しをしなければ教えられなかった。
更にその資料は本の山の中の何処かにあるというオマケ付きだ。
「·····面倒ね」
「お前の方が俺に面倒を掛けてるだろ、演習で現れたドラゴンを追い払った謎の化け物もお前だろ?」
「バレてたわ····· 流石はフィジクス先生ね」
フィジクスはイラついたが、一応教員なので生徒にキレる訳にもいかず、当たり散らかすかのように本の山を片付け始めたのだった。
◇
45分後
「ようやく見つけたわ」
「おまっ、お前····· 分厚い本40冊持てるとか、どうなってんだ····· ちっ、後で保健室行くか·····」
本の束を持ち上げようとしたフィジクスは、腰が死んだ。
ぎっくり腰になりかけたのだ。
·····ではなく、ルクシアは無事に目的の本を見つけ、綺麗に片付いたフィジクスの部屋で読みはじめていた。
「熱色と花色は····· ここね、資料が少ないわね」
「人間に見えない色なんて調べるヤツは殆ど居ないからな」
が、熱色と花色についてのページは分厚い本の中のわずか3ページと、かなり少なかった。
「ええと?『始めに、全ての本は『花色』の光に弱く、日光に当てる事も推奨していない事に留意すべき』ってどういう意味かしら?」
「さぁな····· というか俺は腰が痛ぇから少し寝る、俺も騒ぎも起こさないでくれ」
「気を付けるわ」
フィジクスは寝てしまい、特にアドバイスは得られなかったが、先程の言葉の意味はすぐ下に書いてあった。
「ここでは花色を紫外線と呼ぶ?·····あぁ紫の外側にあるからね、紫外線は強い力を持つ波長の光で····· 波長?まぁいいわ、その光を浴びると物質を変質させる力がある·····」
紫外線はご存知の通り、エネルギー量が多く、細胞やDNAを破壊する化学的な特性を持つ。
「活用法として、食品や清潔にしたい物に対し照射する事で毒素や臭気を消す事が出来る·····」
特にその効力を発揮するのが殺菌効果で、細菌やウィルスのDNAを破壊する事により菌の活動を停止させ、食中毒や感染症のリスクを低減できる。
「便利ね、それに集束させて威力を上げて放てば不可視の攻撃にも使えそうね」
·····が、紫外線はあまり攻撃には向いていない。
その役目は、もうひとつの光の物だ。
「対する熱色·····赤外線は、炎や熱した炭などから多く出ていて、離れているのに熱いのはこの光が原因で、熱を相手に伝える性質が強い·····」
赤外線の中でも特に遠赤外線と呼ばれる波長の光は、熱と密接な関係にある。
元となる物質の温度が高ければ高いほど放出される赤外線の熱量は上昇し、直接熱源に触れていないにも関わらず肉を焼くほどの温度になる事もある。
太陽光が熱いと感じる理由も、この赤外線が原因だ。
「·····つまり、私の放つ光線魔法も赤外線の力を多く使っているのかしら」
正にその通りで、現実のレーザーは赤外線を用いて熱を相手に伝えている事が多い。
それは光速魔法でも活用されており、全ての光を集束させ赤外線のエネルギー量を増やす事で対象を熱して攻撃しているのだ。
「レンズ等で太陽光を集束させ加熱する事は知られているが、熱源から赤外線のみを集束させる事が出来ればその威力は計り知れないものとなる可能性があるが、実現は困難を極める、·····ね、私なら出来るわ」
そしてルクシアは、魔力を光に変換する事が出来る。
つまり赤外線であろうと紫外線であろうと、『光』であれば彼女は放つ事が可能なのだ。
「これは要検証ね、通常の光線に赤外線を多く混ぜれば威力を上げられるかもしれないわ」
今回は勘違いをせず、ルクシアはちゃんと自身の魔法の威力を上昇させる術を見つけたようだ。
「また、赤外線を見ることが出来れば、暗闇であろうと景色を見る事が出来る····· これは知ってるわ」
そして少ない光に関するページの残りは、ルクシアも知っている物ばかりで、特に参考になりそうな物は無かった。
強いて言うならば、魔族は赤外線も紫外線も見えている可能性があると書かれていた程度だろう。
「また、光には確証は無いが魔力と同様に『波』の性質がある、その波の間隔が変化する事により属性が変わるように色が変化していると思われる·····」
そういえば、魔力は属性ごとに固有の波長があって、人も個人ごとに固有の波長を持っているって聞いたわね·····
そして固有の波長と属性の波長が合うと属性魔法を使えるようになる、だったかしら?
光には魔力と同じように、波でその力が変わる性質があるのね。
何かに使えそうだから覚えておくわ。
「次は····· えっ、もう終わりかしら、まぁ少なかったけれど、いい勉強になったわ、さて早速試して····· 何かしら、これ」
·····が、ルクシアは光に関するページの最後に書かれていた1文を見つけてしまった。
『全ての光を操れる魔法使いへと、これを書き残す』
『紫外線より
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