結果だけ教えて頂戴



 その後もダンジョン内部について色々聞いた結果、ダンジョン内に居る人は最高で8階くらいまで登る予定で、10階より上は相当な実力者か軍隊でも無ければたどり着けないらしい。


 つまり、10階より上には今は人は居ないという事になる。


 ちなみに、現在確認されている最高階層は27階で、まだまだ上があるらしい。



 続いて、ダンジョンの構造は魔法かなにかで拡張されていてかなり広く、階層は階段で繋がっていて一応転移魔法陣もあるらしい。


 また、内部で発生した攻撃が外に漏れ出す事は無いらしく、過去に15階に出現したドラゴンのブレスがその階を焼き払ったのだけれど、下の階や外に影響が出ることは無かったらしいわ。



「ざっとこんな感じかしら····· うん、秘策は使えそうね」


「はいよ3日分の食料だ、·····にしても、嬢ちゃん1人でダンジョンに入るのか?死ぬぞ?」


「大丈夫よ、むしろ3日分も買ったのは多かったもしれないわ」

「低階層でなんか探す感じか?」


「ちょっとね、じゃあ行ってくるわ」



 ダンジョン外にあった露天で食料を買った私は、早速ダンジョンへと突入することにした。






「·····入場料5000イェン取られたわ」


 ちなみにダンジョンは入るのにお金が掛かる。


 救助費用とかその他諸々の関係でこのくらいの料金が発生するらしい。

 ·····なお、このダンジョンは最難関のため入場料があるが、野良の低位ダンジョンや普通のダンジョンであれば格安から無料で入れる。



「元は取らないといけないわね、·····にしても、凄いわね」


 そしてダンジョン内は、私の想定を超えていた。


 イメージだと、石造りの迷宮が広がっていると思ったのだけれど、薄暗い夜の森が遮るものなく続いていて、遠くには天井へと続く長い階段も見えていた。


 どうやら、1階ごとにこんな感じの広い部屋がずっと続いているみたいね。



「好都合だわ、探す手間が省けたわね·····『ルクシオン』」


 ピカッッッ!!!


 目的地が見えているのなら、話は早い。


 私が探している『金剛不壊』の武器は低階層からは出ないのだから、ここをのんびり探す意味は全く無いもの。



 光の速度に達した私の体は、夕闇を切り裂くような眩い閃光を発しながら歩けば2日は掛かりそうな1階を瞬時に突破、第2階へ突入した。


 そして2階も同じ構造で


 3階も同じような

 4階も同じよう

 5階も同じよ

 6階も同じ

 7階も同

 8階も

 9階


 そして10階へと、たった1秒にも満たない時間で到達してしまった。


 いくら広いダンジョン内でも、光の前では何の意味も成さない。

 更に重力魔法で光の進む方向を屈折させる事でスムーズに動けるから、今までよりもずっと楽に一瞬で移動が出来た。



「ここが10階ね、人はいるかしら····· 『視野拡張』」


 私は高い天井付近から、人が居るかを赤外線で確認した。

 赤外線を使えば、たとえ薄暗くて良く見えないこのダンジョン内でも人や魔物が居るかを簡単に確認できる。



「人間は····· 居ないみたいね、ただ魔物の数が尋常じゃないわ」


 私の視界には、それらしい人影は写っていなかった。

 ·····確証はないけれど、多分居ない気がするわ。


 いたら申し訳ないけれど、私の秘策に巻き込まれて貰うわ。

 たとえ殺してしまったとしても、絶対にバレないから平気よね。


「私、金剛不壊以外の宝物には興味無いのよ、だから1を使わせて貰うわ」


 私の狙いは金剛不壊のついた武具だけで、他に欲しいものは無い。

 だからいちいち宝箱とかを開けて、中身を確認して金剛不壊かどうか確かめるのなんて非効率すぎる。


 だから、効率的な方法を使わせて貰うわ。




「金剛不壊は決して壊れることは無いという意味、そしてその通りたとえ光速で振ったとしても一切傷つかないわ」


 ルクシアは不穏な事を言い始めた。


「だから、階層を纏めて消し飛ばしても『金剛不壊』のついた物は壊れないわ」



 おいバカやめろ



「さて、私の見立てだとこの鉄球を光速の99.9%の速さで投げれば、この階を纏めて全て灰燼に帰させられるわ」


 ルクシアは事前に買っておいた鉄球(100g)を取り出し、階層の中央目掛けて投げる構えを取った。


 本当にシャレにならない事を、ルクシアはやろうとしているのだ。



 以前のルクシアパンチの時ほどでは無いが、全力で放たれる鉄球が発するエネルギーは通常兵器では成し得ない、原子力兵器に匹敵する質量兵器へと化す。

 相対性理論によると、物質は光速に近付くほど質量は指数関数的に上昇し、光速の99.9%に至ると鉄球100gの質量は数倍以上に跳ね上がるのだ。



 ·····煩雑な計算をするのは割愛し、その威力を伝えるのならば『この広く狭い階層を丸ごと消し飛ばすには充分』という結果が得られる。



 それをルクシアの頭は瞬時に計算し、的確に階層を消し飛ばすべく足をI字バランスの如く天高く挙げ、その腕を眩く輝かせながら、思い切り足を踏み込んで·····


「『ターディオン』発動、·····せぇのっ、ふっ!」




 相対性理論に従い質量が増大した鉄球が放たれた瞬間、夕闇に覆われた階層に眩く輝く太陽が出現した。

 ·····が、それを見れた者は居ない。


 何せ閃光と同時に無茶な速度で投げられた鉄球はその質量全てをエネルギーへ変換され爆散、E=mc^2に限りなく近い効率で発生した熱、衝撃波、閃光、魔力が階層を覆い尽くしたからだ。



 鬱蒼と生い茂る植物は吹き飛ぶより早く蒸発、更地になる前にその地面さえめくれ上がり液化するより早く気体に昇華し、当然生息する魔物や仕掛けられたトラップは目玉が飛び出るような貴重なお宝も含むダンジョンの宝箱諸共跡形もなく消失、そして全ての質量を持つ物が蒸発した事でその体積が極限まで増大し、完全に密閉され破壊不可能なはずのダンジョン内部の階層を破裂させるほどの圧力が10階全てに掛かった。


「壮観ね」


 惨状では?


「ふふっ、これなら金剛不壊のついた道具も探しやすいわ」


 ·····光にはツッコミも追いつけない。


 故にルクシアが何をしようとしていたか簡潔に解説すると



『金剛不壊は壊れない=その他全てを消し飛ばせば金剛不壊残る』


 という考えの元、見えないようになっていたダンジョンの地肌が露出するほどの破壊力の攻撃を遠慮なく放ったのだ。


 現に、壊れる事の無いダンジョンの壁だけは壊れず、階層はまるごと更地になった。


 ·····更地とは言ったが、その内部は溶鉱炉の中のように白熱し、仮に人が入れば瞬時に焼失するほどの温度にっている、ただの地獄なのだが。



 そんな何も残っていない階層の中、ルクシアはただ1人····· いや、ルクシアの形をした光が佇んでいた。



「『ルクシオン』はやっぱり反則ね、こんな地獄めいた環境でも平気だもの」


 鉄球を投げた10ミリ秒後、ルクシアは瞬時に全身を光へと変換し、その爆発から身を守っていた。


 以前のパンチは素手で放ったため耐えきれなかったが、今回は鉄球にその役を押し付けたため、若干効率は落ちたもの無傷で生還したのだ。



「さて、お目当ての物はあるかしら」


 どこまでも広がる白熱した平地で、ルクシアは探し物がないか捜索を始めた。



 ·····が、そう簡単に見つかるはずが無い。


 理論上、吹き荒れた爆風は亜光速に達しているはずで、発生した衝撃波は不壊のダンジョンの壁や天井や地面で反射し内部に激しい乱気流を発生させているからだ。


 たとえここに不壊の大型トラックがあったとしても、爆風で紙切れのように階層を飛び回っているだろう。



「·····見つけたわ、でも何かしら?」


 が、光速さえ捉えるルクシアの目は、この階に残っているはずのない物体を光学的に視認し、即座に回収に向かった。


「ふっ!」


 カコンッ


 ルクシアは不壊の木刀を器用に扱うと、目的の品に引っ掛けて回収、その場で確認は出来ないためそのまま11階へと移動したのだった。

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「光の速度で殴られたいかしら?」光速を理解した私は最強よ! @Sophystein

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